676 ギルドマスターはデンデンの恋を諦めます
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ちょっとお試しで、今回は前書きにメモを置いておきます。
どちらのほうが見やすいでしょうか?
アールグレイ班
アールグレイ / 魔法使い
クロウ / 剣士
マコト / 剣士
サミー / 魔法使い
ルゥ / 幻獣
カニやん班
カニやん / 魔法使い
しば漬け / 剣士
ミンムー / 剣士
ぽぽ / 銃士
キンキー / 魔法使い
タマ / 妖獣
クロエ班
クロエ / 銃士
の~りん / 魔法使い
ジャック・バウアー / 剣士
ジャック / 剣士
恭平班
恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
ベリンダ / 短剣使い
トール / 剣士
アキヒト / 魔法使い
『お待たせしました』
復帰したキンキーの元気な声が聞こえた直後、どこから現われたのか、わたしの周りをブンブン飛びだした蜂。
払っても払っても追い払えず、これについてはわたしの反射神経やら運動神経やらに問題があることは認めます。
蜂を触りたくないという気持ちも認めます。
でもしつこいくらいブンブンとまとわりつくから、ギブアップしたわたしはクロウにしがみつきました。
ルゥはとっくの昔に落としてます。
だから両手があいていて、おかげでクロウにしがみつけました。
もうね、恥ずかしいとかいっていられなくて。
いや、恥ずかしいのよ。
凄く恥ずかしい。
顔どころか耳まで赤くなってると思う。
思うけど蜂がどこかに行ってくれないどころか顔に止まるという暴挙に出られた。
もうね、赤くなるどころか真っ青です。
ひぃぃぃぃぃ~
一瞬で血の気が引きました。
真っ青です。
顔を刺されるなんて洒落にならないんですけどっ?!
蚊みたいにペチンと叩ければいいけれど、蜂はさすがに叩いて潰すなんて……怖いし気持ち悪い。
も、もちろん頭の片隅にはここが仮想現実で、全てはデータだってわかってる。
わかってはいるけれど、生理的嫌悪のようなもののほうが先に立ってしまい冷静に戻れない。
戻れずに硬直していたら、蜂のほうがわたしをからかうことに飽きたらしい。
それも失礼な話だけどね。
でも離れてくれるならここは我慢します。
しかも蜂はここで思わぬ大逆襲をされるのでざまぁです。
なにがあったのかと言えば、突然現われた蜂に驚いたわたしが落っことしたルゥ。
しばらく足下でキョトンとしていたけれど、わたしがクロウにしがみついたからついてきた……と思ったら、大ジャンプ。
バックン!!
わたしの顔から飛び立った蜂をバックンと一口。
また食べました。
カタツムリに続き蜂までバックン。
軽々と着地すると、満足そうな顔をして舌なめずりしながら前足で顎のあたりを拭った。
でもね、わたしは見てしまった……というか気がついたの。
見逃さなかったわよ。
ルゥが舌なめずりしながら顎を拭う直前、その可愛い口からかすかに涎が垂れていたことに……。
違います
はい、正しくは涎ではありません。
HPというより、おそらく電子分解された蜂の残骸のようなもので、やっぱりルゥがGを食べた時にも見たと思う。
う……思い出すのもおぞましい。
つまりなに?
あの蜂はNPCなの?
しかも電子分解による消失現象が起きるということは、今の蜂、攻撃出来るということ?
わたしにつきまとってきたのも、攻撃しようと思ってのことだったの?
そういうことっ?
「どういうこともこういうこともないだろう」
「あんなんも出てくんのか」
「おいマメ、なんかネタあるかー?」
『ねぇよ』
相変わらずマメは、カニやんに対しては口が汚いんだから。
対するカニやんも 「役に立たねぇな」 なんて言い返していたけれど、わたしとしては一緒に遊んでくれたほうがいいのに。
そういえばマメって、ずっとギルドルームに一人でこもってなにをしてるの?
今度ハルさんに訊いてみようかしら、何か知ってるかもしれないし。
少なくとも、わたしたちがイベントに参加しているあいだのマメの様子は見ているはずだし。
うん、今度こっそり訊いてみよ。
まずはイベント
蜂の攻撃といえば針よね。
針の毒ということはやっぱり闇属性?
