671 ギルドマスターはデンデンから逃げます
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クロウがいうには、いつココちゃんが姿を消したかはっきりとはわからないらしい。
でも遭遇した時点では、シシリーさん班はちゃんと五人いて、その中にココちゃんもいた。
わたしやシシリーさん班のメンバーはすぐ遭遇に気づかなかったけれど、クロウは向こうの姿を見た瞬間に気づいていたから間違いないと思う。
マコト君も気づいてたけどね。
そのマコト君の指摘を受けてわたしも気づいて、ほぼ同じタイミングで向こうもわたしたちに気がついた。
この時点でもココちゃんはいたらしい。
クロウだけでなく、マコト君の記憶でも確認されている。
但し例の赤ずきんちゃん装備の赤いフードを目深に被って顔は隠していたらしいけど、すでにその装備はバレているから顔を隠すことに意味があったのか。
わかりません
まぁいいけどね、ココちゃんの考えることなんてどうでも。
でもこのあとシシリーさんパーティを振り切るため、わたしたちは慌ただしく移動を開始。
このあたりでクロウの記憶はもちろん、マコト君の記憶からもココちゃんの存在が消えている。
クロウが推測するに、おそらく退避を決めたわたしたちにシシリーさんパーティが慌てて追いかけたそのどさくさに紛れ、おそらくココちゃんは紫陽花の陰に隠れた。
そして何かしら仕掛けるチャンスを狙っていたのではないか。
そのチャンスが今というわけ。
狙いは美沙さん
一応移動には付いて来ていたと思われるけれど、紫陽花の陰に隠れながらともなれば思うように走れなかったはず。
だから遅れていたのはわかる。
でも距離を置いていたのは彼女なりの考えがあったのかもしれない。
もしシシリーさんパーティが全滅するようなことがあっても、自分だけは生き残るという……。
考えすぎ?
うん、ちょっと考えすぎかもしれない。
今回のイベントは、確かに死亡制裁はあるけれど、イベント開催期間中なら何度でもイベントエリアには入れるからね。
そう考えれば全滅にもそれほど意味はないし……というわたしの考えは甘かったかもしれない。
うん、まぁやっぱりココちゃんが何を考えているのかはわからないんだけどね。
でもたぶんこのチャンスは狙っていたと思う。
本来後衛である魔法使いが、剣士と離れる時を。
もちろん必ずそういうチャンスが巡ってくるとは限らないけど、そこは賭けというか、巡って来なければ来ないで別にかまわなかったと思う。
でも巡ってきちゃったのよね。
それも一番狙いやすい美沙さんを落とすチャンスがね。
あとでぶっ殺します
その切っ掛けを作ってしまったルゥの飼い主として、きっちり尻ぬぐいはさせてもらうわ。
たぶんね、ルゥにも考えがあったと思う。
紫陽花の壁が途切れてシシリーさんパーティと直接対決となった時、それこそ紫陽花の壁という最後の障壁さえなくなってしまった状況で、一番狙われやすい美沙さんが隠れる障害物が一つも無い。
とれる手段として、シシリーさんたちの魔法攻撃の射程から美沙さんを遠ざけること。
でも下手な方に遠ざけると、それこそ一人になった美沙さんが通りすがりの見知らぬプレイヤーと遭遇するともかもしれない。
そこでルゥは、一方を動かない巨大カタツムリの殻で塞がれている方に美沙さんを遠ざけた。
短い足で蹴り飛ばすというちょっと乱暴なやり方ではあったけれど、たぶん 【幻獣】 に出来る最大の加減をしてくれたと思う。
だって蹴りかたも優しかったと思うもの。
いつものように悪い顔もイタズラを楽しむ顔もしていなかったし、小っちゃな牙をギラリと剥いてもいなかったしね。
それどころかほんのちょっとおっかなびっくりしていたし。
しかもルゥの予想以上に美沙さんが飛んでいったらしく、ビックリしたルゥは、着地をしてすぐわたしの機嫌を伺うようにチラリとこちらを見ていた。
まぁわたしもビックリしすぎてルゥのフォローどころじゃなかったけど。
美沙さんの話では、HP残量はほぼギリギリだったらしい。
でもこの方法なら、他の通路につながるこの位置をわたしたちが塞いでいるからね。
とっさのことだったし、残念なAIを搭載しているはずのルゥにしては凄くよく出来ました……といいたいところだけど、おかげでココちゃんが狙っていたチャンスを作ってしまうことになった。
ごめん
ルゥはあとで褒めるとして、みんなにはルゥに代わってお詫び申し上げます。
HPの流出が止まり、慌ててポーションを使って回復しようとする美沙さんの前に、被っていたフードを脱いだココちゃんが姿を現わす。
ここでわざわざフードを脱ぐことに意味があったのかは疑問だけど、紫陽花の壁の向こう側に隠れていたココちゃんは、唐突に立ち上がりながらわざわざフードを脱いでいた。
まさか誰か隠れているとは思っていなかった美沙さんは、突然現われたココちゃんにビックリ。
でも回復を急ぐ手が止まらなかったのはさすがです。
ただね、ココちゃんの狙いがまずかった。
だってまさかそう来るとは思わなかったもの。
しかもそのタイミングで、インカムから不穏なぽぽの声が聞こえてきた。
『の~りん、ごめんね』
ああ、こっちはこっちで大問題。
だってこのぽぽの発言は、カニやん班v.s.クロエ班戦勃発を意味するじゃない!
