659 ギルドマスターは特攻します
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接近戦の剣士、中距離攻撃の攻撃型魔法使い、そして遠距離攻撃の銃士。
そしてこのイベントエリアはマップのない迷路。
行きたいと思って行きたい場所に行けるわけではないけれど、隠れる場所もなく、遭遇してしまえば振り切るしか逃げ道はない。
そういう意味では剣士有利だけれど、そもそも近づくのが難しいのがマップのない迷路という場所。
その攻撃距離に関係なく、遭遇しなければ何も起こらない。
そんな膠着状態を回避すべく運営が仕掛けた罠が、乗り越えることは出来ないけれど攻撃が通るという紫陽花の壁。
しかも低木で視界が通る。
これはもう撃ってくださいと言っているようなもの。
当然自分が撃たれる可能性が高いことをわかっている銃士は同じ銃士を撃ちたくなるし、銃士のいないパーティは狙撃を回避すべく移動する。
そうやってプレイヤーの動きを活性化させ、運営は盤面を動かそうとした。
たぶんね
実際、わたしの周辺はもちろん、クロエ班やカニやん班の周囲も騒がしくなってきた。
いや、まぁクロエは自分から動かしたけど。
誰も仕掛けてこないのに、見ず知らずのプレイヤーを遠距離からズドンと一発。
問答無用で落としたけど。
そこはやっぱりクロエだからね、クロエなのよ。
銃士だし……というか、銃士の狙撃はたいがい問答無用よね。
剣士は相手の顔が見える距離というか、おそらく現実世界なら息が掛かる距離にまで最接近することもある。
当然その距離まで近づくということは、相手と会話をすることも出来る。
そして剣士と銃士の攻撃距離のあいだを埋めるのが中距離攻撃の魔法使い。
こちらはプレイヤーのステータスによって異なるけれど、それでも会話が出来ない距離まで離れるわけではない。
カニやんや恭平さんの話では、おそらく一番射程が長いと思われる攻撃型魔法使いはわたしとカニやん。
そのわたしとカニやんが相対してもエリアチャット……つまり普通に会話をすることが出来る。
でも銃士に至っては遠すぎて、場合によっては剣士や魔法使いにはその姿を視覚で捉えることが出来ない。
そのくらい遠くから狙えるため、攻撃は問答無用が基本となる。
そうして見ず知らずのプレイヤーを一撃で落としたクロエ。
正確には一撃ではないけれど、相手のプレイヤーにしたら 「気がついたら落ちていた」 そんな感じだったはず。
それこそ感じた衝撃は二回か、せいぜい三回くらいかな。
ほんと、あっという間のことだったと思う。
まぁそんな感じで、少なくともクロエ班がいるエリア……といえば大袈裟かもしれないけれど、少なくともクロエの周辺で盤面が動いたのはクロエ自身が撃ったからです。
積極的に仕掛けたからです。
確認という名目の下に……。
今回のイベントエリアは幾つかあり、四つある 【素敵なお茶会】 パーティが同じエリアに転送されているかどうかはわからないけれど、インカムから聞こえてくる声でそれぞれの班の様子がなんとなくわかる。
わたしたちの班周辺もとっくに賑やかになっているけれど、カニやん班、クロエ班周辺も結構賑わっている。
某実証実験の結果、尊い犠牲となったベリンダが中途離脱扱いで一般エリアへ強制送還。
直後、恭平さん班の残るメンバーも自主的に中途離脱。
一般エリアでベリンダと合流して改めてカタツムリを大捜索し、つい先程イベントエリアに再転送されてきたけれどすでにその周辺は賑わっていた。
一般エリアでカタツムリ捜索中にもイベントエリア内の様子をインカムで聞いていたから、今のところおとなしく狙撃されるようなことにはなっていないらしい。
ただどんなに頑張って走って移動しても、結局いつどこから撃たれるかはわからないけどね。
例えば背の高い木とか、岩とか、そういった視界を遮るものが何もないから。
しかも移動すれば、当然他のプレイヤーとの遭遇率も上がるわけで、どの班も賑やかな状況に置かれている。
