662 ギルドマスターはデンデンがキラキラします
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何回見てもいないのはわかってる。
わかっているけれど迷路という特殊環境の都合上、どう探していいのかわからないわたしは改めて前を見て後ろを見る。
そして右を見て左を見ると、見るだけ無駄な遥か上空を仰ぎ、いつもならルゥが可愛らしくおすわりをしている足下を見る。
やっぱりいない
お仕置きとして落としはしたけれど、やっぱりロクローさんが恨めしくなってくる。
あそこでロクローさんが仕掛けてこなければルゥを見失うこともなかったのに……と、ルゥを見失ったショックをロクローさんのせいにしてみるけれど、そんなことをしても意味がないことはわたし自身が一番よくわかっている。
わかっているけれどルゥがいないのよ……。
『錯乱してやがる』
『いいじゃん、ワンコ探すついでに探索しろや』
「グレイ」
『そうそう。
最悪、格納すりゃ回収出来るじゃん』
わたしの嘆きを、まるで美味しい突っ込みどころを見つけたとばかりにからかってくるいつもの三人組。
目下、班長の火付けによって起こった猛火の中にいるクロエ班とは違い、三人は過剰すぎる火力のせいで余裕綽々のカニやん班。
特に班長のカニやんはね。
そんでもって筋肉自慢の二人も、忙しいのは忙しいけれど口は暇なのよ。
ブンブン剣を振り回しまくっているけれど、筋肉は考えるより先に動くからね。
条件反射のように向かってくるプレイヤーをことごとく斬り落とし、確実なお仕事をしてくれているのなら余裕をかましてくれてもいいけれど、ルゥを見失って呆然としているわたしの扱いが雑すぎない?
もうちょっと優しくしてよ。
せめてルゥを探す手掛かりを……
『無理じゃね?』
「グレイ」
『絶対無理だろ』
『無理』
泣くわよ
もちろん世間で言われる 「女の涙」 も、この三人が相手では武器としての威力を全く発揮しないけどね。
痛くも痒くもない。
それこそ蚊に刺されたほどにも感じない冷血漢め……と、うっかり三人の相手に夢中になっていたら、ずっとクロウに呼ばれていることに気づかなかったっていうね。
「ギルマース、聞こえてますかーっ?」
不意に美沙さんが耳元で大きな声を上げる。
え? なに?
「なにって、もう!」
「グレイさん、さっきからクロウさんが呼んでますよ」
驚くわたしに美沙さんは腰に手を当てて少し背をそらせるように呆れ、マコト君はいつもの穏やかな表情で笑う。
そしてわたしたちとは少し離れたところで、屈んで地面を見ているクロウを指さす。
「グレイ、こっちだ」
こっちとはどっち?
クロウが行きたいほう?
それともそっちに行くとルゥがいるの?
いや、ルゥがいるほうというのはないか。
だってクロウとルゥはとっても仲が悪いというか、ルゥが一方的に嫌っているというか。
あるいは表情の変化に乏しいだけで、実はクロウもルゥが大嫌いという可能性も無きにしも非ず。
むしろそのほうが可能性は高い。
『同族嫌悪で、案外わかり合えるんじゃね?』
『反発し合う同士で実は居場所がわかるとか?』
『どっちもグレイさん大好きだしなー』
あそこの班の火力、やっぱり今からでも分割しておく?
ほら、カニやんはね、獣が大好きだからその行方が気がかりなのはわかる。
それこそわたしより先に発見して、そのままタマちゃんと一緒に首輪に格納……出来ないはずだけど、やりそうよね。
だってそこはカニやんだもの。
抜け目なく小林さんにでも相談して、こっそり改良というか改悪とか、都合よく変更してもらいそう。
そうしてルゥをわたしから奪うつもりね。
そんなことを考えるといても立ってもいられず、カニやん班の分割構想など綺麗さっぱり忘れてクロウを追いかける。
そうしてマコト君、美沙さんの三人でクロウについて歩いていて気づいたのは、クロウが時折足下を見ていること。
なにかあるの?
それこそルゥのかわいい肉球が足跡代わりに残っているとか?
今度はそう考えてわたしも地面を見るけれど、残念なことにわたしの期待は淡雪と消えた。
なにもございませ……いや、ある?
えっと、ある……わよね、これ?
