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617 ギルドマスターは目がくらんで間違えます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!

alert アメノシタシロシメス帝 / 種族・幻獣


 このI(インスタンス)D(ダンジョン) 【ゴショ】 の主人(あるじ)にして、【ゴショ】 軍団とでもいう一行の総大将のご登場よ。

 アラートが出た次の瞬間にシュルシュル……と音を立てて巻き上がる御簾。

 もちろん速度を自在に調整出来る全自動です。

 今回はゆっくりめの巻き上げです。

 そしてその向こうに置かれた、意外なくらい質素な高御座(たかみくら)に座した帝が姿を現わす。

 不敬を承知で言わせてもらうと、あれだったらうちのダイニングチェアのほうが立派かもしれない。

 少なくとも重厚感はあると思う。

 よかったら代えてあげてもいいくらい。

 あ、でもちょっと年季物だから傷とか入ってるけど。


 しかも何回見ても金色の意味がわからない。

 あ、もちろん椅子じゃなくて直衣(のうし)ね。

 きんきらきんの直衣に黒っぽい烏帽子(えぼし)よ。

 どうせきんきらきんにするのなら高御座をきんきらにしたらいいのに……というのもちょっと違うけど。

 西欧風なら金銀宝石で飾られた煌びやかな玉座というのもいいけれど、和風にはちょっとね。

 そういう意味でも、帝の直衣がきんきらきんなのが意味不明すぎた。


 目が痛い


 しかも(ふみ)で召喚した女御たちの合奏に合わせ踊り出す。

 もちろんただ踊るだけならともかく……いや、この状況で踊るというのも十分すぎるほどおかしいけどね。

 おかしいけど踊り出す。

 もちろんヒップホップとかじゃないけどね。

 さすがにそれはないと思う。

 当然サンバでもルンバでもない。

 強いていえば日本舞踊……かな?

 たぶん踊っているわけではない……いや、ひょっとして踊ってるの?


 どうなの?


「踊ってるかも」

「踊ってるように見えるからな」

「踊ってんじゃね?

 一応音楽に合ってる……かな?」


 最後にカニやんが首を傾げる理由はわたしもわかる。

 だってほら、抜けている三人の女御の分だけ音楽も歯抜けになってるからね。

 でもその音の穴に引っ掛かることなく、帝は雅やかな仕草で優雅に舞う。

 そして斬り掛かるクロウたちの剣を直衣の袖で受け、鋭い手首の返しで広げた扇から衝撃波を放ってくる。


「あー……あれじゃね?

 あの直衣、マジ金で出来てるとか」


 純金製


 だから剣を受け止めることが出来るのではないかとカニやんは言う。

 苦笑いを浮かべながらね。

 きっとカニやんも目が痛いんだと思う。


 それこそ 【ナゴヤジョー】 ほど来るわけではない 【ゴショ】 だけど、だからといって攻略したのは一回や二回ではない。

 実装当時はイベントにもなっていたし、他のメンバーの攻略をお手伝いしていたしね。

 おかげで数が出てくる平安貴族や随身、バリエーション豊かな女房や女御には慣れ……いえ、あの臭いにはどう足掻いても慣れないけど。

 もういっそ鼻をもいでしまいたくなるほど慣れない。

 それでも攻略自体は問題ない。

 でも帝だけはね……


 手強い


 普通に 【幻獣】 だから高HPの高STRに加えて高VITの強敵。

 これはどの 【幻獣】 も同じで、それこそルゥもね。

 でも帝のきんきら直衣は、物理攻撃を無効化するだけでなく魔法攻撃も反射するという優れもの。

 優雅に舞いながらガンガン剣を受けるし、バンバン魔法を弾く。

 防弾・防刃・防火・防水という万能な直衣に加え、ビシバシ衝撃波を放ってくるというとんでもなさ。

 

