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640 ギルドマスターはシャーッとグルルルを比べます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!

alert これより15分間、シャチの増し増しタイムが始まります


 そんなアラートが出たのは晩ご飯を食べ終え、少しゆっくりしてからこの日三度目のログインをして間もない頃。

 それぞれのタイミングで晩ご飯タイムに入ったから、食べ終えてからの再ログインもそれぞれのタイミングで。

 だってほら、それぞれの家に色々とルールとかあるじゃない。

 洗い物当番とか、お風呂に入る順番とか。

 だからわたしがログインしてきた時、まだ半数も戻ってきていなかった。


 正午から始まるイベントに備えてギルドルームに集合していたわたしたちは、開始を報せるサイレンの音とともに数人のグループに分かれて三つあるエリアに散ってイベントを楽しんでいた。

 でも夜は時間がバラバラだったから、ログインしてきた順番にそれぞれでエリアに。

 つまり単身(ソロ)

 そんなタイミングで始まったのがこの 【シャチの増し増しタイム】。

 もちろんこの時もサイレンが鳴って……このサイレンは 【ナゴヤドーム】 に拠点を置いて実効支配をする臨時政府が、プレイヤーたちに異変を報せるという意味合いで鳴らしているものらしい。

 でも金魚とは違い、一番小さいサイズでもそれなりに大きさのあるシャチ。

 そんなシャチがブワッと増えれば一目でわかる。


 つかず離れずの距離で楽しく狩りをしていたルゥも、その瞬間には驚いて、元々大きな目をさらに大きく見開いていたほど。

 でもそこは残ね……ゲフゲフ……えっと、前向きなポジティブシンキング。

 すぐさま増えたシャチを相手に、持ち前の残虐せ……ゲフゲフ……その、高い戦闘能力を活かしてビッチビッチシャコーンシャコーンとくるシャチを次々に倒してゆく。

 さすが 【幻獣】、強いわ。


 でもね、わたしはこの時大きな勘違いをしていた。

 ここで気づいて、それこそ気をつけておけばよかった。

 なのにこの翌日にあったことと合わせてわたしはうっかりしてしまい、とんだ失敗をしてしまうことに。

 返す返すも大後悔。

 後で悔いると書いて後悔、ほんとその通りになってしまう。

 でもこの時のわたしは気づいておらず、ルゥの見事なポイントの稼ぎっぷりに触発され、負けていられない……と思ったのにその矢先、片腕をバックリやられてしまった。


 いったー……っい!!


 とんだ油断だったわ。

 たかだかシャチ、されどシャチ。

 この増し増しタイムに巨大シャチは関係ないらしく、さすがに丸呑みにされることはないけれど、そこそこ大きなシャチなら腕の一本や二本、軽くバックリよ。

 そうしてバックリやられました。

 本当に油断だったわ。

 【ナゴヤジョー】 でもシャチが出現するけれど……というか、これらのシャチも金魚も 【ナゴヤジョー】 から溢れ出たという設定が今回のイベント。

 でも 【ナゴヤジョー】 のシャチと同じ物とはいえ、ダンジョン内ではいくつかのパターンがあるけれど湧き位置は決まっている。

 もちろん今回のイベントでも湧き位置はあるけれど、それこそ三つあるエリア内で無数に。

 位置も、湧くNPCもその時々で変わる。


 それでもシャチはシャチ。

 そう思って軽く考えていたのが甘かった。

 ものの見事に、あっけないほど簡単にバックリやられました。


 言い訳をさせてもらえるなら、シャチの増し増しというか増量による密集で、居場所を失ったそこそこ大きなシャチが押し出されるようにわたしに突っ込んできた。

 つまり不意をつかれて接近を許してしまい、わたしは接近されると落とされる運命の魔法使い(モヤシ)。

 落ちなかったのは不幸中の幸いだったけれど、まんまと腕一本を犠牲にするはめに。

 大量にHPを流出させながら思わず叫んでしまう。


『え? グ、グレイさんっ?』

『ちょ、篠崎っ!

 え? ギルマスっ?!』


 時間を示し合わせてログインしたらしいトール君と美沙さんの、戸惑いや驚き。

 それに慌てっぷりがない混じる声がインカムから聞こえてくる。

 うん、二人は気にしないで。

 トール君のレベルなら問題ないだろうけれど、美沙さんと一緒では、増し増しタイムが終わるまでをやり過ごすのは楽ではないと思う。

 実際のトール君の 『離れすぎるな!』 という切羽詰まった声が聞こえてくる。


 ヤバイ


 可能であれば二人のところに駆け付けたいところだけれど、わたしも今はそれどころではない。

 これまた幸いにして、わたしがバックリされたところをルゥが目撃。

 すぐさま駆け付けてくれると、わたしの腕をバックリしたシャチを一撃のもとに落としてくれる。

 ついでに周囲のシャチも、それはそれは残虐非道なまでに落としてくれた。

 よし、トール君たちのところに行こう。


 ルゥ!


