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622 ギルドマスターは静かに文をしたためます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!

 沢山恋文をもらえて嬉しいのではないかと思ったら、脳筋コンビは揃いも揃って 「どうせもらうなら投げ銭がいい!」 なんて夢も希望もない現実的な返事を返してきた淑景舎(桐壺)

 進行中のクエスト 【海の向こうより来たりし者】 の最重要人物であるNPC 【漂着者】 の所在は確認出来ず、長居は無用と判断したわたしは、早々に桐壺の女御と決別すべく動く。

 無駄な消耗はしたくないからね。

 万が一にも誰かが落ちるようなことになれば、帝がいる清涼殿までの長い道中も苦しくなるし。

 ただでさえ数の優位でごり押ししてくる重火力ダンジョン 【ゴショ】。

 重火力のフルパーティで挑んでも厳しいのに、一人でも欠けるとさらに苦しくなる。


「起動……クロノスハンマー」


 通常の攻撃魔法ではない 【クロノスハンマー】。

 対象範囲の上空から、透明なハンマーが何本も打ち下ろされるような視覚効果(エフェクト)があり、その範囲内にいるプレイヤーやNPCの動きを止めるスキル。

 闇属性のこのスキルはわたしが所持する常時発動(パッシブ)スキル 【愚者の籠】 も、恭平さんが所持する常時発動(パッシブ)スキル 【震える鏡】 も用を成さず。

 その効果から逃れることは出来ない。

 唯一このスキルから逃れることが出来るのが、ルゥをはじめとするこのゲーム最強のNPC 【幻獣】 だけ。

 もうね、ルゥったらあんなに可愛いのに最強なんだから。


 はぁ~モフりたい


 思わぬミスでやり直しとなってしまい、腕輪の中で休眠するルゥとは会えないまま。

 出してあげられない時に限って無性に会いたくなるのよね。

 どうしてかしら?

 でも 【ゴショ】 は危険すぎて……ほら、【ナゴヤジョー】 よりも危険だから。

 危険といっても、ルゥのもっふりボディやあの可愛さが、【ゴショ】 の女御や女房たちに負けるなんてことは全然疑ってないから。

 疑いようもないくらいルゥの圧勝だから。

 どんなに豪華絢爛な十二単を着ようとも、ルゥには絶対に勝てません。


 最強よ


 じゃあなにが危険かといえば、天井の低さとか、部屋の狭さとか。

 以前に 【ナゴヤジョー】 で巨大化した時、天井で頭をぶつけて可哀相なことをしてしまったからね。

 いつ巨大化するともわからず、周囲にいるわたしたちも危険だし。

 だからルゥは出せない。

 でもカニやんの 「指示を」 という言葉に急かされたわたしが 【クロノスハンマー】 を仕掛けると、金縛りに遭ったかのように動きを止める桐壺の女御の首を、すかさずクロウの大剣砂鉄が両断する。

 女御は全て 【幻獣】 ではなく 【妖魔】 だからね。


 女主人(あるじ)が落ちたのをもって淑景舎(桐壺)は沈黙。

 わずかばかり照明が落ちて薄暗くなる。

 本当にわずかで、ともすれば 「気のせい?」 と思ってしまうくらい。

 そうして柴さんの人生最大のモテ期も完全に終了。

 もう取り返しもつかず……


「だからその話、もうえぇわ!」


 ご愁傷様


 文の一枚も落ちていない淑景舎(桐壺)をあとにする。

 あ、もちろん 【女御の文】 は回収したけどね。

 そういえばクリアした宮の文を取り忘れても大丈夫なのかしら?

 それこそ 【女御の文】 を一枚も回収しなくても……ん? あれ?

 いま思ったんだけど、もし 【女御の文】 を一枚も回収せず清涼殿に到着した場合、帝は舞うの?


「は? 舞う?」


 うん


 だってほら、女御の演奏に合わせて帝は踊ってるわけでしょ?

 その(がく)がなくても……というか、そもそも文の一通も持ち帰らずに帝は会ってくれると思う?


「あ……清涼殿には入れるかってこと?」


 そうそう


 ついでに帝は無音でも踊れるか? ……という質問です。

 清涼殿に入る前に 【女御の文】 を使うかどうか訊いてくるから、文を一通も持っていないとは入れないかもしれないけれど、踊れるかどうかは別問題のような?

 そんなわたしの質問にカニやんはにひっと笑う。


「先に言っておくけど、素材の都合上、今回はお試し出来ないから」


 そうでした!!


『まさかと思うけど、グレイさん?

 試そうと思ったわけ?』


 すかさずクロエの声がインカムから聞こえてくる。

 う……あ、いえ、そんな、もちろん滅相もございません。

 やだ、そんなこと微塵も考えていないのに、なぜか冷汗が……


「いやいやいや、考えたでしょ?

 チラッと考えたでしょ?」


 昭陽舎(梨壺)に戻る途中。

 通路で遭遇した平安貴族と随身(ずいじん)の攻撃に、柴さんに庇ってもらっている状況でどこにそんな余裕があるのか。

 柴さんの背中に庇われながらも足を止めたカニやんは、わざわざわたしを振り返って突っ込んでくる。

 いやいやいや、そこは柴さんの補助を。

 是非とも支援をお願いします。


 必要ないけど


 うん、そんなものが必要ないくらい柴さんは強いからね。

 でもさすがにその余裕ごかしたよそ見はどうかと思います。

 やめましょう。

 いや、うん、まぁわたしが言うのもなんだけどね。

 しかもわたしがそれをすると絶対に転けてるからね。

 転けないところが憎たらしい。


 すでに沈黙している昭陽舎(梨壺)はスルッと通過。

 続くは本日二度目の麗景殿で、再び剣士(アタッカー)三人が書道の時間に筆を振り回して遊んだ小学生男児となり、ここで 【中級】 の解毒ポーションを三本使用。

 しかもカニやんが、その騒ぎから逃げそびれた小学生女児のように長いローブの裾にたった一滴、たった一滴よ!


