678 ギルドマスターはデンデンと吹っ飛び、吹っ飛ばします
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「グレイさん、あの人って……」
そうマコト君に言われて振り返ってみると、紫陽花の壁を挟んだ隣の通路を、不破さんが後ろからこちらに向かって歩いてくる。
まだ少し距離はあるけれど、不破さんはわたしたちに気づいていて顔が笑っている。
でもチャット制限のためまだ音声が聞こえないためか、声は掛けてこない……ということは、制限のことは知ってるんだ。
うん、まぁそのへんの情報はすでに公式サイトの掲示板に上がってるというマメの話だし、何度かイベントエリアに入っていれば気づくプレイヤーも多いと思う。
すでにイベントが始まって一時間以上経っているし、お祭り大好き 【特許庁】 が参加していないはずがない。
ただ休日の朝はスロースタートが 【特許庁】 だから、メンバーのほとんどはまだログインしていない可能性もある。
それで真田さんも蝶々夫人もいないのはわかる、なんとなくね。
でもいつもテンション高めのちゅるんさんとか、見掛けのわりに真面目な串カツさんなんかはそんなにお寝坊さんとは思わないけど、不破さんは一人で歩いていた。
一人で……
何かおかしい。
こう……言葉では上手く説明出来ないけど、何か臭うというか、感じるというか。
だからってルゥ、いきなりフンフンしないように。
鼻で嗅いで臭うのとは違うから。
空気というか、雰囲気というか、まぁそういうものだからルゥにはわからないと思う。
案の定 「きゅ?」 と首を傾げられた。
とりあえずわたしの腕の中でおとなしくしていてくれるのなら、ルゥはいくらでも可愛いところを狙ってください。
近づいてくる不破さんを警戒しつつ、わたしは美沙さんに対処します。
「げ! なに、あれ?」
その驚きは理解出来ます。
だって女子高生にホストはまだ早いわよね。
わたしだってまだまだ無理だもの。
ここでこっそりと聞こえてきた 『あんたは一生無理』 というカニやんの声は、わたしが無視するまでもなく美沙さんの声に上書きされました。
「露出狂の間違いじゃ?」
待って!
あ、いや、言いたいことはわかるの。
うん、わかります。
そう思うわよね。
うん、露出が高くて目のやりどころに困るのはいつものことだけど、美沙さんは不破さんと会うのは初めてだっけ?
「あんな人、会ったことあったっけー?」
本人がこういうのだから初対面か……と思ったら違うらしい。
こっそりとトール君が 『たぶん前に闘技場で……』 とフォローしてくれる。
なるほど、地下闘技場か。
わたしたちがあそこに行く時はだいたいなにかある時で、わちゃわちゃしているというか、慌ただしくしている。
おまけに退廃的な演出なのか、薄暗い。
それでよく見ていなかったというか、よく覚えていなかったというか。
うん、まぁそれはどうでもいいかな。
出来たら本人に聞こえるところでは言わないでね。
そもそも 【特許庁】 というギルドはそういうプレイヤーの集合体で、不破さん一人をどうこういっても始まらないというか、終わらないというか。
しかも不破さんの声が聞こえる距離まで来たと思ったら 「気をつけてくださいね」 といわれ、それどころではなくなった。
「アールグレイ、覚悟!」
しません!
久々のローズ登場です。
不破さんの忠告があった直後、いつもの宣戦布告の声をあげるとともにいきなり紫陽花の陰から飛び出してくる。
うん、今日もきわどいビキニアーマーです。
鮮やかなローズ色に、バラの棘付き蔓が描かれた凄腕鍛治士カジさんの力作。
せめてバロームさんみたいにマントを羽織って隠してくれたらいいのに、そういう気遣いの欠片もないし出来ない。
しかも一応装備出来るということは条件をクリアしているはずなのに、相変わらず重そうな大剣。
どうやら後方からわたしたちを発見すると、四つん這いになって紫陽花の陰に隠れてここまでやって来たらしい。
それもローズだけでなくもう一人……いえ、もう二人。
一人はもちろんこの人。
「あ! まちやがれ、てめぇ!
