655 ギルドマスターは出会い頭に合掌します
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以前、イベントエリアに入るために鍵穴を探すというイベントがあった。
ヒントもなく闇雲に探す羽目になり……幸いにして 【素敵なお茶会】 はすぐに見つけることが出来たけれど、まぁ上へ下への大騒ぎとなったことはいうまでもない。
おそらくイベント終了後、運営に苦情が殺到したに違いない。
その改善なのか、今回、イベントエリアに入るためのアイテムとなったカタツムリは這った跡がキラキラと残る。
見つけたその跡を辿ると目的のカタツムリが見つかる……となっている。
どうやらルゥはその跡を見つけ、辿ってカタツムリを発見。
コロコロと転がして手元に寄せたところをバックン。
とんでもない悪食だわ
わたしはまだ現物を、マコト君の手元にあるのをちょっと離れて見ているだけ。
だからはっきりとはわからないけれど、イベントのキーアイテムであるこのカタツムリは、おそらく動く置物扱い。
基本的に置物は破壊不可のはずなのに、さすが 【幻獣】。
顎の噛み砕く力も並外れていたらしい。
いや、ほぼ丸呑みで噛んでないか。
おかげで偶然か必然かはわからないけれど、それを見ていたと思われる運営の小林さんからわたしが怒られ……てはいないけれど、苦情を言われる羽目になった。
しかもそのメッセージが届いたタイミングが最凶に悪く、ルゥの頭突きを顎に食らう羽目にもなり最悪です。
まだ痛い……
しかもこのカタツムリが這った痕跡は一定時間が経つと消える。
ほら、飛行機雲みたいな感じ?
古い痕跡から順に、ゆっくりと跡形もなく消える。
まぁいつまでも消えないと、そこら中に痕跡が残って辿ることも難しくなる。
それこそそこら中がキラキラと光り出しかねないからね。
どのくらいの時間で痕跡が消えるかは要検証。
まだイベント自体始まったばかりで細かい設定はわからないことばかり。
公式サイトの掲示板にも、痕跡が一定時間で消えることは書き込まれてあっても……この短時間で、もう書き込みがあること自体驚きだけど、さすがに消える時間まではまだ書き込まれていない。
これからイベントエリア転送後のネタとか、色々と書き込まれていくことになると思う。
『でもこのキラキラ、結構見つけづらいよね』
インカムの向こうからクロエが言う。
たぶんルゥが一番早く見つけたのは、ほら、足が短……ゲフゲフ……えっと、車高が低いというか、一番目線が低いところにあるからだと思う。
とりあえずマコト君が見つけたカタツムリを見て、またルゥがバックンしに行こうとわたしの腕の中でもぞもしているから、逃げられる前に早くカタツムリの方を確保して頂戴。
どう頑張っても魔法使いのSTRで 【幻獣】 のSTRに勝てるわけがないから。
早く早く!
あ、でも慎重にね。
ここの運営は演出過剰だから、罠みたいなものを用意している可能性もある。
それこそ触れたら感電するとか、スッポンみたいにバックリしてくるかもしれない。
それこそルゥの顎もビックリするくらい強力のスッポン。
『いや、カタツムリだし』
『デンデンっすよ』
亀じゃなかった
カニやんの突っ込みに続くのは、いつもなら脳筋コンビだけど今日はJB。
どうしてここでデンデンが出てくるのに、あの歌の歌詞は、そのデンデンの部分がテントウムシなのよ?
相変わらず脳みその回路が不明すぎる。
ま、まぁいいわ。
とにかくマコト君、十分に注して捕獲よろ。
「わかりました」
わたしの忠告を素直に受け入れてくれたマコト君は、まずは指先でカタツムリを軽く小突く。
するとカタツムリはヒュッと殻の中に閉じこもる。
これ、塩を掛けたら戻るんだっけ?
『戻んねぇよ』
『なんでカタツムリに塩掛けんねん?』
『それナメクジやろ?』
ん? カタツムリには効かないの?
『ナメクジが殻被ってるわけやないから』
『デンデンとナメクジは別物っすよ』
え? 違うのっ?!
