表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

661/806

661 ギルドマスターは意外な伏兵に助けられます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!

「おぬし、なかなかやるな」


 ギリギリギリギリ……耳障りというか、背筋がぞわぞわするというか。

 そんな音を立てながら斬り結ばれるロクローさんとマコト君の(やいば)

 でもレベルやSTRの都合上、この状況はマコト君に不利。

 実際ロクローさんには喋る余裕さえある。

 時代劇ブームが到来するくらいの余裕がね。

 対するマコト君はいつも柔和な表情を厳しくし、歯を食いしばるように唇を強く結んでいる。


 先に肝心なことを確認しておくと、今回のイベントは個人戦ではない。

 単身(ソロ)でも団体(パーティ)でも参加OK。

 レベルなどの参加条件もついていない。

 PK要素は盛り込まれているけれど、あくまでそれはイベントを盛り上げるための要素であって、何人落とそうとポイントなどは入らない。

 けれど落とされると強制的に 【ナゴヤドーム】 内にある教会地下の墓地に転送され、死亡制裁(デスペナルティ)を受けることになる。

 但しあくまでも個人戦ではないため中途離脱(リタイア)も自由自在……あ、まだそこまでは検証出来ていません。

 一応今のところ自由に中途離脱(リタイア)出来ているけれど、この先も絶対にいつでもどこでも自由に中途離脱(リタイア)出来るとは限らない。

 ひょっとしたら出来ない状況もあるのかも。

 だからこの点についてはまだまだ要検証。

 いつものようにギルドルームに陣取っているマメにも、公式サイトの掲示板を巡回してもらっている。


 でも中途離脱(リタイア)については一般エリアに転送されるだけで死亡制裁(デスペナルティ)は課されない。

 つまり落ちそうになれば中途離脱(リタイア)を選べばいい。

 そのくらいPK要素の重要性は低く、出会ったプレイヤーをことごとく落とす必要はない。

 それこそ 「こんにちは」 とか挨拶をしてすれ違っても全然かまわないわけで、道幅も三メートルくらいあるかしら?

 十分すぎるほどすれ違える広さがあり、そのほうがいかにもアットホームな感じになる。


 無理だけど


 だって絶対無防備に背中を向けた瞬間、斬られるもの。

 卑怯撃ち騙し斬り万々歳のルールだからね。

 そこが今回のイベントの恐怖というか、肝というか。

 でもだからってわざわざ追いかけてきてまで斬る必要はないと思う。

 しかもロクローさんも、何度言ってもわたしを女王と呼ぶのを止めてくれないし。

 どこから到来したかわからない時代劇ブームに乗って余裕までかましているから、さっさと落とすわ。

 さっきは落とされる前に中途離脱(リタイア)すればいいなんて簡単にいったけれど、マコト君とロクローさんでは色々と差がありすぎる。

 剣を斬り結んだ状況を長く続けることはもちろん、マコト君に中途離脱(リタイア)を選択する余裕はない。

 片手剣を片手に持ったまま、それこそ受け止めるマコト君ごと斬り落とすべく振り切ろうとするロクローさんと、片手剣を両手に持ってそれを阻止するマコト君。


 数値(データ)が全て


 ここは仮想空間(ゲームの中)だからね。

 努力や根性でなんとかなるものではない。

 一応感覚センサーがプレイヤーの力の入れ具合などを加減しているけれど、ロクローさんが全力を出せばあっというまに勝負がついてしまう。

 その前に……


「スパーク!」


 ん? 誰?


 えっと、だってたった今ロクローさんを吹っ飛ばした 【スパーク】 はわたしじゃないもの。

 一応わたしの名誉のために言わせてもらえば威力だって全然低くて、ノーキーさんのように吹っ飛ばない(ノックバックしない)スキルを持っているわけでもないロクローさんを、少し後方へバランスを崩すに留まらせた。