わたしたちもルゥの先制で一つのパーティを全滅させた直後、別のパーティと遭遇。
「起動……クロノスハンマー」
今度は上手く全員……と思ったけれど、やっぱり一人漏れた。
相手は五人パーティ。
その中の一人が特攻よろしく、先頭に立ってわたしたちに向かって突っ込んできていた。
どうせ漏らすなら最後尾のプレイヤーにすればよかったけど、折角の範囲魔法だからと、つい人数を天秤に掛け、その特攻プレイヤーを有効範囲から漏らしてしまった。
ヤバイ……
しかもこれでわたしを狙ってくれればともかく、近くにいたマコト君美沙さんコンビのほうに行ってしまうし。
マジやばい……
とりあえず 【クロノスハンマー】 で足止めをしたプレイヤーの始末をつけないとね。
「起動……スパイラルウィンド」
『マジその速さで 【スパイラルウィンド】 起動とか、ありえねぇわ』
インカムを通してわたしの詠唱を聞いたカニやんが、呆れた声で呟くのが聞こえてくる。
ただカニやん班は火力が余っているからいいけれど、うちの班は全く火力が余っていないので忙しいの。
四人をまとめて落としたら残る特攻野郎一人……と思ったら、剣戟が響く。
いつもならここで突っ込むのはクロウだけど、わたしたちは後背を衝かれた。
先のパーティを片付けるため前に出ていたクロウは、後背を衝いてきたこのパーティとは一番遠い距離にある。
しかも美沙さんを庇って下がっていたため、特攻プレイヤーと一番距離が近かったのはマコト君。
つまりこの剣戟はマコト君ね。
わたしたちが学生組と呼んでいる中では最年長のマコト君は、学業のためにまとまった休みを取ることがある。
でも凄く頭がいい。
元々トール君やジャック君より早くゲームを始めていたとはいえ、プレイ時間に関係なく、今もレベルはもちろん火力でも二人は追いつけていない。
つまり強いのよ。
でも 【素敵なお茶会】 はランカーが多い上、マコト君は穏やかな性格だからね。
こう言ってはなんだけど、トール君のようなやらかしもほとんどしない。
だからギルド内で目立つことはほとんど無いけれど、レベルと比較すると装備も火力も高いと思う。
しかもいい見本が身近に沢山いて、剣筋って言うの?
そういうのだって悪くない。
大きく振り上げた特攻野郎の片手剣が、力強く勢いよく振り下ろされるのを、マコト君は片手剣を両手に持って受け止める。
元々そういう役割なのか?
派手派手しく突っ込んできた特攻野郎……さっきからそう呼んでいるけれど、アバター名を知らないからもうこれでいきます。
特攻野郎は元々ギルドでそういう役割を担っているのか、鬨の声こそ上げなかったけれど、後続を引き離すような勢いで突っ込んできた。
折角後背を衝けたのだから、その利点を活かすべくギリギリまで気づかれずに近づきたかったはず。
だから声も上げず静かに。
そうでなければ自身を鼓舞するため、また相手を威嚇するための声でも上げそうな勢いで突っ込んできた。
その蛮勇と武勇の紙一重でわたしの 【クロノスハンマー】 をかわし、マコト君に斬り掛かる。
ただこの特攻野郎、目立ちたがりなのか大振りです。
片手剣を大きく振り上げたその腹部が隙だらけ。
いつものマコト君なら受け身に回らず、その隙を衝いて自分から相手の間合いに踏み込んで仕掛けるところ。
でも今回はその場に踏みとどまらなければならず、受け身に回る。
うしろに美沙さんを庇っているからね。
あるいは特攻野郎はわざと隙を作ってマコト君を誘い出し、美沙さんと引き離すことが目的だったのかもしれない。
装備を見れば美沙さんが、少なくとも帯剣していないのは一目瞭然だから近接型でないことはすぐにわかる。
となれば寄られれば落とされるのが運命の後衛職。
マコト君が美沙さんから離れたところを狙い、後続の剣士が横手から美沙さんを斬る戦略だったのかもしれない。
ただ今回は二人の他にもパーティメンバーがいて、ちょっとだけわたしの詠唱速度と射程距離が想定外だった。
