650 ギルドマスターは寂しがり屋です
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『キョウちゃん、俺、淋しい』
恭平さんがアキヒトさんに塩対応なのはいつものこと。
いや、まぁほら、アキヒトさんもあれだから。
自分で嫌われるような原因を作っておいて、そのまま邁進しちゃうから。
だからといって謝っても無かったことにはならない。
うん、そこは甘くない恭平さんだからね。
そんなことを言って甘えても無駄なこと。
華麗に無視
ギルドルームで、稼ぐべく調合に忙しくしているハルさんを手伝っている。
運営が仕組んだ地獄の大量殺戮に、それでもギリギリまで抗って頑張ったプレイヤーたちはポーションを大量消費。
その補充のため、調合士たちにとって絶好の稼ぎ時になっている。
一応運営のやりそうなことを予想して、ハルさんもある程度在庫を用意していたという。
でも全然足りなかったっていうね。
死亡状態からの回復に、課金アイテムである 【聖女の涙】 を使う以外の方法だと必ず死亡制裁があって、HPがfullの状態で復活することが出来ない。
その回復にも必要だから、NPC雑貨屋だけでなく、調合士が出品する無人バザーも大盛況。
例によって一人で幾つも出店すると顰蹙を買うから、その対策に恭平さんも協力するのに忙しい……という振りをしてアキヒトさんを無視している。
結局のところ 【素敵なお茶会】 で生き残れたのは、【ナゴヤドーム】 に逃げ込めたハルさん、恭平さん、ゆりこさん、パパしゃんの他にはわたしとクロウだけ。
カニやんや脳筋コンビまでが落ちる地獄に、さすがのクロエも毒舌だけでは耐えられなかったらしい。
『当たり前でしょ』
そっかぁ……
クロエの毒すらあの巨大シャチには効かなかったか。
いや、数が多すぎて行き届かなかった感じ?
『象みたいな感じじゃね?
図体でかすぎて毒が神経まで届かない』
あ、そっち
『知らんけど』
ちょっとカニやん、その 『知らんけど』 ってなによ?
『なにって、知らんから』
カニやんが無意識のうちに口にしていたらしいその言葉は、どうやら関西人の口癖らしい。
無責任な……と突っ込みたいところだけれど、民族的な?
いや、土地柄的な?
まぁそういう無意識のものであり、生活習慣みたいなものでもあるからどうにもならないらしい。
よくわからない
『あ、わたしもー!』
転送のラグで、会話に遅れて参加してくるのはベリンダ。
移動していた彼女は偶然 【ナゴヤジョー】 近くを通りかかった時に地獄が始まり、これまた偶然プレートを持っていたこともあって 【ナゴヤジョー】 に逃げ込んだらしい。
今回のイベントで主役を務めた大小様々なシャチはその 【ナゴヤジョー】 から溢れ出たという設定になっているけれど、実は 【ナゴヤジョー】 自体は通常運転。
それこそいつもよりシャチが多いというわけでもなければ、逆にシャチたちがいないというわけでもない。
本当に通常運転
でもエリアダンジョンにはシャチたちが入り込み、それはそれは大変なことになっているのだとか。
もちろんベリンダが 【ナゴヤジョー】 の近くを通りかかったのは偶然だし、そのタイミングで地獄が始まったのも偶然。
そしてプレートを持っていたのも偶然だけれどその判断は大正解だった。
これまた偶然だけれど、持っていたプレートは一番レベルの低い銅を生成するもの。
彼女のレベルなら一人でも全然余裕でクリア出来るし、クリア後にダンジョンを出るタイミングはプレイヤーの任意。
インカムで外の様子を聞きつつ、中でじっと終了時間を待っていたらしい。
賢明
おそらくエリアダンジョンは全滅だけれど、逆にどこに潜ってもIDは安全地帯だったと思う。
でもそれをきいたジャック君は 『でも 【フチョウ】 はちょっと』 と困惑気味。
【フチョウ】……あー……【フチョウ】 か。
まぁつまりジャック君たちは 【フチョウ】 の近くにいたわけだけど、あそこは首領がピエロだからね。
でも 【フチョウ】 の場合、入り口にいたらよかったんじゃない?