本当にわずかなそれは、ともすれば見落とすくらいわずかで、わたしのようになにかを探して目を懲らしてみなければ気がつかないくらい。
実際にわたしの様子に気づいたマコト君や美沙さんも地面を見るけれど、気づかなかったらしくキョトンとした顔で 「どうかしましたか?」 と尋ねてくる。
本当にそのくらいわずかで、気がついてなおうっかりすると見落としてしまいそうなほどわずかなそれは、地面に残るキラキラとしたもの。
なんだろう?
でも時折地面を見ているクロウは、おそらくこの跡を追っている。
まさかと思うけれど、ひょっとしてこれ、その、ルゥのお……っこ?
えっと、ルゥの老廃棄物……みたいな?
しかも垂れ流し?
え? 垂れ流しながらお散歩してるの、ルゥってばっ?
あ、待って待って。
同じ垂れ流しでも、ひょっとしてこれは涙かもしれない。
わたしがいないことに気づいて、また涙をボロボロ流しながらわたしを探してさまよい歩いているとか。
あり得る……
だってそこはルゥだからね、ルゥなのよ。
ちょっとだけ待つとか、わたしに合わせるなんて事が出来ない。
全くといっていいくらい出来ない我が儘なワンコ。
もちろんカニやんに言わせれば、常に飼い主が獣に合わせるのが当たり前。
合わせて欲しいなんて思うことすらおこがましい。
まぁそこは、わたしはまだまだ下僕レベルが低いから。
これから頑張ってレベル上げしていこうと思います。
そんなわけでこのキラキラがルゥの涙の跡ではないかと疑ったわたし。
大ハズレ
うん、全く違いました。
それどころか追いついたルゥは、そもそもわたしたちと離れてしまったことにすら気づいていなかっ……いや、気づいてはいたみたい。
でもすぐにわたしたちが追いついてくると思っていたのか。
あるいは気が済んだら戻ってくるつもりでいたのか。
幾つめかの角を曲がった少し先に見えたルゥは……その、ルゥのお尻はいつものようにフリフリしていて、しっぽもご機嫌にブンブンしていた。
「ルゥ!」
その無事な姿を見て思わず呼びかけると、アンテナのように大きな耳をピンと立たせていたルゥはぴくりと動かすのと同時に足をピタリと止める。
そしてにっこにこの笑顔でわたしを振り返り、「きゅっ!」 とご機嫌そうな声を上げる。
でもそこでそのままわたしたちが追いつくのを待ってくれるのかと思ったら、まるで 「遅いぞ、早くついて来い!」 とでも言わんばかりに再び短い足で歩き出す。
いつものようにフンフンフンフン……しながらね。
どうやらあのフンフンで例のキラキラした跡を辿っているらしい。
つまりあのキラキラはルゥのお○っこでもなければ涙でもなく、わたしはまんまとルゥに騙されたというわけね。
もちろん以前からずっと言っているけれど、わたしはルゥになら騙されてもいいの。
全然かまわないの。
むしろ騙されたい。
でもマコト君や美沙さんまでそれに巻き込むのはちょっと止めて欲しい……と思ったら、クロウに声を掛けられる。
「近いかもしれん」
「なにが?」
間髪を置かずストレートに返すわたしに、クロウは目線だけで地面を示す。
これはキラキラのことを言っているのかな?……と思って改めて足下を見ると、見つけた時は、なにかあると思ってみなければ見つけられないほど薄かったキラキラが、随分とラメを増してきらぎらと光っている。
うしろから来るマコト君や美沙さんに訊いてもはっきり見えるというから間違いない。
明らかにはっきりと濃くなっている。
つまりこのキラキラは何かが通った跡で……もちろんルゥ以外のなにかが通った跡で、この跡は時間の経過とともに薄れ、やがて消えていゆくらしい。
そう考えれば、わたしがクロウに言われて気づいた最初の地点は消える寸前のあたりで、だからあんなに薄くなっていた。
そしてその跡がこれほど濃くなっている……それこそたった今着いたばかりのような濃さ……ということは、この跡を付けている 「なにか」 が近くにいる。
そうクロウは言いたいらしい。
納得
もちろんそれが何かはわからない。
でも用心するに越したことはない……と思っているあいだにも、わたしたちを先導するように前を歩くルゥが角を曲がり、続いて曲がった数メートル先にソレはいた。
えーっと……ですね、わたしたちがちゃんと顔を上げて歩いていればもっと早く気づけたわけですが、今度こそルゥを見失うまいとそのお尻……ゲフゲフ……えっと、いや、もういいや。
正直に言います、ずっとルゥのお尻を見ていました。
それで発見が遅れたのはわたしだけで、少し前からクロウはもちろん、マコト君も気づいておりました。
残念なことに、魔法使いの素質をどんどん発揮しつつある美沙さんも、ルゥのお尻こそ見ていなかったけれど、よそ見ばかりしていて気づいてなかったけどね。
「なに……あれ?」
思わず声が喉に詰まってしまうほどわたしを驚かせたそれは、有名な某アニメ映画に登場するオ○ム的な?
