表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

618/806

618 ギルドマスターは家系図を忘れます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!

information 【物語】 を閉じますか?


 この表示が出るとI(インスタンス)D(ダンジョン) 【ゴショ】 はクリアしたも同然。

 この表示に 【yes】 を選択すると入り口である門の前に戻され、そこで改めていつものインフォメーションが出る。

 そこで再度 【yes】 をポチると完全にダンジョンの外へ。

 ポチらず眼前にそびえる門を入ると、再び攻略を開始することが出来る。

 でもそれは再挑戦。

 だから再びあの一番最初の大量湧きから始めなければならなくなる。

 なぜそんなことを知っているかといえば、かつてちょっとした失敗で実証してしまったというか、なんというか。

 その、初見の時だったと思う。

 うっかり知らずに門を開けてしまい、まぁそういう作りになっていることを知りました。

 これも他のダンジョンにはないシステムだと思う。


 でも他のダンジョン同様、クリアしてしまうともう戻れない。

 いや、戻ることは出来る。

 でもなにもいないというか、ないというか。

 落とし損ねたNPCの一体も残っておらず、新たに出てくることもない。

 ただガランとしたダンジョンが残っているだけ。

 【ゴショ】 の場合は物語を閉じるまでもなく、閉じるかどうかを訊いてきた時点でクリアしていることになる。

 それがわかっていてなお、もし可能ならば……とわずかな望みをかけ、わたしたちは無駄だと知りつつも清涼殿から弘徽殿に戻ってみた。


 一応


 他の宮ならともかく、弘徽殿は凄く抵抗があったけれど背に腹は変えられない。

 だってほら、弘徽殿は臭いから。

 残り香なんて優雅さの欠片もないあの悪臭が、万が一にも残っていたら……なんて考えるだけでも口の中が苦くなってくる。

 世紀末的悪臭よ。

 頭の中では他のダンジョン同様、すでにクリア状態になっていることは想定しているけれど、あの臭さだけは忘れられないというか……。


 うがいがしたい


 それこそクリア済みの状態ですら御簾や柱、梁など、そここに染みついているのではないかと警戒してしまう。

 実際は無味無臭だったけれど無人でもあった。

 しかも清涼殿から弘徽殿までのあいだ、一体の弓使い(アーチャー)にも遭遇しなかったし、平安貴族や随身(ずいじん)ともすれ違わなかった。


「これはもう完全にクリア済みね」

「無駄な足掻きだな」


 少し照明の落ちた弘徽殿に着いて、そのがらんどうぶりを眺めながら観念すると、カニやんも脳筋コンビの反応を伺いながら同意。

 わたしたちは諦めて 【物語】 を閉じることにした。


 やってしまった


 まさかそう来るとは思わなかったから、ついうっかりいつもどおりに走ってしまった。

 いつもどおり最短距離を猛スピードで。

 でもこのダンジョンには、寄らなくても問題の無い場所がある。

 淑景舎(桐壺)飛香舎(藤壺)、そして凝華舎(梅壺)の三つの宮がね。

 通常の攻略はもちろん、一つ前のエピソード 【ゴショ】 攻略クエストはあくまでも攻略が目的なので最短距離を突っ走っても全然問題なし。

 むしろ高火力ダンジョンなので無駄な消耗は避けるべき。

 少しでもHPやポーション(アイテム)を温存して最終戦に備えたほうがいいから。


 でもなぜ必要の無い宮が三つもあるのかといえば、探索出来るように。

 ただ攻略したいだけならもちろん寄らなくてもいい。

 特に不利益になるようなことはなく、強いていえば最終戦に召喚される女御の数が少なくなるだけ。

 そして(がく)が歯抜けになる、そのくらい。

 音の抜けた曲でも帝は気にすることもなく優雅に舞いをさしてくれるから、フルコーラスなんてせいぜい一回聴けば十分。

 ちなみにわたしは聴きました。


「俺も聴いたことあるな」

『そういえば、そんなこともありましたね』


 その時のことを思い出してうんざりした顔をするカニやんと、やはりその時のことを思い出して苦笑いのくるくる。

 どうしてそんな無駄なことをしたのかと脳筋コンビが訊くからお答えしますと、あれはくるくるに頼まれてエピソードクエストに向かった時。

 わたしとカニやん、それにくるくるの後衛三人しかいない状態でどうするか考えながら 【ゴショ】 前に行ったら真田さんと串カツさんに会って、向こうもメンバーを探しているというからパーティを組んだのが運の尽き。

