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636 ギルドマスターは再来する悪夢を警戒します

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!

『ってかもう女王は有名だったからな』

『面白そうだと思って』


 当時からわたしが有名だった?

 ん? どういうこと?

 あ、あれ? 柴さんたちのギルド加入前に 【灰燼(かいじん)】 発動させてたっけ?

 んー……


 思い出せない


 いくら考えても思い出せないのよね。

 わたしなりに 【灰燼】 の発動はちょっとショックで……だってあんなにぶっ壊れたスキルだとは思わなかったし。

 凄い数の犠牲者も出したしね。

 そのショックのためかあの辺りの記憶が曖昧で。

 もちろん思い出したくもないというのもあると思う。

 結局思い出せないまま四月も終わり、トール君たち学生組は一つずつ学年が上がって一ヶ月近くが経過。

 わたしたち社会人組も年度末に人事異動、そして新入社員とともに新年度を迎えて一ヶ月近くが経過。

 うん、まぁ時間の流れは年齢に関係なく平等だからね。

 ただ歳をとると時間の流れを早く感じるようになるっていうじゃない。

 そのせいかしらね?

 バタバタしているあいだに、気がつけば黄金週間(ゴールデンウィーク)という感じ。


 早っ?!


 わたしがいる営業部に新入社員の配属はまだだけど、新人研修に関わる部署はお迎え準備に年度末からバタバタ。

 その影響か社内がざわついて、まだ新入社員と関わらない部署もざわざわ。

 おかげでわたしも落ち着かないまま、でも幸いなことに大きなミスをすることもなく、四月の末から始まる黄金週間(ゴールデンウィーク)を迎えられそう。

 あ、ちなみにトール君と美沙さんは新学年になっても同じクラスに。

 奏大(そうた)君や、噂に聞く美人が大好きな芳人(よしと)君もね。

 でも二人の仲に進展はない感じ。


 どうなの?


「あんたが言うのか?」

「わたしが言っちゃダメなの?」

「立場を弁えんか、この喪女が」

「身の程知らずにもほどがあるんじゃ」


 なぜかカニやんに続き脳筋コンビにも打ちのめされる。

 わたし、なにかおかしなこと言った?

 そんな容赦ない言葉でタコ殴りにされるようなこと言った?


「理解出来ないところがグレイさんだよな」


 恭平さんにも言われるのね。

 うん、わたしそんなに悪いことしたかしら?


「したというか、言ったというか」


 ちなみにわたしが言う二人とは、もちろんトール君と美沙さんね。

 奏大君と、名前しか知らない芳人君のことではありません。


「それ、誰も訊いてないから」

「そんなんわかってるし」

「そこ、疑うとこちゃうし」


 そしてやっぱりタコ殴りにされる。

 なんなのよ、もう! ……と噴火しそうになったら、カニやんに抱え上げられたタマちゃんに肉球パンチを(ひたい)にお見舞いされて脱力しました。

 なかなかやるわね、カニやんも。

 おかげで 「ぷぎゃー」 じゃなくて、「ぷしゅー」 と怒りが抜けてしまった。

 それこそなにに怒っていたのかも忘れるくらいにね。


「おぅ……ぶ……」


 わたしが贈った褒め言葉に、自慢げに答えようとしたカニやんだったけれど、「下ろせ」 と言わんばかりのタマちゃんに尻尾で往復ビンタをお見舞いされる。

 さすが気まぐれな愛され女子ね、飼い主にも容赦がないわ。

 ちなみにルゥと同じく、タマちゃんの肉球パンチもとっても優しく吹っ飛ばされることはなかった。


「いやいやいや、ワンコは俺、吹っ飛ばしてるから。

 何回吹っ飛ばしたと思ってるんだよっ?

 タマもー! 飼い主の(かたき)をうっ……」


 どうやらタマちゃんに仇をとってもらおうとしたらしいカニやんは、嘆き節をぶちまけた瞬間に再びタマちゃんの、二本の尻尾で同時往復ビンタをされて黙らされた。

 ねぇカニやん、馬鹿なの?


