629 ギルドマスターは洗濯をします
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今回もちょっとあれなサブタイトルですが・・・
「く……く、クロウは取らないで!」
重火力ダンジョン 【ゴショ】 攻略を前に重火力プレイヤーが欲しいのはわかる。
わたしたちも重火力揃いで潜ったもの。
だからダンジョン前でメンバーを探していたプレイヤーたちが脳筋コンビをパーティに誘ってもなにも言わなかった。
もちろん実際に他のプレイヤーとパーティを組むのは、先約であるクロエとくるくるの攻略を終わらせてからだけどね。
そこんところは譲れません。
それこそ譲ろうものならクロエになにを言われるかわかったものじゃない。
当然約束を反故にした脳筋コンビだってただじゃ済まないと思う。
クロエだもの
そこはね、金髪の腹黒美少年は容赦がないから。
それこそ相手が誰であっても。
でもそんな 【素敵なお茶会】 の事情を知らないプレイヤーたちは容赦なく二人に群がり、我先にとパーティに誘う。
元々この二人は面倒見のいいお人好し。
ちょっとスケベ……いえ、かなりのドスケベだけど面倒見のいいお人好しだもの。
火力にも定評があり、みんな無遠慮に距離を詰める。
その様子を少し離れて見ていたカニやんにも、気づいたプレイヤーたちが勧誘を掛ける。
カニやんも重火力だからね。
しかも 【ゴショ】 は数でごり押ししてくる重火力ダンジョン。
範囲攻撃を持つ魔法使いは十分に役に立てるもの、貴重な存在よ。
でもね……
クロウはダメ!!
でも重火力プレイヤーを探すプレイヤーたちはクロウに気がつくと、脳筋コンビやカニやん同様、容赦なくその距離を詰めてパーティに勧誘してくる。
脳筋コンビ以上の重火力であるクロウは、誰もが認めるこのゲームトップの剣士。
パーティに誘うことが出来ればこれ以上心強いメンバーはない。
だから誘いたい気持ちはわかるの。
わかるけれどそれを見ているとモヤモヤが止まらず、ついうっかり声を上げてしまった。
じ、自分でも情けないことをしている自覚はある。
あるけれど、つい、ついうっかりね。
言ってしまった
直後、それまでわたしには見向きもしなかったプレイヤーたちが、ハッとしたようにわたしを見る。
その視線に耐えきれないわたしは、クロウに背後に隠れてその背にしがみつく。
な、なんて恥ずかしいことをしてるのよ、わたしったら。
ダメだ、恥ずかしくて情けなくて涙が出てきた。
こんな……こん……大勢の前で泣くとか、もうやだ……。
「これはあれだな」
「母親……じゃなくて父親の陰に隠れる五歳児?」
「大絶賛人見知り中……みたいな?」
「それそれ」
「ああいうのは幼稚園児だから可愛いと思ってたけど、女王がするのもいいな」
「これはこれで可愛い」
ちょ、どうしてカニやんたちまで見てるのよ!
そっちはそっちで勧誘受けてるんだから、ちゃんとお相手しなさいよ。
「いや、今は断るし」
「ギルドメンバー差し置いて野良はなしでしょ。
ソリストじゃないんだから」
「約束は守らないとな」
「俺、約束破りません」
「俺もー」
そんな品行方正を気取っても、実はクロエが怖いだけでしょ。
わかってるんだから。
「怖いわけやないけど、面倒やしな」
前半はともかく、後半には激しく同意です。
どりあえず解散してよ! ……というわたしの本音とは裏腹に、なんか集まってきた!
え? ちょっとどうなってるのよっ?
どうしてみんなこっちに来るのっ?!