 わたしの呼び掛けに 「きゅ!」 と短く答えてくれたルゥは、二人がいる 【中部・東海エリア】 に向かってわたしを先導するように歩き出す。

 め、珍しい。

 ルゥが飼い(わたし)のいいたいことを理解してるわ。

 明日は雨?

 黄金週間(ゴールデンウィーク)中とはいえ、明日は平日。

 休日なら予定が台無しになる人もいるけれど、平日なら……と思ったのも一瞬のこと。

 よくよく考えてみたら、雨の日の出勤だって楽じゃない。

 髪はまとまらないし、足やスカートだって濡れるし、鞄だって濡れるわ。

 おまけに傘は邪魔だし、人混みは歩きにくいし……といった具合に嫌なことばかり。

 だからといってここでルゥまで迷子になったら収拾が付かない。

 このシャチが押し合いへし合いしてる中を縫って進むだけでも大変なのに、そこに埋もれるルゥを探すなんて……。

 しかもじっとしていないしね。


「起動……業火」


 ここはもう明日の雨天を覚悟して、ルゥのフリフリお尻を追いかけて 【中部・東海エリア】 に向かうことにする。

 不意さえつかれなければ、シャチごときに火力勝負に負けるとは思わない。

 数の優位をとられていてもね。

 質より量よ! ……じゃなくて、量より質よ!!


 間違えた……


 剣なり銃なり武器を装備しなければ攻撃出来ない他の職種(クラス)と違い、魔法使いは両腕を失っても、MPの残量と詠唱が出来れば攻撃出来る。

 かといって範囲魔法でルゥの道を空けながらも走るわけにもいかず、どれほども進まないうちに、ひしめくシャチの向こうから聞き慣れた声が聞こえてきた。


「起動…………氷雪乱舞」


 にひっと笑う男前な魔法使い(モヤシ)の声がね。

 しかもほとんどは攻撃対象であるシャチに当たっているものの、わずかなこぼれ球を顔面に浴びて痛い。

 しかもスキルがスキルだから冷たい。

 そして足下のルゥはタマちゃんと遭遇し、睨み合ったと思ったら鼻に皺を寄せて低く唸り出す。

 そんなルゥの態度が気に入らなかったらしいタマちゃんは……待った!


 ダメよ!!


「あかん、タマ!」


 わたしとほぼ同じタイミングで、タマちゃんの飼い主であるカニやんが声を上げる。

 ルゥの唸り声には何もない。

 だからいくらでも唸ってくれていい。

 唸るだけならね。

 ひどい癖のついた毛を逆立て、短い尻尾をぴーんと立てて低い姿勢を取り、正面にタマちゃんを見据えて。

 それこそ今にも飛びかかりそうな雰囲気ではある。

 もちろん飛びかかってはダメよ。


 でもタマちゃんの威嚇であるシャーッは一つのスキルで、プレイヤーが使う 【スパーク】 と同じ効果がある。

 以前、何かのイベントでガルムを吹っ飛ばし続けたのをわたしも見たことがある。

 もちろんこの場面でルゥを吹っ飛ばされても困るけれど、そもそもルゥは吹っ飛ばない。

 なぜならばルゥは 【幻獣】 であり、【幻獣】 はノックバックしないから。

 だからこの場面でタマちゃんがシャーッとしたら、吹っ飛ぶのはタマちゃんなのよ。

 さすがにいつもはタマちゃんの尻に敷かれっぱなしのカニやん(ゲボク)も、いつになく厳しく制止。

 わたしとカニやんに止められたタマちゃんは、苛立ちをぶつけるように二本ある尻尾でシャチを往復ビンタで落とす。

 お見事! ……じゃなくて、どうしてカニやんがここにいるの?

 偶然の遭遇と考えるには全然驚いてないし。


 どうしたの?


