624 ギルドマスターは目的のために密告します
PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!
………………
うん、まぁね。
ムーさんが無事だったんだもの。
普通に考えて、ムーさんよりレベルの高いクロウが同じ攻撃を食らって落ちるとは考えられない。
実際に落ちなかったし。
だからそこは問題じゃない。
うん、まぁなにも問題はないといえばないのかもしれない。
そりゃ狙われたところが悪かったとか……ほら、よくあるじゃない、打ち所が悪くて……とかいう話。
もちろんとっさにそこまでを考えたわけではないけれど、女童が、綺麗な鞠を模した設置型火焔魔法 【ファイアーボム】 をクロウに投げるところを見た瞬間、嫌な予感というか、そういう感じのものが過ぎったのは間違いない。
無事
うん、読んで文字通り無事です。
しかもムーさんよりダメージが低いらしく、ムーさん以上にHPの流出が少ない。
ほんと、どんだけ鉄筋なのよ?
もちろん剣士だから鉄筋であるに越したことはない。
越したことはないけれどクロウにはもう一つおまけがあって、女御の首を刎ねた直後、視界の隅に女童のことを置いていたらしい。
さすがお仕事の出来る上司様は抜け目がない。
抜け目がないばかりか、女御の首を刎ねた直後、切り返した砂鉄で件の女童の首まで刎ねていたっていうね。
でも設置してしまったもの勝ちの設置型火焔魔法 【ファイアーボム】。
鞠の場合、出現するのは女御の手元だけれど、おそらく設置者は女童。
だから女童の手に渡った時点で設置されたも同然になるらしく、砂鉄に首を刎ねられた直後、落ちた女童自体は電子分解を始めたにもかかわらず鞠は残り、クロウの足に触れた瞬間爆発した。
たまにだけれど、少しやり過ぎてしまうのがクロウの悪い癖よね。
でもまぁ無事ならいいです。
とりあえず在庫を減らすため、他のメンバーに先を越されまいとインベントリから取り出したHPポーションを力一杯投げつけるけれど……もちろんクロウにね。
でもわたしがいるのは部屋の入り口でクロウは反対側。
届かない
それこそ惜しいところまでいっていたならともかく、全然届かない。
部屋の真ん中より少し先あたりで床に落ちたポーションは、幸いにしてデータなので割れることはない。
通常の消費以外では、所有者が 【削除】 しなければアイテムは消えないからね。
おかげで落下の衝撃でも割れることのなかったポーション瓶は、コロコロと、虚しく床の上を転がっていく。
お、お恥ずかしい……
とりあえずどこかに穴はないかしら?
それこそ地球の裏側までつながっていそうな穴。
「誰が掘るねん、そんなふっかい穴」
「どこまで逃亡はかる気や?」
「地球の裏側や言うてるやん」
「行き先バレバレ」
「すぐ捕まるな」
……ルゥに掘ってもらおうかしら……。
今は出せないとわかっているけれど、いっそ出して穴を掘ってもらい、一緒に地球の裏側まで逃避行……いいわね。
居たたまれず、そんなことを考えながらも手近にある柱にしがみついておく。
この部屋の女主人は藤壺の女御。
その女御が落ちれば飛香舎は沈黙。
錯覚に近いくらいの差で明るさが落ちる中、もう一体の女童が消滅しているのを確認したクロウが、途中、落ちているポーション瓶を回収して戻ってくる。
それ、そのまま使って。
まだ足りないのなら自分のインベントリから出さないで……といっているのに出すんだから!
しかもまたわたしの手を勝手に操ってインベントリを開かせたと思ったら、拾ってきたHPポーションを戻してくれる。
ちがーうっ!!
わたしはそれを消費したかったの!