「女王陛下だ」
「マジモン」
「近くで見るの、初めて」
…………最近よくこんな感じのことを言われるような気がする。
もうね、人を珍獣みたいに言わないでよ。
珍獣みたいに見ないでよ。
お、お願い……見ないで……集まらないで……もう顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃなんだからぁ~。
「最近ましになったかと思ったけど、全然治ってねぇじゃん」
そんなこと言われても……注目とか集めるのはちょっと……その……無理……。
必死にクロウにしがみついて顔を隠しているうちにサクッとメンバー交代。
パーティから抜けるのは個々の任意で出来るけれど、参加は申請を受けたパーティリーダーが受諾しなければならない。
職種編成の都合でカニやんが抜けてから……ん? わたしが抜けてもいいけど?
前衛二人に後衛三人だと、くるくるの場合は少し厳しいというクロエの助言でわたしかカニやんが抜けることになったけれど、どちらが抜けて問題はない。
だったらわたしが抜けて……という間もなくサクッとカニやんがパーティを離脱。
直後、くるくるから参加申請が来た。
どっちも早っ!!
でもこの時のわたしはクロウにしがみついて両手が塞がっていた……はずなのに、いつものようにクロウに手を操られ、表示されるウィンドウをポチらされる。
STRの都合上、拒否権はない。
あ、もちろん拒否するつもりはないけれど、いつもいつも言いなりというのも芸が無いと思っただけだから。
「そんないいわけいらんし、さっさと行って来いや」
行くのはもちろんいいけれど、そのあいだカニやんはどうするのかと思ったら、【ゴショ】 前で休憩するらしい。
だったら野良パーティにでも参加すれば? ……と思ったら、ポーション問題があって参加出来ないっていうね。
とりあえずくるくるとクロエがクリア出来れば、【素敵なお茶会】 としての今日の 【ゴショ】 クリア予定は終了。
ポーションが残れば買い取って野良での参加も可能です。
わたしたちもギルド倉庫から借りた分を返却するために素材回収に行って、次にクエストに挑戦するメンバー用にも用意しておかないと。
鼻水を垂らしながらそんなことを考えているあいだにも 【ゴショ】 に転送され、くるくるのクエストを開始する。
転送前の手順は同じ。
それどころか今回はどこに 【漂着者】 がいるのかわかっている。
だから無駄な寄り道である淑景舎はカット。
いつもの最短コースである昭陽舎、麗景殿、弘徽殿と突っ走り、ここから清涼殿ではなく飛香舎に進路変更。
ごめんね、柴さん。
今回もクリアが第一目標だからお遊びは出来ないの。
淑景舎に行けば、最初で最後と思われた人生最大のモテ期がもう一度来たかも知れないのに……。
「人形にモテてなにが楽しいねん!
しかもかもてなんやねん、かもて!」
『仮定いうより柴やんの願望50%ぐらい?』
暇を持て余しているカニやんの突っ込みに、柴さんは即座に 「それもわかりにくいて!」 と反論する。
「そんなわかりにくい解説いらんわ!」
『遠慮せんでもえぇのに』
「してへん!」
50%というのもなかなかに半端ね。
しかも柴さんったら否定しないし。
つまりなに? 本当に50%くらいモテ期再来の願望があったということ?