「懲りねぇな、カニも」

「お前も学習しろよ」


 カニやんを愛して止まない二人のお墨付きをいただきました。

 やっぱりカニやんは馬鹿なのね。

 カニやんには即座に 「あんたに言われたかねぇわ」 と言われ、二人にも 「あんたもな」 と言われてしまう。


 なぜ?


「喪か腐の違いでカニと女王は同類やからな」

「気づいてない分、カニのほうが(たち)悪くね?」


 というわけで、カニやんのほうが馬鹿ということで決着がつきました。

 お猫様のご要望に逆らえないカニやんは、シブシブながらタマちゃんを下ろしつつ 「俺は腐じゃねぇ」 と最後まで抵抗を試みていたけど、当然ながら誰も聞くわけがなく立派な腐兄となりました。

 そして自分の足で立ったタマちゃんはするりとカニやんの手を抜け出し、わたしの足下にやってくるから小さな頭を撫で……ようと思ったけれど止めておく。

 少し離れたところを、いつものようにフンフンフンフン……と散策していたルウの目がこちらを見たと思ったらギラーンと光り、短い足で猛ダッシュ。

 最後は力強く地面を蹴ってロケットランチャーよろしく、わたしに突っ込んできた。


 いったーいっ!!


 運動神経のない……いえ、昔はありました。

 たぶん中学生くらいまでは人並みにあったの。

 でも現役を退いた今となってはすっかり荒廃し、なんの価値もない遺物と成り果ててしまい機能せず。

 【幻獣(ルゥ)】 の痛烈な頭突きを胸に食らい、痛みのあまり床をのたうち回るわたしに脳筋コンビがとどめを刺してくれる。


「だからそういうところな」

「ほら見ろ、同じことしてやがる」


 カニやんだけは 「俺の(かたき)」 とか言ってタマちゃんを褒めようとしたけれど、するりと逃げられて涙を飲む通常運転。

 こんな感じに 【素敵なお茶会(ギルド)】 自体が通常運転で迎えた黄金週間(ゴールデンウィーク)で、あるイベントが開催された。

 去年も行なわれたあの悪夢のイベント。


 一見アットホームなファミリーイベントに見せかけて、ラストで大量虐殺(ジェノサイド)による大どんでん返しが行なわれたあの恐怖イベント。

 幸いにしてわたしとクロウは無事にやり過ごせたけれど、一見単純に見えるアットホームな内容に、うっかりファミリーイベントを楽しんでいたプレイヤーのほとんどが油断に油断を重ねてラストで落ちるという悪夢を見た。

 何を考えているのかわからないけれど、運営はあの悪夢をもう一度繰り返したいらしい。

 ここの運営の考えることは本当によくわからないけど、さすがに一度経験しているプレイヤーは、二度目は引っ掛からないと思う。

 少なくとも用心すると思う。

 極めて学習能力の低い、わたしやカニやんとは違うから。


「あんたと一緒にするな!!」


 そっか


 あれからもう一年が経ったのね。

 懐かしいような、懐かしくないような、ちょっと複雑な気持ちがするわ。

 そういえば去年もこのぐらいの頃に開催されたから、ひょっとしたら鯉のぼりの代わり、つまり子どもの日イベントのつもりだったのかもしれない。

 しかも今年は規模を拡大し、開催期間は平日を含めた黄金週間(ゴールデンウィーク)の一週間。

 鯉の代わりに 【ナゴヤジョー】 に生息している金銀銅と、色もサイズも様々なシャチを解き放って子どもの成長を祈願するらしい。


 御利益なさそう


「あってたまるか」

「あいつらバックンバックンよく食うし、ビッチバッチ跳ねるしな」

「ラストは対策せんと、また逃げ場がなくなる」

「いやーあれは大人しく落ちたほうがいいっすよ」

「俺、圧死しました」


 去年の経験者たちが口々に体験談やら教訓やらを口にする中、トール君はいつものように申し訳なさそうに自己申告。

 大丈夫よ、ほとんどみんな落ちてるから。

 気にしなくてもいいのに。


「俺、途中で寝落ちもしてるっす」

「それ、俺もしました」


 そういえば朝っぱらから復活要請(S O S)が来てたわね。


「しかもギルマス、俺を無視(スルー)して通り過ぎたんすよ」


 そ、そんなこともあったかしら?

