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633 ギルドマスターは経験値が足りません

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!

「だったらあの香をなんとかしてよ!」


 淑景舎(桐壺)飛香舎(藤壺)凝花舎(梅壺)、この三つの宮以外に 【漂着者】 が出現するのがデフォなのかどうか、これは要検証。

 だって今回はクロエがいたからね。

 運営、あるいはプログラムが、この腹黒い金髪の毒舌美少年に忖度した可能性がある。

 カニやんには 「んなわけあるかい」 と突っ込みノリで否定されたけど、わからないじゃない。

 だってクロエの本気は猛毒だもの。

 一口で……いえ、掠っただけでコロリと逝ってしまうほどの猛毒よ。

 きっとこのゲーム最凶の猛毒。

 運営だって不具合(バグ)を起こされてはかなわないと思い、忖度した可能性は十分にある……というか、ほぼ確実の忖度です。


「だからねぇよ!」


 カニやんには最後まで否定というか抵抗されたけど、まず間違いないと思う。

 でもさすがにあの猛毒……じゃなくて、弘徽殿の猛煙まではなんとも出来なくて。

 いくらクロエの要求(リクエスト)でも、効果を下げるということも出来ないらしく弘徽殿をクリアしたあとはちょっと休憩。


 ぺぺぺっ!


 口の中が苦ぁ~い。

 うがいをしたいところだけど、これは感覚だけのもの。

 わかってるけど……わかってるけど……苦ぁ~い。

 弘徽殿の女御を落とせば香の効果は終わるけど、この苦みがなかなか取れない。

 おまけに毎回毎回服や髪にまで染みついていないか、気になって気になって仕方がない。

 何度も何度も嗅いで確かめてしまう。

 自分が臭いというのももちろん気になるというか許せないけれど、ルゥに嫌われそうでちょっと怖い。

 だってほら、あの子ってばいつもフンフンフンフン……臭いを嗅いで探索しているから。

 結構臭いに敏感そう。


「飼い主の臭いが変わって驚くかもな」


 驚かれるだけならいいけれど……むしろ、あの大きな目をさらに大きく見開いて驚くルゥの表情を見るのは好き。

 超絶可愛いじゃない。

 たまに口も大きく開けたり、驚き方にもバリエーションがあるんだから。


 はぁ……ルゥ……


 思わずルゥが眠っている腕輪を頬ずりしてしまったら、にひっと笑ったカニやんに 「変態」 といわれてしまった。

 カニやんにはいわれたくありません。

 モフの下僕(ゲボク)には絶対にいわれたくありません。


 変態はどっちっ?!


「グレイさん、目くそ鼻くそを笑うって言葉知ってる?」


 それを言う恭平さんはどっちの味方?


「強いて言えばどちらの味方もしたくない。

 とりあえず回復してよ」


 物凄い超ストレートな本音が返ってきました。

 そしてついでのように、弘徽殿の女御が上げた猛毒ならぬ猛煙で減ったHPとMPの回復を急かしてくる。

 うん、でもまぁさっさと回復をして帝を倒せばルゥに会えるわ。

 すでに 【漂着者】 とは遭遇して救出済み。

 後続を装ったNPCに預けたから、あとは寄り道をせず帝を倒すだけ。

 それでクリアよ。


 万歳!!


 あと少しだから待っててね、ルゥ。

 気持ちを入れ替えたわたしは、まだ苦みの残る口で詠唱し、音の欠けまくった(がく)で舞いを差す帝をみんなでタコ殴……ゲフゲフ……えっとそうじゃなくて、みんなで協力して倒した。

 うん、みんなで楽しく共闘したわ。

 もちろんそのあとはサクッとダンジョンを脱出。

 だってここはちゃんと外に出ないと、下手をしたらまたもう一周だもの。

 あの初見のミスは未だもってわたしの汚点です。


 二度としない!!


 そう誓いました。

 いま誓いました。


「今かよ」


 今ですが、なにか?

 そんなわけでさっさと 【ゴショ】 を出ると、即座にルゥを腕輪から呼び出す。

 いつものようにポンッと中空に姿を現わしたルゥは、可愛らしい声で 「きゅ!」 と鳴いて不思議ポーズを決める。

 そこをガシッと捕まえ……たかったけれど、出来ないのがOLです。

 ほら、運動神経が衰退の一途を辿り、もうほとんど滅んでるからね。

 全盛期はせいぜい中学生?

 高校生までもっていたかどうか、正直自信がありません。

 そんなわけでわたしの運動神経はとっくの昔に滅亡し、今は遺跡と化している。

 でも痕跡が残っているだけで、実際の遺跡のような価値は全くないけどね。

 まぁそんなわけでルゥはポテッと落ち、何が起こったのかを理解するのに数秒を要す。

 キョトンとした顔で周囲をキョロキョロと見回し、結局わからないままわたしの足下にやってくると、抱っこをねだるようにスカートの裾をちょいちょいと爪に引っ掛ける。


 もっふり


 両手に抱え上げて久々に鼻チューでご挨拶。

 でもすぐに抱きしめようとしたけれど、前肢でガッツリと顔を挟まれたと思ったら再度鼻チューを要求される。

 う、うん? まぁいいけどね。


 可愛いし


 するとその様子を見ていた恭平さんに声を掛けられる。


「グレイさん、報告に行くんじゃないの?」

「行きたいんだけど、まずはルゥのご機嫌を取らないと。

 これが終わったら行きます。

 恭平さんも一緒に行く?」


 すると不思議そうな顔をされてしまった。

 わたし、なにかおかしなことを言った?


「いや、そうじゃないけど……とりあえずカニやんが尻尾で遊んでるの、気づいてる?」


 へ?


