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634 ギルドマスターは筋肉を堪能します

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!

「よくぞ発見してくれた」


 【漂着者】 を発見、無事に救出して 【ゴショ】 をクリアして報告に来たプレイヤー(わたしたち)に、少し背を逸らし気味に後ろ手を組んだNPC長官が労いの言葉をかけてくる。


「長く妖気にさらされていたためか、容態は極めて悪くまだ詳しい話は聞けていない。

 だが我々の医療技術を持ってすればすぐに目を覚ますだろう。

 心配はない。

 詳しい話が聞け次第新たな調査を依頼する予定だ。

 今はゆっくり体を休め、次の任務に備えて欲しい」


 ここで 「報酬は○○銀行のいつもの口座に……」 みたいな会話があるかといえば、ない。

 もちろん経験値やゲーム内通貨、アイテムなど、ちゃんとクリア報酬はある。

 でも自動受領のため特にイベントは発生しない。

 インフォメーションすら出ない。

 でもいつ何時(なんどき)不具合(バグ)が起こるかわからないし、報告終了後は必ずインベントリを確認しておく。


 うん、大丈夫


 本来ならこのあとすぐに次のクエストを受諾するけれど……いちいち来るのが面倒だからね。

 それにいざクエスト進行……と思った時に受諾し忘れていたら洒落にならないし。

 でも今回に限っては、クリアしたばかりの 【海の向こうより来たりし者】 が最新クエスト。

 まだ先がない。

 だから受諾するものはないけれど、代わりに……


「さぁ行きましょう!」


 報告が終了して早々、すぐ横に立って待っていた真田さんが、わたしを連れ去るべく強引に腕を組んでくる。

 もちろん行き先は 【ゴショ】。

 ………………いやいやいや、ちょっと待って。

 【ゴショ】 は入る前に必要な装備(アイテム)があるから。

 そもそもわたし、行くなんていってないし。

 クロウだって。


「クロウはいいのよ。

 どうせ黙ってグレイちゃんについてくるんだから、このストーカーは」


 笑いながらそう言った真田さんはチラリとクロウを見る。

 うん、甘いわよ真田さん。

 このままわたしを強引に連れ去って付いてくるのはクロウだけじゃないから。


「クロウ以外?」


 他になにが? ……と尋ねた真田さんは、わたしが答えるより先に 「あ”ぁ”ぁ”ぁ”ー」 と悲鳴を上げる。

 どうやらちょっと遅かったみたい。

 反射的にわたしの腕を放した真田さんは、その両手を広げ……たまに外人さんがするオーバーリアクションみたいな感じに両手を広げ、天井を仰いで喚く。


 うるさい


 その声の大きさのあまり、思わず耳を塞いでしまう。

 まぁそんなことをしても無駄だけどね。

 この距離だと、嫌でもエリアチャットで聞こえてしまう。

 ここは仮想現実(ゲームの中)で、データが全てだから。

 手が届く距離とか関係なく、インカムを切らなければ嫌でも聞こえるのよ。


「ちょっとグレイちゃん、ワンコーっ!」


 知ってます


 それまでずっと、わたしたちにはまるで興味が無いといわんばかりにNPC長官室を、フンフンフンフン……と散策していたルゥ。

 実際にプレイヤー(わたしたち)がNPC長官と話している様子は、ルゥにはまるで関係のないことだし。

 見た目にも、ただNPC長官の前に突っ立っているだけだしね。

 わたしとしても、暇を持て余されるより楽しく過ごしていてくれるほうがいい。

 だから好きにさせておいた……といってもルゥのほうは、わたしが置いていくとでも思ったのかしら?

 時々チラチラとこちらを見て、でも 「僕は気にしてませーん」 と言わんばかりの素っ気なさを装ってフンフンフンフン……チラ、チラ、フンフンフンフン……みたいなことをしていた。

 そのルゥが、偶然真田さんがわたしを連れ去ろうとしているところをチラ見したらしい。

 その短い足でビックリするくらいの速さで駆け付けると、真田さんのがっしりとした足にガップリ。

 そして真田さんが悲鳴を上げた。


 今ここ


 ちなみにルゥはワンコではありません、(フェンリル)です。

 しかもチビフェンリル、古狼フェンリル、巨狼フェンリルと三段階に変化出来るのよ。


 凄いでしょ


「グレイちゃんが可愛がっているのはわかった。

 わかったから剥がしてくれない、これ?」

「嫌」

「ちょ、嫌ってなによ?