それなのに戻さないでよ。
どうやらわたしの、有無をいわせず投げつけるという回復方法……じゃなくて、HPポーションの使い方は間違っていなかったけれど、成功しなければ意味がないということがよぉ~くわかりました。
次こそは当てます。
ぶつけて見せますとも! ……と決意も新たに、みんなでお次の凝華舎に向かいます。
凝華舎は通常どおりというか、ちゃんと女房が登場します。
女房から登場します。
女御は準ラスボスっぽく、最初は御簾の向こう側で高見の見物を決め込んでいます。
その攻撃方法は……もう着いたし、ここはやっぱり百聞は一見にしかずよ。
そう思って柴さんたちに説明しなかったんだけど、よくよく考えてみれば淑景舎、飛香舎とハズレが続いたんだから、次の凝華舎が当たりのはず。
だってもう残っていないもの。
当然のことだけど、最短コース上にある昭陽舎、麗景殿、弘徽殿もハズレだったしね。
まかり間違っても清涼殿が当たりということはないはず。
だって女御が見ず知らずの男の人を助けたわけで……いや、うん、まぁ助けるのはいいと思う。
むしろ人助けは大事です。
独り身だろうと人妻だろうと善意には関係ない。
助けるだけならね
でも前回の期間限定イベントによると、どうも女御の様子がおかしい。
ストーリー的にあのイベントは、サイドストーリーというか、余話というか。
エピソードクエストに絡めてあるけれど、それはクエストの追加を前提とした前夜祭的な役割を持たせただけで、なくても知らなくても問題はない。
あくまでこのクエストは単体の扱いになっている。
そのための前振りとして、わざわざ海岸まで行かなければならないわけで。
だから女御と漂着者との関係はこの際置いておくとして……でも清涼殿はあり得ない。
だって帝のいる場所で病人の看病はしないでしょう。
あの時代、病気とか体調不良は忌むべきものだったはずだもの。
そういうものから帝は遠ざけられていた……というか、そういうものは帝から遠ざけられていたはず。
だから絶対に清涼殿はないから次こそが本命です!
そう思って踏み込んだ凝華舎では……
「女御様、このようなことが主上の知るところとなればどんなお叱りを受けるか」
「どうかお聞き届けください、女御様」
「お黙り!
そなたたちはわたくしに、この御方を見捨てよと申すか!」
決して広くはない部屋の中央あたり。
床に伏して……それこそ額を床につけるほど頭を低くして訴える女房たちに、敷いたお蒲団……とはちょっと違うけれど、あの時代のお蒲団よね、あれ。
畳みたいに数㎝高い台の上に布を敷き、その上に誰かが横たわっている。
わたしたちの位置からは見えないけれど、布の膨らみや形状から見ておそらく人間。
その枕元あたりにすわる女御らしき女の人は、必死に訴える女房たちの声に聞く耳を持たない。
それどころか叱りつける有様。
現代人のわたしがいうのもなんだけど、たぶん女房たちのいっていることのほうが正しいはず。
もちろん病人を外に放り出せといってるわけじゃないの。
でも内裏で看病するのはマズい。
少なくとも女御の部屋はダメよね。
源氏物語とかだと、こういう場合、腹心の女房の部屋に匿ってもらうのが定石のはず。
もちろんそこで看病してもらう。
でも女御が頻繁に女房の部屋に行くことは出来なくて、しかも女房はお休みをもらって付きっきりだから様子がわからず、女御はやきもきしながら過ごす。
そんな話があったようななかったような……。
まぁそこはいいとして、この時代は確か叔父叔母が甥姪と婚姻出来たから、同母の兄弟であっても、年頃になれば兄や弟であっても姉や妹と直接顔を会わせることはない。
それこそ同じ部屋にいても几帳越しでなければならなかったはず。
そんな時代に人妻が……
ヤバすぎる
色んな意味で梅壺の女御はヤバすぎる。
普通に貴族同士の結婚でもヤバいのに、女御の旦那様は帝でしょ?
この時代、神と等しい……いや、仏教伝来してたっけ?
ということは丁未の乱のあと物部氏が滅んで八百万の神々が……あ、でも確か太平洋戦争が終わるまで現人神で……
「そこ、考えると沼にはまるから」
そうね、危うく底なし沼にはまるところだったかもしれない。
しかも真っ黒な沼よ。
黒塗りで隠された部分の多い公開情報の、黒塗りされた部分みたいな?