 あの二人の興味の赴くままに付き合わされ、三つの宮まで足を運んだ次第です。

 しかもあの二人ったら、【女御の文】 を取り忘れて突っ走るから慌てたわ。

 でもおかげで六人の女御が揃ったフルバージョンを聴けました。


「全員女御なんだ」

『それ、俺も思った』


 はい待って。

 カニやんと恭平さんだけでわかりあわないで……と突っ込んだら 「源氏物語読めば?」 と返された。

 えぇ~だってあれ、長いもの。

 もっと短く、一巻完結とかがいい。


『一巻完結でも、凶器になるサイズもあるけど』


 もちろんそんな分厚い本も却下です。

 えっと、一応いいたいことはわかってます。

 確か光源氏は女御の子どもじゃなくて側室の子でしょ。

 内侍(ないし)とかいう、帝の身の回りの世話をする役職の女官の子ども。


 葵上だっけ?


『色々混ざっててどこから突っ込めばいいか、俺にはわからない』

「混ざってるというか、まず内侍じゃなくて更衣(こうい)

 葵上は普通に光源氏の奥さんだし……」


 ん? あれ? じゃあ光源氏のお母さんは?


『桐壺だったはず』


 早々に匙を投げた恭平さんだったけれど、面倒見のいいカニやんまでが説明の途中で 「あれ? 母親って誰だっけ?」 と考え込んだため、結局代わりに答えてくるっていうね。

 そっか、源氏のお母さんは葵じゃなくて桐か。

 母親が女御じゃないことは覚えてたのよ。

 だから源氏姓で臣籍降下させたことまでは覚えてたんだけど、植物の名前は一杯ありすぎて……。

 だって他に藤とか梅とかも出てくるのよね、源氏物語って。


「だなー」


 そう言いながらカニやんがわたしを見るから、わたしも仕方なく話を戻すことに同意する。

 全員女御……ああ、そういう意味ね。

 確か更衣や内侍も有力貴族の娘で部屋をもっていたから、本来は全てに女御が住んでいたわけじゃない。

 まぁでも本来の御所はもっと部屋数もあったし、そのへんは運営の都合だと思う。

 でも運営の都合ということは元々意味なり理由なりがあってそれらを作ったわけで、わたしたちのこの挑戦は失敗となる。

 だっていなかったじゃない、漂着者。

 しかも全員が女御だった場合、その、だから……えーっと、漂着者は……というか、女御はどういうつもりで漂着者を……うん、だってそうよね?

 NPC長官やさっき浜で会ったNPCの話を信用するなら、漂着者は自分の意志で 【ゴショ】 に来たわけじゃない。

 浜を散歩中の女御が連れ去ったわけで、だとすると……いえ、待って。

 倒れている人を見掛けたから助けただけとも考えられるわよね。

 実際、浜を探索中のNPCも助けようとしたわけだし。


「なに言ってんの、この喪女は」

「さすが女王」

「見事なご都合主義脳内変換」


 待って待って待って、そこのおっさんトリオ。

 このチャットは未成年組も聞いてるから、そこんとこを考えて言葉を選んで。

 ついでに思考もそこんとこを考えて回路を回して。


「どう回したって同じだろう」

「どう考えたってそうなるんじゃね?」

「人妻が自分の部屋に男を連れ込むなんて、他にどんな理由があるよ?」


 いや、なんか生々しい。

 だってそれって、つまり、つまり……その、そういうことよね?


『不倫ですね!』


 ちょっとそこの女子高生っ?!

 待って待って待って!