 ねぇグレイちゃん、嫌ってなに?」


 わたしの返事になぜかショックを受ける真田さん。

 なにと訊かれても嫌は嫌よ。

 わたしとしてはルゥの自主性を重んじたいの。


「自主性ってあんた、子育てってわけでもあるまいし」

「子育てどころか躾の一つも出来ません」

「なに、それ?」

「ルゥってば、とっても自我が強くてわたしの手には負えないの」

「どうしてそんなものを飼ってるのよっ?!」

「そこは小林さんに訊いてくれる?」

「誰、それっ?!」

運営(なか)の人」

「は~っ?」


 ん? これって別に秘密じゃなかったわよね?

 ちょっと不安になってクロウを見れば 「そろそろ外してやれ」 だって。


 なに? クロウは真田さんの味方なの?


「うるさいから」


 なるほど


 そう言われると納得するしかないわね。

 おいで、ルゥ……と呼ぶと、ガッツリ真田さんの筋肉を堪能していたルゥは大きな耳をピクピクッと動かす。

 もう一度 「ルゥ」 と呼ぶと、いつものようにペッと真田さんを吐き出したルゥは一目散にわたしのもとに戻ってくる。

 そして足下に可愛らしくおすわりすると期待に満ちた目で見上げて来るから、もっふりと抱き上げて今度はわたしがルゥのモフを堪能する。

 なぜかその前で、クロウと真田さんが交渉を始める……って、これ、なんの交渉?


 ん? んん?


「え? いや、だからクエスト。

 一緒に行ってくれるんじゃないんすか?」


 真田さんに代わり、わたしと一緒に交渉が終わるのを待っている串カツさんが答えてくれる。

 あ~……うん、そういえばそんな話をしてましたね。

 真田さんてば、会った早々に勧誘してきましたね。


「【ゴショ(あそこ)】 はちょっと火力欲しいんで」


 ノーキーさんと不破さんは休日出勤で夜まで不在。

 もっともあの二人がいたとしても、【ゴショ】 は火力ゴリ押しダンジョンだから、決め手には欠けるとはいえ範囲魔法や中長距離攻撃が不可欠。

 数の少ない銃士(ガンナー)はともかくせめて魔法使いはいないとね。

 それで前回同様、わたしとカニやんに白羽の矢を立てた……と。

 OKです、ここまでは理解出来ました。

 串カツさんの説明でね。

 そして一方では真田さんとクロウの交渉が進み……といっても、クロウが二人に出した条件は、先程脳筋コンビが野良パーティに出したものと全く同じ。


 まぁこの二人なら、クエスト受諾者が中途離脱(リタイア)した場合……という条件は関係ない。

 まず落ちることがないからね。

 むしろ予定されているメンバーだと、ヤバいのはわたしとカニやんよね。

 一緒にクエストの報告に来なかったカニやんはそのまま 【ゴショ】 に残り、脳筋コンビと一緒に野良パーティに参加しているらしい。

 たぶんクエストの報告も二人と一緒に来るつもりじゃないかな。


『いや、一人で行けるし。

 一人じゃトイレにもいけない女子中高生やあるまいし』


 またカニやんったら、JKやJCに喧嘩を売るようなことを言って。

 しかも今のギルドには現役のJKがいるのよ。


『あーあれですよねぇ。

 結構面倒臭いんですよねー』


 その現役JKの美沙さんが、それはそれは面倒臭そうに本音を暴露してくる。

 彼女のいう 『面倒臭い』 は付き合いの面倒臭さと、付き合いを無下にした場合の面倒臭さの相反する両面について。

 まぁね、学生社会にも色々あるわよね。

 わたしも数年前まで女子高生だったからよくわかるわ、もう覚えてないけど。


『覚えてないのにわかるって、あんた、また適当なことを……』


 だって仕方がないでしょ?

