628 ギルドマスターはあとを任されます
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「わたしの他にも生存者がいるのですが、みんなバラバラで。
混乱もあって探し出すのが難しい状態です。
わたしは助けを求めるため本州に向かったのですが途中で橋が落ちていて、そこから泳いできたのです」
どのあたりで海に入ったのかはわからないけれど泳ぎ切ることは難しく、途中で意識を失ってしまった。
そうして須磨明石海岸に漂着したらしい。
「これがさ、実は本州側の人間だったというオチだと、こいつ、長官にどやされんのかな?」
カニやんの話に、わたしたちは 「そうかも」 と同意する。
夏イベントで伊勢湾に海エリアが解禁された時にも少し話題に出たかもしれないけれど、現状、海については安全が確保されていない。
だから 【ナゴヤドーム】 を実効支配する臨時政府は、わたしたちプレイヤーに対して海に入ることを禁じている。
もちろん一般市民に対しても……ということになっているけれど、一般市民役は全てNPCだからね。
当然違反する人はいない。
ただプレイヤーは未実装のエリアの境界は越えられないけれど、シナリオとしてならNPCは越えられる……というか、越えたことにすることが出来る。
まぁカニやんが言うのはその例えで、しかもこのNPC = 漂着者 が本州側の人間だとしたら、勝手に海に入ったばかりかこんな騒動を起こしたということで、あとでNPC長官にこっぴどく叱られるのではないかという話……というか妄想?
想像?
まぁどちらでもいいけど。
ちなみにこの 【漂着者】 も、まだ淡路島は未実装だから海を越えてきたということになっているだけ。
だから実際には海を越えていないし、このあとすぐ調査に向かわされることもないから安心している。
さすがになんの用意もなく海を泳いで島を渡るのは無理です。
それこそ実装されれば海の中にもなにか出現しそうで危険だし。
その点についてここの運営に手抜かりはないから、鯨とかサメとかシャチとか、そのへんが出て来そうです。
恐ろしい
そもそもわたしは泳げませ……ゲフゲフ……違うから。
泳げないわけじゃないから。
本当に泳げるのよ、普通に顔も水につけられるし。
でも前に進まないというか、進めないというか。
それこそ学生時代から全く進歩しないというか、成長せず、おかげで友人たちから 「それを泳げないという」 といわれ、昨夏にはカニやんたちからも 「立派なカナヅチだろ」 といわれることになった。
成長していない
ちなみにルゥも泳げません。
子どもが泳ぐ練習をするように、前肢を持ってあげたら器用に後肢でバタ足を出来るけれど、どうやら浮かないみたい。
陸地と同じように水中も、フンフンフンフン……と臭いを嗅ぎながら楽しそうに海底を散歩を楽しんでいた。
証拠の動画もあるしね。
それこそサメや鯨に襲われても、最強NPC 【幻獣】 のSTRとVITがあるからパンチ一撃で撃退するだろうけど。
身動きのとりにくい水中であっても、ルゥの高い戦闘能力は伊達じゃないしね。
あの短い手足で、本当に可愛いんだから。
まぁそんなこんなわけで海に入ることを禁じられているため、四国はもちろん、淡路島への接触も図られていなかった。
同じ未実装である 【関東エリア】 に隣接する 【東北エリア・仮称】 や 【関西エリア】 に隣接する 【中国エリア・仮称】 に関しては調査員を送って下調べを進めている最中ということになっている。
そんな公式告知が出ているほどだから、この二つのエリアのどちらかが実装されるだろうというのが大方のユーザーの見方だったと思う。
わたしもそう思っていた。
だから先に淡路島が来たのは意外だった。
でもカニやんは 「四国ほどエリアデカくないし、手始めにって感じじゃね?」 などと、運営擁護の発言をしていたけどね。
「いや、擁護しねぇし」
その海の向こうからやって来たという 【漂着者】 は、わたしと変わらない年齢の男の人。
