654 ギルドマスターはエスカルゴ料理を食べます
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information 運営の小林 からメッセージが届いています
新たに始まった公式イベント 【紫陽花の迷路】。
【素敵なお茶会】 は早速参加すべく分けられたパーティごとに 【ナゴヤドーム】 を出た……ところまではよかった。
カニやんと恭平さんの共謀……ゲフゲフ……えっと、カニやんと恭平さんが考えたわたしのパーティは、クロウはともかく、マコト君と美沙さんが一緒というちょっと珍しい組み合わせ。
火力の都合でそうなったとはいえ、たぶんこれまでにはなかった組み合わせだと思う。
そんな三人と一緒に 【ナゴヤドーム】 を出たところで、散歩がてらわたしたちの前を歩いていたルゥが何かを見つけて足を止めた……と思ったらわたしの呼び掛けを無視し、ルゥは見つけたそのなにかをバックンと……バックンと……
食べた?!
え? ……えっ? ちょっとルゥ、なにを食べたのっ?!
今のは絶対になにか食べたわよねっ?
だってわたしの呼び掛けに振り返ったルゥは、満足そうな顔で舌なめずりとかして……もう、ルゥの悪食!
場所的に考えるとアレじゃない、アレ!
安全地帯である 【ナゴヤドーム】 から初期ダンジョンである 【ナゴヤジョー】 に続くこの道に、常駐しているといってもいい茶色い害虫。
G!
人類よりも強い生命力を誇……っているかどうかはわからないけれど、とにかく生命力と繁殖力が強くて、退治してもしてもしてもしてもしても沸いてくる極悪害虫のGよ。
以前からずっとこの道を通ると、ルゥは見つけるたびに必ず潰す。
わざわざ探し出してまで潰すのよ。
だからきっといま食べたのも……と、おぞましさに背筋をゾゾ毛立たせていると、わたしの呼び掛けに振り返ったルゥがこちらに駆け寄ろうとするのを、まるでわたしたちの仲を裂くような場所にウィンドウが現われた。
なんの嫌がらせかと思ったらinformation。
でもその送り主が運営の小林さんときけばやっぱり嫌がらせじゃない。
こんなタイミングでなんの用よっ!
突然開いたウィンドウの向こう側でルゥが、わたしの膝に片前足を掛け、もう一方の前足でウィンドウを向こう側からチョイチョイ。
でもウィンドウはこちら側に向けて開いているため反応せず。
んー……ルゥの肉球に反応するかどうかはわからないけど、とにかくウィンドウに阻まれてそれ以上わたしに近づけないルゥは、ちょいちょいしながらも不思議そうに小首を傾げている。
かわいい
そんなルゥを愛でながらウィンドウをポチってみれば……
『いつも 【the edge of twilight online】 をご利用いただき、誠にありがとうございます。
【the edge of twilight online】 運営の小林です』
それこそいつものテンプレから始まる小林さんからのメッセージ。
このタイミングでなんの用かと思ったら、堅苦しい文面はここまで。
本音がダダ漏れする本文が続く。
『ちょっとー! それ、餌じゃないから食べさせないで。
餌やり厳禁でよろー!!』
………………
なによ、これ?
え? ちょっと待って、餌じゃないって……あ、もちろんわかってるわよ!
Gはルゥたちの餌じゃない、そんなことは百も承知です。
わたしだって食べて欲しくないわよ。
これまでずっとプチッと潰すだけだったから、わたしだってまさか食べるとは思わなかったわよ! ……と憤慨していたらどうやら違ったらしい。
いや、まぁGも餌じゃないから食べてもらっては困るんだろうけれど、そもそもルゥが食べたのはGではなかったという話。
「グレイさん、ちょっといいですか?」
そのことに気づいたマコト君が話し掛けた矢先のこと。
わたしがメッセージを読んでいるあいだ、ウィンドウの向こうでずっとちょいちょいし続けていたルゥがついに痺れを切らした。
メッセージを読み終えたわたしがウィンドウを閉じたタイミングで、そのウィンドウを割るべく、わたしの膝に掛けた前足にぐっと力を込めて頭突きを……ふぐっ!!
ぅ……あぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ーっ!!
久々に食らったルゥの頭突きに、顎を押さえるわたしは痛みのあまり、この世の終わりのような声を上げてのたうち回る。
もうね、そこが通り道だということも、【ナゴヤドーム】 を出てくるプレイヤーが見ていることもどうでもいい。
とにかく痛くてそんなことにかまっていられない。
スカートの裾が捲れ上がっていても気にする余裕もないくらいよ。
「グレイさん!」
「ギルマス、生きてますかー?」
マコト君や美沙さんがそんな声を掛けてくれていたけれど、返事なんて出来ません。
二人が気遣ってくれていることはもちろんわかるけれど、その優しさを汲んでお応えすることが出来ません。
そんな余裕がありません。
いつものようにわたしが楽しく遊んでいると思って、一緒になって道端を転がるルゥ。
もちろんルゥが楽しいのならそれはそれでいいけれど、その楽しそうな様子を愛でる余裕すらないなんて……
泣く
『なにやってんの?』
『なにって、それ、マジで訊いてんの?』
『いつものアレだろ? ワンコ』
『ああ』
インカムの向こうからそんな会話が聞こえてくる。
ここまでならよかったけれど、珍しくクロエが優しいことを言い出す。
『うるさいな、もう。
一人空いてるからマコト君か美沙ちゃん、どっちか来る?』
ちょっと待って!