グレイは俺の獲物だっつってんだろうがっ!!」
うん、まぁいるとは思った。
たまにバロームさんのお守りをすることもあるけれど、だいたい不破さんがお守りをするのはノーキーさんよね。
そもそもすでに一回遭遇しているからログインしているのはわかっていたし。
そういえば今日は土曜日。
休みの日なのに、午前中からノーキーさんがログインしているなんて珍しい。
だから今回のイベントは雨が降るのかしら?
そんなことを考えながらのんきに空を見上げるわたしの前で、抜き身の大剣を手にしたローズに続き、同じく抜き身の大剣を手にしたノーキーさんが紫陽花の壁を飛び越えて迫り来る。
馬鹿なの?
ねぇ馬鹿なの?
わたしに余裕があったのは、この低い紫陽花の壁は乗り越えられないことを知っているから。
もちろん飛び越えることも出来ない。
でも基本的に飛び道具的な攻撃手段を持たない剣士にとってこの紫陽花は邪魔。
ほぼほぼ接近戦しか出来ない剣士にとっては、この低さでも十分すぎるほどの障害となる。
紫陽花の壁自体は1mほどの幅だけれど、その向こう側の道幅が3mもあれば大剣でも届かないからね。
通常であれば十分に一息で踏み込める接近戦の間合いだけれど、紫陽花の壁によってそれが出来ない以上中距離攻撃に位置する魔法使いの射程となる。
しかも凝った演出が大好きな運営は、おそらくわざとこの低さに紫陽花を作り……いや、逆かな?
この低さに丁度いいということで紫陽花を選んだのかもしれない。
季節も丁度梅雨で紫陽花の開花時期とも合う。
でもこの丁度いい低さに嵌められた剣士たちは、ついうっかりその機動力を過信してしまい、そのアバターが完全に紫陽花の上に乗った瞬間……おそらくこの判定は後脚が地面を離れるタイミングかな?
見事にポーンと吹っ飛ばされる。
そうしてローズに続き、ノーキーさんまでが曇天の空高くに吹っ飛び、星になった。
馬鹿ね
ほんと、二人してどんなお馬鹿さんなのよ?
正真正銘のお馬鹿さんで、保証付きよ。
そこそこの情報が公式サイトの掲示板に上がり始めている。
それを、ノーキーさんはともかく不破さんが知らないとは思わない。
お守り役としてノーキーさんとパーティを組んでいる以上、その程度の注意を与えていないとは思わな……いや、与えてないかも。
だって不破さんってそういうところなかった?
あったわよね?
だって今も、気前よく吹っ飛んでいったノーキーさんを、呑気に腕組みとかして見送ったわよ。
しかも 「馬鹿め」 とか呟いてたし。
そもそもノーキーさんとローズが、紫陽花の陰に隠れてコソコソわたしたちに近づいた時点でなにか企んでいることは丸わかりで、それを止めなかった時点でそういうことよね?
わざとよね?
もしそうなら、今さらながら不破さんの腹黒さに呆れるわ。
これで現実世界ではノーキーさんと幼なじみっていうんだもの。
ノーキーさんの実のお兄さんであるノギさんに 「ろくでなし子ちゃん」 と呼ばれる理由がちょっとわかる気がする。
ちなみに紫陽花の陰に隠れ、コソコソとわたしたちに接近していたのはローズの他に二人。
一人はすでに吹っ飛んでいったノーキーさんで、もう一人はやっぱりこの人。
「おい、そこのポンコツ」
ローズに続いてノーキーさんが吹っ飛んでいくのに驚いて棒立ちになった彼女は、不破さんの呼び掛けに我に返る。
そして即座に 「黙れ、酷薄野郎!」 と返したと思ったらわたしたちを見ていつもの科白ね。
「よくもギルマスを!」
濡れ衣よ
だってノーキーさんもローズも勝手に飛んでいったんだから。
わたしたちがなにをしたって言うの?
