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619 ギルドマスターは投げ文をもらいます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!

 そうだった……


 【ゴショ】 をやり直すということは、解毒ポーションの 【中級】 が必要になる。

 探すべき漂着者が、三つの宮のどこにいても問題の麗景殿を通らないわけにはいかない。

 それこそ昭陽舎(梨壺)の次に行ける淑景舎(桐壺)にいたとしても、そこでなにかしらイベントをクリアしたとしても、おそらく清涼殿まで行って帝を倒さないとダンジョンから出られないと思う。

 このメンバーだと、クロウと脳筋コンビが再び小学生男児のように墨塗れになることは避けられない。

 下手をするとわたしやカニやんも巻き添え。

 ほら、墨はどこに飛ぶかわからないから。

 そんでもって一番怖いのは、墨で汚れたことに気づかないままでいること。


 今の周回で使わなかった 【中級】 の解毒ポーションが二本残っているとはいえ、パーティにいる剣士(アタッカー)は三人。

 まさか脳筋コンビに二人で一本を使って……とは言えないしね。


「いやいやいや、無理だし」

「そんな器用な真似出来るかい」

「データ上、出来ねぇって」


 うーん、無理かぁ……。

 しかもハルさんがわざわざ声を掛けてくるから、どうかしたのかと思って問い掛けてみたら、返ってきたのが 『どうかするかもしれません』 だった。

 そしてインカムの向こう側で聞こえる、在庫を数えているような様子。

 つまり素材が足りないのよね?


『すいません、新エピソードは 【ゴショ】 だという噂があるのは知っていたんですけど……』


 ハルさんにしては珍しいこと。

 あ、でも謝らないんでね。

 別にハルさんが悪いわけじゃないし。


『一回でクリア出来ると思っていたグレイさんたちも読みが甘いしね』


 そうね


 クロエの言うことももっともだと思います。

 わずかなオブラートにも包まないのはクロエだしね。

 ドストレートよ、ドストレート。

 ザクッと人の失敗をえぐってきた。


「そういうクロエは?

 ハルさんに解毒ポーション頼んでいたはずだけど、何本かお願いしていたの?」

『まさか。

 だから初回はカニやんたちに譲ったんじゃない。

 一回成功したら二度目は楽勝でしょ』


 さすが!!


 腹黒な金髪の美少年はこれ以上はないくらい計算高かった。

 まさかそんなことを考えているなんて思っていなかったのはわたしだけではなくて、カニやんもその先見の明に 「うわ~」 と嫌そうな声を上げる。


 今回のような状況の場合、わりとクロエは先にやりたがらない。

 元々前に出たがる目立ちたがりじゃないしね。

 そんな性格なら銃士(ガンナー)は選ばないだろうし。

 だから今回も特に裏があるとは思わなかったけれど、実は裏があったのね。

 それも真っ黒な裏が。


 完璧な計算!!


 その計算結果として、ハルさんに依頼した 【中級】 の解毒ポーションは一本だけ。

 さすがすぎる完璧な計算ね。

 そしてもし一回でクリアできなかった時は、ありったけの罵詈雑言をパーティメンバーが浴びるところまでがデフォルトです。

 もちろんそれは失敗した時ね、失敗した時。

 成功すればいいんだけど……とりあえずクロエのことは置いておく。

 まずはこの初回メンバーがクリアしないとね。


 それともメンバーを入れ替える?

 今 【中級】 の解毒ポーションを持っているのはクロエとくるくるだから、残っている一本とあわせて四人でパーティを組み直し。

 残る三人で、そのあいだに素材採取に行くというのはどう?


『嫌だよ』


 まぁね、そう来ると思った。

 【ゴショ】 は五人(フル)パーティでないと厳しいから、わたしだって嫌よ。

 でも万が一にもここでクロエがOKした場合、職種(クラス)編成の都合上、脳筋コンビとクロウで相談していってもらうことになる。

 だからわたしとカニやんは行かなくて済むけどね。

 待っているあいだにモフを二匹連れて、お散歩がてら素材採取に行きます。


「それいいな」

「でしょ?」


 わたしのナイスな提案にカニやんは乗り気。

 それこそここでタマちゃんを召喚しそうなぐらいウキウキに乗り気。

 だって他に人がいないと、タマちゃんも諦めて飼い主(カニやん)に甘えるからね。

 カニやんの魂胆なんて見え見えよ。

 でも脳筋コンビに水を差される。


「いや、ワンコおったらあかんやろ」

「ヌコ様、ワンコからかうん好きやしな」


 それを聞いたカニやんがハッとしたのは言うまでもない。

 うん、たぶんそうなるわね。

 タマちゃんったらカニやん(飼い主)に似てルゥが好きだから、カニやん(飼い主)以上にちょっかいを出したがるんだもの。

 さすがカニやん大好き脳筋コンビ。

 よくわかってるわ。

 でもハッとしたあとのカニやんはしばらくなにか考え込んでいて、やがて一つの結論を出す。


「……いや、モフがじゃれ合うのはそれはそれでいい。

 俺はそれを愛でる」


 わたしも一緒に愛でる!!


