637 ギルドマスターは筋肉プレイが暑苦しいです
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またおかしなサブタイトルとなっておりますが、いつものあれということで(汗
一年前に行なわれた、アットホームなファミリーイベント金魚掬い。
……ん? そうか、去年は金魚掬いだったのね。
だからポイを使って……という話はあとで。
その一年前のイベントで 【素敵なお茶会】 は、その経緯はもう覚えていないけれどギルド内で一番ポイントを取った一に賞品を……という話になった。
マメのせいでわたしは色々な記憶が飛んでしまっていて上手く説明出来ないけれど、そのマメのおかげでわたしは絶対に負けられなくなって。
だってマメが欲しがったというか、したがったのはわたしと、その………………言えない。
恥ずかしすぎるっ!!
とりあえずその部分は話の本題とは関係ないから省略!
負けられなくて頑張ったらギルド内で優勝。
でもそのあとも色々とあって、結局賞品をもらい損ねて一年が経過。
改めて同じイベント……といっても少し違うんだけど、そこはまたあとで。
思い出したので頂戴とねだったけれど、そもそも賞品を知らないっていうね。
しかも教えてくれない。
なぜかギルドメンバーからそのお役目を任されたクロウには 「明日、話そう」 とさらなるお預けを食らわされた。
いいわ
だってもう一年待ってるんだもの。
あと一日くらい待てないはずがない。
ルゥだって待てが出来るんだから、飼い主に出来ないはずがないでしょ。
待ってあげるわよ。
その分期待するから覚悟してよね。
「覚悟って……」
呟いたカニやんは 「それもどうなの?」 と言葉を継ぐ。
そんなことを言われても意味がわかりません。
でももらえるものはもらいます。
その確約さえしてくれればあと一日くらい待つわよ。
「いや、まぁそこはクロウさんにお任せ」
うん、やっぱりクロウに丸投げするわけね。
まぁいいけど……いや、あまりよくないかも。
「明日、話そう」
黄金週間中だけど明日は平日で出勤だから、たぶん会社で話そうということだと思う。
またどんな難題を用意されるか、考えるだけで恐ろしいというか、なんというか、その、ね。
だから考えるのは止めて今日は楽しもう……と、わたしにしては珍しく前向きになったところで気づく。
そういえばルゥとタマちゃんはこのイベント、初参加ね。
「きゅ!」
「にゃ~」
わたしの掛ける声に、二人……じゃなくて、二匹揃って可愛い声で応えてくれる。
ルゥはキリッと凜々しく、タマちゃんは可愛らしくね。
しかも今回のイベントは二人……じゃなくて二匹には持って来いの内容だもの。
案の定、始まると大張り切り。
ルゥもタマちゃんもその運動能力を最大限に活かし、【ナゴヤジョー】 を派手に脱走してきた金魚やシャチたちを狩りまくる。
第三回公式イベント 『第二回ナゴヤジョーに異常発生! スタンピードに備えよ』
なんだかおかしな命名になっているけれど、それが今回のイベント。
もちろんこのおかしな号令を発しているのはNPC長官です。
まぁこれは運営が用意したシナリオだからNPC長官に罪はない。
所詮は矢面に立たされるのが役目の、文字通り運営の傀儡だからね。
でも内容は少し変わっていて……まぁ全く同じでは盛り上がらない。
NPCどころかイベントまで再利用する物臭運営だけど、そのままではないところも毎度のこと。
今回は内容というか、設定そのものをいじってきた。
そもそも去年のこのイベントは六月頃に行なわれ、内容はまさに金魚掬いだった。
わたしを含む全てといっても過言ではないプレイヤーは、そのアットホームさにまんまと騙されて地獄絵図の完成に貢献してしまった。
うん、まぁわたしとクロウは逃れたけどね。
そうして終了したあのイベントでは、【ナゴヤジョー】 から溢れてきた金魚やシャチたちをポイで掬っていたけれど、今回のイベントは鯉のぼり……じゃなくて、子どもの日イベント。
なのでポイは使わない。
代わりに使うのは……なによ、これ?
小刀?