本日二度目の毒案件……と思ったら突っ込まれた。
「それ、違うくね?」
「たぶんグレイさんが考えてる一件目の毒案件はプレイヤーの仕業で運営じゃないから。
濡れ衣だから」
「運営に同情」
どんな濡れ衣よ! ……と言い返したら、意外にもインカムの向こうからの~りんから突っ込み返しがあった。
濡れ衣を着せてきたのはいつもの三人組なんだけど。
『一件目はココちゃんだからね』
そ、そうでした……
ヤバイ、なんだか空気が重くなった気がする。
そういえばの~りん、なにか言いたいことがあるとか言ってたわね。
ちゃんと覚えているから大丈夫よ。
うん、あとで聞くから……と思っていたのに聞いちゃうのは恭平さん。
まぁ恭平さんなりにちょっと思うところがあったというか、みんなも同じことを考えていて、それを恭平さんが代表して訊いてくれたというか。
でもあまりにも核心を直線で突くのはやめて欲しかった。
『の~りんさ、ココちゃんってヤツが 【浸食】 取得したの、知ってた?』
そう、わたしが勘違いした一件目の毒案件は、美沙さんを狙ったココちゃんの 【浸食】 発動。
あの時のことを思い出した美沙さんは 「結局アレなんだったんですかっ?」 とスキルの説明を求めてくる。
そういえばカニやんたちの登場ですっかり忘れていたっけ。
今後のためにも説明しておきたいところだけど、今はの~りんの返事を聞かせてもらってもいい?
そんな周囲の空気を、珍しく読んだトール君が 『俺があとで説明するから』 と少し焦り気味に割り込む。
まぁ美沙さんとしてはトール君と話せるのなら満足よね。
そこはとってもげんきんな女子高生だもの。
特に今回は、火力の都合上別の班になって話す時間も減ってしまっているし。
「ちゃんと説明してよね」
ちょっと念押しはしていたけれど、あっさりと引き下がってくれる。
トール君、ナイスフォローです。
で、の~りんの返事はといえば……
『取得したかどうかは知らなかったけど、取得の方法を聞いてきたから、ひょっとしたらとは思ってた』
『教えた?』
心では思ったけれど頑張って口を噤んだ言葉。
でもその言葉を容赦なく紡ぐ恭平さん。
特に怒っている風でもなかったし、責めてもいない。
返すの~りんの声はちょっと苦笑いだったけど。
『教えてないよ。
知ってるけど』
『だから訊いてる』
『うん。
なんかさ……あ、これ、あとで話すっていってたことだけど、もういま言っちゃうね』
あらら……
でもそんな流れよね、仕方がないか。
の~りんが他の人に聞かれてもいいと思っているのなら大丈夫よ。
なんとなくいわんとしていることはわかっているけど、の~りんの言葉でちゃんと聞かせて欲しいから。
『その、ココちゃんから 【浸食】 の取得方法を教えて欲しいってメッセージが来て、それ見て直感的にもうダメだなこの子はって思っちゃって』
ん? ……んーっとですね、わたしのような喪女でもわかるように話してもらえると助かります。
『あ、えっと恋愛とかとはちょっと違っててさ、その、なんて言えばいいんだろ?』
そんな戸惑い気味にの~りんが話し出したのは、そうね、確かにちょっと説明が難しいかもしれない。
そもそもわたしたちの出会いは仮想空間で、現実世界ではない。
でも今も残っている数少ない二次元のMMORPGとは違い、VRの世界は実際に会っていると錯覚してしまうほど技術が進んだ。
そして二次元であろうとVRであろうと、それこそゲームの中であろうと、Massively Multiplayer Onlineは文字通り大規模多人数同時参加型のゲームであり、NPC以外のアバターは全て人が操作している。
当然いろんな人がいて然りだけど、だからこそ守るべきルールや礼儀がある。
その中で、わたしは楽しくをモットーに 【素敵なお茶会】 というギルドを運営している。
設立した時はそんな理想なんて掲げてないけどね。
うん、でも今はそう思ってる。
でもだからって、自分が楽しければなにをしてもいいとは思わない。
そこはほら、さっきも言ったけれど守るべきルールや礼儀があるからね。
もちろん対人戦など仮想空間ならではの演出もあって、現実世界との考え方の違いに線を引くのは難しいところもある。
それでもやっぱりどこかに越えてはいけないような線は引かれていると思う。
その線すら個々によるけれど、ココちゃんの 【浸食】 取得はの~りんの中に在るその線を越えてしまったらしい。
『シシリーさんはさ、倒すことが目的だよね?