たぶん
でも仕掛けてしまえばあとには引けない。
まして後続の仲間は落とされた。
いずれにせよ単騎で戦うしかなかった。
「起動……焔獄」
マコト君と美沙さんを引き離すという戦略はともかく、十分に付け入る隙はあったと思う。
でもここで二人を失うわけにもいかないし、不要な消耗もしたくない。
だってまだイベントが始まったばかりで、まだ何もというくらいわかっていない状態なのよ。
それでまた入り直すなんて面倒だもの。
決してマコト君の腕を信用していないわけではないと前置きをして、横殴りさせてもらう。
「あー……びっくりした」
とりあえず一応の落着にホッと息を吐く美沙さん。
そのつぶやきに語尾を重ねるように、インカムの向こうからの~りんが呼びかける。
『美沙ちゃん、出遅れてるよ。
火力はなくても撃たないと』
それこそ初期魔法の 【ファイアーボール】 の一発でも撃って戦闘参加しないと……というの~りんに、美沙さんは 「あ!」 と声を上げる。
しかも 【ファイアーボール】 なら詠唱はいらないし、マコト君に誤爆しても一撃で落ちることはない。
上手く相手に当たれば、ダメージこそ微々たるものであっても、隙を作ることが出来ればマコト君の役に立つ。
そんな、の~りんにしては珍しく攻めた発言まで飛び出してくる。
『ただでさえその班はクロウさんとグレイさんがいて出る幕無いんだから、積極的にいかないと』
「忘れてたー」
大丈夫、とっさの事態に反応出来ないのが魔法使いなの。
美沙さんも立派な魔法使いになりつつあるわ。
少なくとも素質は十分よ。
『それ、褒めるとこちゃうからな。
美沙ちゃんも、真に受けたあかんで』
そういうカニやんだってとっさには動けないくせに。
しかも今だっての~りんに遅れたくせに。
『あ、カニやん喋りたかった?
詠唱が聞こえたから忙しいと思ったけど……』
ちょっとの~りん!
いっておきますが、一番火力が過剰なのはカニやん班だからね。
その魔法使いは最たる余剰火力なの。
魔法使いだけど一番の余剰火力なのよ。
つまり暇
ちなみにわたしのパーティは、クロウがいるから火力はちょっとというかかなり高めだけど、四人だから人数はギリギリです。
今だってクロウは、わたしの背後で丁字路の残る二方向を警戒しています。
つまり火力はともかく、人手としては決して余っていません。
『ワンコは?』
カニやんに尋ねられ、ふと気配を感じた足下を見れば、可愛らしくおすわりをしたルゥが後ろ足で耳のうしろをカイカイしていた。
右耳の後ろを掻いて……あ、次は左耳の後ろを掻くのね。
でも左耳の後ろを掻くなら左足じゃないと出来ないんじゃない?
ただでさえルゥの足はみじ……ゲフゲフ……えっと、その、左耳の後ろは左足のほうが掻きやすいと思うの。
ほら、効率の問題よ。
そう教えてあげたのに、飼い主の話に耳を貸さないのはいつものルゥ。
そのかわいい右足で、どうにかして左耳の後ろを掻こうと頑張っている。
んー……これはどうしたらいい?
『どうって、代わりに掻いてやるのが飼い主の役目だろうが!』
さすが獣の下僕ね
詳細は感想欄にて・・・ということで、班分け表のJBも正しいアバター名に直しておきます。
そして本編は、相変わらず寄り道しているように見えますが、確実に近づいています。
はい、もうすぐそこに・・・ふふふ・・・
アールグレイ班
アールグレイ / 魔法使い
クロウ / 剣士
マコト / 剣士
サミー / 魔法使い
カニやん班
カニやん / 魔法使い
しば漬け / 剣士
ミンムー / 剣士
ぽぽ / 銃士
キンキー / 魔法使い
クロエ班
クロエ / 銃士
の~りん / 魔法使い
ジャック・バウアー / 剣士
ジャック / 剣士
恭平班
恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
ベリンダ / 短剣使い
トール / 剣士
アキヒト / 魔法使い