『ここはどう突っ込むべき?』
『放置プレイでよくね?』
『放置プレイに一票』
『俺も入れていいっすか?』
『塩だけにみんな塩対応だね』
『アキヒトは黙って探せよ』
上手いこと言ったつもりのアキヒトさんは、班長の恭平さんに怒られて 『はいはい』 と投げやりな返事。
いつもの三人組も賑やかにわたしをからかって遊んでいるけれど、インカムの向こうでは目下カタツムリ大捜索中。
わたしとしては、キンキーの安全さえ確保してくれたら好きに遊んでくれていい。
要望を一つ伝えるとしたら、わたしで遊ばないで頂戴。
インカムの向こうの声を聞く限り、ぽぽと二人、楽しそうにカタツムリ捜索をしているみたいだからいいけれど、とりあえずわたしはカタツムリとナメクジが別物だという事実をアップデートしておきます。
知らなかった
生まれてから24年、ずっとナメクジはカタツムリと同じ生物だと思っていたわ。
殻があるかないかの違いで、殻は着脱自由だと思っていた。
ほら、ヤドカリみたいな感じに、成長に合わせて乗り換えるというか、好みや気分で着替えるというか、まぁそんな感じだと思っていた。
サイズが合う殻が見つからない、あるいは好みのデザインの殻が見つからなくて彷徨ってるのがナメクジだと思っていました。
『それ、JBとどっちもどっちだな』
待って恭平さん、天道虫と蝸牛は似ても似つかないわ。
全然似てないわ。
それこそカタツムリとナメクジは似て非なるものだったけれど、天道虫と蝸牛は全く似てないから。
似ているところが全くないから。
しかもまだ間違えた歌詞で陽気に歌っている……と思ったら、その声が不意に途切れる。
これはきっとあれね。
転送ラグ
じゃあわたしたちも行きましょうか?
わたしの掛ける声に、カタツムリが殻に引っ込んだ直後、マコト君は目の前に現われたウィンドウをポチる。
information 紫陽花の迷路に入りますか?
このinformationに従い、わたしたちもイベントエリアに転送される。
インカムが切断され、それまで聞こえていたみんなの声が静かになり、視覚もブラックアウト。
でもそれはほんの1、2秒のこと。
すぐにひらけた視界には、華やかな紫陽花畑が広がっていた。
「綺麗!」
ちょっとテンションが上がる綺麗さね。
わたしの腰より少し高いくらいの木に、青々とした葉を隠すように手鞠咲きと呼ばれる丸い花が咲き溢れ、エリアを埋め尽くしている。
紫陽花は土壌がアルカリ性なら赤い花、酸性なら青い花が咲くと言われるけれど、ここは仮想現実。
当然土壌に酸性もアルカリ性もなくて、明るい赤から青、そのあいだの紫などグラデーションが展開されている。
うん、綺麗!!
抱いていたルゥにも見せてあげようと思って顔を花に近づけると、わたしの腕の中で花をフンフンフンフンし始める。
残念ながら匂いはしない。
でもルゥは興味津々な様子でフンフンフンフン……そのうちに興が乗ったらしく腕の中を這い出すように身を乗り出し、さらにフンフンフンフン……と思ったら口を大きく開けて……
ダメよ!!
慌ててルゥを花から引き離すと……もうね、自分でもビックリするくらい俊敏に反応出来たわ。
おかげでルゥは、大きく開けた口をバックンと閉じるも空振り。
何が起こったのか理解出来ず、不思議そうに首を傾げている。
可愛い
ここでルゥに花をバックンさせたら、きっとまた小林さんからメッセージが届くのよ。
それも餌ではありません。
餌やり不可で……とかなんとかいう文面が届くのよ。
わかっているから頑張って阻止しました。
幸いにしてルゥは残念がる様子もなく。
下ろしてあげると、早速興味津々にフンフンフンフンフン……と探索を始める。
並んだ紫陽花の花で作り出される広大な迷路。
ここがイベントエリア 【紫陽花の迷路】。
わたしたちの他にも転送されたプレイヤーがいて、その姿が花の向こうに見える。
けれどその中に、先にイベントエリアに入ったはずのクロエ班の姿は見えない。
随分広いエリアみたいだから、もっとずっと遠くにいるのか、あるいは別のエリアに入ったのか?
