635 ギルドマスターは剣を折ります
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「あ…………」
この日四回目の 【ゴショ】 攻略を始めたわたしたち。
でも四回目なのはわたしとクロウ、それにご指名を受けたカニやんの三人だけ。
脳筋コンビと一緒に野良パーティで 【ゴショ】 に潜っていたカニやんを無理矢理回収してね。
その指名をし、無理矢理に回収した真田さんと串カツさんは久々の 【ゴショ】 だったらしい。
その証拠に、このIDの特徴とでもいうべき狭い通路や等間隔にある柱などを斬る……ことはできないか。
破壊不可の置物扱いだからね。
派手に壁に剣をぶつけて耳障りな音を派手に響かせていた。
その最中、一際耳障りな音が耳に痛い……と思ったら、音を立てた真田さんが間の抜けた声を上げた。
ん? ちょっと真田さん、あ? ……ってなに?
いま 「あ?」 って言ったわよね?
その 「あ?」 はなに?
「どうしたのっ?」
不吉な予感を覚えたわたしは、少し強めに真田さんに問い詰める。
いや、その、問い詰めるなんてことはしてないと思う。
していないけれど、してもよかったかもしれない。
だってよりによって 【ゴショ】 攻略の、最初の最初にあるふるい。
大量湧きの真っ最中のこと。
忙しさの最中に覚えた不吉な予感に、どストレートに 「どうしたのっ?」 と訊けば、真田さんからはとんでもない返事が返ってきた。
「ヤベ、折れた」
ん? 折れた?
折れたというのはひょっとして剣?
剣の耐久値が0になって使い物にならなくなったということ?
はっ? このクソ忙しい最中に剣が折れたってどういうことっ?
「どうって、耐久値0。
斬れねぇ~」
斬れねぇ~……じゃないわよ!
武器を含めて、装備の耐久ぐらい常時把握しておくものでしょ?
確かに気前よく壁をぶった切ろうとしたけれど、さすがにあの一撃で100%から一気に0になったということはないと思う。
ということは、はじめから削れていたということよね?
そんな剣でダンジョンに潜らないでよ!
「いけるかと思って」
いま現在いけてないじゃない!
「すんません。
この人、こういうところもクズと同じ人種なんで」
真田さんのせいで、平安貴族と随身の相手を一手に引き受けることになった串カツさんは超多忙。
それでも真田さんを擁護……してないか。
だってノーキーさんと同類扱いしているもの。
よりによってあのノーキーさんと同る……い?
いや、待って。
そういえば何か既視感がある。
間違いなく脳裏に閃く記憶があるわ。
確かあれはノーキーさんと初めて会った時のこと。
うん、あの瞬間も衝撃的だったわ。
瞬間というか、結構長い時間見ていたと思う。
『あー……あれね』
樹海にいるらしいクロエが、少し疲れたようなつぶやきをするぐらい衝撃的というか、意外というかなんというか。
ちなみにこれについては、わたしとクロウがノーキーさんと遭遇した少し後で、ノーキーさんの回収に現われた真田さんも 「あれな」 と苦笑いを浮かべる。
【素敵なお茶会】 と 【特許庁】 のファーストコンタクトね。
もちろん当時はギルド結成前だけど。
肝心の、ノーキーさんとの初対面になにがあったのかといえば……あったというか、転がっていたのよ。
もちろんノーキーさんがね。
それもよりによって 【ナゴヤドーム】 の近く。
【ナゴヤジョー】 どころか、どこかに行こうとすれば必ず通るくらい 【ナゴヤドーム】 の近くでね。
あの周辺の、茂る草むらの中から足が見えていたの。
初心者中の初心者、ベストオブ初心者がウロウロしているところでもある。
それで初心者が……といってもわたしたちもまだまだ初心者に毛が生えた程度だけどね。
いや、クロウもクロエもセブン君も、当時から凄かったけど。
わたしだけがみそっかすでした。
うん、でもあの時はクロウも一緒にいたし……という話には、真田さんから 「あの当時からストーカーしてるからな、このむっつりは」 と突っ込まれる。
