67 ギルドマスターは絶対に負けられません
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予想はしていたけれど、予想以上の盛り上がりを見せる 【特許庁】。
その理由が、主催者交代というギルド内企画イベントっていうのもなんだけれど、その企画をしたのがノーキーさんでもなければ蝶々夫人でもなく、不破さんっていうね。
しかもノーキーさんが断れない状況を作り出して無理矢理実行しちゃうとか……もう無茶苦茶。
期限付きっていうのを隠してるから、知らないノーキーさんが死にもの狂いになっちゃって。
でも全然可哀相に思わないのは、やっぱり普段のノーキーさんの行いの悪さよね。
自分が悪いんだから、とことんメンバーに遊ばれてなさい。
たまにはいい薬……にはならないか、ノーキーさんだから。
うん、絶対にならないわね。
所詮本家脳筋!
いっそのこと 【素敵なお茶会】 でも同じ企画をしないかって持ちかけたんだけれど、誰も乗ってくれなかった……。
もちろん例のご褒美の話をすげ替えようっていうわたしの企みだったんだけど……自分では結構上手くいくんじゃないかって思ったのよ。
でも誰も乗ってくれないどころか、まるでなにも聞こえなかったみたいにスルー。
【特許庁】 とノーキーさんネタで盛り上がっている。
思わず沸いた銅シャチをポイで殴りつけ、紙が破れてしまった。
もう!
ほんと、なにがご褒美に決まったのか気になる。
さっきは金魚に集られて聞き損ねてしまったけれど、今度こそクロウに訊いてみようと思ったらもう一つ、忘れていた重大なことを思い出した。
「トール君、いる?」
いるわよね?
少し前にマメと話していたはずだもの。
『はい、います』
「ちょっと訊きたいことがあるんだけど……」
私がトール君に訊いたのは、どこまでエピソードクエストを進めたか。
だってまだ 【ステータスを振ろう!】 をクリアしていなかったら大変だから。
このあいだ年少組と大蜘蛛退治に出ていたってことは、凄く可能性が高くて嫌な予感がしたんだけれど……
『ひょっとして 【ステータスを振ろう!】 ですか?』
いつもの申し訳なさそうなトール君の声。
その声を聞いた瞬間、なんとなくわかったような気がした。
本当にごめん、今の今まで気づかなかったなんて。
これだけの会話でJBにも意味というかわたしが心配する理由がわかったみたいだけれど、わからないこともある。
『トールって、もうレベル20過ぎてるんだろ?』
『はい、21になりました』
『なんでそこまでレベル上げて、まだそんなエピやってんの?』
エピっていうのはエピソードクエストの略なんだけど、まぁ普通に考えればJBの疑問ももっともよね。
でもトール君は、導入を終えてログインしたナゴヤドームですぐにアギト君に声を掛けられ、何もわからないままシャチ銅に潜って即死しちゃったのよね。
で、死亡状態でナゴヤジョーロビーに放置されていたところをクロエに助けられた。
そのままギルドに勧誘されて現在にいたる……という簡潔な説明を理解したJBは
『そりゃ自己責任でしょ』
いともあっさりと簡単にいってくれるわね。
『だって導入でそのへんの説明はあるんすよ。
それに確か、最初のほうのクエストは、受けないとインフォメーションで警告されるんすよ。
クエストを受けましょう! って、うるさいくらいいってくるんすよ。
それ無視してたんでしょ?
だったら自己責任っすよ』
「そんなシステムなのっ?」
わたしは初めて聞く話に驚いたんだけれど、マメの話では、仕様が変わったのは例の新人さん歓迎キャンペーン以降。
つまりトール君以外にも、エピソードクエストを忘れる人がいたってこと?
