669 ギルドマスターは中身のないデンデンです
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突然恭平さん班を襲った 【酸性雨】。
その正体は……というか、雨に正体も何もない。
ただ今までになかった 【属性・天気】 というのが気になった。
そこでマメに調べてもらったら、他にも 【集中豪雨】 や 【濃霧】【毒霧】 等があるらしい。
その内容や発生はまだ検証が必要だけど、属性そのものについては検証不要です。
ただわざわざ属性を作っているから他にも種類があるのかと思って。
それでマメに訊いてみただけなんだけどね、訊いてみてよかったわ。
マメにはこのあとも掲示板の巡回を続けてもらうとして、わたしたちは移動を続けていた。
丁度この 【属性・天気】 についての話が一通り終わったタイミングで、わたしたちの後ろを歩いていた美沙さんが突然 「あれ!」 と声を上げる。
「え? あ……あれって……」
わたしが振り返るタイミングで、マコト君も声を上げる。
美沙さんが指さす方を二人で見ているから、わたしもその先を辿ってみる。
するとそこには……といってもまだまだ遠目だけど、たぶんカタツムリよね。
それもあの巨大な。
でも何かおかしい……と思ったら……
「カタツムリ……だけど、動いてない?」
どんなにカタツムリの歩みが遅くても、さすがに動いていなければわかるはず。
でも遠目だからね、ちょっと自信がない。
そこで足を止めて目を懲らしてみると、美沙さんとマコト君も同じように足を止める。
そして同じように眇めた目でカタツムリを見ている。
「たぶん……ですけど、動いてないと思います」
「だよねー、あたしもそう見える」
「あそこに行きたい」
動いていてもいなくても、カタツムリはカタツムリ。
後ろ姿とはいえすでに動いているカタツムリとは遭遇している。
でもあそこに見えるカタツムリは動いているように見えないから、本当に動かないカタツムリがあるかどうかを確認しておかないとね……というわたしの提案に二人も異論なし。
たぶんクロウも大丈夫だと思うけど、問題はルゥです。
だって今も、わたしたちが足を止めているというのに全く気にせず……というか、気づきもせず短い足でどんどん歩いて行ってるし。
それこそわたしたちを置き去りにしてね。
とりあえず 「ルゥ!」 と呼んでみる。
たまたま直線だったから見失わずに済んだけれど、わたしたちと随分距離が離れてしまっていて、本当に気がついていなかったルゥは呼ばれて振り返ってビックリ。
「きゅっ?!」
大きな目をさらに見開いて驚いた……と思ったら物凄い勢いで戻ってきた。
いつもながらあの短い足で速い速いと感心していたら、射程にわたしを捉えたところで大ジャンプ。
幸いにして頭を突き出していないので頭突き狙いではなく、でも直前に四肢の爪をシャキーンと伸ばしてガッツリしがみついてきた。
痛い……
いや、まぁ頭突き狙いであっても避けられないけど。
どんなに早く頭突きの気配を察しても避けられないけど。
だって頭突きの時は直前にあの短い足まで踏ん張って、ロケットの如く飛んでくるんだもの。
あの速さは絶対に避けられません。
大ジャンプとは違うの、ロケット弾なの。
この小っちゃい爪をシャキーンとされても痛いけどね。
抗議をするように 「きゅ~きゅ~」 と鳴いているルゥを見れば、大きな目の隅っこにちょっぴり涙が溜まってました。
可愛い
たまに見せてくれる涙ボロボロの大泣きも可愛いけれど、ちょっぴり泣いちゃうのも可愛いわね。
そんなルゥをベリッと剥がし、遠くに見えるカタツムリを見せる。
うん、やっぱりさっきから全然動いていないと思う。
すぐにルゥもカタツムリに気がついて 「きゅー!!」 と声を上げ、大きな赤い目をキラキラと輝かせる。
うんうん、いい子ね。
わたしたち、あそこに行きたいの。
あのカタツムリの場所。
わかる? ルゥ。
あ・そ・こ
まぁ理解出来ても出来なくてもいいけど。
だってほら、ルゥはルゥだから。
残念過ぎるAI搭載だし、例えわたしの言葉を理解してもここは迷路だから。
行きたいと思ったところにそんな簡単に行けたら苦労はしないというか、迷路とはいわないというか。
だからわからなくてもいいけれど、とりあえず目的地を教えておく。
するとわたしに抱っこされたままのルゥは、しばらくじーっと動かないカタツムリを見ていたと思ったら、不思議そうな顔をして右を見て……次は左を見て……また右を見て……また左を見るの?