 折角わたしたちが未成年に配慮して言葉を濁しているのに、健全な青少年育成に協力してるのに、当事者がそんな張り切って声に出すとか……


 ありなの?


 当然ながら同じインカムの向こうでは、美沙さんと一緒にいるはずのトール君がひどく慌てた声で 『ちょ、塚はっ、おま』 と言葉に詰まっている。


『女子中高生にとって、不倫も恋バナの一つでしかないんじゃない?』


 クロエも待って。

 どこからそんな暴論を持ち出してきたのよっ?

 いや、まぁクロエは普段からそうだけど……


『どこからって、美沙ちゃんから』

『まぁ既婚じゃなきゃ普通の恋愛なんだろうけど』

『W不倫ってどういう意味なんですかっ?』


 恭平さんが、不倫する人たちの言い訳みたいな解釈をすると、すかさず怖い物知らずの女子高生が、興味の赴くままに質問を投げてくる。

 今ひとつ意味がよくわからないって……そんなの知ってどうするのっ?


『どうって……どうもしないっしょ?

 美沙ちゃんじゃW不倫は無理なわけっすから』


 それこそわたしの考えすぎというか、深読みしすぎだとJBまでが笑う。

 確かにWは無理だけど、普通に……は出来るわけだしっ!


「そこも心配ないでしょ。

 美沙ちゃんは好きな相手がいるんだから」


 あ…………


 そうでした。

 しかもその相手は男子高校生で、喪女(わたし)にとてつもない親近感を持たせてくれる。

 現在進行形で彼女がいないというだけでなく、これまでに一人もいないというね。

 だからみんな普通にというか、安心して話していられるのか。

 うん、まぁその相手は話題的に動揺しまくってるけど、同じく動揺しまくっていたわたしにはなにも言えない。

 動揺はしまくっているけれど、トール君にその自覚というか、その事実を知っているかどうかは不明です。

 今も恭平さんとアキヒトさん、JBがW不倫について美沙さんに説明しているのを、『え? え? っと、塚原? あの?』 と戸惑いを全開にして一緒に聞いている。


『なんにでもというか、大人の世界に興味を持つお年頃だよね』

「あら、ハルさん」


 不意に割り込んでくるハルさんの声に、驚いたわたしは少し声をうわずらせてしまう。

 もちろん入ってきてもらっても全然かまわないんだけどね。

 ただちょっと忙しそうにしていたから意外に思っただけ。

 でもこの攻略失敗に思うところというか、気づいたことがあったのならどんどん言って欲しい。

 さすがに二度も失敗したくないし。


『そのことなんですけど、すぐに再挑戦しますか?』


 ん? どうかした?

 一応まだ検証の途中というか大脱線中だけど、とりあえず探すべき漂着者が、あの三つの宮のどこかにいるだろうことはわかっている。

 時間的にもお昼まで余裕もあるし、わたし個人の意見としてはこのまま再挑戦したい。

 このメンバーなら、上手くいけばクロエかくるくる、どちらかのクエストもお昼前に終わらせられるかもしれない。

 もちろん一度成功させて、その所要時間を見てみないと確かなことは言えないけど。


 どうかした?


『どうかするかもしれません』


 少し困ったような笑いを含んだハルさんの声。

 もちろん顔は見えない。

 でもインカムからそんな感じの声が聞こえてくる。

 しかもよくよく耳を澄ませてみると、なにか向こうで数えているような気もする。

 たぶん今も作業部屋にいるはずだから、何かの在庫を数えてるのかしら?

 足りない素材でもある?

 急ぎだったら先に採取に行くけど?


『急ぎというか、やり直すなら解毒ポーションいりますよね?

 たしか 【ゴショ】 って……』


 あ、そうだった!!

すっかり忘れていた源氏物語を調べていたら、色々とあちらこちらを読みふけってしまいいつの間にか時間が・・・。

そのわりにこれっぽちしか使用しておりません。

しかも本編とはあまり関係ない脱線要素という・・・(涙


ちなみにグレイの勘違いはわたくしの記憶違いをそのまま採用してみましたw

その確認をしていたらこの更新時間(号泣

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