 えっと……さすがにそこまでは覚えてないわ。

 そういえば美沙さんは初めてね。


「楽しみです!」


 う……うん、まぁ楽しみというか、その、騙されないように気をつけてね。

 よかったらトール君、気をつけてあげて。


「あ、は、はい。

 その、頑張ります」


 この時のわたしに他意はなかったけれど、トール君が顔を赤くするから、わたしも余計なお節介をしてしまったのではないかと慌てて美沙さんを見る。

 でも彼女は親指を立てて 「GJです!」 だって。

 お褒めにあずかり光栄です。


「ところでマメは参加しないの?」


 イベント開始時刻を待つわたしたちはギルドルームに集まって話していたけれど、いつもギルドルームにいるはずのマメの姿が見当たらない。

 開始時刻までまだ30分以上あるとはいえ、そろそろ各エリアに散開しようかという頃になっても姿を見せないから誰にともなく訊いてみる。

 このイベントは前回開催時と同じく、事前登録(エントリー)は不要。

 誰でもいつからでも気軽に参加出来る。

 それこそレベル制限すらなく、去年はハルさんや、ゲームを始めて間もなかったキンキーも参加していたはず。

 今回は期間も一週間と長いから慌てる必要もないけれど、ほら、去年は随分とムキになっていたじゃない。

 そのマメが今年は初日から参加しないことが不思議だったというか、拍子抜けというか……


「今年は賞品がないから遣り甲斐がないんじゃね?」


 賞品っ!!


 カニやんの言葉に、わたしは一年前のことを改めて思い出す。

 その、色々とあったというかわたしがやらかしたというか、まぁ紆余曲折があったけれど、最終的にギルド内優勝賞品がなんだったのかを未だわたしは知らないまま。

 そのことを思い出した。


「結局なんだったのっ?」

「なにって……?」

「だから優勝賞品!

 わたし、もらってないんだけどっ?」


 自分で 「賞品」 と口にしてわたしに思い出させたくせに、いざ問われたらすっとぼけるってどういうこと?

 本当に綺麗さっぱり忘れていたけどね。

 でも思い出させてくれた以上、とぼけてもいいけど頂戴よ!!


 優勝賞品!!


「頂戴って……あー……知りたい?」


 くれるんじゃなくて 「知りたい」 なの?


「たぶん俺があげるわけじゃないし」


 ん? んん? じゃあ誰がくれるの?

 なにをくれるの?

 しかもどうしてここでカニやんの目がクロウを見るの?

 よく見たらカニやんだけでなく、脳筋コンビやの~りんにトール君たちまでがクロウを見てるじゃない。

 なに? クロウがくれるの?


「……明日、話そう」


 大きな溜息を吐いたクロウが、ようやくのことで口を開いたと思ったらまだお預け。

 すでに一年お預けを食らっているのに……すっかり忘れていたけれど思い出せば一年経っていたわけで、まだお預けなのっ?!

 しかも明日というこのパターンは、仮想現実(ゲームの中)ではなく現実世界(リアル)で話そうという意味よね?

 今日は黄金週間(ゴールデンウィーク)初日とはいえ、明日は金曜日で平日。

 有休を取っていないから当然出勤です。


 つまり会社で……

お忘れかもしれませんが、作中は去年のカレンダーで進行しておりますw


久々にタマちゃんを登場させつつ前話から次のイベントへの導入・・・と思ったら脱線が止まらず、イベント開始時刻まで入らず。

次はあのイベントが再び開催されます。

もちろんパワーアップして・・・(汗

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