そうして何回かゆっくりと周囲を見ていたと思ったらモゾモゾしだした。
下りたいの?
うん、いいけど遠くには行っちゃだめよ。
「きゅ!」
これは返事じゃないとみた。
そのキリッとした表情といい、たぶん 「ついて来い!」 みたいな感じの鳴き声だと思う。
実際、また勝手に歩き出したし。
「グレイさん、ついて行くんですか?」
ちょっと困った半笑い顔のマコト君。
その、ルゥを迷惑に思っているというより、どう判断したらいいのでしょう? ……みたいな感じ。
でもその隣に立つ美沙さんが 「ワンコちゃん、行っちゃいます」 とマコト君の背中を押しつつ歩きだす。
「ほら、早く追いかけないと!
なんであの子、あの短い足でこんなに速いんだろう!」
ルゥの 「ついて来い!」 といわんばかりの 「きゅ!」 に続き美沙さんの 「はーやーくー!」 に急かされ、わたしとマコト君は見合わせた顔に半笑いを浮かべながら歩き出す。
もちろんうしろからはクロウがついて来てます。
うん、配置換えしてここから先は美沙さんとマコト君に前を歩いてもらいましょう。
わたしとクロウがうしろで。
あ、もちろん先頭はルゥね。
「きゅ~♪」
うんうん、ご機嫌ね。
短い足でガシガシ歩き、しっぽを力強くフリフリしながらお尻もフリフリ。
でもね、案の定どこに向かっているのやら。
目指すカタツムリとは全然違う明後日の方向へずんずん向かっている。
もちろんここは迷路。
行きたいところに行けるわけでもなく、遠回りしなければ辿り着けないこともある。
でも迷路なのよ。
遠回りすればするほどどんどん離れて行くことも少なくなく、実際にどんどん離れている。
うん、さすがルゥね。
辿り着きました!!
その……わたしも何がどうしてこうなったのか?
ちょーっとわからないんだけど、わからないまま辿り着きました。
これはその、明日は雨?
『雨ならもう降ったよ!』
うん、止んだわね。
わたしのつぶやきを当てつけだと思ったのか、アキヒトさんが怒り出した……と思ったら、またしてもその声を遮るように……そういえばさっきくるくるの言葉を遮ったのがアキヒトさんだっけ。
今度はそのアキヒトさんの声を遮るようにカニやんが声を上げる。
『カタツムリみーっけ!』
『ってか、突然出現しやがった!』
『でけー!!』
カニやんの声を筆頭に、続く柴さんの言葉でだいたいの状況を理解する。
それこそ忽然と現われたのか、あるいは気がついたら接近を許していたのか。
さすがにそこまでの詳細はわからないけれど、とにかく遭遇したってことでいいのね。
ムーさんの感想は、わたしたちも実際に遭遇したから無視でOK。
うしろからだけど、前から会っても大きさは変わらないと思うのでその感想はいりません。
もちろんムーさんからは 『聞いてぇや』 という嘆き節が聞こえてきたけれど、これもうるさいので無視します。
その脇からぽぽの声が 『アラート、出ました!』 と告げる。
alert 梅雨空のカタツムリ / 種族・幻獣
あー……幻獣か。
そっかぁ、幻獣かぁ……あー……。
『ちょっと落とすから』
「了解です、気をつけて」
一応そう答えたけれど、あのメンバーに 「気をつけて」 は不要よね。
なにしろ重火力過剰パーティだもの。
それこそカニやんなんて 「帰りにちょっと一杯行かない?」 くらいのノリで 『ちょっと落とすから』 とか言ってたし。
でもこのあとは少しインカムの向こうが騒がしくなったから、勝利宣言を待って詳細を聞くとして、わたしたちはわたしたちでこの動かないカタツムリを調べましょう。
折角ルゥが案内してくれたからね。
「きゅ♪」
ご苦労様
足下で可愛らしくおすわりをしているルゥの、大きな頭をもっふりと撫でて労ってあげる。
嬉しそうな顔をして 「きゅう~♪きゅ~♪」 と鳴き声を上げているルゥをもっふりと抱き上げ、周囲を警戒しつつ問題のカタツムリを改めて見る。
えっと……正確にはカタツムリの殻。
そう、殻だけなの。
中身が入っていない!