 シミが……


 もう、なにやってるのよ?

 でも一滴とはいえ被毒状態は被毒状態。

 高価な 【中級】 の解毒ポーションが、その一滴のために無駄に……。


「いややいや、無駄じゃねぇし。

 結構な勢いでHP減ってるし。

 無駄っていうなら脳筋に使うほうが無駄だろうが。

 こいつらちょっとやそっとじゃ落ちねぇんだから」


 じゃあここは解毒ポーションではなくHPポーションを使ってみない?


「は? なんでHP?」


 減った分をポーションで補うの。

 カニやんのVITならいけるでしょう。

 わたしね、HPポーションなら沢山持ってるの。

 ええ、もう本当に沢山ね。

 それこそインベントリを圧迫するくらい沢山あるの。

 なぜそんな状態になっているのか?

 その理由に、一呼吸ほど先に気づいた脳筋コンビが 「あー」 とか 「それって例の……」 と言い、続いて気づいたカニやんが 「あれか」 と納得の言葉を呟く。

 ええ、例のあれです。


 罰ゲーム!!


 一日一本、毎日クロウからHPポーションが送られてくるという、ストーカーもビックリな罰ゲーム。

 まだポストに入れたままだけれどちゃ~んと今朝も届いていたし、もちろん昨日も届いていた。

 一昨日だって届いていたし、一昨昨日もその前も。

 そしてたぶん明日も届くはず。

 まじストーカーもビックリの粘着ぶりよ。

 そうして溜まりに溜まったHPポーションは、隙あらば消費に努めていたけれど減る見通しが立たず。

 かなりインベントリを圧迫しだした。

 もちろんその状態をクロウに訴えたけれど、送りつけを止めてくれないどころか引き取ってもくれない。

 たまにクロウの回復に使おうとしても、本当にタイミングがよくても使えるのは二、三本。

 その程度じゃ全然回復なんて間に合っていないはずなのに……。

 結局最後は自分で回復してしまって、折角のHPポーションを使う機会をダメにしてくれる。


 チャンス到来!!


 だってカニやんなら隙だらけだもの。

 しかも剣士(アタッカー)ほどVITの高くない魔法使い(モヤシ)

 STR(腕力)非力(モヤシ)なだけでなくVIT(防御力)も薄っぺらい紙だもの、否応なく回復しないとあっというまに落ちてしまう。

 だからここで 【中級】 の解毒ポーションをケチれば否応なく……と思ったら、わたしより先に脳筋コンビが手持ちのHPポーションを使って回復を始めた。


「んじゃ早速」

「ほいほいほい、と」


 出遅れたっ!!


 待って待って待って、わたしのポーションを使ってー!!

 ダメよ自分のを使っては。

 もったいないじゃない!


「もったいないってあんた……」


 だって柴さんもムーさんも剣士(アタッカー)なんだから、HPポーションは必需品じゃない。

 よりによって魔法使い(モヤシ)の回復に使うなんてダメよ、もったいない。


「大丈夫、あとで請求するから」

「心配ない、使った本数はちゃんと覚えてるからな」


 そうじゃない


 二人とも脳筋のくせに、こういうところでその優秀な頭脳を使わないで頂戴。

 こんな不毛なことでその優秀な記憶力を発揮しないで!


「ちょっと待てや、俺の救命が不毛てなんやねんっ?」


 あ、うっかり口が……ふふふ……。


「笑て誤魔化せると思うなよ」


 じゃあカニやんの代わりに、二人に現品でHPポーションを返却しておくから。

 それで許して。


「なんだかんだ言うて、HPポーション減らしたいだけやないかい」


 そうよ


 だから最初からそう言ってるじゃない。

 本当にヤバそうなら解毒するけど、カニやんのレベルでどのくらい持つか知りたいじゃない。

 それにHPポーションを消費する理由が欲しかったというか、こっちが大本命というか。

 まぁ結局ヤバくなったので四本目の 【中級】 の解毒ポーションを使うことになった。


 残念


 続く弘徽殿は、曲がりそうになる鼻が曲がらないように必死で抑えてクリアしました。

 何度来てもこの部屋は嫌。

 麗景殿で装備にシミがつくのも嫌だけど、弘徽殿も、絶対にこれだけはないとわかっていても装備にあの悪臭が染みつきそうで、気が気じゃないというか、凄く嫌。

 これはあれね、HPを回復出来るポーション以外のなにか(アイテム)を持ってくればよかったわ。

 例えばハロウィンでもらったお菓子とか……といったら、柴さんが 「あるぞ」 だって。

 いやいやいや、待って。

 ちゃんと覚えてるわよ。

 だってハロウィンのお菓子って、たまに悪戯するやつが混じってるじゃない。

 所詮はデータ。

 湿気るとかカビが生えるなんてことはないし、当然消費期限も賞味期限も存在しない。

 でもハロウィンのだけはダメよ。

 悪戯されたら、HPなりMPなりが減るんだから!

滅多に来ない 【ゴショ】 なので色々と興味はあるようです。

そして未だに続くクロウからの貢ぎ物(笑

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