『二人で好きなだけ愛でてなよ。

 それよりどうするの?』


 少し苛立ったようなクロエの声。

 クロエはモフの魅力がわからないからね。

 モフの魅力が通じない希少種よ。

 あんなに可愛いモフの魅力がわからないなんて気の毒よね。


『全然気の毒じゃないから。

 その変な同情、やめてくれる?』

『一つ提案があるんだけど……』


 不意に恭平さんが割り込んでくると、『なに?』 とクロエが鋭く問い返す。

 待って待ってクロエ、恭平さんにまで喧嘩を売らないで。


『ギルド倉庫の 【中級】 解毒ポーションを使ったらどうだろう?』


 クロエの挑発に乗らない恭平さんは淡々としている。

 そんなギルド倉庫の番人からの提案は、保管されている在庫を放出するというもの。

 恭平さんの指摘によると、今の五人パーティでクリアしたあとクロエ、くるくると追加で二周するのなら、用意したポーションの数が足りていない。

 二人の分を抜くとしても、五本、四本、四本で合計十三本用意しておかなければならなかったはず。

 それなのにたった五本だけって……


『数を読めない女も極まったね』


 そんな芸当を極めた覚えはありません。

 でも言われるとそうだった。

 しかもそれは最低限必要な数で……もちろん今回みたいに後衛が無事ならその分は浮くけれど、やっぱり今回みたいに失敗したら、さらにプラスアルファが必要になる。

 うわーん、そんなこと全然考えてなかったー!


『最近こなれ感でゲームしてるよね』


 そ、そうかもしれない。

 この失敗を教訓に初心に返るわ。


『それはいいとして、どうする?

 倉庫のポーションを使ってもらって、あとで残った分は現品返却。

 使った分は素材で返してもいいってハルもいってるけど?』

『調合スキル、上げたいんで』


 なるほど。

 調合の手数料はゲーム内通貨でお支払いすればいい?


『いえ、今回はただで。

 もちろん例外ですけど』

『実験台みたいなものだし』


 ハルさんが苦笑いでいわなかった部分を、スパッとすっきりはっきり言ってくれる恭平さん。

 まぁ一つ例外を認めると、なにかしら理由でもないと同じように例外として認めろと言い出す……メンバーはいないか、【素敵なお茶会(うち)】 には。

 それこそ口の悪いクロエですらそういう理不尽は言わないし。

 むしろそんなことを言い出すメンバーがいれば、ぶっ叩いてへこませるのがクロエだもの。

 ちょっと損な役回りだけど。


『同情なんていらないよ。

 僕は言いたいから言うだけなんだし』


 そうね、ありがとう。

 そういうことにしておいてあげる。

 ついでに恭平さんとハルさんのご厚意に甘えようかな。


『OK。

 すぐ送るよ』


information 恭平 からアイテムが届きました


 まるでもう送る準備は出来ていて、それこそ最後の 【送信】 をポチるだけだったのかもしれない。

 そのぐらいの速さでインフォメーションが出た。

 よし、これで必要なポーションも揃ったし、このまま門を入りましょう。

 わたしがそう声を掛けると特に反対もなく……というか、もう門を入ってるし。


 ちょっとー!!


「え? 行くんやろ?」

「あかんかったか?」


 いや、いいけど……。

 送ってもらったポーションを、ポストからインベントリに移すと急いで二人を追いかける。

 そうして始まる仕切り直しの 【海の向こうより来たりし者】。

 最初の大量沸きから紫宸殿、昭陽舎(梨壺)まではさっきと同じ。

 でも今回は最短距離である麗景殿には向かわず、そのまま真っ直ぐ淑景舎(桐壺)に向かう。


「俺、桐壺初めて」

「俺も」


 うんうん、楽しみにしていてね。

 確かクロウも初めてだったでしょ?


「そうだな」

「そういや、俺とグレイさんとくるくるだっけ。

 あの時いたの」

『そうですね。

 あの時は場違い感が半端なくて生きた心地しませんでしたけど』


 いやいやいや、くるくる落ちてないし。

 射撃上手いって、真田さんも串カツさんも褒めてたじゃない。


『【特許庁】 の人はどこまで本気かわからないから……』


 大丈夫よ


 ノーキーさんを筆頭に、【特許庁(あの人たち)】 がお世辞なんて言うはずがないから。

 額面どおりに受け取っていいわよ。

 何度もそう言うのに、くるくるは 『はぁ……』 と煮え切らない返事なんだから。

 とりあえず久々の淑景舎(桐壺)です。


 行ってきます!!


 ……と気合いを入れたのはいいけれど、その勢いで踏み込むには危険すぎるのが淑景舎(桐壺)

 この部屋と廊下の境となる御簾を上げると、そこを狙ったように手裏剣を模した手紙が飛んでくる。


「おわっ!」


 先頭を切って淑景舎(桐壺)に踏み込んだ柴さんが、その掌ぐらいありそうな投げ文に刺されそうになって背をのけぞらせる。

 そこはほら、超高性能危機管理センサー搭載の脳筋だからね。

 絶対に当たらないところがミソ。

 柱に刺さった、白い紙を折りたたんで結んだ手紙型手裏剣を見て柴さんが声を上げる。


「なんじゃ、こりゃっ?!」


 え? だから投げ文?

 ちょっと鋭すぎるけど。


「鋭すぎるって、間違いなく刃物だろうが!」


 うん、そうね。

 でもそれがここ、淑景舎(桐壺)の武器というか、攻撃方法というか。

 ちなみに女房は沢山いるから沢山飛んでくるわよ。


 嬉しいでしょ?

気を引き締めてやり直し! ・・・と思ったら、待ちわびた桐壺の女房たちの鋭い一撃が炸裂。

淑景舎戦、開始です。

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