665 ギルドマスターはデンデンに通せんぼされます
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『女王陛下にはご機嫌麗しく、イベントを楽しまれていることと存じます』
そんな堅苦しい書き出しから始まるメッセージがあなぐまさんから届いたのは、新しいカタツムリイベントが始まってから……どれくらい経ったかしら?
んー……30分は過ぎているけれど1時間は経っていないくらい?
ほら、イベント自体は事前に運営が発表した時間から開始されるけれど、イベントエリアに転送されるためのアイテム入手が必須だから。
それを探すのにちょっとタイムラグというか、ロスタイムがあったというか。
まぁだから正確な時間はわからないけど、とりあえずあなぐまさんをぶっ殺します。
わたしを女王と呼ばないで!!
何回言ったらわかるのよっ?
挨拶文の冒頭でわたしに喧嘩を売ってくるとか、いい根性じゃない。
次に会ったら絶対にぶっ殺します。
絶対に許さないんだから。
いつ会えるかわからないけど……とりあえず、今日は休日なので文章は読みません。
読まないわたしに代わり、転送してカニやんに読んでもらうことにしました。
『なんで俺やねん。
それもわざわざ転送するって、どんな嫌がらせ?』
「だって暇なんでしょ?」
『暇ちゃうわ。
俺、一人やねんからヤバいっちゅうねん』
「タマちゃんがいるから平気でしょ」
『アホか、なんでタマが俺守んねん?
逆やろ、逆』
「あら、守ってくれないの?」
『タマは遊んどる』
「遊んでるかわいいタマちゃんを見たい!」
『誰が見せるか』
語尾に 『けっ』 とか言い捨てられました。
そんなカニやんに全文を読んでもらったところによると……あ、あなぐまさんからのメッセージの話ね。
ついさっきロクローさんを落としてしまったから、てっきりその苦情かと思った。
あなぐまさんったらいつもロクローさんの方向音痴に振り回されているのに、それでも落とされたら一応副主催者として主催者を立てているというか、以前のイベントでは仇討ちをするべく追いかけ回してきたし。
でもあの時はあなぐまさんも似たようなことをして 【グリーン・ガーデン】 の恨みを買ってたけど。
それこそロクローさんを探すあなぐまさんに協力してあげたのに、主催者のアンジェリカさんをサクッと落として副主催者のフレデリカさんを筆頭に、【グリーン・ガーデン】 の怒りを買ったっていうね。
だから今回も恨み辛みを、それはそれは丁寧な言葉遣いで綴ってきたのかと思ったら、まずはロクローさんが一人でいた理由から。
まぁたいしたことじゃないというか、いかにもロクローさんらしい理由だった。
ひょっとしたらノーキーさんも同じ理由のような気がするのは、どことなくあの二人は同じ匂いがするから。
いかにもちゃらちゃらしたノーキーさんと鯱張ったロクローさん。
見た目もキャラも全然違う二人だけど、なんとな~く同じ匂いがするの。
ちょっとスパイシーな香ばしさ。
いや、かなりスパイシーというか、香ばしいというか。
凄く匂う
そんなロクローさんが一人でいた理由は、これからパーティ分けをしようと 【アタッカーズ】 のメンバーで集まっていたら、偶然見つけたカタツムリを捕獲。
そのままウィンドウの案内に従ってポチり、一人でイベントエリアに転送されてしまったという、なんともシンプルかつお馬……ゲフゲフ……えっと、明快な理由だったっていうね。
【素敵なお茶会】 はギルドルームを持っているから、まずはギルドルームに集合。
今回もギルドルームで班分けをしてからイベントに参加すべくお出掛けをしたけれど、【アタッカーズ】 はギルドルームを持っていない。
それでだいたいの集合場所を 【ナゴヤドーム】 の出入り口にしているらしい。
でも同じことを考えるプレイヤーは多く、今日もイベント開始前になると、ギルドはもちろん個人で募ったらしいいくつものパーティが集まっていた。
そこで人数の多い 【アタッカーズ】 は人混みを避けようと少し 【ナゴヤドーム】 を離れたところ、運悪く、よりによってロクローさんが真っ先にカタツムリを見つけてしまったっていうね。
ポチッとな
幸か不幸かイベントエリアに転送されてしまったロクローさんは、それほど迷路内を彷徨うことなくわたしたちと遭遇。
わざわざ追いかけてまで仕掛けてきたから、お仕置き代わりにサクッと落としてあげた。
今回のイベントは自由に中途離脱出来るけれど、PKが出来て、落とされると強制的に一般エリアへ転送。
それも安全地帯である 【ナゴヤドーム】 の地下にある教会のさらに地下、墓地とか死体置き場とか言われる場所に強制送致。
通常通り死亡制裁として経験値をどっさり溶かされた上、銭ゲバ闇堕ち聖女にガッツリとゲーム内通貨をむしり取られる。
問答無用
よくよく考えたら強制送致だから、プレイヤーに復活方法の選択肢がないという悪徳商法。
どうやら今回のイベントで、運営は聖女とタッグを組んだらしい。
マジで聖女は、例のNPC長官から 【ナゴヤドーム】 を買い取ろうと企んでいるのかしら?