フォルム自体は片刃の日本刀。
でもサイズがね、小さいの。
こどもがチャンバラごっこに使うオモチャの刀みたいなサイズ。
いや、まぁこどもの日イベントではあるけれど、無理矢理にこじつけた感が半端ない。
それどころかオモチャの兜まであって頭にかぶれるっていうね。
最近少し忘れ気味だったけれど、ここの運営は変なところで演出過剰。
どうやらそれが今回の演出らしい。
あくまで演出
とはいえいい歳した大人がこんなコスプレモドキを装備するはずが……と思ったら、JBが嬉々として 「これ、面白いっす」 と装備していた。
そこはまぁJBだし。
楽しそうに刀を振り回す姿はまるで幼稚園児そのもの。
えっと……いや、うん、まぁJBが楽しいならそれでもいいの。
楽しく遊んでくれるのが一番だからね。
そんなJBを見て次に乗ったのが脳筋コンビ。
さらにはアキヒトさんが乗って、挙げ句にはトール君たち学生組まで。
美沙さんもね
「こういうの、漫画とかで見たことあります」
「それ、どんな漫画?」
「コスプレっすかね?」
「コスプレっていうの?」
「全然違うと思いまーす」
「うわーこれさぁ、素手で殴るより削れねぇ」
「マジ金魚が一撃で落ちないとか、どんだけー?」
オモチャの刀を振り回してチャンバラを始めるメンバーたちを見て無邪気というか、その……不覚にも以前に脳筋コンビが言っていた 「男は何歳になっても少年の心を持っている」 という言葉を思い出してしまった。
まぁちょっと違うけど。
だってよく言えば無邪気だけど、悪く言えば幼稚っぽいだからね。
男の人同士だとどう思うかわからないけれど……だってほら、わたしは生まれて二十四年、男性になった経験がないからね。
だから男心なんてわからないけれど、これ、女の人のあいだでは好き嫌いが分かれるところだと思う……というわたしの意見に 「喪女が言っても説得力ねぇよ」 というカニやんの突っ込みが入る。
でもカニやんの頭にも兜が乗っており、手には刀がしっかりと……
ちょっとカニやん?
「これおもろいて。
俺のSTRで金魚落とせないのわかるけど、柴やんたちでも一撃無理とかおもしれぇ」
なに、それ?
意味がわからなくて、とりあえずわたしも自分のインベントリから、運営がプレイヤー全員に送った今回のイベントアイテム一式……はいいわ。
刀だけでいいです。
というわけで刀だけを取り出してみる。
そして近くを泳いでいた金魚を……と思ったら、いつのまにか足下にいたルゥがタイミングを見計らったように大ジャンプ。
いきなりルゥの超絶可愛い顔が近づいてきた! ……と思ったら大きな口を開け、わたしが狙いを定めた金魚をバックン。
あぁっ!!
華麗に着地したルゥは、可愛らしくおすわりをして満足そうな顔で舌なめずり。
そしてわたしを見上げ……その目はなにを期待しているの?
ご褒美?
それとも褒めて欲しいのかしら?
この時わたしはなにを思ったのか?
自分でもよくわからないんだけど、利き手に持った刀と空いている左手を何度か見比べ、本当に何を考えていたのかわからないんだけど、利き手に持っていた刀でルゥの眉間あたりをぽこんと……本当に軽くぽこんと叩いていた。
うん、まぁ魔法使いのSTRなんて、【幻獣】 には蚊に刺されたほどの痛みも感じないと思う。
超高VITだからね。
刀でぽこんと叩かれたルゥは嬉しそうに 「きゅ!」 と鳴き声を上げると、刀にじゃれつき始めた……と思ったらあっというまに奪われてしまった。
あぁ……
そ、そうかぁ~。
運動神経も筋力も退化の一途を辿るOLは握力もないのね。
お陰様で本当にあっというまに奪われてしまった。
そっかぁ~なるほど……。
泣いていい?
飼い主から奪った刀で楽しそうに遊ぶルゥを見て、わたしは泣きたくなった。
いくら相手が 【幻獣】 だからって、まさかこんなにもあっさりと奪われるなんて思わないじゃない。
でもルゥも飼い主に似てうっかりで、わたしとルゥのやり取りを見ていたタマちゃんに、その尻尾であっさりと刀を奪われてしまう。
「きゅ~!!」
ここで怒ったルゥがタマちゃんに襲いかからないのはよかった。
でも飼い主に泣きつくのも違うと思う。
足にしがみついて……って、ちょっとルゥ、爪を立てないでくれる?
その小っちゃな爪でもガッツリ立てられると痛いです。
とりあえずルゥのご機嫌を取るためにもっふりと抱き上げる。
本当に悔しかったのか……まさかタマちゃんが怖いということはないと思うから、よほど悔しかったのだと思う。
目に涙を浮かべてきゅ~きゅ~と泣きついてくるルゥをモフる。
それにしても、どうしてルゥはタマちゃんに弱いのかしら?
