660 ギルドマスターは時代錯誤です
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『どうって、代わりに掻いてやるのが飼い主の役目だろうが!』
なぜか左足で右耳の後ろを掻こうなんて、無謀な挑戦をするルゥ。
しかもあきらめが悪い。
人間がすれば……いえ、きっと犬でも現実世界で試みれば足が痙るだろう難解な姿勢で頑張るルゥを助けたくて、大先輩に助言を求めてみればそう言われました。
だからルゥの右耳のうしろを飼い主として代わりに掻いてあげたというか、モフってあげたというか。
するとルゥは気持ちよさそうに 「きゅ~♪」 と鳴き声を上げる。
そしてもう少しモフっていたい飼い主の気持ちなど一顧だにせず、意外なくらいアッサリと掻き掻きを終了。
まるで何もなかったようにすたすたと歩き出す。
ちょっと淋しい……
いつものように、楽しそうにフンフンフンフン……と臭いを嗅ぐように探索を始めるルゥの、かわいいしっぽやお尻がちょっとだけ涙で滲みました。
しかもこれまたいつものように勝手気ままに散策を楽しむルゥは、分岐に差し掛かったところで勝手に左折。
捕獲すればその進路を変えることも出来なくはないけれど、ここは迷路。
マップもなければ行くあてもない。
もちろんゴールを探してはいるけれど、どこにあるかなんてわかるはずもない。
そもそもゴールってどんな感じ?
この迷路から出られるの?
ちょっとマメ?
『アイアイサー!
えっとですねぇ~』
わたしの呼び掛けに応えてくれたマメは、いつものように無駄に元気で声がうるさい。
でも調べてくれた公式サイトの掲示板には、芳しい書き込みは見つけられなかったらしい。
『まだゴールした奴、いーませーん!』
想定内
まだイベントが始まって一時間も経ってないからね。
当然のように専用の情報スレッドは立てられているけれど、今のところ紫陽花を乗り越えようとすると吹っ飛ばされるとか、狙撃されたとか。
すでに知っていることばかりが重複して書き込まれているらしい。
あとは文句というか、愚痴というか。
情報というより、個人的な意見のようなものが多いみたい。
でもマメにいわせれば、だいたいイベントの始めと終わりはそんな感じ。
有益な情報が出てくるのはまだまだ先だと、ちょっと下げて欲しいくらいの音量で教えてくれる。
「そうなのね、わかったわ。
じゃあ面白そうな情報が出て来たら教えて頂戴」
『アイサー!』
『お前、うるさいって。
もう少し静かに話せねぇのか』
『カニの耳が遠いから、よ~く聞こえるように喋ってやってるんだよ!』
また始まったこの二人の口論は放っておくわ。
どうせカニやん班は過剰火力でカニやん自身暇してるし、ぽぽとキンキーが無事なら好きにして頂戴。
二人のことは脳筋コンビに頼んであるし。
とりあえずわたしたちは、ルゥの散歩に付き合えばいいかな?
気をつけておかなければならないのは、この迷路にいられるのは最大三時間ということ。
いわゆる制限時間ね。
でも制限時間を超過してもダンジョンを強制的に追い出されるだけ。
今回はイベントエリア外との会話はもちろんアイテムのやり取りも出来、自在に中途離脱も出来るゆるいイベント。
前回のアットホームなファミリーイベントが、PK要素が入ってしまったためにちょっと緊張感が増したけれど、内容的にはアットホームが取れただけのファミリーイベントよね。
だって巨大迷路攻略だもの。
制限時間が儲けられているのは、おそらく機器メーカーやVRゲーム業界で議論されている健康問題。
ログインを長時間維持することは、脱水症状などの健康被害をもたらす恐れがあるから。
その対策として、今回は迷路にいられる時間を最大三時間とし、ユーザーに 「切り」 を付けさせて休憩を促すのが狙いだと思う。
実際に制限時間をオーバーして強制退場になっても、改めて一般エリアでアイテムを見つければ、制裁なしで再入場出来るルールになっている。
強制退場も、中途離脱扱いで死亡にはならないし。
『でーもー、死んだら死体置き場強制送致でーす!』
『ひょっとして死亡制裁もあり?』
とりあえず迷路を探索するしかないわね……とみんなで話していたら、それまでカニやんと口喧嘩を続けていたマメが割り込んでくる。
それに対してみんなを代表してカニやんが尋ねると 『当たり前だろ、バカかお前は』 って……ちょっとマメ。
まぁ訊いたのがカニやんだったからね。
たぶんそれが悪かったんだと思う。
訊いたのが他のメンバーなら、マメだってこんな返事はしなかったと思う。
仲がいいから
『それ、違うから』
『グレイさん、やめてくださーい!』
どこまでも仲のいい二人は放置しておいて、ゆるめのイベントだと思っていたけれど、死亡制裁はあるんだ。
これはちょっと意外だったし、先に教えてもらっておいてよかったわ。
『マメ、役に立ったか?』
「ええ、凄く役に立ったわ。
ありがとう」
『やったー!!