 でもマコト君と離れた今なら……と思ったら、それこそわたしに詠唱する隙すら与えず体勢を整えたロクローさんが、改めてマコト君に剣を振り下ろす。

 ランカーとまではいかないロクローさんだけど、剣士(アタッカー)ばかりを集めたギルド 【アタッカーズ】 の主催者を張っているのは伊達じゃない。

 それこそわたしやカニやんの 【スパーク】 で数メートルを吹っ飛ばしても、ランカー並みにすぐさま体勢を立て直してくるだろう。

 そして改めてマコト君と剣を斬り結ぶ……と思ったら、刃が接触する寸前に後退するロクローさん。

 直後、横から突き出されるクロウの大剣・砂鉄がロクローさんの鼻先をかすめる。


「美沙ちゃん、下がって!」


 立ち位置を変えるべく、剣を片手に持ったマコト君はもう一方の手で美沙さんを庇うように下がる。

 その腕に押されるように、少し足をもつれさせながら後退する美沙さん。

 うんうん、そういうところも魔法使いらしくなってきたわ。

 でも転ばないところがちょっと残念ね。


 実はわたしを狙っていたわけではないロクローさんは、マコト君を狙っていたわけでもない。

 正解は美沙さん狙い。

 つまりロクローさんの時代劇ブーム……じゃなくて 「おぬし、なかなかやるな」 は、とっさに美沙さんを庇って割り込んできたマコト君への褒め言葉。

 わたしやクロウの位置からでは、ロクローさんの視線がどちらを見ているか正確にはわからなかったけれど、当事者であるマコト君にしてみれば、ロクローさんと目が合ったのはほんの一瞬。

 そのあとは全く合わなかったらしく、それで自分が狙われているのではない。

 でも近いところにいる誰かを見ている……ということで美沙さんが狙われているとわかったらしい。

 そしてロクローさんが踏み込んでくるのを見て、とっさにあいだに割って入った。

 実際にあとで美沙さんは


「ずっと睨まれてて怖かったー!」


 と言っていた。

 それでもあそこで 【スパーク】 を出せた美沙さんもなかなかのものだと思う。

 タイミングというか、マコト君とロクローさんの直線上から少し立ち位置をずらすなど、きちんと出来ていたところもポイントが高い。

 そもそも 【スパーク】 なんていつの間に取得していたのかしら?

 この事についてはあとで。

 クロウの名誉のためにいっておくと、踏み込みが遅れたのは……もちろんクロウも、ロクローさんがマコト君か美沙さんのどちらかを見て踏み込んできたのはわかっていたけれど、フェイントの可能性もあって、わたしのそばを離れられなかったということらしい。


 ごめん


 もうね、完全にロクローさんの狙いは自分ではないと判断して油断しまくってたわ、わたしってば。

 つまりロクローさんが壮大なフェイントを掛ければわたしは落とされて……はいないのか。

 そのためにクロウが踏みとどまったわけだし。

 マコト君と剣を斬り結んだことでその狙いがわたしではないと確信し、遅ればせながらも踏み込んだクロウ。

 その大剣はロクローさんとマコト君、双方の後退を促した……と思ったらそのままロクローさんに向けてほぼ水平に薙ぐ。

 もちろんロクローさんもそこは想定内。

 すぐさま切り返さず、クロウと十分な距離を取れるまで後退……するけれど、逃すまいと追い打ちを掛けて踏み込むクロウに、体勢が不十分なままのロクローさんは、大剣ながら大振りにならないクロウの切り返しに対応が間に合わず。

 辛うじて片手剣で受け止めようとするけれどSTRが乗らず、軽々と打ち払われてしまう。

 このままクロウに斬首してもらうのもいいけれど……


「起動……焔獄(えんごく)


 あ、でもロクローさんは 【焔獄】 一撃では落ちてくれないわね。

 焔に包まれて動きを止めるロクローさんの首を、しっかりクロウの砂鉄が切断。

 焔の中、全身から大量のHPを流出させるロクローさんのアバターが、見る見る分解を始める。


「陛下、御前を失礼いたします」

「これはお仕置きよ、ロクローさん」

「女王陛下、バンザーイ!」


 スキル効果やダメージによる硬直中でも魔法使いが詠唱出来るなら、魔法こそ使えなくても喋ることはどのプレイヤーにでも出来る。

 だから挨拶はともかく、最後の最後でそれっ?

 いっそ挨拶もいらないから黙って落ちて!


 もう!!


