641 ギルドマスターは野心で荒稼ぎします
PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!
まぁシャチはシャチ、所詮シャチなのよ。
しつこいけれどシャチだからね。
しかもこの 【シャチの増し増しタイム】 に巨大シャチは含まれていない。
まぁこれはこれでラスト一時間の恐怖感が増したというか、このことに気がついたプレイヤーのあいだで緊張感が増し増しというか。
だから結局はシャチなのよ。
多少大きさに差はあれど、本来なら火力ごり押しで押し切れなくもない相手。
それなのに数の優位にあぐらをかいて、やりたい放題のビッチビッチシャコーン。
シャチの分際で……
しかもちょっと油断をしたら……だって、金魚に続いてシャチまで増し増しタイムがあるとは思わなかったから、ついうっかり腕を食べられてしまった。
かなり痛かったけど、そのことに怒る可愛いルゥを見られたから我慢します。
金魚に続いてシャチもあるとわかれば、それなりにレベルの高いプレイヤーなら覚悟というか、備えというか、対処も難しくはない。
当然のことながら数の優位に対抗するには火力勝負。
もちろんこれにはそこそこのレベルと火力が必要になる。
そうなるとレベルの低いプレイヤーには対処法がないわけで、トール君に続いて美沙さんも落ちた。
トール君のレベルは決して低くはない。
未だ前に前にと出る癖が直らないところはあるけれど、レベルが上がるとともにステータスを振ってSTRも上昇。
【ナゴヤジョー】 でシャチの動きにも慣れているから、トール君一人なら対処出来なくもない。
多少のダメージを食らっても大丈夫だからね。
でも美沙さんを連れているとなると話は別。
結局美沙さんを庇ってトール君が落ちると、当然一人残された美沙さんも落ちる。
ここでトール君は、わたしにSOSを出さずに 【ナゴヤドーム】 に死に戻ることを選択した。
美沙さんが、死亡状態から回復させてくれるアイテム 【復活の香】 を使ってみるというクエストをまだ受諾していないことを確認してからね。
もし受諾していたのなら、その場でわたしの到着を待つことも考えたかもしれない。
【復活の香】 は基本、課金アイテム。
調合士も作れるけれど、回復系魔法使いが使う 【リカーム】 と同じくらい難度が高い。
そのため作れる調合士も少なく、かなり高価な貴重品となっている。
でもこの 【復活の香】 を使ってみようというクエストのため、受諾時に三つだけ譲渡不可の 【復活の香】 を手に入れることが出来る。
死亡状態からの復活を体験するためのクエストだと思う。
アイテムの使い方や手順のレクチャーを兼ねたクエスト。
そのために必要な 【復活の香】 を入手出来なければ話にならないからね。
これで使い方と便利さをプレイヤーが覚えてくれたら、運営的には商売になるわけだし。
クエストとしては一つ使って一回復活すればクリア。
二つもサービスしているのは、ただ気前がいいというわけではなくそういう意図もあってのことだと思う。
でもそのサービス……ではなくて、クエストを受けていない美沙さんはまだ 【復活の香】 を持っていなくて、トール君は美沙さんを連れて 【ナゴヤドーム】 に死に戻った。
ねぇねぇこの二人、ちょっといい感じじゃない? ……という話ではなくて、わたしたちが思っている以上にトール君の面倒見がいい。
いい傾向だし、【ナゴヤドーム】 に死に戻るという選択も間違っていないと思う。
でもすぐに美沙さんの素っ頓狂な声が上がる。
『はっ?! なに、その金額っ!』
インカムの向こうで交わされる会話は、もちろん同じギルドのトール君の声は聞こえるけれど、エリアチャットで話す相手の声は聞こえてこない。
まぁ聞こえてこなくても大丈夫。
相手があの聖女だということはわかっている。
銭ゲバの闇堕ち聖女よ。
【ナゴヤドーム】 に死に戻った場合、転送されるのは地下にある教会のさらに地下。
墓地というか、遺体安置所というか、まぁそういう場所。
地下闘技場の遺体安置所と同じような場所に転送される。