もしそうなったら……なんて考えたくもない。
それこそ地価が高騰して物価も急上昇。
とんでもないインフレが起こりそうで、想像するだけで怖くなる。
まぁ聖女の企みはともかく、落とされたロクローさんは強制的に地下墓地に送致された。
実はこのあと、わたしはルゥが行方不明になってしまったことに気づいて大騒ぎ。
それで気づかなかったけれど、このことを脳筋コンビがあなぐまさんに連絡していたらしい。
そこであなぐまさんは、メンバーと手分けして即座にロクローさんの回収作戦を展開。
地下教会に通じる道全てを封鎖する形でメンバーを配置し、徐々にその包囲網を狭めてゆき、丁度教会を出て来たロクローさんを捕獲したらしい。
………………
ひょっとしてだけどロクローさんってば、地下墓地や教会内でも迷っていたの?
そりゃ一本道ではないけれど迷うほどの広さもないはず。
でも包囲網が全然間に合ったということはそういうこと?
え? そういうことなのっ?
『かもしれん』
『ロッ君は筋金入りの方向音痴だからな』
『あの人もなぁ……』
あなぐまさんからのメッセージには脳筋コンビへのお礼も書かれており……まさかあなぐまさんも、わたしが自分で読まないとは思わなかったでしょうね。
もう一ついえばこんな形でメッセージが、【素敵なお茶会】 全員に晒されるとも思わなかったでしょうね。
脳筋コンビはそのお礼を、みんなと一緒に聞いて呆れる。
いや、その、お礼に呆れたわけではなく、ロクローさんに呆れたというか、方向音痴に呆れたというか。
でも続くカニやんが何か言い掛けたところで、クロエが 『ちょっといい?』 と割り込んできた。
なに?
『動いてるカタツムリ見つけたから、目標を変更するよ』
あ、そうなの?
了解しました。
動かないカタツムリの探索に向かっていたクロエ班が見つけたのは、正確にはカタツムリ本体ではなくその這った跡。
クロエ班ではジャック君がその捜索に当たっていて、三叉路に差し掛かった時、わりとはっきりとした跡を発見したらしい。
でも先客があり、カタツムリの後ろ姿を目視したところで交戦状態に。
俄にインカムの向こうが騒がしくなる。
『そのパ○ツ、ウザい』
……えっ?
ちょっとクロエ、今なんて?
他のメンバーの声も聞こえていたけれど、インパクトの強さで耳に飛び込んできたクロエの声。
だってパ○ツよ。
またパ○ツよ。
でもまさかと思うけど、パ○ツといえば……まさか……ね。
『え? あ、えっと 【グリーン・ガーデン】 だったと思う。
あのパ○チラの二人組』
『しゃべりもうるさいっすよ』
『の~りん、焼き払え』
『ちょっとゴメン。
起動…………』
うんうん、しっかりお仕事してね。
あとでクロエにお仕置きされちゃうもの。
でもパ○チラにお喋りがうるさいとくれば間違いない。
ギルド 【グリーン・ガーデン】 の主催者アンジェリカさんと副主催者のフレデリカさんね。
たぶん他のメンバーもいると思うけど、あの二人の印象が強すぎてすっかり霞んでしまっている。
もちろん戦闘ではしっかり存在感を示し、クロエ班を苦戦させているらしい。
『前に出すぎるな!』
『ファイアーボールくらいなら撃てるんだけど?』
他の二つの班の会話もありその全てを聞くことは難しいけれど、そんな、少し焦ったJBの声とふてぶてしいクロエの言葉が聞こえてくる。
おそらくJBはジャック君に指示を出しているんだと思う。
クロエはフレデリカさんとアンジェリカさんのマシンガントークに割り込んでいるのか、銃士らしからぬことを言っている。
いや、まぁ本当にファイアーボールくらいなら撃てると思う。
銃士は魔弾を習得する都合で、必要最低限のINTを持っているからね。
寄られれば落とされるのが宿命の銃士。
相手との距離が取れない状況において、それでも接近を凌ぐため超近距離射撃 【ラピッドマスター】 を所持するクロエだけど、三連射のあとに必ず再装填時間がある。