腹黒の金髪美少年が珍しく優しいことをいうと思ったら、同じ四人パーティに対してまさかまさかの引き抜き行為。
しかもわたしに対しては 「うるさい」 なんて塩対応だし。
もちろんクロエに優しさなんて期待してないけれど、でもだからって引き抜きは酷いじゃない。
『別にいいじゃん、グレイさんのところルゥ君で五人いるでしょ?
一人抜けても四人じゃない』
合っているような、合っていないような……どっち?
でもその理屈だと、本当にカニやん班が過剰火力じゃない。
五人パーティで、班長のカニやんを筆頭に超重量級の火力が三人もいて、さらにかわいい愛され女子のお猫様がいらっしゃるもの。
重火力揃いの六人パーティよ。
五人目が欲しいならカニやん班から引き抜いて頂戴。
『タマ以外なら誰でもくれてやる』
ま、カニやんはそうよね。
一番バランスがいいのは四人のクロエ班だけど、カニやん班は本当に過重火力だから。
誰が抜けても問題なしだし。
はぁ~
痛む顎をさすりつつ体を起こしたわたしは、とりあえず美沙さんに顎が割れていないかを確認してもらう。
「大丈夫でーす!」
『美沙ちゃん、そこは今日も美人だから』
さりげないカニやんの訂正に、反抗期というものを知らないらしい素直なJKは 「間違えましたー」 とか素直に受け入れる。
とりあえず顎が割れていないのならいいです。
それでもまだ痛む顎をさすりつつ立ち上がると、足下でおすわりをしていたルゥをもっふりと抱き上げる。
そこでマコト君が、ついさっき言い掛けたことを思い出す。
「そういえばグレイさん、ルゥ君が食べたのこれじゃないですか?」
そう言って視線で指し示すのは、ベロリンとめくった葉裏を這う昆虫……ん? 昆虫なの?
ちょっと生態に疑問のあるそれは……
『てーんとーむーしむーしかーたつ、む、りー♪』
違う!!
インカムの向こうから陽気な声で歌い出すのはJB。
フレーズからなんの歌かはわかるけれど、明らかに歌詞が間違っている。
微妙に音がはずれている気もするけれど、そこは聞かなかったことにする。
でも歌詞の間違いは聞き逃せない。
だって天道虫と蝸牛は別物です。
どうしてのその二つが同一視されているのか?
疑問に思ったのはもちろんわたしだけじゃない。
JBと同じ班にいるクロエの 『は?』 という、遠慮も配慮もない露骨な呆れ声を皮切りに、の~りんとジャック君が続く。
『待ってJB。
それ、なんの歌?』
『JBさん、間違ってますよ。
その歌、カタツムリの歌ですよね?』
そう、マコト君が葉裏に見つけたのはカタツムリ。
JBの歌詞間違いについてはクロエ班に任せて、最初の問題に戻ります。
マコト君の言うとおり、ルゥがバックンしたのがカタツムリであれば問題ない……とは言い切れないけれど、少なくとも小林さんから送られてきたメッセージの意味というか、焦り具合が理解出来るような、出来ないような。
『ちょっとー! それ、餌じゃないから食べさせないで。
餌やり厳禁でよろー!!』
まるでどこかでルゥの様子を見ていたかのような、超絶妙なタイミングで送られてきたけどね。
ちょーっとストーキング、あるいは盗撮を疑われるタイミングだったけれど、そこは運営の特権だから。
イベントの不正防止を監視していたといわれればそれまで。
偶然見ていたとか言われればそれまでよ。
そもそもどうしてこんなところにカタツムリが這っているのかといえば、今回のイベントに必要なアイテムだから。
イベント開始と同時に三つのエリアに放たれたこのカタツムリは、指で摘まめるくらいの、特に大きくも小さくもないサイズ。
このカタツムリを捕獲することでイベントエリアに入ることが出来るらしい。
クリームと茶が混じった色合いの巻き巻き貝に、虹色のナメクジの組み合わせ。
よくよく周囲を見てみれば、その這ったあとが虹色にキラキラと残っている。
どうやらルゥはこの痕跡に気がついてカタツムリを見つけ出したらしい。
臭いじゃないんだ
てっきりフンフン……で臭いに気づいたのかと思ったけれど、どうも違うみたい。
今もマコト君が見つけた葉裏のカタツムリに気づき、目を輝かせてわたしの腕の中でモゾモゾしている。
待って待って待って、またバックンするつもりでしょっ?
あのカタツムリを捕まえないとイベントエリアに入れないんだってば。
バックンはダメ!
「とりあえず捕まえますか?」
「食べちゃう前に捕まえちゃいましょうよ」
そ、そうね。
あ、でもでもでも、ここの運営のことだから罠とかあるかもしれない。
それこそ触れたら感電するとか、スッポンみたいにバックリしてくるかもしれない。
だから十分に用心してね。
「わかりました」
メモ代わりに班分けを置いておきます。
アールグレイ班
アールグレイ
クロウ
マコト
サミー
カニやん班
カニやん
しば漬け
ミンムー
ぽぽ
キンキー
クロエ班
クロエ
の~りん
JB
ジャック
恭平班
恭平
くるくる
ベリンダ
トール
アキヒト