それこそ中身のナメクジだけどこかに行ってしまったのか。
あるいは 【酸性雨】 で溶けてしまったのか……ということはさすがにないと思うけど、普通なら入っているはずの中身がなく殻だけがそこにあった。
おそらく大きさは、うしろから見た動いているカタツムリと同じくらい。
目測だけど、たぶん同じ。
でも下のカタツムリの本体部分がないから直接殻だけが地面の上に、少し埋もれるように固定されている。
殻も少し風化したように、美沙さんが何気なく触ったところからボロボロと崩れ落ちる。
相変わらず演出過剰な運営よね。
カニやんパーティの火力とどっちが過剰かしら?
んー……このカタツムリはずいぶん前に死んでしまって、殻だけがここに残ってずいぶん経つといった演出かしら。
しかも美沙さんが、触れるため何気なく殻に近づいたら……
attention こちらからは入れません
ん? この表示は何?
入れないって……この空洞になった殻、入れるの?
「いえ、入れないってインフォメーションが出てますよ」
「あ、そうじゃなくて、入れる造りだけどこの殻は入れないという意味なのかな? と思って」
ちょっと上手く説明出来なくて思わず苦笑いになったけど、頭のいいマコト君には伝わったらしい。
隣の美沙さんは頭の上に一杯の?を並べていたけれど、マコト君は 「あ!」 と声を上げる。
「つまりこの殻は出口専用で、どこかに入り口専用があるかもしれないってことですね」
「まだ可能性の問題だけど」
「そこは要検証ですね」
「うん」
実際にぽっかりと口を開けた殻の穴は洞窟のようで、アバターがギリギリ入れる……いや、クロウあたりはちょっと屈まないと無理かな。
そのまま入ろうとしたらおでこのあたりをぶつけそうです。
わたしなら全然余裕だけどね。
筋肉あたりも横幅がつっかえそうね。
でも対カタツムリ戦に忙しい脳筋コンビからの突っ込みはなく、代わりにマコト君が苦笑いを浮かべる。
「さすがにそれは……」
「とりあえず……ファイアーボール」
殻に向かって魔法で攻撃を仕掛けてみる。
念のためにね。
ほら、クロエが言っていたじゃない、跳弾したって。
だからひょっとしたらと思って試してみたら、案の定反射しました。
もう一つ念のためにと抜刀したマコト君が殻に斬り掛かったものの、やはり物理攻撃は無効。
つまりこの殻はここに固定された、役目を持つ破壊不可の置物ということかな。
でもその結論が確定する前に邪魔をする人たちが来た。
だってすぐそこ、紫陽花の壁一枚越しに別の通路があるから。
そこを通りかかったのがよりによって……
「覚悟しろ、灰色の魔女」
そういえばノギさん以外にもいたわね、未だにわたしのことをそう呼ぶプレイヤーが……。
カタツムリの謎が解けそうな解けなさそうな状況で、新たに遭遇したのはあの魔女。
しかも紫陽花越しなので、剣士二人を含む四人パーティのグレイ班は不利・・・かも・・・(汗
感想欄で、ルゥに地面を掘らて紫陽花をくぐらせようとする方がいらっしゃるのですが、どうしよっかな~ふふふ♪
アールグレイ班
アールグレイ / 魔法使い
クロウ / 剣士
マコト / 剣士
サミー / 魔法使い
ルゥ / 幻獣
カニやん班
カニやん / 魔法使い
しば漬け / 剣士
ミンムー / 剣士
ぽぽ / 銃士
キンキー / 魔法使い
タマ / 妖獣
クロエ班
クロエ / 銃士
の~りん / 魔法使い
ジャック・バウアー / 剣士
ジャック / 剣士
恭平班
恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
ベリンダ / 短剣使い
トール / 剣士
アキヒト / 魔法使い