「マコト君、回復!」


 ついついマコト君にまで強く言ってしまった。

 ごめん。

 美沙さんが 「斬られてないっしょ?」 と不思議な顔をするけれど、ロクローさんの剣と斬り結んだ瞬間、その衝撃でダメージを計上。

 わずかながらもマコト君の両腕あたりからHPが流出していた。

 それこそ装備(ふく)についた埃が舞い上がる程度にね。

 それがどの程度のダメージか、マコト君のHP最大値を知らないわたしにはわからないけれど、とりあえず必要があれば回復をするよう伝える。

 マコト君は 「大丈夫です、まだ」 と苦笑を浮かべてわたしに応えると、すぐに美沙さんを見て話す。


「そういえば 【スパーク】、いいタイミングだったね」

「それそれ、いつ取得したの?」


 わたしも話に乗っかって尋ねる。

 すると美沙さんは少し照れたように顔を赤くする。


「あれは、便利だからっての~りんさんが教えてくれて。

 取得するのも付き合ってくれたんですよー」


 まだレベル的にINTが足りておらず全然威力は低いけれど、必要と思うスキルなら取得しておくに越したことはない。

 これから経験値を溜めていけば自然とレベルは上がるしね。

 レベルが上がるごとにもらえるステータスポイントをINTに振っていけば、どんどん威力も上がる。

 育成の楽しみにもなる。

 それにしても珍しくの~りんが美沙さんの指導に積極的ね。

 こう……ちょっと思い当たるというか、以前にも似たようなことがあったような気がするというか、その……訊いてもいい?


 ココちゃんは?


 彼女は今も 【シシリーの花園】 にいて 【素敵なお茶会(わたしたち)】 を目の敵にしているはず。

 そのへんが面倒で、最近はあえて彼女のことを口にしないというか、話題にしないようにしていたけれど、の~りんの心境に変化があったのではないかと思うと俄に気になってきた。

 そこで思い切って訊いてみるけれど、の~りんが所属するクロエ班は大絶賛渦中……というか、火付けの犯人はクロエだけどね。

 少し周囲が賑やかになりすぎて、離脱を試みて大移動中らしい。

 そのため少ししてから、少し疲れた声での~りんの返事があった。


『そのことなんだけど、あとでちょっと話せる?』


 え……マジで?

 マジでの~りんの心境に変化あり?

 それとも二人の関係性に変化があったの?

 うわ~気になる。

 本音をいえば今すぐにでも聞きたいところだけど、よりによっての~りんはクロエ班だからね。

 今すぐ話を聞かせてとは言えない。

 言ったが最後、どんな毒を飲まされるかわからない。

 わたしもの~りんもね。

 だから我慢し、ぐっと堪えて応える。


「わかった、あとでね」

『本当は今すぐ聞きたいくせに』


 わたしの本音を見透かしてクロエが来たー!

 なによ、結局本音を言わなくても毒突かれるんじゃない。


 もう!


『ひょっとしてそれで本音を隠してるつもりだったの?

 え? それで? ちょっとグレイさん?』


 折角大人の対応をしたのに。

 クロエにだって遠慮してあげたのに。


『当然でしょ。

 僕ら交戦真っ最中なんだから』


 わかったから交戦(そっち)に集中してください。

 の~りんが返事をしてきたから、てっきり離脱出来たのかと思ったらまだだったらしい。

 追及しなくてよかったわ。

 じゃあわたしたちも探索を再開しましょう……と言いかけてハッとする。

 その、ね、ついうっかりというか、あそこで登場したロクローさんが悪いというか、だから、えっと……またやってしまった。

 その……ルゥがいません。

 それこそ前を見ても後ろを見ても、右を見ても左を見てもいなくて、当然下を見ても上を見てもいません。

 完全に見失いました。

 よりによってマップのない迷路でルゥを見失うなんて……


 ルゥ、どこー!!


 もちろんどんなに大きな声で呼んでも、絶対に戻ってこないけどね。

懲りない飼い主とわんこですw

でも実はロクローが登場する直前あたりでクロウがなにか話し掛けるのですが、そのこととルゥの迷子が関係しているようで・・・

果たしてグレイはルゥと無事に再会出来るのかっ?!



アールグレイ班

 アールグレイ / 魔法使い

 クロウ / 剣士

 マコト / 剣士

 サミー / 魔法使い


カニやん班

 カニやん / 魔法使い

 しば漬け / 剣士

 ミンムー / 剣士

 ぽぽ   / 銃士

 キンキー / 魔法使い


クロエ班

 クロエ  / 銃士

 の~りん / 魔法使い

 ジャック・バウアー / 剣士

 ジャック / 剣士


恭平班

 恭平   / 剣士

 くるくる / 銃士

 ベリンダ / 短剣使い

 トール  / 剣士

 アキヒト / 魔法使い

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ロクローと交戦した前話でルゥから目を離したらいなくなりそうと思っていたら、本当にいなくなって驚きました。 ※その時の予想(妄想?)ではルゥが何故かゴールに一番乗りでした。 ルゥは何処行ったの…
[気になる点] えっと~ ダンジョン内でもでんでん、探すんだっけ? ダンジョン内は、ダンジョン探索だけでいいんだっけ? しかし、広いダンジョンだなぁ………………………… [一言] 大丈夫、居…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