「まぁこいつらデータだし?」
頭に折り紙で折ったような兜を乗せて、そんなクールなことを言われてもねぇ。
もちろんそれでもイケメンなところがカニやんの腹立つところ。
しかも二本ある尻尾で、ルゥから奪った刀を器用に絡め取ったタマちゃんからその刀を受け取り、両手に刀を持って 「お、二刀流!」 とかはしゃいでるし。
マジ小学生男児ですかっ?
本来武器は一つしか装備出来ないはずだけれど、どうやらこのイベント用アイテムの刀は二本まで装備出来るらしい。
うん、チャンバラごっこに二刀流はよくあるものね。
演出過剰な運営は、そこまでを見越して二本装備出来るよう設定していたのかもしれない。
しかもなぜかカニやんの二刀流を見て、柴さんたちまでが真似をして互いに刀を融通し合い 「お、二刀流」 とか 「カッコイイ」 とか言ってさらにはしゃいでいる。
えーっと、小学生男児のあいだでは、密かに二刀流が流行っているのでしょうか?
ごめん、わたしにはなにが楽しいのかわからない。
「そういうところは女の子だな」
そんなことを言いながらわたしの頭をポンポンするクロウも、ひょっとして二刀流にはしゃぐ小学生男児ですか?
いや、別にそれでどうこう思うわけじゃないけれど、その、ちょっと意外だなと思っただけで……
「どうだろうな」
凄く優しい顔で笑われ、まんまとはぐらかされてしまう。
うぅ……卑怯よ、そんな優しい顔で笑うなんて!
おかげで頭に血が昇り、顔が熱い!!
丁度いいところにルゥの頭があったから、そのもっふりとした癖っ毛に顔を埋めて隠す。
両手が塞がっているからね、近くに手近な木はあるけれどしがみつけません。
もう!!
しかもカニやんってば、両手に持った刀で近くにいた金魚をポカスカと殴る。
けれど本当に落ちない。
うん、いや、まぁ柴さんたち鉄筋STRが一撃で落とせないのだから、当然と言えば当然かもしれない。
前回のポイにも攻撃力は無かったけれど、どうやら今回の刀にも攻撃力は無いらしい。
そうでなくてもカニやんは非力だからね。
その足下にいたタマちゃんが、カニやんの周囲にいる金魚やそこそこ大きなシャチを、二本ある尻尾で器用にビシバシとはたき落す。
普段はカニやんに対してだけ塩対応のタマちゃんだけど、こういうところでは飼い主至上主義なのよね。
しかもさりげなく、スマートに。
本当にさすがだわ。
一応ね、わたしもクロウから借りた刀で試してみたけれど、一番小さな金魚ですら落とせませんでした。
でも試しに素手で殴ってみたら落ちた……ということは何?
この刀はプレイヤーの火力を落とすための運営の陰謀?
しかもみんな、まんまとはまってるし。
素手やいつもの装備で叩けばいいのに、ムキになって……ううん、凄く楽しそうに刀で叩き続けている。
さすがに巨大シャチは無理。
あってなきが如し刀の火力では、どんなに柴さんたちが頑張っても落とせない。
それどころか頑張りも虚しく……
バックン!!
見事なまでにバックリ食われる。
巨大シャチは巨大シャチでも、幸か不幸か銅シャチ。
金シャチほどの火力が無いおかげか、HP残量一桁でギリギリセーフとか。
さすがムーさん、悪運が強い……というか、しぶとい。
「ヤベっ!!」
さすがに落ちると焦ったムーさんを、柴さんが素手でシャチの口を腕力で開かせようとする。
ここでムーさんが 「ファイトー!」 と声を掛けると、柴さんが一際気合いを入れて 「いっぱーつ!!」 と応えながら力む。
さすがは鉄筋コンビ……じゃなくて脳筋コンビ。
ナイスコンビネーションと言いたいところだけれど、とりあえず早く脱出してよ。
「起動……焔獄」
どうせPK出来ないし、見ているのも面倒臭くな……ゲフゲフ……えっと暑苦しいので、クールダウンしたくて 【焔獄】 を投下。
シャチの口にバックリと挟まっているムーさん。
そのムーさんを助けようとしている柴さんごと、銅シャチをこんがりと焼いてみました。
【焔獄】 でこんがりと焼いてクールダウンにはならないと思うのですが、そこはグレイなのでw
このあと3つあるエリアに散ったメンバーたちですが・・・