『んーっと、古いトピにあったような気がしまぁ~す。
エピをわざとやらない人が多いって愚痴が』
公式の掲示板情報に詳しいのはもちろんマメ。
時間を持て余す廃人の彼女は、毎日隅から隅まで眺めて最新情報を仕入れいている。
確かに要領さえ覚えれば、わざわざクリアしなくても良さそうなクエストは幾つもあるけれど、それなりに通貨や経験値をもらえるから、初期の貧乏状態やレベルの低さを補うには都合がいい。
ダンジョンの場所を教えてもらえるし、レベル制限なんかの説明もある。
もちろんギルドシステムの説明もある。
クエストを理由にパーティーを組ませてもらったり、ギルドに加入したり、いい切っ掛けにはなると思うんだけど……考え方は人それぞれね。
トール君は、わたしたちと一緒にいるのが楽しくて、何度も表示されるインフォメーションを無視し続けたんだって。
気づかなかったわ
『さすがにこんなクエストがあるとは思っていなかったんで……』
自分の非を認めるトール君だけれど、やっぱり後悔は隠せない。
声にそれが出ている。
彼にある選択肢は二つ。
一つはSTRクエストだけを受諾してクリア。
残るDEXとINTクエストは受けない。
クエスト自体は 【其の壱】 ~ 【其の参】 と表示されるけれど、受ける順番は選べるから。
でもそうするとエピソードクエストはここで止まってしまう。
つまりエピソードクエストの進行をここで諦めるってこと。
もちろんそれもありだとは思うけれど、この先、イベントなどである程度のエピソードクエストの進行を条件にされたら参加出来なくなる。
これまでにもレベル制限があったから、こういう条件の場合も絶対に無いとはいえないのよね。
もう一つは、無駄になるとわかっていて、クエストを進行するためにステータスをDEXとINTそれぞれに振る。
これを選べばエピソードは進行出来るけれど、すでにレベル20を越えているトール君は課金しないとステータスの振り直しが出来ない。
個人的に課金してでもエピソードクエストは進めたほうがいいと思うのは、このステータスの無駄遣いはレベルが上がるにつれて差につながるから。
かといって他人の懐事情に干渉してまで課金しろとはいえないし……思わず溜息を吐いちゃった。
ごめんね
『いえ、グレイさんのせいじゃありませんから。
JBさんのいうとおり、自己責任です』
とりあえず今はイベントに集中しましょうってことになったんだけれど、余計なタイミングでわたしが余計なことを思い出しちゃったから、トール君は楽しみが半減してしまったかもしれない。
ほんと、ごめん!
「グレイ」
クロウの声でハッとしたら、わたしの鼻先で金ぴかの巨大シャチ、つまり通称金シャチっていわれるシャチ金のボスが大口を開けていた。
ま、まぶしい……とか言ってると食われるのよ、わたし!
相変わらずこんな唐突の事態に弱いわたしはすっかり狼狽えちゃって、悲鳴を上げたところでクロウの拳が金シャチの横腹にヒット。
軽く吹っ飛ばされたところを、そのままクロウのポイに掬い取られる。
「あ、焦った……」
『グレイさん?』
『なになに?』
またノーキーさんにでも遭遇したのかとメンバーが口々に心配してくれるんだけれど、その中でクロエとカニやんだけは違う反応を見せる。
『違うでしょ。
ノーキーさんは今、グレイさんより金魚だよ』
『どうせまた、うっかりシャチと鼻チューでもしそうになったんじゃないの?』
カニやん、大正解よ。
でもね、エラ呼吸のシャチには鼻がないの。
だから鼻チューどこから、危うく真正面から全身バックリよ。
もちろん内緒だけど。
口が裂けても絶対に言わないけど。
……口が裂けたら、たぶんしゃべれないと思うけどね。
あくまでもアットホームなファミリーイベントを演出したい運営の配慮なのか、初心者向けエリアとされる中部東海エリアに現われるのは、どうやらシャチ銅の金魚たちらしい。
まぁまぁ金魚の数は多いけれどそれほどアグレッシブではなく、それほど数の多くないシャチたちもわりとゆっくり泳いでいる。
でも東西のどちらかのエリアに出ればそれが一変。
どちらかがシャチ銀で、どちらかがシャチ金らしく、結構な数の金魚に結構な数のシャチが、それこそアグレッシブに攻めてくる。
そしてエリアのどこかでボスが沸く。
わたしとクロウは、現在シャチ金状態になっている関西エリアで、金シャチが沸く場所を見つけて集中的に金シャチを狩っていた……じゃなくて掬っていた。
あくまでこのイベントは狩っちゃダメなのよ、掬わなきゃ。
もちろん周囲を漂っている金魚も忘れちゃいないわよ。
シャチだってね。
いつだってシャコーンと狙ってくるから、こいつは金魚以上に油断が出来ない。
さっきも金シャチにファイアーボールを食らわせていたら、横手から腕に食いついてきた。
金シャチを掬ったばかりのポイで殴ってそのままシャチも掬おうとしたら、足下に金魚がたむろし始めて……あーもうこれ、いつ終わるのーっ?