 一応弱点というか、素肌をさらしている部分には攻撃が通る。

 それも物理攻撃だけ。

 魔法だと、単体魔法であっても部分を狙うことは出来ないから。

 当然首から上は全部さらしているし、あとは手首から先、あるいは足首から先といった極めて狭く限られた部分だけ。

 そこを狙うため、クロウは大剣砂鉄を長刀屍鬼(しき)に換装。

 脳筋コンビとともに帝の意識を散らすため、四方からだけでなく上下にも攻撃範囲を広げる。


 一撃で落とせるのは首だけ。

 それでも手首を落とせば、衝撃波を放つ扇はもう一方の手にしか持てなくなる。

 足首を落とせば舞いを止めることが出来る。

 まぁ足については、人形である帝は上半身と下半身を後ろ前にすることが出来るから全方位攻撃は続くけど。

 それでも大きな動きは止めることが出来る。

 しかも今回は狙う剣士(アタッカー)が三人もいて、その三人ともが重火力とあって帝にも手強かったのか、扇を手放そうとはしなかった。


 飛ばせる


 あの扇にはブーメランのように飛ばすという攻撃方法もあって、傍観を決め込んでいる後衛職(わたしたち)も油断大敵。

 鋭い手首のひねりによってどこから飛んでくるともしれず、しかも結構な速さで飛来するから、油断をすればあっというまに首を落とされてしまう。

 でも今回()重火力剣士(アタッカー)三人を相手にさすがの帝も苦戦を強いられ、最後まで一度も扇を手放すことなく。

 他の人形同様腕も伸びるけれど、帝の場合、腕を伸ばせば弱点の面積が増えるだけ。

 飛ばした扇の回収にやむない場合などはともかく、今回は扇を飛ばすことさえしていないしね。


 そして最終的には両手首を失い、首を断たれた。

 少し前、カニやんと脳筋コンビの、この 【海の向こうより来たりし者】 の一つ前のクエストに付き合ったのがいい予行演習になったわ。

 次に予定しているクロエやくるくるの時には構成が変わるから、また考える必要があるけれど感覚というか、要領のようなものは改めて掴めた気がする。


「いや、最終戦見てるだけのモヤシ(おれら)がいうことじゃねぇけど?」

「え? だから観覧の心得みたいな?」

「それなら俺もバッチリ」


 心強いわ


 これからみんなエピソードクエストも進むだろうから、お手伝いよろしくね。


「【ゴショ】 は御免(こうむ)る」

「なんでやねんっ?」

「おまっ」


 鋭く突っ込むムーさんに柴さんは吹き出す。

 いや、柴さんが笑ったのはあくまでカニやんに、ね。


『トップバッターを譲ってあげたんだから、手伝ってもらうから』


 ほぉ~ら、我が儘な金髪美少年からのご指名よ。

 駄々をこねたらまたお尻を撃たれるからね。


「クロエの奴、ケツ叩く代わりにマジで撃ちやがるからな」

『汚い野郎のケツなんて触りたくないし』


 だからって撃つのはちょっと違うけどね。


『でも僕とくるくるのお手伝いはグレイさんにお願いするから』

「え? そうなの?」


 ちょっと意外に思ったら……


『嫌なの?

 カニやんには脳筋コンビ、貸してもらうけど』

「こいつらなら好きにして。

 それこそ八つ当たりで蜂の巣にでもなんにでもしてくれていいし」


 どうせまた弘徽殿で、悪臭に腹を立てたクロエが暴れると読んでの発言だと思う。

 あの悪臭に慣れることがない以上、あそこを通るたびにクロエが壊れるのも必至。

 その鬱憤のはけ口に誰を差し出すかという話……じゃないわよね?

 普通に壁として脳筋コンビにお手伝いして欲しいのよね?

 ちょっとだけ疑いつつもわたしはそう解釈したけれど、カニやんに生贄として差し出された二人は


「ふざけんじゃねぇぞ、ごるぁ!」

「勝手に貸し借りしてんじゃねぇぞ!」


 などとカニやんにまくし立てている。

 ここでクロエを怒鳴りつけないところがさすがよね。

 もちろんこの二人が今さらクロエを怖がるわけがない。

 でもここでクロエに怒っても無意味というか、悪態で返されるだけというか。

 しかもこの二人はカニやんが大好きだから。


「それも違うから」

「そうなの?」


 わたしの素朴な疑問に 「そうなの」 と、少しうんざりしたように答えたカニやんは、回復のためHPポーションの瓶を割っているクロウの様子に気づく。

 釣られて見れば、なにかを探すように周囲を見回している。


「どうかした?」

「……かもしれん」


 ???