ざまーみろ、カーニー!』
『待てやマメ、それのどこにマウント要素があった?
今の、マウント取るところかっ』
さぁ?
だってマメの感性は独特だからわたしにはわかりません。
しかもマメにカニやんを取られて面白くないのか、脳筋コンビまで参戦してきた。
『マウントじゃなくね?』
『ざまぁ要素じゃね?』
『いや、ざまぁでもねぇし。
マウント取るとこでもねぇし、ざまぁでもねぇし。
お前らまでなに言ってんのっ』
『ムキになんなって』
『気持ちはわかるけどな』
『全然わかってねぇよ。
お前らに俺の気持ちがわかってたまるか!』
『淋しいこといってんじゃねーよー』
『マメ!
お前には一番言われたくねぇんだよ!!』
カニやんとマメは放って置いてもいいけど、柴さんとムーさんは、しっかり二人の護衛してよね。
もちろんこの二人はキンキーとぽぽのことだからね。
どうしてもマメに張り合いたい気持ちはわかるから喋っていてもいいけど、お仕事だけはしっかりしてよ。
『さすが女王』
『厳しいぜ』
『鞭は痛いんで仕事するわ』
『死亡制裁あるし、斬首も怖ぇわ』
あとで覚えてないさい!
『すぐ忘れる』
『逃げ切る』
どこまでも口が減らない……と怒りに駆られそうになったところで、マコト君が 「グレイさん」 と声を掛けてくる。
どうかした?
「この先、どうします?」
進行方向を差すマコト君の綺麗な指につられ、改めて前方を見れば少し複雑な地形に差し掛かっていた。
少しずれた十字路に、その手前に一つ、向こう側に二つ、角が見える。
ちょっと入り組んでるわね。
でもマップがない以上、どの道を選べばいいのかわからない。
でもどれかを選んで進まなければ……と思ったら、わたしたちを引き連れるように前を歩くルゥが、相変わらずフンフンフンフン……と臭いを嗅ぎながら、迷うことなく一つの角を曲がってゆく。
その様子を見ていたクロウが 「グレイ」 と呼びかけた刹那、どこからともなく聞き覚えのある声が、聞き慣れた言葉を紡ぐ。
声はともかく、わたしはその言葉が嫌いなのに……
「女王陛下ー!」
わたしたちの前方で複雑に入り組んでいた迷路。
その中でわたしたち……というか、ルゥが選ばなかった分岐の一つから、わたしを 「女王」 と呼びながら走ってくるのは間違いなくロクローさん。
手に抜き身の剣を持ち、こちらに向かって猛ダッシュしてくる。
「ここでお会い出来るとはなんと光栄!」
そんな挨拶を叫びながらも凄い速さでこちらに向かってくる。
見たところ後続はいない。
これはつまり、いつものあれね。
迷子
主催者ライカさんの一件で、すでに解散同然となってしまった 【暴虐の徒】 と同じく、剣士だけで構成されたギルド 【アタッカーズ】 を率いるロクローさんは、面白いくらいの方向音痴。
それを本人が自覚しているかどうかは知らないけれど……そういえば訊いたことないわね。
まぁ自覚していようといまいと、とにかく迷子になる。
それも盛大に
そうして副主催者のあなぐまさんを筆頭に、メンバーたちに面倒を掛ける人。
去年の暮れにあったクリスマスイベントでも迷子になり、複数層に分かれた地下巨大迷宮内で大捜索が行なわれた。
その際 【アタッカーズ】 は 【グリーン・ガーデン】 と揉め、わたしはその騒動に巻き込まれ……あ、そういえあの時は、そもそもわたしがロクローさんを落としたんだっけ?