剣士にとってその再装填時間は好機。
でもクロエだって伊達や酔狂でランカーになったわけじゃない。
元々攻撃三職の中では一番人数の少ない銃士。
まして遠距離攻撃を得意とするだけあって直接その攻撃姿を見ることも少なく、銃撃以外の攻撃方法を見ることも少ない。
【グリーン・ガーデン】 のメンバーに銃士がいるかどうかは知らないけれど、まんまとクロエの機転にはまって突っ込んだフレデリカさんが落とされたらしい。
アンジェリカさんはの~りんとの火力勝負……と思ったら、隙を衝いたJBに接近を許して首を落とされ、ほどなくクロエ班は 【グリーン・ガーデン】 パーティに勝利した。
あとで聞いた話によると 【グリーン・ガーデン】 は、魔法使いが主催者のアンジェリカさん一人しかおらず、残るメンバーの半数が剣士。
半数が銃士という、【鷹の目】 の次くらいに銃士の多いギルドだったっていうね。
ただ銃士でもプレイスタイルは個人の自由であり、スキルの一つである 【魔弾】 を取得しないのならINTは必要ない。
そしてINTがなければ、初期中の初期スキルであるファイアーボールですら魔法は使えないけど。
『やっぱりアラートは出ないね』
『先に 【グリーン・ガーデン】 が接触してるから、今回もそこはわからないかな』
『そうか』
『ところでこれ、攻撃出来ないっすよ。
ほら、全然ダメ出ないっす』
相談するように話すの~りんとクロエの会話に割って入ったJBは、四人にお尻を向け、向こうに向かってのっそりのっそりと進むカタツムリのしっぽ?
しっぽでいいのかしら?
ちょっと部位名がわからないんだけど、本体の一番後ろに当たる部分を剣で斬ってみたらしい。
でも全くダメージが出ず、同じように試してみたらしいジャック君の 『本当だ』 という声も聞こえてくる。
確かクロエが、動かないカタツムリを遠距離で撃ったら跳弾したっけ。
ということは、やっぱり……
物理攻撃無効
「起動…………ホットポット」
それこそ確認ならファイアーボールで十分なのに、珍しく気張るの~りんの 【ホットポット】 は、反射こそされなかったけれど被ダメ0。
ん~……これはやっぱり動く置物?
『属性は?』
『貫通とかどうよ?』
『ちょ……待って。
起動……』
インカムの向こうから他班の意見が挙がる中、少し焦ったようにの~りんが詠唱を始める。
その脇でクロエがいつものように毒を吐く。
『このデカ物邪魔!
移動出来ないじゃん』
『起動……』
あー……カタツムリのあの巨体に進路を塞がれて退避出来ない状態なのね。
でもみんな、そろそろカタツムリの存在に気がつきだした。
マメの話では公式サイトにも書き込みがあったらしいし。
そのためカタツムリにプレイヤーが集まりだしたから、クロエ班はなんとかしてその場を離れて。
そのままじゃ狙い撃ちも同然の目に遭うわ。
『わかってるけど……』
『お前ら、全員ぶっ殺す!!』
詠唱に忙しい合間、自信なさげにの~りんが何か言い掛けた矢先、カニやんの怒気100%の罵声が上がる。
え? なに? なにがあったの?
ちょっとカニやんっ?!
色々と動き出します。
ちょっと整理しきれずごちゃごちゃするかもしれませんが、まずはクロエ班と並行してカニやん班・・・というかカニやん?
遭遇したのはあのギルド。
ええ、あのギルドですw
アールグレイ班
アールグレイ / 魔法使い
クロウ / 剣士
マコト / 剣士
サミー / 魔法使い
ルゥ / 幻獣
カニやん班
カニやん / 魔法使い
しば漬け / 剣士
ミンムー / 剣士
ぽぽ / 銃士
キンキー / 魔法使い
タマ / 妖獣
クロエ班
クロエ / 銃士
の~りん / 魔法使い
ジャック・バウアー / 剣士
ジャック / 剣士
恭平班
恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
ベリンダ / 短剣使い
トール / 剣士
アキヒト / 魔法使い