 日々のお仕事が忙しくてそれどころじゃないんだから。


「ポーションなぁ」


 クロウが出した条件の一つに、真田さんは腕組みをして 「う~ん」 と考え込む様子。

 【中級】 の解毒ポーションは価格が高騰しているし、かといって調合士も少ない。

 とりあえず今日の午前中を使って自分たちの分はなんとか確保出来たらしい。

 新たにあと三つ……と考えて悩んでいるわけだ。


「一応素材は調達してあるんだが……」


 という串カツさんの補足によれば、無人バザーで現品を調達出来れば良し。

 調合士を探し出せれば、素材の持ち込みは最低条件になるだろう。

 そう考えて双方向から可能性を探るべく素材も多めに調達したらしい。

 あら、素材があるのなら……と一つ提案しようとした矢先、カニやんが 『ちょい待ち!』 と割り込んでくる。

 もちろんその声は真田さんたちには聞こえていない。

 でも言い掛けたわたしが不意に、口を開いたままで動きを止めたからなにかあると気づき、こちらの話が終わるのを待ってくれる。


『まずはハルの予定を聞いて』


 あ、はい、そうですね。

 そこは肝心でした。

 ついでに条件を聞くわ。

 もちろん予定が詰まっていて忙しいなら断ってね。


『三本くらいなら大丈夫ですよ。

 【特許庁】 のサブマスの依頼ですから、貸しを作るつもりでタダでもOKです』


 貸しを作ると来ましたか。

 ハルさんもなかなかの策士ですね。


『キョンの影響かな』


 そう言って笑うハルさんに、恭平さんが 『俺のせいかよ』 とぼやく声が聞こえたと思ったら、すかさずカニやんが付け足してくる。


『貸しを作るついでに特別扱いは今回だけ。

 今後も気軽に頼まれちゃ迷惑だし』


 【特許庁】 に調合士はいないけれど鍛治士がいる。

 凄腕の鍛治士がね。

 そのカジさんにわたしたちも気軽に依頼をしているのに、逆はなしというのはおかしくないか……と問い返したわたしは、カニやんや恭平さんに 『鍛治士なんて何人いると思ってるんだよ?』 とか 『稀少(レア)度が違う』 といったりりか様が聞いたら怒り出しそうなことを言われてしまった。

 実際に数が少ないといわれる銃士(ガンナー)回復系魔法使い(ヒーラー)より稀少(レア)だから。

 調合士より少ないのは短剣使い(スプリンター)だと思う。

 そのぐらい調合士は稀少(レア)職種(クラス)

 しかもハルさんは、課金アイテムの中でも結構なお値段がするはずの 【復活の灰】 を調合出来る稀少(レア)中の稀少(レア)調合士。

 簡単に依頼を受けてその存在価値が下がると、今後の営業に影響が出るとカニやんに忠告される。

 さすがにね、人の営業を妨害するつもりはない。

 だからここは二人の忠告に従い、二人に 「今回だけの特例だけど……」 と勿体ぶった話を持ちかけてみた。


「そういえば 【素敵なお茶会(おちゃかい)】 には調合士がいたわね」

「今回だけでも助かります。

 お願いしてもいいですか?」


 あっけないほど簡単に交渉は成立。

 早速ハルさんに素材を送ってもらうと、わたしたちは 【ゴショ】 がある 【関西エリア】 に移動を開始する。

 ルゥのお散歩を兼ねて少しゆっくり歩けば、たぶん 【ゴショ】 に着く前には出来上がるはず……と思っていたら、意外なくらい早く送られてきた。

 それこそ 【関西エリア】 に着く前に。

 ひょっとしたら誰かの依頼で作っていたのを、先に回してくれたのかしら?

 だとしたら申し訳ない。

 忙しいのなら、調合が出来るまで 【ゴショ】 前で待つのに。


『いえ、そういうわけじゃないんですけど』


 そういうわけではないのならどういうわけなのか? ……というわたしの疑問はハルさんに笑ってかわされ、わたしたちは本日四回目の 【ゴショ】 攻略を開始した。

入れようと思っていたエピソードが入らず。

そろそろ次のイベントに移行しようと思っているのですが・・・(涙

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