そうそう、大捜索を引き起こしたのはロクローさんだけど、あの騒動の切っ掛けはわたしがロクローさんを落としたことだったような……
忘れてたわ
今回は迷子になることを考慮し、あらかじめ単身で参加している可能性もある。
少なくともその背後に後続は見られないし、例え迷子になっていても、苦労するのは副主催者であってわたしたちじゃない。
だから迷子かどうかはどうでもいい。
でもこっちに来ないで! ……という間もなく迫ってきた。
「是非ともおそばでご尊顔拝謁賜りたく、このロクロー、ご挨拶に馳せ参じまして候!」
忠義を尽くす武士みたいな口上を述べながら迫るロクローさんだけど、騙されないからね。
さっき思い出したというか、さっきまで綺麗さっぱり忘れていたというか、ほら、クリスマスイベントでロクローさんはわたしに落とされてるじゃない。
ついでに思い出したことがあるの。
あの時、ロクローさんから斬り掛かってきたということをね。
しかもこの状況はあの時とほぼ同じ。
もちろんギルド戦ではないどころかロクローさんは単身の可能性もあるけれど、そこは問題じゃない。
むしろ単身ならうっかりロクローさんを落としても、あとで仕返しというか、捜索隊から追いかけ回されずに済むもの。
ラッキー
そもそもロクローさんから斬り掛かってきたのだから落とされても文句は言えない。
これはクリスマスイベントの時にも言えるけれど、あれはギルド戦だったからね。
このゲームに限ったことではないと思うけれど、多くのプレイヤーはついうっかりPKに目がくらむのよ。
そして本来の目的を忘れるっていうね。
ちなみに今回のイベントは迷路の探索であり、ゴールを目指すことです。
まだそのゴールの正体というか、どういう形のものかは不明だけど、とりあえず迫るロクローさんの排除が先決ね。
騙されません
だって挨拶に来たとか殊勝なことをいうわりに、手にはガッツ抜き身の剣よ。
これで仕掛けてこないと思う?
前例もあるのに?
いくらわたしがうっかりでも、さすがに騙されません。
もう一つ言わせてもらえば、狙いがわたしじゃないこともわかってます。
だって全然目が合わないもの。
絶対に騙されないから
あれだけ 「呼ばないで!」 と怒ってもわたしのことを 「女王」 と呼ぶことを止めないロクローさんは、今回もわたしを 「女王」 と呼びながら迫ってくるくせに、わたしと全然目が合わないの。
わたしを 「女王」 と呼び、挨拶に来たといいながらいったい誰を見ているのかと思ったら……
「おぬし、なかなかやるな」
剣戟を響かせながら刃を交えるロクローさんとマコト君。
噛み合わせたままの刃をギリギリと軋ませるロクローさんは、すぐそこで表情を歪めるマコト君にそう声を掛ける。
なに? ロクローさんてば時代劇ブーム到来なの?
現役男子高校生に 「おぬし」 って……まぁ 【トチョウ】 のボス部屋に登場する悪代官のように 「おぬしも悪よのぉ」 なんてマコト君に言ったら許さなかったけどね。
言わなかったからその点は許すけれど、見逃すなんてぬるいことはしません。
一対一ではマコト君には少々荷が重いけれど、クロウもいるしね。
落ちてもらうわ
懲りないロクローの再挑戦。
結果は・・・
アールグレイ班
アールグレイ / 魔法使い
クロウ / 剣士
マコト / 剣士
サミー / 魔法使い
カニやん班
カニやん / 魔法使い
しば漬け / 剣士
ミンムー / 剣士
ぽぽ / 銃士
キンキー / 魔法使い
クロエ班
クロエ / 銃士
の~りん / 魔法使い
ジャック・バウアー / 剣士
ジャック / 剣士
恭平班
恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
ベリンダ / 短剣使い
トール / 剣士
アキヒト / 魔法使い