わたしはまだ落ちたことがないから詳しくは知らないけれど、聞いた話では、死亡状態のプレイヤーが転送されてくると、蝋燭の明かりを手に聖女が現われるらしい。
そして復活するかどうかを訊いてくる。
そこで提示される金額が、まぁその、ね。
結構ビックリするような額です。
銭ゲバ聖女といわれる理由がその金額にある。
ただこの聖女は他にも色々とがめているくせに、場所が教会だけあって 「お布施を……」 とか言って上辺だけを上品に取り繕っている。
取り繕えていないから
もうね、全然取り繕えてないから。
でも取り繕えていると思っているらしく、白い、いかにも高そうなローブを着て楚々と振る舞ってみせる。
そのくせ結構ないいお値段を提示し、値引き交渉には一切応じず。
一円だって……正確には一ナゴヤ円もまけない強突く張り。
それどころかプレイヤーの言葉には全く耳を貸そうともしない銭ゲバです。
相手が初心者であってもね。
美沙さんは初心者ではないけれど、初心者に毛が生えて、その毛がちょっと伸びたくらいのレベル。
しかも美沙さんは縁あって早い時期からギルドに所属しているけれど、今の美沙さんと同じようなレベルのプレイヤーはまだ単身者がほとんど。
もちろんこのイベントは初めてだから……まぁ庇ってくれるトール君がいても美沙さんは落ちたわけだし、単身者なら辿る道は知れている。
そんなわけで銭ゲバ闇墜ち聖女は大絶賛荒稼ぎ中。
大儲けよ!
あの聖女に関しては、そうやってお金を集めて 【ナゴヤドーム】 を実効支配している臨時政府から 【ナゴヤドーム】 を買い取ろうとしているのではないか? ……という噂がある。
一国一城の主人を目指しているのなら買い取るべきは 【ナゴヤジョー】 だと思うけれど、仮想現実の 【ナゴヤジョー】 は、魔物というか、色々とおかしなところがあるシャチや金魚の住み処だからね。
買い取るのは無理というか、買い取ってもどうするのよ? ……といった感じだから。
いっそ巨大金シャチを倒して 【ナゴヤジョー】 を乗っ取るという手もある。
闇堕ち聖女は結構強いからね、やってやれなくもないと思う。
油断すれば即座にバシコーンと吹っ飛ばされるけど。
とりあえず美沙さんね。
「えっと美沙さん、お金、足りる?」
足りなければ送るわ。
装備を調えたりとか、結構な出費があったはずだし。
『えー大丈夫ですよー』
『あ、そこでOK押して』
『これでいいのかな? ……あれ? なんか言ってくるー』
『違うって、そのウィンドウじゃなくて……』
お邪魔?
ひょっとしてわたし、二人の邪魔してしまったとか?
い、一応ね、そんなつもりはなかったのよ。
このイベント開始前にトール君と、最低限の装備はないと……みたいな話をしていたから、出費がかさんだのではないかと心配になって。
ちなみに手持ちのお金が足りないと、延々死体置き場です。
その、これは裏の手というか、まぁ公式にある方法ではあるけれど、課金をしてゲーム内通貨に換金するのが最終手段です。
この方法は初期にはなかったシステムで、セブン君たち廃課金集団は課金装備を過剰供給することでゲーム内通貨を稼ごうとした。
しかも協定を結んで課金装備の価格暴落を防ぐという周到さ。
これが原因かどうかは今も不明だけれど、月ごとに換金上限を設ける形でこのシステムが実装された。
なので本当に死にっぱなしということにはならないけれど、このゲームのプレイ下限年齢である12歳には少し厳しいかも知れない。
でも美沙さんもトール君も高校生だから。
社会人ほどではないけれど、それなりにお金は持っていると思う。
だからって安直に課金するのも違うと思うので、互助会システムを大いに活用してください。
クロウがお金を使わせてくれないので、わたしのお財布にはそこそこお金が貯まってるから。
それこそ二人分出してもいいわよ……と思うけれど、二人ともしっかりしているからわたしの出る幕はなさそうです。
ちょっと淋しい
「いいんじゃね、自立心旺盛で。
起動……」
自立心か。
確かにそうかもね。
じゃあわたしのこれは、ある意味依存心かな。
ところでカニやん、なにしに来たの?