一つではない
今回のイベントエリアは数パターンあって、転送は基本的にランダム。
それこそギルドも関係なければ、単身もパーティも関係なし。
但し転送される火力やメンバー構成などによって混雑が予想されるため……って、行楽シーズンの行楽地みたいなことを、よりによって祝日のない六月にいう?
学生の夏休みだってまだ一ヶ月も先だというのに……。
まぁエリアによってはプレイヤーの出入りが滞り、飽和状態を起こすことも予想される。
そのため状況次第では完全なランダムではなく、転送時に人数調整を行なうこともあるらしい。
だからといってパーティをバラすことはもちろんない。
あくまでもパーティはパーティでの転送です。
でも今回のイベントはPKあり。
つまり遭遇確率が高いとエリア内のプレイヤーはどんどん減る。
好戦的な高火力プレイヤーがいても同じ。
ほら、【特許庁】 とか、そこの主催者のお兄さんとか。
あの辺はとっても好戦的だから、視界に入るだけでも落としにかかってくると思う。
運営がPKを公認しているイベントだからね。
意味、目的のないPKも全然OKです。
だからイベントそっちのけでPKに走りそうよね、特にお兄さんの方は。
穿った物の見方をすると、PKを目的にイベントに参加しているかもしれないわけで。
可能性は高い
まぁそんな色々な要素で、エリアによっては人口過密になったり過疎ったりするわけで。
それを転送で調整することもあるらしい。
これはもちろん例の後出しルールとして発表されている。
でもまだイベント始まったばかり。
過疎も密もまだまだなくて、ほぼ100%ランダム転送。
だからクロエ班とは別エリアに転送された可能性もある。
むしろ他の二班はともかく、クロエ班は別エリア転送大歓迎です。
理由はわからないけれど、嫌な予感がするのよ。
だからクロエ班は別エリアでお願いします。
重要なことなので二度言います。
クロエ班とは別エリアでお願いします。
もう一回言っておく?
「起動……」
残念ながら三回目を言う前に、目の前に転送されてきたプレイヤーの姿が現われる。
その姿が実体化しても、転送直後のアバターに攻撃は通じない。
物理攻撃であっても、魔法攻撃であっても。
だから直後ではなく、数秒の間を置いて仕掛ける。
剣士と違って詠唱時間を必要とする魔法使いだけれど、転送に気づいた時点で詠唱は始めているから大丈夫。
PKが出来る以上、この至近距離の転送は問答無用です。
ちなみに迷路内は転送位置もランダム。
こんな至近距離に転送されるなんて、どっちも不運よね。
「焔獄」
「あ! おまっ!!」
あら、ノーキーさんじゃない。
てっきり 【特許庁】 はギルドパーティを組むと思っていたから、単身でのご登場はちょっと意外。
でもだからって加減も容赦もしてあげません。
だって必要ないじゃない。
かなり性格に問題はあるけれど、それでも 【ETO】 でトップを張る剣士の一人だもの。
加減や容赦なんてすれば、こっちが返り討ちにされるのが目に見えている。
恩も借りも気にしないその性格は、本当にクズだからね。
落とされる前に落とさないと、こっちが容赦なく落とされます。
ましてわたしの班には美沙さんとマコト君がいるからね。
一見爽やかイケメンのノギさんそっくりのノーキーさんだけど、その性格はクズの中のクズ。
ベスト オブ クズ
キング オブ クズ
そのクズッぷりと火力を知っているマコト君は、ノーキーさんの姿がはっきりとわかった瞬間 「うわっ」 と声を上げて、でも美沙さんを背に庇うように後退。
ナイスフォローです。
いつもは穏やかな表情を強ばらせつつ、それでも応戦出来るよう剣を構える。
しかもノーキーさんは 【焔獄】 の一撃では落ちない。
わたしもノーキーさんとの距離をとりつつ次の詠唱をしようとした矢先、わたしのすぐ横に立っていたクロウが瞬時にノーキーさんを間合いに捉え、愛剣・砂鉄を横に薙いだ……と思ったらその首を一撃のもとに断った。
ご愁傷様でした
ようやくイベント開始! ・・・と思ったら(笑
とりあえず一人、落ちました。