 視界いっぱいにルゥの顔を見ているわたしは気づかなかったけれど……というか、見えない。

 その見えないところでカニやんがなにをしていたのかと言えば、ルゥのお尻ギリギリに顔を近づけ、ご機嫌にピコピコと動くルゥの短い尻尾に自分の顔をビンタさせていたっていうね。


 どんな変態よっ?!


 なに考えてるのよっ? ……と声を荒らげるわたしにカニやんは嬉しそうな顔をして返してくる。


「いや、普通だし」


 どこが?


 そのイケメンに優しそうな笑顔を浮かべてなにしてるの?

 なに言ってるのっ?

 わたしにわかるように説明して頂戴!


「それは無理」

「なぜ?」

「まだまだモフの下僕(ゲボク)としての経験値が足りないから」


 経験値っ?!


 なにそれっ? ……というところまで会話が進んでようやくルゥが気づいたらしい。

 相変わらずニブニブなんだか……ふっ!

 いきなりルゥが顔にしがみついてきたから、モフッとした腹毛に口を塞がれて変な声が出てしまった。

 目も塞がれて視界も真っ暗。

 でもその代わりに神経が集中した聴覚が、カニやんの 「へぶっ!!」 という変な悲鳴を捉える。

 あとで恭平さんに聞いたところによると、ルゥの短い足に蹴りを食らわされたらしい。

 ついでにそのまま吹っ飛ばされたらしい。


 なにしてるの?


 いや、まぁ魔法使い(カニやん)はVITが紙だからね。

 そんでもってルゥは最強NPCの 【幻獣】。

 軽く吹っ飛ばされたカニやんは、【ゴショ】 周辺にたむろしているプレイヤーたちの中に突っ込み、突っ込まれたプレイヤーたちまで吹っ飛ばされたらしい。

 例えるならボウリング?

 ボウリングのボールとピンみたいな感じにね。

 さすがルゥだわ。

 でもそのおかげか、【中部・東海エリア】 を目指す途中、ついでに散歩を楽しんでいたルゥを見掛けたプレイヤーたちが顔を引き攣らせていたけれど。


 大丈夫なのにね


 だってルゥは基本、わたし以外のプレイヤーに興味はないの。

 だからちょっかいを出さなければなにもしないのに。

 今だってフンフンフンフン……と探索に忙しく、周囲がどんなに騒がしくても全く気にしていないし。

 着いた 【ナゴヤドーム】 のNPC長官室でもね。

 ここはエピソードクエストの受諾と報告で、深夜をのぞけばほとんどの時間帯でプレイヤーがいる。

 中にはここを待ち合わせ場所に使っているプレイヤーもいるらしい。

 そんな中に真田さんを見掛ける。


「あら、グレイちゃんじゃない」


 結局目立つのは嫌だからと一緒には来なかった恭平さん。

 わたしだって目立つのは嫌! ……と言ったけれど、ルゥの飼い主でいる限りそれは無理らしい。

 目立つのは嫌だけれどルゥの飼い主をやめるつもりはない。

 この矛盾にモヤモヤしながらもクロウと一緒に辿り着いてみれば、真田さんは、たまたまここで串カツさんと待ち合わせていた。

 そういえばこの二人も、エピソードクエストは 【ゴショ】 攻略までを終えているはず。

 となると次は、今回追加された 【海の向こうより来たりし者】 の受諾。

 そのためにここで待ち合わせた……ということは、これから挑戦するところ?


「ちょっと火力不足で、どうしようか考えてるところ」


 確かに 【ゴショ】 は、串カツさんと二人では潜れない。

 でもノーキーさんも不破さんも休日出勤で今日はいないらしい。


 ………………


「どうかした?」


 違和感を覚えて黙り込むわたしに、真田さんが尋ねてくる。

 いや、だって違和感がない?

 不破さんはともかく、あのノーキーさんが現実世界(リアル)では普通に社会人をしてるのよ。

 たぶんアバターはかなりいじっている。

 だから現実世界ではあんな派手な姿はしていないだろうし、それぐらいのことはわたしだって想像がつく。

 でもあの性格で社会人?

 ひょっとして会社員とかっ?


徳貴(のりたか)? ああ、あれ、公務員」


 …………………………はっ?!


「だから徳貴は公務員よ。

 話してなかったっけ?」


 てっきり本名やノギさんと兄弟であることを明かした時、職業も話したつもりでいたらしい真田さんは、驚きのあまり、その言葉の意味を理解するのに時間を要したわたしに 「どうかした?」 と首を傾げている。

 言葉の意味というか、職業というか……公務員?


 え? 待って


「いいわよ、いつまでも待つわ。

 だからグレイちゃん、俺たちと一緒に 【ゴショ】 に行かない?」


 そのお誘いについては保留で。

 真田さん的には、わたしが動揺しているこの隙をつけば承諾すると踏んだらしい。

 相変わらず抜け目がないというか、(さか)しいというか。

 ひょっとしたらこの隙を作るため、あえてわたしが驚くであろうノーキーさんの職業を、このタイミングで明かしたのではないかと思えるほど。


「あらやだ、そんなわけないじゃない」


 そんなことを言って笑っていたけれど、全然信用出来ないから。

 全く信用出来ないから。

 だって真田さん、頭良いじゃない。

 要領もいいし。


「お褒めにあずかり光栄だわ。

 そんなわけで 【ゴショ】、よろしく」


 まだ了承してません!!

ようやくルゥともっふり鼻チュー。

このあとルゥが大活躍・・・しませんたぶん


追記・・・

活動報告にて 【更新について】 を新たに更新しました。

よろしければそちらもご覧下さい。   2022/03/11 藤瀬京祥

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