「……雪月花。
あんたのお守り。
まだクロウさん、ログインしてないじゃん」
くっ!
これ、もう何度言ったかわからないけど、わたしはアラサー目前の成人女性です。
こどもじゃないんだからお守りはいりません!
「片腕失って、HPダラダラ流してたくせになに言ってんだよ?」
「ちょっと急いでいたから回復を忘れただけじゃない。
そもそもどうしてクロウがいないってわかったのよ?」
だってクロウもわたしもログインの表示を出していない。
ログアウト中も表示そのものがされないよう、通知を切っている。
だからギルドメンバーでもわからないはずなのに……と思ったら、わたしが片腕を失って悲鳴を上げるのを聞いて、クロウに直通会話をしようとしたら……
対象のプレイヤーはログインしていません
そうシステムに断られたらしい。
不在でも送信出来るメッセージ機能と違い、チャットは……エリアチャットやギルドチャットはともかく、別名 【内緒話】 といわれる直通会話は個人を指定して通話するもの。
その相手がいなければ出来ないわけで、システムも素っ気ない。
そんな機能を使ってクロウの不在を知り、昼間と同じ場所にいるのではないかと見当を付けて探しに来たらしい。
もちろん見つけられなければ訊くつもりでいたらしいから、遭遇出来たのは本当に偶然……じゃないの?
ん? タマちゃん?
「そう、タマがこっちって言うからついてきたらいた」
ひょっとしてひょっとするんだけど、タマちゃんにはルゥの居場所がわかるとか?
「自分じゃなくてワンコなんだ」
「うん、なんとなくそんな気がしたから。
取扱説明書に書いてないの?」
「ねぇよ。
ところでクロウさんは?」
「お仕事」
正確には後輩営業から相談の電話があって、資料作りのお手伝いをしているらしい。
だから 「お仕事」 といってもハズレではない。
休みの日にわざわざ……と言いたいところだけれど、明日必要な資料らしい。
急な仕様の変更を申し入れてきたのは先方だから予定の変更も出来なくもないけれど、そうすると黄金週間明けになってしまう。
それはすでに別の予定を入れている後輩営業自身が困るらしく、急いで資料作りをすべく課長代理に助けを求めたということらしい。
別の人でもよくない?
どうしてわざわざ課長代理なのよ?
そりゃ根っからのお仕事人間だから、頼まれれば休みの日だって潰してお仕事するけどさ。
なんかこう……モヤモヤする。
ちなみにこの後輩営業は課長代理にとっての後輩で、わたしにとっては全然先輩です。
会川さんじゃなくてね。
しかもこの夜、結局クロウはログインしなかった。
モヤモヤ……
わたしのこのモヤモヤのおかげで、課長代理の後輩営業は無事に翌日をクリア。
朝一で出掛け、夕方近く足取り軽く帰社したけれどわたしはモヤモヤのまま。
しかもなぜか、お仕置き部屋で呼び名が定着した資料室に呼び出される始末。
もちろん課長代理にね。
今度こそ何かミスったのではないかと、背中とか脇の下とかに冷汗をかきながら頭をグルグル。
ここ数日のお仕事を脳内再生してみる。
…………………………ワカリマセン
こ、ここはやっぱり玉砕覚悟で訊いてみる?
「あの、課長代理、その、ですね、本日はどんなミスでしょうか?」
考えていることがそのまま口から出てしまいました。
心の中で予行演習をするつもりだったのに、それがそのまま口から出ていたっていうね。
は、早戻ししたい。
一足先に資料室に来ていた課長代理は、わたしを呼び出したあとも何かしていたのか、手に携帯電話を持ったまま。
格好いいポーズで立っていました。
いえ、その足の長さがあればどんなポーズでも格好いいんですね。
その身長があればどんなポーズでもとれそうですね。
2㎝クダサイ
例によっておかしなサブタイトルですが、内容を凝縮するとこうなりました。
そして今話の本題が全然入らず次話送りとなっております。
久々の聖女登場に、うっかり熱が入ってしまい行数を無駄遣……ゲフゲフ……( ̄。 ̄;)
えっと、次話でお仕置きですw