その標的がグレイさんなのはこのゲームで一番強いからだし、強すぎるから手段を選んでいられないってところもあると思う』
わたしのせいなの?
え? 待って、シシリーさんの暴走っぷりはわたしのせいなの?
なんだかそう言われているような気がするんだけど……
『シシリーは始めからだったから』
『俺がギルドに入った時からあの性格変わってないし』
元 【シシリーの花園】 のメンバー二人がフォローしてくれて思い出せば、シシリーさんの負けず嫌いは、それこそ 【シシリーの花園】 を立ち上げる以前から。
だってあの人、元は剣士で、記録をクロウに抜かれたことが原因で魔法使いに転向したわけだし。
そう考えるとシシリーさんはただの負けず嫌いで、まぁ八つ当たりはするけれど、基本的にはわたしを負かすことが目的であり、ゲーム的にその要素は強い。
ただ性格の悪いところもあって、それが原因でメンバーの半数を失ってしまった。
の~りんも同じらしい。
『結局ココちゃんが 【浸食】 の取得を考えたのだって、【素敵なお茶会】 に嫌がらせをするのが目的じゃん。
その、ココちゃんが 【素敵なお茶会】 を脱退したのだって、そりゃあれは俺だって悪かったけど、でも助けはないって、あのイベントはバトルロワイヤルだからメンバー同士でも敵だから助けはないってみんなに言われてて、それでもいいのなら自由参加っていうことになっていたのに、それでもいざという時は助けてもらえるっていうのはココちゃんの勝手というか、我が儘というか。
そのことで怒って 【素敵なお茶会】 を脱退するのは自由だけど、仕返しとか嫌がらせのために 【浸食】 を使おうとか、もう限界かなって思って』
【浸食】 がプレイヤーのあいだでどれほど恐れられているか、嫌われているかをわかっていて……というか、だからこそ 【浸食】 の取得を考えたココちゃんに、の~りんは……こう……
百年の恋も冷める
『百年も経ってないけど、そんな感じかも。
急に冷めたのは確かだよ。
嫌がらせのためにそこまでやるんだって思ったら、その瞬間に』
の~りんは少し自嘲するように淡々と話す。
『だからさ、知らないって平気で嘘つけたよ。
そのあとも取得出来たかどうかもどうでもよくて』
『闇属性取得する努力が出来るなら始めからしておけばよかったのに』
ちょっとクロエ、邪魔しないで。
ここでクロエが出てくると拗れるから。
『大丈夫、もう冷めたって言っただろ?
でも言われてみるとそうだよね、闇属性なんて取得難度バリ高なのにさ。
キンキーだって回復系スキル上げの合間に、蝶々夫人真似て防衛手段手に入れること考えてるわけだろ?
今さらなにしてるの? って感じだよね』
これは本当に冷めちゃったのね。
ココちゃんってば、もったいないことをして。
そりゃちょっと優柔不断なところはあるけれど、優しくてイケメンなのに。
『ありがとう。
だからさ、これからは俺のことなんて気にせずにガンガン落としちゃってよ。
あ、でも回復系スキルは所持したままだから、蝶々夫人ほどじゃないと思うけど、ちょっと面倒臭いかも』
じゃあ今後は遠慮なく。
でもね、本当にココちゃんへの関心がなくなったからって、今回は 【浸食】 だもの。
取得出来ようと出来まいと、この話は教えておいて欲しかったなぁ。
『え? あー……そうだね、ゴメン』
じゃあお詫びに、あとで頑張ってくれたルゥを褒めてよ!
ルゥのおかげで美沙さんが呪われずに済んだんだから。
そりゃちょっと加減が難しすぎてギリギリまでHP削っちゃったけど、でも頑張ったのよ。
撫でて!!
『待って!
それだけは勘弁してーっ!!』
相変わらず嫌なことを言う恭平ですが、決して性格が悪いというわけではありません。
それが自分の役回りと理解して言っています。
真面目すぎて、損をするとわかっていてもその役をする人っていますよね。
恭平はそういう人です。
予定に反してカニやん班がまだいますが、次話こそお別れしようと思います。
キンキーのことも忘れていませんよー!!
キンキーが一般エリアで聞いている前提でのの~りんのセリフですから!!
このあとの~りんがルゥを撫でてあげたかはご想像にお任せするといたしまして、ちょっと湿っぽいラストになってしまったため締めるのが難しかったです(涙
※湿ると締めるを掛けているわけではありませんw