そういう歴史の黒い部分に触れるのは、カニやんの忠告に従って止めておく。
武士の台頭以降、天皇家はちょーっと歴史の裏側に行ってしまう……じゃなくて梅壺よ、梅壺の女御。
あのお蒲団の中で横たわっているのが問題の 【漂着者】 だったとして、現時点では得体が知れない。
平安貴族から見ればどこの誰とも知れぬ馬の骨も同然。
それも女の人だったらともかく、よりによって男の人と来た。
これ、帝の知るところとなれば、やっぱり切腹?
「いや、切腹は武士でしょ。
この時代だと最悪斬首だけど、男でもたいがい出家で済んでるし。
女の人だと、基本はやっぱ出家でしょう。
斬首まで行くと一族郎党ことごとく斬首になると思う」
そうか、出家か。
確かこの時代の女の人が出家する場合、髪を下ろすといっても坊主になるわけじゃないはず。
男の人は当たり前のようにみんな剃るけど、女の人はせいぜいおかっぱよね。
肩に届かないくらいで切るはず。
つまりあの長いツヤッツヤでサラッサラの超ロングヘアをバッサリと…………これはひょっとして…………
「なんか悪いこと考えてるだろ?」
「え? なんのこと?」
どうやら正直者のわたしは、うっかり考えていることが顔に出ていたらしい。
でも根っからの小心者だから、ついついうっかり言い訳なんてしてしまう。
だってまさか、帝に密告すれば、あの床に流れる見事な黒髪が合理的に手に入るかもしれない……なんて、口が裂けても言えるものですか。
うっかり口にしてしまえば集中砲火を受けること請け合いじゃない。
嫌です
「どうせ髪だろ?」
「出家させて髪下ろさせて、切った髪強奪か?」
それでも誤魔化せたと思ったのに、女心なんて微塵も理解しないと思われた脳筋にバレていた。
ムーさんには 「強奪」 とか人聞きの悪い言葉まで使われるし。
しかもそれを聞いてカニやんも 「そういうこと」 とか普通に納得してるし。
なに納得してるのよ?
なにが 「そういうこと」 なのっ?
「違うとでも?」
「え……っと、それは、だから……」
しまった!!
どうしてここで口ごもるのよ、わたし!
ダメじゃない、ここはスラスラ~と嘘八百を並べないと。
嘘も方便よ。
脳筋にバレた時点で突っ込まれることは必至なんだから、あらかじめ言い訳を考えておくべきところだったのにここでまたうっかり……
「それ、使い方違うから」
「ここで使う言葉じゃねぇから」
「やっぱ強奪狙ってんだろ?」
だから違うってば!!
うっかりにうっかりを重ねたわたしは、もうどうにも言い訳出来ないところにまで流れ着いてしまったらしい。
それこそうっかりね。
完全に方向を見失ってしまい、行き着くべき岸が見つからない。
しかもここでなにを思ったのか、クロウがとどめを刺してくる。
片手に砂鉄を持ったまま、もう一方の手でわたしの頭をポンポンしながら……
「これ以上綺麗になるつもりか?」
ひぃぃぃぃぃ~!!
……え? 待って待って、今なんて言ったのっ?
ポンポンされた瞬間頭に血が昇って、声は聞こえたけれど、クロウがなんと言ったか聞き取れなかった。
お願いお願い、もう一回言って。
なに? なんて言ったの?
イベントムービーでは女御と女房の攻防が続いているけれど、耳まで熱くなって聞いてる余裕がない。
だ、誰か、助けて……
大脱線!! ・・・ですが、そろそろ戻ります。
いよいよ 【漂着者】 が出て来ました。
そして女雛の正体は梅壺だった・・・のか?
あと番外を挟むか、後書きに休閑小話を入れるか、ちょっと考え中です。
(短ければ休閑小話になるという意味です)