とにかくクロウも一緒にいたし、大丈夫かなと思……う間もなく茂みを覗き込んでいた。
恐る恐る
だって怖い人だったら嫌じゃない。
それにわたしは情けないくらい小心者だし、丁度運良く近くに木もあったし。
それで木に隠れるようにこっそりと茂みを覗き込み、通りに足だけをはみ出させて転がっているプレイヤーの姿を確かめてみる。
必要なら救助しなければ……と思ってね。
あ、でもまだ死亡状態からの回復スキル 【リカーム】 は取得していなかったけど。
ほら、初心者に毛が生えた程度のころだったからね。
つまりノーキーさんたちともそのくらい付き合いが古いのよ。
そんでもってわたしはのぞく前に気づきべきだった。
そのプレイヤーの見えている足の部分が、死亡状態を示す半透明ではなかったことに。
でも気づかずに覗き込んで、顔よりも先に、その……えっと、その……お、思い出すだけで恥ずかしくなってきた。
この時はまだ不破さんのことは知らなくて、カジさんもいなかったと思う。
ノーキーさんの装備も今のとは違っていたし。
今のノーキーさんの装備は、テスト版の参加協力のお礼としてもらったものだから。
当然テスト版の時には持っていなくて、でも初心者装備より少しレベルの高い装備を、自分なりにアレンジして装着していた。
そのせいで、その……む、胸がね、全開で……。
しかも仰向けに大の字で寝ていたっていうね。
熟睡
そう、この時のノーキーさんは死亡状態にあったわけではなく、ただ寝ていただけなの。
遊び疲れて眠っていただけの、文字通り寝落ち。
いい歳した社会人なのに、この当時からノーキーさんの常識外れは全開でした。
胸も全開でした。
ひぃぃぃぃぃ~~~!!
隠れていた木にしがみついて悲鳴を上げるわたしに、その声を聞いて目を覚ましたノーキーさんがカッと眼を見開き、さらにわたしを恐怖させる。
もうね、恐怖のあまり悲鳴すら止まりました。
ついでに呼吸も止まりました。
しかも寝起きがいいらしいノーキーさんは、自慢の腹筋を最大限に活用してむくりと起き上がるとわたしを見てニヤリと笑う。
その顔にGが這っていたことは今でも内緒です。
あとで聞けばこれは寝ぼけていたって……こういうところまで個性的なのは、さすが 【特許庁】 の主催者とでもいうべきかしら?
もちろん教えてくれたのはあとで回収に来た真田さん。
だから真田さんはこのあとのノーキーさんのやらかしも知っているはず。
なんだかんだあって……わたしとクロウ、それにクロエとセブン君もいたかしら?
ちょっとメンバーの顔が思い出せないけれど、たぶんそんな感じのメンツだったと思う。 それにノーキーさんを含めてパーティを組み 【ナゴヤジョー】 に潜ることになった。
ここまではいい。
でもこの先はよくなかった。
なにがよくなかったって?
もうおわかりかと思うけれど、ノーキーさんの剣の耐久がはじめから0だったっていうね。
最初から0よ、0。
それも最初から。
よくそんな剣で……と思う間もなく落ちたのもご想像通りです。
当時はレベル上限どころかまだまだ低かったし、当然HPも低ければSTRもなくVITも低いからね。
当然サックリと落ちました。
馬鹿なのっ?!
しかも全然斬れないことに不審を抱かず振り回し続け、あっというまに無数の金魚にたかられ、最後はシャチにバックリ。
あとで気づいたことだけど、たぶんあれはシャチの振りをして紛れている鯉だったんじゃないかしら。
多分そうだと思う。
そしてノーキーさんのSOSを受けて真田さんが駆け付けたというか、粗相をやらかしたノーキーさんを回収しに来たというか。
ノーキーさんと真田さんとはそれ以来の付き合いです。
だからね、真田さんはそんな強烈なわたしとノーキーさんの初対面エピソードを知っている。
それなのに同じ轍を思いっ切り踏んづけてるじゃない、真田さんってば!
思い切り踏み抜いてるわよ!!
本当に馬鹿なのっ?!