その話によると異変が起こった淡路島にも怪異が現われるようになり、生存者はみな逃げ惑ったり隠れて怪異をやり過ごしているらしい。
【漂着者】 は島内で生存者を探索したが救出は難しく、辛うじて出会えた何人かでグループを組んだ。
そしてその中でも若い 【漂着者】 が助けを呼ぶべく単身、本州に向かったらしい。
結果、須磨明石の海岸に漂着。
そして、最初はNPCに発見されるも、仲間を呼びに行こうと離れた隙に女御に発見されてしまい 【ゴショ】 に拉致られることになった。
今ここ
NPC長官曰く 「妖気」 に当てられていたと思われる 【漂着者】 はまだ体調が悪いらしく、顔色がよろしくない。
でもこのままにしておくわけにもいかないし、NPC長官も直接この人と話をしたいと思う。
淡路島や海の様子なんか知りたいだろうし、プレイヤーに出された指令も 「救出せよ」。
もちろんわたしたちも知りたいけれど、NPCはプログラムされたシナリオどおりにしか科白を話さない。
というわけで、どうやらシナリオはここまでらしい。
つまりこの時点でプレイヤーが知りうる情報はここまで。
このあと 【漂着者】 をどうやって 【ナゴヤドーム】 まで連れて行けばいいか悩んでいたら、新たなNPCが駆け込んでくる。
海岸で会ったNPCと同じく、プレイヤーと同じ調査員という設定のNPCは片手に剣を握り、息せき切った様子で凝花舎に飛び込んできた。
おそらくわたしたちの援護に駆け付けた……とでもいった設定だと思う。
「無事かっ?」
「救出対象者を発見したのか」
「よくやった!」
「さすがだな」
そんなことを口々に言う四体のNPCは、横たわったままの漂着者を囲んだ……と思ったらその両肩を支えるように上体を起こし、そのまま立たせる。
さすがにまだ起き上がるのは無理じゃない? ……と思ったけれど、そこは容赦も加減もないNPC。
「こいつは我々が責任を持って長官のところへ連れて行く」
「君たちは後を頼む」
そう言って二人がかりで 【漂着者】 を抱え、残る二人が剣を片手に先導する形であっというまに凝花舎を出て行ってしまった。
本当にあっと言う間の出来事で、手柄の横取りを止める間もなかったくらい。
ここは 「やられた……」 と思うところ?
「いや、シナリオだし。
やられたもなにもないだろ?」
「抵抗したところで無駄だし」
「NPCって、いわゆる動く置物みたいなもので斬れねぇの」
い、いや、まぁその、さすがに斬り捨てでても止めようとは思わないけどさ。
でもせめてわたしたちも一緒に連れて行ってくれるとか、ないわけ?
だって……といいかけてわたしは現実に気がつく。
言ってたわよね 「後を頼む」 と。
ちょっと待って、ひょっとして頼まれた後って……ひょっとする?
「やっぱ帝を倒さないとプレイヤーは出られないんじゃね?」
やっぱりそうよねぇ
そうとしか考えられないわよね。
もう、なんて面倒臭い。
でももしここで中途離脱をすればクエストはやり直し。
折角問題の 【漂着者】 を発見、救助したことは無かったことになる。
当然帝に全滅させられてもね。
さすがにそれは嫌。
絶対に嫌!!
『嫌って言うか、ポーション足りないでしょ。
さっさとクリアしなよ』
そ、そうでした。
順番を待っているクロエの声が一層苛立った感じ……と思ったら、次に挑戦するのはくるくるらしい。
クロエの優しさかと思ったら実はそうではなくて、まだなにかあるのではないかという深読みのせい。
もちろんクロエとくるくるは仲がいいから、少しは優しさもあったと思う。
でも90%くらいまだなにかあるのではないかと疑ってのこと。
それでくるくるに順番を譲ったっていうね。
まぁクロエらしいし、当のくるくるが納得しているのならそれでもいいけど。
とりあえず帝を落としましょう! ……と清涼殿に向かい、六人揃った女御による二度目のフルコーラスを聴きながら帝の首を吹っ飛ばしてもらいました。
クロウにね
途中、いつものようにインカムの向こうから色々と話し声が聞こえていたけれど、恭平さんが仕切って何かの相談?