最初の……未だわからないんだけど、あのヒレ脚動物。
あれと遭遇する前の状態で三時間も待つのは結構苦痛というか、かなりの忍耐力が必要だと思う。
思うけれど、地獄を回避する方法としてはありだったのかもしれない。
そのあとは中途離脱を選択すれば問題なかったわけで……というところでジャック君が 『あ!』 と声を上げる。
どうかした?
『中途離脱……考えなかったから……』
ついついいつもの癖で、ダンジョンに潜ったら必ずクリアしなければならないみたいな無意識があったのね、きっと。
それで 【フチョウ】 に逃げ込むのを躊躇ってしまった。
『あ、いえ、それは考えなかったんですけど、いま聞いて……』
「ベリンダの話を聞いて、改めてそういう方法があったと気づいたわけね」
『はい』
わたしとクロウはルゥを連れて、そんな学生組の回収に向かっている。
その道中で気づいたことだけど、ルゥは死亡状態にあるプレイヤーには全く興味を示さない。
それこそ面白いくらい無視よ。
見えてないの?
前を歩くルゥは、わたしたちがちゃんとついて来ているか、時々チラッと後ろを確認してはガッシガッシと、短い足で力強く進んでいく。
その進路に死亡状態のプレイヤーが何人いようとも目もくれず、手だろうと足だろうと、それこそ顔でも頭でも力強く踏みつけて進んでゆく。
まったく見えていないのか、ルゥの接近に、逃げることの出来ないプレイヤーは悲鳴を上げるけれど……死亡状態にあるプレイヤーは、立ったり座ったりと体勢を変えることは出来るけれど、移動自体は出来ないからね。
だから迫るルゥに気づいても逃げることが出来なくて、中には失礼なくらいの悲鳴を上げて怯えるプレイヤーも。
顔まで引き攣らせて……
失礼ね!
そりゃ日頃のルゥの行いが原因といえば原因だけどさ。
気に入らないとなんでもバックリだし、自分から突進しておきながらも邪魔だとばかりに肉球パンチを炸裂させる。
そんな自由奔放さを可愛いと思うのは飼い主だけということはないと思う。
むしろ可愛いと思っているプレイヤーがほとんどだと思う。
でもルゥには死亡状態のプレイヤーが本当に見えていないらしく、全く相手にしない。
ルゥと死亡状態のプレイヤーの、目が合う様子がないからおそらく間違いないと思う。
凄く楽しそうに、キラキラした目で前だけを見て歩いているからね。
あ、時々振り返るのは忘れないけど。
ちゃんと付いて来ているから大丈夫よ。
可愛い……
そんなルゥはプレイヤーを乗り越える時は足場が悪いため、ことさら力強く踏みしめるというか、踏みつけるというか。
その際に顔を踏まれたプレイヤーが変顔になるのは不可抗力です。
そこはほら、【幻獣】 のSTRだからね。
脚力もガッツリ 【幻獣】 よ、短いけどね。
死亡状態だから……いや、死亡状態でなくてもPKエリアではないからHPの流出はないけれど、特にプレイヤーに感覚はないらしい。
つまりどんなに踏まれても痛くはないけれど、バックリされるかもしれないという恐怖感は拭えないらしい。
それで結構な悲鳴を上げてくれて……
本当に失礼なんだから!!
そんなに怖ければさっさと自力回復するか、いっそ潔く 【ナゴヤドーム】 に死に戻ればいいじゃない。
それか生き残ればよかったのよ!
『いやいやいや、ほとんどのプレイヤー落ちてるって』
『生き残ってるギルマスの火力がおかしいって』
どこがっ?!