だっていつもなら業火一撃でほとんど瞬殺出来るのに、金魚以外はいちいちファイアボール程度でHPを削ってからポイで掬うとか、面倒臭ーい!
「落ち着け、グレイ」
クロウが足に集る金魚を手で払ってくれたんだけど、そうすると今度はクロウの手に集るのが金魚。
いつもは一瞬で溶かしちゃうから、そんな習性があるなんて知らなかったんだけどね。
「いただき!」
クロウの手ごと金魚を掬った、ら……掬おうとしたんだけどね、焦るあまり間違えて虫取り編みみたいに振っちゃった。
勢いよくポイを上からクロウの手に被せたら、金魚がブワーっと散開する。
小さな金魚も沢山うじゃっと集られちゃうと気持ちが悪くなるんだけれど、さーっと一瞬で散っていくのはちょっと綺麗……なんだけど……
「……金魚、逃げるんだ……」
知らなかった私は呆気にとられる。
何度も言うけれど、いつもは一瞬で溶かしちゃうからそんな動きを見ることはないの。
もちろんそのあいだにも金シャチがどんどん沸いてきて、わたしとクロウを取り囲む。
金魚に逃げられる = ポイントを逃して、さらに金シャチに食べられるなんて嫌!
でも業火も焔獄も使えない。
だったらこれでどうだ!
「クロノスハンマー!」
重力波で対象の動きを止めるスキル、クロノスハンマー。
ごっそりとMPを持って行かれる喪失感を堪え、わたしはファイアーボールで、クロウは拳を、動きを止めた金シャチに食らわせてゆく。
HPを削ったあとはもちろんポイでまとめて掬い上げて一掃。
すっきりしたところにまた沸いてくるという……一定時間が過ぎるまでずっとここに沸き続けるのよね、これ……。
「大丈夫か?」
思わずその場にへたり込んだら、クロウが、金シャチを殴りながら声を掛けてくれる。
でもその続きが許せない。
「勝ちをマメに譲ったらどうだ」
なに笑ってるのよ。
絶対に嫌! ……っていうか、譲れない。
マメどころか、ギルドの誰にも勝ちは譲れない。
結局ご褒美がなにに決まったのかわからないままで、わたし自身以外の誰かが勝ったらどうするのよ?
困るの!!
そりゃクロウは困らないだろうけれど、わたしは困るのよ。
それこそなにか物をあげるだけでいいのなら全然かまわないんだけれど、あのままマメの要求が通っていたら……考えるだけでも恐ろしくなってくる。
自慢じゃないけど、わたしには無理だから。
地球がひっくり返ったって無理だから。
はっきり言うけれど、マメの要求を、恥ずかしくて口に出して言えないくらい無理だから!
絶対に出来ないから
でもね、幸いというかなんというか、倒すべき敵を倒しちゃいけないっていういつもとは違う状況に戸惑っていたのはわたしだけじゃなかったの。
特にマメなんていつもシャチに食われていたから……
『はわー!
銅シャチ、痛ぁ~い!』
やっぱりまた食べられてるっていうね。
結局ダンジョンとイベントという違いはあっても、シャチはシャチでマメはマメ。
しかも銅シャチってことは、マメは中部東海エリアにいるわけだけれど……ん? 銅シャチ?
ちょっとマメ!
銅シャチってことはあんたも高ポイント狙い?
このマメのやる気は……やっぱりマメの要求が通ったってこと?!
絶対負けない!!
だって………………だって、なにが楽しくてみんなの前でわたしの喪女っぷりを晒さなきゃならないのよっ?!
それ、どんな罰ゲーム?
無理ゲーの罰ゲーって、どんな黒歴史よっ?
嗚呼もう頭が錯乱してきた……