それこそ最初から0だったノーキーさんには及ばないまでも、あんな一撃で0になるほど耐久の削れた状態で持ち歩いていたのはさすが同類。
串カツさんになにを言われようと反論の余地なんてなかった。
一応ね、たまたまダンジョンを出て、次のパーティと交渉中の脳筋コンビが二人を擁護するところによると、確かにそこまで装備の耐久が削れる前には修理する。
するけれど、だからといって一回ダンジョンを攻略するたびに修理することはない。
それが重火力ダンジョンである 【ゴショ】 であっても。
二、三周して耐久を確認。
そこで必要なら修理するし、大丈夫そうならもう一周……多くの剣士はそんな感じらしい。
『さすがに折れるまではやらんけどな』
『さすがに脳筋が過ぎねぇか?』
二人に脳筋が過ぎるとかいわれるなんて、真田さんもノーキーさんも限界突破してるわ。
さすがにすぐインベントリから予備……かどうかはわからないけれど、素早く換装。
そのへんの手はずの良さはさすが出来る副主催者です。
出来ることなら耐久0がになる前に換装して欲しかったです。
でも普段使っていない剣だったためか、このあとも真田さんは壁やら柱やらを斬りまくり。
斬れないけど
しかも 【漂着者】 がいたのは、よりによって一番遠い凝花舎。
おかげで本日二度目の、女御たちによる雅楽の演奏をフルコーラスで聴くことが出来ました。
もちろん望んでなんていなかったけどね。
むしろ楽が出来るのなら、いつもの最短コースにいて欲しかったわ。
「いや、前のこともあるし。
あの人たち、どこに 【漂着者】 がいても全部回るんじゃね?」
無事……とは少し言い難かったけれど、まぁ一度も誰も落ちなかったし良しとしましょう。
ダンジョンを出たあとそんなことを言ってにひっと笑うカニやんに、みんなと一緒に 【ナゴヤジョー】 に潜っている美沙さんが尋ねてくる。
『カニさんはいなかったんですかー?』
「ん? 俺がなに?」
『だからーその時にカニさんはいなかったんですか?』
ウィンドウを開いてインベントリを確認していたカニやんは、ようやく美沙さんのいいたいことが理解出来たらしく 「ああ、その時ね」 と答える。
二人が言う 「その時」 とはわたしたちとノーキーさんの、初対面の時のことらしい。
「いないよ。
俺、テスト版は参加してないから」
そう、カニやんがこのゲームを始めたのは正式サービスが始まってからのこと。
わたしたちと出会った時にはすでに 【素敵なお茶会】 を結成しており、まだメンバーにはセブン君がいた。
そしてすぐ五人目のメンバーとして加入し、間もなくセブン君が新たに 【鷹の目】 を結成するために脱退。
また四人になったわたしたちは新たにメンバー募集することを話し合って決め、わたしが主催者なのはそのままに残る三人に副主催者権限を渡した。
その直後にカニやんの紹介で脳筋コンビが参加。
さらにの~りんが参加……の順番だったと思う。
そうして少しずつ増えたメンバーは、時々減ったりして今に至る。
減った主な原因はクロウです。
これは今さらだから言わないけれど。
『あ、思い出した。
丁度あの時は夜勤だったんだわ、俺』
『俺もそうだった気がする。
んでカニ放置してたらギルドに入ってて』
柴さんとムーさんも元々知り合いというわけではなく、カニやんと同じく野良パーティで何度か一緒になって仲良くなったらしい。
たまたまわたしたちがカニやんと知り合った時、二人は夜勤のためにいなかった。
それで夜勤シフトを終えたところでカニやんと会い、ギルドに加入したことを知り、誘われるままに二人も入ってくれた。
『ってかもう女王は有名だったからな』
『面白そうだと思って』
面白そうってなに?
え? そんな理由で加入してくれたの?
あの時は意外なくらいあっさり加入してくれたと思ったけど、でもそれはカニやんと一緒に遊ぶのが目的だと思っていた。
違うの?
前話で入れられなかったノーキーとグレイたちの初対面エピソードです。
もう少し脳筋コンビとカニやんのイチャイチャを続けようかと思ったのですが、クドいので止めておきましたw
(次話に続くかもしれないけれど・・・汗