65 ギルドマスターは第三回イベントに参加します
pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!
第三回公式イベントは三日に渡って行われるんだけれど、初日の午後12時に始まって三日目の午後12時終了。
つまり実質的には二日間。
そのあいだにどれだけ金魚を掬えるかってゲームらしい。
初日は日付の変わる午前零時開始でもいいけれど、さすがに最終日を午前零時終了にされたら、みんな、次の日の仕事や学校に支障が出るもんね。
次の日のことを考えて次々にプレイヤーがログアウトを始めたら、終了時間間際はあれよ、あれ。
そして誰もいなくなった……状態。
淋しい終わり方よね。
それならいっそ盛り上がっている時間帯に終了したほうが、最後までみんないるもんね。
運営も色々考えなくちゃならなくて大変。
その発想も色々ずれちゃってるけど。
締め日が近くて前日を残業したわたしは、朝は少しゆっくり寝てお母さんに怒られた。
いいじゃない、また休み明けも残業が待ってるんだから……もう!
一〇時頃には一度ログインをして今日の参加者を訊いて、エリア内をざっと見て回る。
インベントリのアイテムがちょっと気になって……案の定、MPポーションがないっていうね。
今回のイベントでは対人戦はないけれど、ちょっと気になることがある。
運営の公式告知にHPやMPの扱いに関する記述が全くないってこと。
ナゴヤジョーから金魚たちが沸いてくるっていうけれど、それ、攻撃は仕掛けてこないわけ?
だったらHPもMPも気にしなくていいんだけれど……とりあえず補充はしておくべきかな。
前にハルさんが言っていたけれど、調合士はイベントで稼ぐって。
もしHPやMPポーションが必要になったら、絶対に相場は上がるってことよね。
あとで持て余しても困るからそれほど買い込みはしないけれど、常備数より少し多めにインベントリに入れて一度ログアウト。
早めにお昼ご飯を食べて、開始時間の十五分ほど前に再度ログイン。
「アールグレイ、ご馳走様でした」
『うわ、マジで飯食って来たんかい!』
「マジ、食ってきましたとも」
悪い? 文句があるなら柴さんも食べてきたら?
イベントが始まってすぐにお昼ご飯でログアウトっていうのもどうなのよ?
ログアウトする前に声を掛けた何人かはわたしと一緒に昼食のために中座していたみたいで、そろそろと再ログインの挨拶が入ってくる。
イベント開始五分ほど前にクロウも戻ってきた。
うん? 珍しく遅いかな?
「仕事の電話が入った」
今日は連休初日の土曜日だっていうのに大変ね、なんの仕事かは知らないけれど。
でも開始には間に合っているからいいんじゃない?
「そうか」
珍しくホッとした……というか、ひょっとして焦ってログインしたの?
別に一分二分遅刻したって……それこそ三〇分とか一時間遅刻したって今回のイベントは大丈夫なのに、どうしたの?
「いや、なにもない」
「それならいいけど……」
なにもないって感じでもなかったんだけれど、これ以上わたしが追求しても仕方がないのよね。
気にはなるんだけれど……。
『グレイさーん、マメもログインしましたー』
はいはい、お帰りなさい。
別に遅刻しても大丈夫だったのよ、今回のイベントは。
というか、むしろあんたは遅刻してきなさい。
『マメ、一番を目指しますから!』
…………これが問題なのよね。
あの時意識が飛んでしまったわたしはどうやってログアウトしたのかも覚えてなくて、当然あの話がどう決着したのかも知らない。
つまり、ご褒美がなにになったのかを知らないの!
もうね、わたしの人生が掛かった一大事並みにピンチの状態なのよ。
誰かに訊けばすぐに解決する問題じゃないかとも思ったのよ、もちろん。
でも怖くて訊けない!
なにに決まったのか、考えるのも恐ろしいんだけれど、それを訊くのも恐ろしいのよ。
そんなことを頭の中でグルグルさせながらナゴヤドーム内を歩いていたら、運営の音声インフォメーションが入る。
『プレイヤーの皆様には大変お待たせいたしました。
間もなく第三回公式イベント 【ナゴヤジョーに異常発生! スタンピードに備えよ】 を開催いたします』
ふつりと切れた数秒後、どこからともなくサイレンの音が鳴り響く。
続いて遠くから地響きのような音が聞こえてきて、それがどんどん近づいてくる。
なんだか嫌な感じの始まりかたね。
全然アットホームなファミリーイベントじゃないじゃない。
ふと気がつくと視界にキラキラと光る霧のようなものが…………なにかしら、これ?
そんなことを思っていたら一瞬視界がホワイトアウト。
次の瞬間、ナゴヤジョー各ダンジョンで見られる光景が広がっていた。
「……本当に金魚が泳いでる」
「グレイ、ポストを開け」
すでにポストから例のポイを取り出したクロウは、大剣・砂鉄を背に、手には巨大なポイを握っている。
それでこの金魚を掬うのよね?