「わかりにくさが先だって口が間に合わへんかっただけや」
そんな同時に幾つも対応出来ないとか、人間らしい言い訳をするんだから。
「人間やし。
俺のことなんやと思とんねん」
え? もちろん筋肉。
「肉かよ……」
脳筋には最高の褒め言葉だと思ったのにどうやら違ったらしい。
目に見えてガックリする柴さんに、ムーさんがSOSを出す。
「柴ぁー仕事しろやー!!」
「俺、傷心中やのに優ししてや」
「あとでな、あとで!」
「しゃーねぇー」
【ゴショ】 は数が来るからね。
さすがに柴さんが仕事をしないとクロウも頑張るけれど……といってもいつもサボってるわけじゃないからね。
ガッツリお仕事をする上司様だから。
でも宮と宮を繋ぐ廊下では、平安貴族と随身のコンビ以外にも庭から弓使いが狙ってくるから。
今回は銃士がいるから弓使いはお任せするけれど、その分くるくるの護衛が必要になる。
弓使いは庭のどこを歩いているかわからないし、平安貴族と随身は前からもうしろからも来るからね。
そしてタイミングが悪い時には色々とよくないことが重なるもの。
柴さんが傷心に浸るという名目でサボろうとしたタイミングで、平安貴族と随身が前後合わせて4セットと、庭に弓使いが五体も現われるという忙しい現象が起こり、捌ききれなくなったムーさんがSOSを出しました。
丁度弘徽殿を出て、紫宸殿と飛香舎の二方向に分かれるところ。
そこに弘徽殿方向にも沸くというタイミングの悪さ。
ちょっとばたつきながらも分断されないよう気をつけながら全て落とし、飛香舎に飛び込む。
てん……てん……てん……
巻き上げられた御簾の両側で、シンメトリーに立つ女童が鞠をつく。
最初は揃っていたそのタイミングが徐々にずれ始め、今回は左側の女童が最初に鞠を転がしてきた。
ちなみにくるくるは前回、真田さん、串カツさんと組んだ時にも一緒に来ているから初見ではない。
あの時はそもそもくるくるのクエストで潜ったからね。
今回もあの時のように、離れた位置にある段階でくるくるが鞠を撃って数を減らしてくれる。
おかげでさっきより早く藤壺の女御を落とすことが出来た。
ありがと
それじゃあ凝花舎で浮気な女御と再会しましょうか。
くるくるも梅壺の女御とは再会だけれど、【漂着者】 とは初対面ね……とここで思い出したのだけど、くるくる、海岸には行ったの?
だってよくよく考えてみれば……いえ、よくよく考えなくてもルールはルールだからね。
このクエストは、まず海岸に行って待っているNPCと会話を交わさなければならない。
それからでないとクエストとして 【ゴショ】 に潜ることは出来ないはずなのに。
「大丈夫です、待っているあいだに行っておきました」
そうなのね、よかったわ。
でもまぁクロエの助言だったらしいけど。
それじゃあ問題なく 【漂着者】 と対面しましょう……と踏み込んだ凝花舎では、いつものように女御は御簾の向こうに控えた状態で、わたしたちは大勢の女房に出迎えられる。
え? これって……
違うっ?!
えっ? どういうこと?
だってこれは通常の凝花舎じゃない。
「え……っとグレイさん、これは……?」
もちろんくるくるも通常の凝花舎は初見ではない。
そして凝花舎で 【漂着者】 と遭遇することは、インカムでわたしたちの話を聞いていて知っている。
だから通常の凝花舎に戸惑いを隠せず、立ち位置の都合上わたしのすぐうしろから尋ねてくる。
うん、ちょっと待ってね。
わたしも驚いているから。
どういうこと?
information ダンジョン 【ゴショ】 に入場しますか?
転送前に出てくるいつものインフォメーション。
これに 【yes】 と答えると、通常の 【ゴショ】 にある火力違いの二つのモードの選択を迫られる。
でもパーティメンバーにエピソードクエスト 【海の向こうより来たりし者】 受諾者がいる場合は……
information パーティメンバーにクエスト 【海の向こうより来たりし者】 の受諾者がいます。
クエストに挑戦するかどうか選択してください。
転送は選択を終えてからとなります。
うん、この表示も見た。
でも通常のID【ゴショ】 が展開されているということは……
わたしが選択を間違えたっ?!
前書きからの続き→ 内容的に間違っておりますが、故意にしてみました。
選択を洗濯と間違えるのと、選択肢を選び間違えるのを掛けてみたのですが、自分でも凄くわかりにくいと思っています。
(ここで解説という名の言い訳が必要なくらい・汗
そしてやっと落とし穴に落とせました。
顛末は次話にて(笑