いや、でもあれは巨大なダンゴムシ。
たぶんダンゴムシがモデルだと思う。
アルマジロ……じゃないわよね。
だって確かあの映画、トンボとかムカデとか、虫系ばかり巨大化していたもの。
そう考えればオ○ムだってモデルは虫。
となるとダンゴムシとしか思えない。
でもわたしたちの前に出現したそれは、大きな大きな………………
なにかしら?
だってソレを後ろから見ることは滅多になくて……少なくともわたしにはソレを後ろから見た記憶がなくて、しかも巨大。
うん、まぁほら、ここの運営は巨大な物が大好きだから。
おかげで獣はもちろん鳥も魚も巨大化させていて、ついには虫まで巨大化させてきた……と思ったけれど、去年の夏、世にもおぞましき人類の敵Gも巨大化していたっけ。
やだわ、すでに虫も巨大化してました。
そして今回新たに巨大化したのは……
「あれってあれですよね!
て~んとうむ~しむ~しか~たつむり~♪」
不意に、楽しそうに歌い出す美沙さん。
でも彼女ったらその歌詞を派手に間違え、即座にインカムの向こうから集中砲火が襲って来る。
『ちゃうし!』
『なんでそうなんねん!』
『おま!』
やっぱり早いのは、戦力過多の重火力パーティカニやん班の三人。
いや、火力に余裕がありすぎて暇を持て余していると言うより、そもそもこの三人は関西人。
突っ込みは生活の基本であり、出遅れるわけにはいかないという謎の使命感がある。
きっとだからいつも早いのね。
『やっぱ間違ってないっすよね』
『間違えてるよ!』
『JB、お前のせいだぞ!』
『あ~あ~変なこと覚えちゃったよ』
『美沙ちゃ~ん』
『塚原、それは違うと思う……』
などなどとメンバーの突っ込みが続く。
ちなみにマコト君が、少し恥ずかしそうに正しい歌詞でそのフレーズを歌って美沙さんの間違いを訂正してくれる。
あら、マコト君ったら歌が上手いのね。
「すいません、聞かなかったことにしてください」
恥ずかしがらなくてもいいのに、そんなに上手なんだから。
美沙さんにまで 「そうよそうよ」 と言われ、マコト君を余計に恥ずかしがらせる。
つまり今回運営が巨大化させたのは虫で、その名はカタツムリ。
デンデン
今もわたしたちの数メートル前方を、巨大なナメクジが巨大な貝を背負ってのんびりと向こうへと動いてゆく。
ナメクジとカタツムリは全然別物ということはともかく、これがNPCなのか、動く置物かも不明。
でもその後ろをついてゆくルゥが少しずつ距離を詰めてゆき、自身の射程に捉えたのか、不意に短い足でぐっと地面を踏みしめ今にも飛びかからんとした瞬間、その目が睨んでいたデンデンが消えた。
電子分解による消滅ではなく、消えたの。
それこそ一瞬にしてね。
どうなってるの?
お待たせいたしました、デンデンの登場です。
すぐ消えましたが、またすぐ再登場しますのでご心配なく。
このデンデンの正体については本編の進行をお待ち下さい。
アールグレイ班
アールグレイ / 魔法使い
クロウ / 剣士
マコト / 剣士
サミー / 魔法使い
ルゥ / 幻獣
カニやん班
カニやん / 魔法使い
しば漬け / 剣士
ミンムー / 剣士
ぽぽ / 銃士
キンキー / 魔法使い
タマ / 妖獣
クロエ班
クロエ / 銃士
の~りん / 魔法使い
ジャック・バウアー / 剣士
ジャック / 剣士
恭平班
恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
ベリンダ / 短剣使い
トール / 剣士
アキヒト / 魔法使い