『いや、グレイさんはスザクで生き残れるから不思議じゃないけど』
『物量作戦で来られると、範囲攻撃持ってる攻撃型魔法使いが有利だよな』
『持ってても生き残れてない俺は?』
『カニはいいんだよ、カニは』
『カニだからな』
『なんやねん、それ。
褒めてんのか、貶してんのか、どっちやねん』
『なんで俺がカニを褒めなあかんねん?』
『褒めたないわ』
うん、つまり貶してるのね。
相変わらずの仲良し小好しなのでこの三人は放っておきます。
ちなみに揃って 【関東エリア】 にいるので、回収はゆりこさんの担当です。
『あ、俺待てないんで自分で回復するわ。
なんか疲れてタマモフりてぇ』
うん、獣は疲労回復によく効くわね。
わたしもルゥをモフりたかったけれど逃げられました。
ルゥったら、もっふりと抱き上げようとしたら見事なフットワークで躱してくれたくせに、今はちゃんとうしろからついてきているか気になって仕方がないという我が儘。
そんなに気になるならわたしに抱っこされればいいのに……。
ちなみにカニやんが使ったのは、課金アイテムの 【聖女の涙】 ではなく、おそらく調合士が作る 【復活の灰】。
しかも自分だけ復活し、死亡状態にある二人を放置してそばでタマちゃんと遊んでいるらしい。
まぁアイテムの使用や譲渡はプレイヤーの任意。
カニやんの所持アイテムをどう使うかはカニやんの自由で、そのことについて他者がとやかくいう筋にはない。
それこそ 【復活の灰】 の在庫を持っていても、それを使って二人の復活を強制することは出来ない。
カニやんの自由だからね。
だいたいこういう場合はアイテムの譲渡が大前提。
でも 【聖女の涙】 ほどではないとはいえ、【復活の灰】 だって決して安くはない。
だったら二人にしたら、ゆりこさんの回収を待った方がいい。
タダ
もちろんお礼をしたいのならゲーム内通貨で払ってもいいし、かなりのMPを使用するからMPポーションで返してもいい。
だいたいは後者。
ゆりこさんにとってもそのほうがいいしね。
安上がりな分、受け取りやすいから。
一応カニやんも 『【復活の灰】、まだ持ってるけどどうする?』 と二人に訊いて、ゆりこさんの回収を選んだのは二人の方だし。
『あ……マジでタマたちには死体は見えないんだな』
いつものタマちゃんなら、気まぐれに近くにいるプレイヤーにすり寄っていったり、「撫でなさい」 といわんばかりに足にスリスリしたりする。
でも近くに脳筋コンビがいるのに全く反応しないばかりか、カニやんとの遊びに夢中になって二人を踏みつけたり蹴り飛ばしたりしているらしい。
それが淋しい二人は……
『ゆりこさ~ん、はよ来てんか~』
『ゆりこさ~ん、ま~だ~?』
などと急かしているけれど、そこはゆりこさんだから。
『大人しく待っていなさい、すぐに行くから』
『へい』
『すんません』
さすがに二人も逆らえず。
カニやんを含めて楽しくお喋りをしながら大人しく待つことにしたらしい。
『で、どんな方法使ったわけ?』
『え? だから火力ごり押しだろ?』
『ゴリゴリ』
なんの話かと思ったら、わたしとクロウとルゥが生き残った方法を訊いてるわけ?
ええ、お察しどおり火力ゴリゴリのごり押しです。
わたし自身を中心に据えて範囲魔法を連発し、撃ち漏らしなどをクロウとルゥが片付ける感じのコンビネーションで切り抜けました。
それこそ 【富士・火口】 攻略並みの連続詠唱をしていたけれど、みんな自分が生き残るため……といっても結局ほとんどのメンバーが落ちてしまったけれど、ギリギリまで踏ん張るのに必死で、わたしの、うるさいほどの詠唱すら気にならなかったというか、気にする余裕すらなかったというか。
まぁその点はわたしも同じだけど。
ごめん
ちょっと後始末が長引きましたが、そろそろ鯉のぼりをおろしてアジサイを咲かせようと思います。
そしてアジサイにはデンデンがムシムシと・・・(笑