うん、まぁ運営の公式告示ではそうなってるわよね。
でもクロウのなんともいえない姿に眉間の皺を寄せたわたしは、とりあえず言われるままにポストからポイを取り出す。
そして近くにいた金魚を掬う振りをしたら、突然なにもなかった中空にお椀が……あー、たぶんこれは掬った金魚を入れるあれね。
うん、あれ。
あれが現われて、わたしが掬った金魚を吸い込んでいく。
そして消える。
うん、そういう仕様ね、わかった。
たぶん……
もちろんこれで全部じゃないとは思うんだけれど、とりあえず方法はわかった。
直径が一メートルくらいあるポイを両手に構えたわたしは、一匹ずつなんてまどろっこしい真似はしない。
掬えるだけまとめて掬って、お椀に放り込んでいく。
そうすると金魚一匹につき1pずつ入るみたい。
ただダンジョン内と違って結構障害物があるのよ。
で、この障害物が掬った金魚をお椀に入れる邪魔をする。
ベンチに引っかけたり、建物の壁にぶつけたり……
「ひょっとして、ドームの外のほうがいい?」
「行ってみるか」
そうね、色々試して要領のいい方法を見つけましょう。
クロウはなんだかんだいって結構上手く掬っているんだけれど……これってつまり、わたしの運動神経が悪いってこと?
あ、運動神経じゃなくて不器用ってこと?
クロウと一緒に歩きながらそんなことを思っていたら、インカムからマメの悲鳴が聞こえた。
『破れたー?!』
『なにが?』
『どっか壊したのか?』
『マメはそんな怪力じゃありませーん』
怪力かどうかはともかく、意外性が高すぎてやりかねないのよね、マメはマメだから。
それこそ楽しくなって、思いっきりポイを振り回して木の枝を折ったくらいならともかく、なにかとんでもない物を壊したりしてないでしょうね。
『ポイがー』
そう聞けばすぐにわかる。
つまりポイの紙が破れたってことね。
でもそれって、もうゲームオーバーになるの?
だったらマメはもう一番にはなれないわね、ふふ……なんてちょっと意地悪なことを思っちゃった、ごめん。
でも個人順位一番については切実な問題だから。
わたしにとっては人生が掛かってるから、今回は絶対に負けられないのよ。
だからマメがここでリタイアなら……
『マメさん、大丈夫ですよ。
そのまますぐに使えますから』
うん、トール君ナイスフォロー……じゃないんだけどね、わたしにとっては。
もちろんこんなこと、口が裂けても絶対に言えないけれど。
でもちょっとだけマメのリタイアを願っちゃった……。
だって他のメンバーはともかく、マメは廃人なのよ。
わたしも今日は徹夜覚悟だけれど。
ちなみに紙が破れたのは、金魚より大きなシャチを掬おうとしたから。
なるほど、大きくて活きがいいと紙が破れちゃうってことかしら?
じゃあシャチは掬えないの?
それにシャチを掬うのと金魚を掬うのとどう違うの?
う~ん、疑問ばっかりねぇ~。
まだみんなもそんなことまではわからないっていうのも当然なんだけれど、誰かが検証するのをなんて待ってもいられないのよ、わたしは。
なんとしてもマメに勝つ!
勝たなきゃいけないのよ、わたしの人生が掛かってるんだから!
トール君の話ではポイの紙は破れても大丈夫ってことだから、手っ取り早く自分で検証するわ。
ナゴヤドームを出たわたしとクロウは、運良くシャチと出くわした。
サイズは中くらい。
これを掬ってみると……破れた……なるほど、こういうことか。
シャチはわたしが下から差し入れたポイの上には乗ったんだけれど、景気よくびっちびっちと跳ねまくってくれて、ポイの紙を破いてそのまま逃げちゃった。
それこそなにもなかったかのようにシラーッと泳いでいく。
……なんだか腹が立つ。
「これ、どうやって掬うの?」
わたしの問い掛けに、腕組みをしてシャチが逃げるまでの一部始終を見ていたクロウは、おもむろに拳を握って、わたしのポイを破り、悠々と周囲を泳いでいるシャチを殴った。
クロウの拳は、このナゴヤドーム近辺に出現する雑魚キャラくらいなら一撃で落とせる威力はあるんだけれど、このシャチにも有効なの?