「どうしたのもこうしたもないから。

 まずは腕回復して。

 HPダダ漏れっぱなし!」


 早口にまくし立てられ、ようやくのことでHPの残量が少しマズいところまで減っていることに気づく。

 剣士(アタッカー)に比べてVITの低い魔法使い(わたしたち)

 だから貫通攻撃や部位欠損の継続ダメージの継続時間が、剣士(アタッカー)に比べて長い。

 そのため、カニやんと遭遇した時にもまだHPの流出は続いていた。

 でも少しよ、少し。

 あと数秒で落ちるとかそういうことでもないし、トール君たちとの合流を優先しようと思ってすっかり忘れていた。

 まぁそれでも落ちない程度の流出量よ。


 大丈夫


「あんたのそういうの、滅多に見ないからさすがにビビるわ」


 でもカニやんにそんな小言まで言われ、仕方なく回復しようとしたところにインカムから声が聞こえてくる。


『塚原、悪い!』

『ちょ、篠崎?!』


 ん? なにかあったっ?


『すいません、落ちました。

 えっと、誰か塚原の回収を……』

『あ、大丈夫でーす!

 なんかもう落ちそうなんでー』


 トール君はともかく、美沙さんは本当にポジティブシンキングね。

 もう落ちそうだから回収はいらないって……いやいやいや、それは違うから。

 ギルドは互助会です。

 助け合いが基本です。

 だからここはわたしの腕ごときの回復は後回しで。

 間に合うかどうかはともかく、まずは二人のところへ急行。

 間に合えば美沙さんを回収してトール君を回復。

 間に合わなければ二人の回復で……と思うのにカニやんに怒られる。


「いいからあんたは自分の回復。

 【リカバー】 使ったらMPギリギリだろ。

 それに 【リカーム】 は再起動準備(クール)が長いから、トール君か美沙ちゃん、どっちかしか使えないでしょう」


 う……確かに……


 そんな話をしながらもカニやんとタマちゃん、ルゥの先導に従って 【中部・東海エリア】 に向かっていたけれど、大絶賛増し増しタイム中。

 次々に沸くシャチたちがひしめきあって行く手を阻み、思うように進めず。

 結局辿り着くどころか、【中部・東海エリア】 に戻るまでもなく美沙さんは落ちてしまった。

 一応インカムで話を聞いて、ログインしていた恭平さんが二人のほうに向かっていたらしい。

 足下の魔法陣から離れすぎると詠唱が無効になってしまう魔法使いと違い、自分一人が通れる隙間があれば前に進める剣士(アタッカー)の機動力を持ってしても間に合わず。


『これが死亡状態っていうの?

 こうなったらどうしたらいい?』

『えっと、そういえば塚原はクエストで 【復活の香】 を使ってみようっていうやつ、受けてる?』


 あら、トール君しっかりしてるわね。

 どうやら初めての死亡状態を経験して指示を仰いでくる美沙さんに、彼女の状況に合わせた判断をすべく、まずはクエストの進行状態を確認。

 ウィンドウを開いて確認しているのか、『ちょっと待って』 という美沙さんの声がしたと思ったらしばしの沈黙。

 やがて 『まだみたい』 という返事を聞いたトール君は、わたしたちに話し掛けてくる。


『俺たち、【ナゴヤドーム】 に死に戻ります。

 ここでアイテム使って復活しても、またすぐ落ちそうですし……』


 そういえばこの 【シャチの増し増しタイム】 は 【金魚の増し増しタイム】 より5分長い15分だっけ。

 ウィンドウを見ても残り時間が表示されないため正確な時間はわからないけれど、たぶんまだ5分以上残っていると思う。

 トール君の言うとおり、残り時間が5分もあればもう一回落ちられるわね。


 すでに向かっていると連絡をくれていた恭平さんにも 『すいません』 と謝ったトール君は、美沙さんに 【ナゴヤドーム】 に死に戻る方法をレクチャー。

 転送のタイムラグがあって美沙さんの 『ここどこっ?』 という声が聞こえてきたから、無事に 【ナゴヤジョー】 の地下墓地に着いたと思われる。

 このあとは聖女様に復活してもらって……もちろんタダじゃないわよ。

 がっつりゲーム内通貨を巻き上げられてね。

 ついでに経験値も巻き上げられて。

 まだ落ちたことがないわたしですが、一応攻略wikiで調べていくら取られるかは知っている。

 ちょっとね、初めて聞くとビックリするような額です。

 銭ゲバと呼ばれる理由になるくらいの金額です。

 わたしはカニやんに言われるまま腕を回復しつつ、続く美沙さんの声を聞く。


『はっ?! なに、その金額っ!』


 だから銭ゲバなのよ、あの聖女はっ!!

翌日は本当に雨に・・・という話は後ほど。

明かされる件の真相も・・・

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― 新着の感想 ―
[一言] 美沙ちゃん、聖女にぼったくられる(笑) しかし、グレイの回復しない癖は困ったもんだね 回復薬、余りまくってるのに
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