ぽぽはカニやん班で、の~りんはクロエ班だから。
そしてカニやん班が真っ先に狙うとすれば、範囲攻撃を持つ魔法使いのの~りん。
射程では全然銃士には敵わないけれど、戦闘三職の中では唯一範囲攻撃を持ち、その一撃で戦況を荒らすことが出来る魔法使い。
火力次第では一撃で複数のプレイヤーを落とせるからね。
そのの~りんをぽぽが狙うというのはたぶんカニやんの指示……かな?
だって逆に、クロエ班にとって厄介なのはカニやんだからね。
むしろ火力の差を考えればカニやんのほうが厄介だもの。
そして一方のクロエ班の銃士はクロエ本人。
ズドンと一発
ぽぽみたいに声を掛けたりなんて絶対しない。
それこそ問答無用で、ついでに情けも無用で眉間をズドンと一発よ。
寸分違わず同じ場所に、落ちるまで連射してくる。
クロエだもの
ただ 【素敵なお茶会】 の場合、ここで銃士同士の撃ち合いにはならない。
普通はなるかもしれないけれどクロエはぽぽやくるくるを撃たないし、ぽぽやくるくるもクロエを撃たないからね。
『そんなわけないでしょ』
あとでクロエにそう言われてみれば、確かに個人戦の時だったかな?
容赦なしとか言っていたような気がする。
『むしろグレイさんのほうがトール君に甘いじゃん』
しかもクロエに落とされていなかったらしいカニやんにそんなことを言われてしまいました。
てっきりとっくの昔にクロエに撃たれて落ち、ぽぽは脳筋コンビに言われて反撃に出たのかと思ったのに違ったのか……。
『おいそこの喪女、なに残念がっとんねんっ?』
なにって……さぁ、なにかしら?
まぁこの会話はあとのこと。
そう、あとのことなのよ。
『の~りん、ごめんね』
話はそんなぽぽの声を聞いた直後のこと。
少なくともこの時点ではカニやん班v.s.クロエ班戦勃発だと思っていたから、直後に聞こえた銃声での~りんが撃たれたと思った。
うん、思ったんだけどね、その銃声はすぐ近くで轟く。
どういうことっ?!
「……業火」
詠唱を終えた 【業火】 でシシリーさんたちを薙ぎ払う。
その発動の声に銃声が重なる。
まぁさっきは本当に油断しまくっていたのか、あるいは寝ぼけていたのか。
本来の機動力と反射神経が目を覚ましたシシリーさんは躱してくれたけど。
でもそのかわしたところにクロウが待ち受けておりますので、容赦なく首をサックリと一撃でさようなら。
最後まで文句を言いながら落ちていきました。
もちろんその文句はわたしが言われる筋合いのものではないけどさ。
ただ他のメンバーは範囲攻撃対策として、真っ先に狙われるだろうシシリーさんと一定の距離をとっていた……って、なんだかちょっと、ね。
同じ主催者としてちょっと淋しいというか、悲しいというか。
でもおかげで二人が 【業火】 の焔からギリギリ逃れた。
しかもPKエリアだから、さすがのクロウも 【業火】 の焔の中には飛び込めない。
その焔を盾代わりに、反対側からクロウとわたしを狙ってくる 【シシリーの花園】 の生き残り魔法使い二人。
いや、まだココちゃんも生きてるけど……と思ったら、その眉間に黒々とした風穴があいていた。
しかもココちゃんはVITを持たない魔法使い。
着弾の勢いに負け、体をうしろに仰け反らせる。
紫陽花の壁を挟んだその向かいでは、わたしと同じように何が起こったのかわからない美沙さんが呆然と立ち尽くしている。
どういうことっ?