うーん、有効かどうかはともかく、そのシャチを殴ってどうするつもりなのか……呆気にとられていたら、クロウが言うの、もう一度掬ってみろって。
意味がよくわからないんだけれど、とりあえず言われるままに再度挑戦してみる。
「……あ、掬えた」
これはつまり、ポイには武器としての火力はないから、金魚よりHPの高いシャチは掬えない。
でもなんらかの方法でシャチのHPを削って弱めたら掬えるようになる。
なるほど
ちょっと動物虐待っぽいけれど、それをいってたらこのゲームは楽しめない。
というか、たいがいのゲームはそうよね。
しかもウィンドウで確かめたら、金魚は一匹1Pだけれど、中サイズのシャチは5Pが入っている。
これだと小サイズのシャチでも2Pか3Pはもらえそうな気がする。
つまり大きいサイズのシャチを狙ったほうがポイントが高い。
さっき中サイズのシャチを倒したばかりだけれど、また一匹、どこからともなく同じサイズのシャチが沸いてきている。
おそらく一定時間、同じ場所で同じサイズが沸く。
もちろん無限沸きじゃなくて、ある程度沸けば沸き位置は変わる。
たぶん沸き位置がなく、無限にどこにでも沸くのは金魚だけ。
こういうことであってるのかな?
そのへんの法則はダンジョン内と一緒ってことね。
それならここは張り切って銅シャチとか銀シャチとか金シャチとかを狙いたいところ。
沸き位置を探すのがちょっと面倒なんだけれど、それもゲームよね。
楽しみましょう!
ただ問題は、クロウは素手で殴ればいいけれど、わたしはどうしたらいいのか?
ポイを持つのに邪魔だから杖はインベントリに仕舞ってあるんだけれど……だって片手にポイ、片手に杖ってなんだか不格好なんだもの。
歩きにくいし。
で、杖はないから気持ち火力は落ちてるんだけれど、試しにそこを泳いでいる中シャチに焔ご……あ、危ない、危ない。
どう考えても焔獄はダメよね。
どう考えても中シャチ程度じゃ焔獄一撃で溶けちゃう。
今回のイベントは溶かすのが目的じゃなくて、あくまでもポイで掬うこと。
弱らせてポイで掬うのが目的なのよ。
ダンジョン攻略と同じ要領だと考えれば、ここは抑えに抑えて……よし!
火焔属性最下級魔法で勝負!
「ファイアーボール」
魔法使いが魔法使いになって一番最初に覚える魔法、ファイアーボール。
ステータスを一定数値INTに振ると自動的に覚えるのがこのファイアーボールなの。
もちろんエピソードクエスト 【ステータスを振ろう! 其の壱】 ……だったかしら?
うーん、弐だったか参だったか忘れちゃったけど、このクエストを境に職が別れていく。
今でこそ魔法使いで職を確立しているわたしだけれど、この時はまだ育成段階だからSTRに振って、続いて受諾出来る 【斬撃で敵を倒してみよう!】 1~3をクリアしたし、DEXに振って 【銃で敵を倒してみよう!】 1~3もクリアした。
たぶん、この 【銃で敵を倒してみよう!】 1~3が一番苦労したと思う。
1 は、なんでもいいから敵三体を銃撃で倒す。
2 は、同じくなんでもいいから敵五体を銃撃で倒す。
そして 3 は十体。
合計十八体の敵を銃で倒せっていうクエストなんだけれど、どうやらわたしには銃士の素質がなかったみたい。
もう本当にね、当たらないの。
地団駄踏みたくなるくらい当たらなくて、たぶん、一番クリアに時間が掛かったクエストだと思う。
あれは、わたしにはどうしようもないくらい狙撃センスがないって、心底わからされたクエストだった。
いま思い出しても落ち込んでくるくらい。
だから魔法使いなんだけどね。
元々魔法使いになるつもりではあったけれど、今も、剣やメイスを持ったりするくせに、絶対に銃だけは持たない理由はそこにある。
当たらないから
使えもしない物を持ってても仕方がないしね。
銃を持てば弾丸も持たなきゃならないし、弾丸なんて持ったらインベントリが一杯になっちゃうじゃない。
だから使えもしない銃なんてとっくに捨てちゃった。
まぁクエスト用にNPC武器屋で買ったやっすい銃だったけど。
三つのクエストをクリアしたら、レベルが20になる前に必要のないSTRとDEXは消す。
そして返ってきたステータスをINTに振り直した。
クロウも同じようにINTに振ってファイアーボールを使って敵を倒したり、DEXに振って銃で敵を撃ったりもしたんだけど、もちろんすでにステータスは振り直している。
でもMPはあるし、初期スキルであるファイアーボールは消せないから使えるはずではあるんだけれど、MPの少なさには定評のある剣士。
どうせ数が撃てないのなら、今のクロウは拳で殴っていたほうが確実よね。
どのくらい確実かっていえば、私が銃を捨てたのは間違いじゃなかったっていうくらい確実。
120%よ
でもね、そんなことがどうでもよくなるようなことを思い出した。
たった今思い出したっていうか、気がついたのよ、凄く重要なことに。
冷や汗が流れ出るほど訊くのも恐ろしいんだけれど……トール君、エピソードクエスト、どこまでクリアした?