それこそ詠唱すらしてないのに、とんだ濡れ衣だわ。
聞いた話では 【特許庁】 に銃士は一人しかない。
しかも乱射魔と言われるくらい下手くそらしい。
わたしはまだ会ったことはないけれど、一人しかいないということで遭遇する 【特許庁】 パーティに入っている可能性は低い。
となれば剣士は、それこそ長刀の屍鬼ですら届かない十分すぎるほどの間合いが取れる上、紫陽花の壁よりこちら側に踏み込んでくることが出来ない。
そして常時発動スキル 【愚者の籠】 を所持するわたしに魔法攻撃は効かない。
例外として 【浸食】 や 【クロノスハンマー】 などの闇属性や無属性の 【スパーク】 は有効だけど、闇属性は取得難度が高く所持者が少なく、【スパーク】 はほぼダメージが出ない。
まぁそれで呑気に構えていたわけだけど、わたしたちにとんだ濡れ衣を着せてくれたバロームさんは、いつもの科白を吐いた直後に仕掛けてくる。
ここでわたしに油断があった。
わたし自身に魔法攻撃は効かなくても、クロウやマコト君には有効。
でも二人の防御力とバロームさんの火力を比較して、クロウは言わずもがな。
おそらくマコト君も一撃で……ということはない。
だからすっかり安心しきっていたというか気を抜いていたけれど、バロームさんはノーキーさんほど馬鹿じゃない。
いや、戦闘に関してはノーキーさんもそこまで馬鹿ではないかな?
うん、そうね。
訂正します
バロームさんはローズほど馬鹿じゃない。
あの猪突猛進は天然危険物レベルだもの。
ここで 『あんたの喪女っぷりもな』 というカニやんの突っ込みは無視。
詠唱を始めるバロームさんの視線の先に美沙さんがいることに気づき、ハッとする。
そりゃそうよね。
この状況でバロームさんがノーキーさんの仇討ちにPKを狙うなら、どこからどう見ても一番レベルの低い美沙さんじゃない。
ヤバイ!
「起動……」
「す、スパーク!」
即座にフォローに入るマコト君の肩越しに、とっさのことで言葉に詰まりながらも応戦する美沙さん。
ナイス反射神経!
さすが現役女子高生だわ。
レベル的に、美沙さんの 【スパーク】 にそれほどの威力は無い。
でもレベルに差はあれどバロームさんは同じ魔法使い。
VITの低さはお墨付きよ。
向こう側の紫陽花の壁に叩きつけることこそ出来なかったけれど、なかなか面白いくらいすっころんでくれて、その……ぱ……えっと、だから、マントがはだけて、その、ね。
ほら、バロームさんもマントの下はなぜかビキニアーマーだから。
しかもとっさの出来事に対処出来ない魔法使い。
足とか広げて、ね……。
丸見えです
「起動…………」
でもここで美沙さんが、さらなる追い打ちを掛けるとは思わなかったけど。
やられたらやり返す的な?
「起動…………」
「…………ホットポット」
美沙さんの詠唱に気づいたバロームさんが、すっころんだ拍子に取り落としてしまった杖を拾って慌てて立ち上がり、詠唱を始めたところで一足先に詠唱を終えた美沙さんの 【ホットポット】 が発動。
時間差で襲いかかる三つの焔の大玉を前に、やっぱりとっさの事態に反応出来ない魔法使い。
それこそ杖なんてなくても詠唱は出来る。
拾うなんて後回しにして、バロームさんの射程なら十分に美沙さんを狙えるのだから、【スパーク】 で詠唱を阻み返しておけばよかったのに。
そのあと改めて詠唱をすれば、同じ 【ホットポット】 を使用しても詠唱速度でバロームさんが勝てる。
威力でもね。
でも放たれた焔に焼かれたのはバロームさんではなかった。
「格下にやられてんじゃねぇ、このドブス」
まさか不破さんがバロームさんを庇うとは思わなかったわ。
ノーキー、再登場するも数行で退場!
ギャグキャラが定着しつつあります。
同じく久々に登場したローズですが、こちらも数行で退場!
656話で落とされたノーキーの回収について 「あとで聞いた話では・・・」 というのはおそらくこの前後でのことかと。
このあとバロームが、ノーキーから不破に乗り換えるということは絶対にありませんのでご安心ください。
アールグレイ班
アールグレイ / 魔法使い
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マコト / 剣士
サミー / 魔法使い
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カニやん班
カニやん / 魔法使い
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ぽぽ / 銃士
キンキー / 魔法使い
タマ / 妖獣
クロエ班
クロエ / 銃士
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ジャック・バウアー / 剣士
ジャック / 剣士
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恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
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トール / 剣士
アキヒト / 魔法使い