 いつものいい声で思案げに答えるクロウに、わたしとカニやんは顔を見合わせる。


「どういう意味?」


 わたしの問い掛けにカニやんは 「さぁ?」 と答えながら肩をすくめてみせる。

 そしてその視線を柴さん、ムーさんの順に向けて表情で問い掛けるけれど、二人も身振り付きで 「わからん」 と返してくる。


 何かがおかしい


 そういうことだと思う。

 では何が?

 今回は一つ前の 【ゴショ】 攻略クエストではないから巻物は出ない。

 あれはNPC長官に、クエスト完遂の報告をするために必要な小道具だからね。

 今回は誰も 【ゴショ】 攻略クエストを受けているわけじゃないか、ら……ら………………あら? ちょっと冷汗が出て来た。

 どうやらわたしとほぼ同じタイミングでカニやんも気づいたらしい。

 同じように表情を強ばらせてこちらを見てくる。

 少し遅れて脳筋コンビも気づき……


「これぁひょっとしてひょっとする?」

「いわゆる失敗ってやつか?」


 たぶん


『えっと、その、どういうこと、ですか?』


 インカムの向こうからトール君が、いつものように遠慮がちに尋ねてくる。

 元々の性格もあるけれど、今回はたぶん失敗したわたしたちに配慮して、余計に遠慮がちになっているんだと思う。

 でも遠慮もクソもないのがクロエよね。


『よくわかんないんだけど?

 ちゃんと説明してくれる?』


 それこそ次に挑戦予約を入れている身としては気になる! ……と強気に尋ねてくる。

 しかもわたしたちが顔を見合わせ、それぞれが自分の頭の中で状況の整理をするために黙り込むと、さっさと説明しろと急かしてくる鬼畜さ。

 さすが我が儘美少年、容赦なし。


『黙ってると余計にイライラしてくるんだけど?

 わざと沈黙?』

「そんなわけないでしょ。

 ちょっとこっちで検証するから待ってよ」

「クロエ、大人しく検証聞いてろって」

『じゃあさっさと喋ってよ』


 はいはい


 本当に聞き分けのない我が儘美少年め。

 えーっと、つまり……失敗よね、これ。


「そうだろうな」


 他の三人が、互いに顔を見合わせているのをよそにクロウが答える。

 そうしていつの間にかわたしの手元に出ていたインフォメーションを覗き込む。


information 【物語】 を閉じますか?


 これは今までのダンジョンにはない表示。

 おそらく 【ゴショ】 専用(オリジナル)だと思う。

 でもクエスト時以外もこの表示が出ると攻略wikiに書いてあるから問題はない。

 問題はこのあとよ。

 この表示は保留のままにわたしたちは検証を始める。

 いえ、検証を始めるまでもなくわたしの脳裏には一つの言葉が浮かんでいた。

 おそらくクロウやカニやんも気づいているはず。

 脳筋コンビはちょっとわからないけど。

 だってほら、この二人は国家資格を取得出来るほど優秀な脳みそをもっているはずなのに、筋肉至上主義(ファースト)だから。

 思考より筋肉が優先だから。


「いや、大丈夫」

「なんかわかった。

 ってかこのダンジョン、探索型だよな」


 そう


 脳筋コンビがいうとおり、このI(インスタンス)D(ダンジョン) 【ゴショ】 は探索が出来る。

 それはつまり 「探せ」 ってことよね。

 あの女雛の正体を突き止め、漂着者を……

ついつい調子よくいつもどおりに突っ走ってしまったら、まさかまさかの攻略失敗。

問題の二人を探すべく改めて 【ゴショ】 を探索することになったグレイたちですが、その前に問題が一つ・・・

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