『カニやんさんっ?!』
距離が開いてしまったためか、マコト君の声がインカムから聞こえてくる。
そういえばマメが言っていたっけ。
チャット機能に制限がかかっているかもしれない……と公式サイトの掲示板に書き込みがあったって。
その姿が十分に見える距離は、一般エリアなら十分にエリアチャットで会話出来る距離なのにマコト君の声がインカムから聞こえてくる。
ひょっとしてさっきのぽぽの声……
『起動……』
続いて聞こえてくるカニやんの声。
もちろんインカムからね。
それこそエリアチャットならココちゃんの声も十分に聞こえていたはず。
でもうしろに仰け反るように倒れ込んだ彼女の声は、その悲鳴や呻き声も全く聞こえず。
HPを流出させながらもすぐさま立ち上がるけれど、やっぱり彼女の声は全く聞こえない。
そしてカニやんの詠唱の合間にも轟く銃声。
直後、生き残りの一人が眉間をわずかに外して被弾する。
それは撃ったぽぽにも見えていて 『あ……』 と、外してしまったことに焦るような声が聞こえてくる。
全然OKです
ただクロウが状況をどこまで把握していたかは不明。
でも銃撃が来ることを予測していたのか、わずかに眉間を外したところに風穴を開けた魔法使いの首を、次の瞬間愛剣の錆びに。
まだ二人残っている状況でわたしがよそ見をしていられるのは、もちろん所持する常時発動スキル 【愚者の籠】 があるからです。
おかげで魔法攻撃が効かないだけでなく、【業火】 の発動で消費したMPも回復しました。
ほんの少しだけど。
もう一人も、今度はぽぽの援護なしにクロウが一人で片付ける。
そのあいだずっとよそ見していたわたしの前で、詠唱を終えたカニやんが得意の氷水魔法を発動するのとほぼ同時に、ココちゃんがとんでもないスキルを発動する。
『……氷雪乱舞』
『浸食!』
一瞬聞き間違えたかと思った。
しかも、もし本当にココちゃんが 【浸食】 を取得していたとしても、【浸食】 は地を這うように展開する闇属性魔法。
だから紫陽花という動かない壁に遮られるのではないか……と思ったら甘かった。
ココちゃんの足下から展開される薄気味の悪い呪いの絨毯が、まるで生き物のように脈打ちながら紫陽花の壁を這い上がり、壁越しにココちゃんと対面していた美沙さんに迫る。
ヤバイ!!
あれが美沙さんの足に届くと感染する。
それこそ一瞬触れるだけでもアウト。
ココちゃん自身はカニやんが放った 【氷雪乱舞】 で大量のHPを流出させながらもまだ落ちておらず、発動した 【浸食】 もまだ有効。
紫陽花を這い上がった勢いでその触手を上空へと伸ばした 【浸食】 は、すぐさま重力に引かれてバサッと地面に落ち、まだ広がり続けている。
その先端が美沙さんのブーツに触れようとした刹那、いつのまに駆け出していたのか。
再びルゥの短足……ゲフゲフ……えっと、短い足……いや、可愛い足が繰り出す跳び蹴りが吹っ飛ばす。
『あがっ?!』
いきなり横から跳び蹴りを食らった美沙さんは、変な声を出しながら巨大なカタツムリの殻に向かって勢いよく吹っ飛んでいく。
そのアバターが殻の中に広がる闇に吸い込まれそうになるのを、闇の中から出て来た筋肉質な腕が抱き留める。
『ワンコ、ナーイス!』
「ムーさんっ?!」
え? どういうこと?
どうしてムーさんが殻の中にいるの?
ちょっと意味がわからなくて動揺するわたしとは違い、【浸食】 の影響範囲外に、いつもの変な決めポーズで着地したルゥは、ムーさんの褒め言葉に 「きゅ!」 と、さも当然ですと言わんばかりに応えていた。
前話で、今さらながらちょっとしつこいくらいに闇属性スキルの復習をしたのはこのため。
ただ途中で、ヴァレンタインイベント終了後にシシリーが【浸食】を剥奪されたことを思い出し、投稿前にまるっと書き直しました(汗
(最初はシシリーが発動する予定だったので、シチュエーションもまるっと変更しました・大汗)
次話はカニやん班v.s.グレイ班で激突!・・・にはなりませんw
アールグレイ班
アールグレイ / 魔法使い
クロウ / 剣士
マコト / 剣士
サミー / 魔法使い
ルゥ / 幻獣
カニやん班
カニやん / 魔法使い
しば漬け / 剣士
ミンムー / 剣士
ぽぽ / 銃士
キンキー / 魔法使い
タマ / 妖獣
クロエ班
クロエ / 銃士
の~りん / 魔法使い
ジャック・バウアー / 剣士
ジャック / 剣士
恭平班
恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
ベリンダ / 短剣使い
トール / 剣士
アキヒト / 魔法使い