JBとかアキヒトさんとか誘ってどこかに行くとか。
帝戦に気をとられてよく聞いていなかったけれど、まぁ楽しく遊んでいるのなら別にいいけど。
information クエスト 【海の向こうより来たりし者】 をクリアしました
引き続き 【ゴショ】 に潜るとはいえ次はくるくるが主賓。
そのくるくるをパーティメンバーに加えるため、インフォメーションでクエストのクリアを確認したわたしたちは一度 【ゴショ】 を出る。
今回の 【海の向こうより来たりし者】 はイベントではないから、ID【ゴショ】 周辺にたむろするプレイヤーは少ない。
なにしろ不人気ダンジョンナンバー1だからね。
だからきっと周辺にたむろしているプレイヤーたちはみな、わたしたちと同じくエピソードクエスト 【海の向こうより来たりし者】 をクリアするためだと思う。
すでに決まっているパーティメンバーが集まるのを待っていたり、あるいは現在進行形でメンバーを募っていたり。
マメの話では、公式サイトの掲示板には 【海の向こうより来たりし者】 に挑戦するためのメンバーを募集する専用話題が立てられているらしい。
いわゆる野良パーティの募集ね。
でも重火力ダンジョンだけあって、なかなか思うように集まらないみたいだけど。
そんなプレイヤーの中でわたしたちを待っていたくるくるは、結構な回数で直接のスカウトを受けたらしい。
何度も言うけれどクロエとセブン君が突出しているだけで、くるくるやぽぽだって銃士の中では凄い重火力なんだから。
命中率だって高いしね。
それを知っているプレイヤーから、結構しつこく勧誘されていたのだとか。
「お待たせ、くるくる」
「お疲れ様です」
数秒のタイムラグの後、ダンジョン前に転送されたわたしたち。
わたしがくるくるの姿を見つけた時も見知らぬプレイヤーと話していて、声を掛けると、なぜかそのプレイヤーはそそくさとどこかに行ってしまった。
「お友だち?」
「いえ、全然知らない人です」
それこそ初めて見る顔です……というくるくるは苦笑いを浮かべる。
言っておきますが、ギルドに入っているからといってギルドメンバーとしか遊んではいけないわけではない。
実際に脳筋コンビなんて、地下闘技場では 【特許庁】 のメンバーとよく遊んでいるし、IDでは野良パーティにもよく参加していて、助っ人としてもちょっとした有名人らしい。
火力にも定評があるし、話しやすい性格だし人気もあるみたい。
ただ掲示板に書き込むのは面倒臭いからって、ダイレクトスカウトしか受けないみたいだけど。
今も一緒に転送されてきた二人を見て、メンバーを探していたらしいプレイヤーが何人か声を掛けてきた。
しかも我先にと、互いに牽制を仕合ながら。
「しば漬けさん、一周お願い出来ませんか!」
「柴さん、俺が先っすよ」
「いや、俺のほうが仲いいし。
俺の方が先に決まってるだろ」
その時たまたま柴さんが一人になった状態で、ムーさんの側にはカニやんがいた。
だからプレイヤーたちは柴さんに群がったと思われるけれど、ムーさんが 「俺は?」 と淋しそうにぼやいたのは見ない振りをしてあげる。
カニやんは楽しそうに吹き出していたけどね、それも見ない振りをしておく。
そしてそんな中には怖い物知らずもいて……
「あの、クロウさん、俺たちと 【ゴショ】 に潜ってもらえませんか?」
【ゴショ】 は誰にとっても厄介な重火力ダンジョンだからね、少しでも火力の高いプレイヤーと一緒に潜りたい気持ちはわかる。
でもクロウを誘うにはよほどハードルが高いらしく、声を掛けたプレイヤーは緊張した面持ちでかなり噛み噛み。
実際には噛みまくりでこんな普通には話していなかったけれど、まぁ言いたいことはわかったからわたしが意訳しておく。
そして一人が声を掛けると、あとはなし崩し的に 「いや俺と」 とか 「だったら俺と」 とか次々にお誘いの声が掛かりプレイヤーたちが群がってくる。
モテるのね
ちょっと……いえ、その、か、かなりの危機感を覚えるけれど、その中に割って入る勇気がなくてモンヤリ。
わたし自身に声が掛からないのは別にかまわないというか、掛けられても困るというか、その点は全然気にならないけれど……
「く……く、クロウは取らないで!」
言えた!! ……でも恥ずかしい……
ようやく一回目が終了! ・・・と思ったら心穏やかではないグレイ。
メンバーを交代しての再攻略スタートには少し時間が掛かるかも???
そして次話こそ落とし穴に落ちてもらう予定です(やっと・・・