616 ギルドマスターは花粉症でマウントします
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久々にサブタイトルがあれですが、いつものあれということでスルーしていただければと思います(汗
無事に昭陽舎をクリアしたわたしたちが、次に向かったのは麗景殿。
ここの女房たちが投げつけてくるのは拳ほどのお手玉で、昭陽舎で投げつけられる碁石よりはまだ避けやすい。
一度に投げられる数も、一人片手に一つだからね。
両手で投げつけてくるけど。
一つ投げつけるとすぐに空いた手を懐に突っ込み、次のお手玉を握って投げつけてくるけど。
ひっきりなしに休みなく投げつけてくるけど。
ピッチングマシン?
確かそういう名前よね、バッティング練習の時にボールを投げてくれる機械。
あれを両手で、ひっきりなしに投げてくる感じ。
しかも自在に動き回り、剣士が斬り掛かると逃げ回るし。
もちろん逃げ回りながらも投げる手は止まらないけどね。
たぶんこちらも投擲武器だから、おそらく中距離攻撃型。
だからプレイヤーの接近を嫌うんだと思う。
だったら範囲魔法で一掃します。
壁になってくれるクロウや脳筋コンビのうしろから、カニやんとそれぞれのペースで範囲魔法を撃ちまくる。
でもこれは女房の数が減ってくると命中率が下がるため、結局最後は剣士が各個撃破。
最後の一体の首を刎ねたところで、出入り口から一番遠いところにある御簾が、シュルシュル……と音を立てて巻き上がる。
全自動は同じだけど、一瞬で巻き上がった昭陽舎とは違い、今度は少しゆっくりと。
その部屋の女御の雰囲気で御簾を巻き上げる速度すら変える、本当にここの運営は演出が過剰なのよ。
でも普通……というのはちょっとおかしいかな。
平安時代なんて遥か過去の時間だし、平安文化なんて全然現代社会においては普通ではない。
でもあの時代でも、たぶんああいう御簾の向こう側で書き物をするのは珍しいと思う。
それこそもっと普通に過ごせる自分の部屋ですること。
でもこの麗景殿の女御は御簾の向こう側で、お手玉で遊ぶ女房たちを前に書き物をしていた。
梨壺の女御に負けず劣らず華美な十二単をまとった麗景殿の女御は、文机を前に姿勢を正してすわり、燭台の明かりを頼りに懸命になにかを書いている。
その滑らかすぎる筆運びを見るたびに達筆を想像して文字に興味を抱くけれど、書かれている文字列が想像出来ず……ううん、逆に色々と想像してしまい怖くて見られない。
だってほら、この時代は一夫多妻だから。
他の女御を出し抜くため帝に恋文を送ったり、あるいはマウントレターを送り合ったりする、美しくも恐ろしい源氏物語の世界だから。
alert 女御レイケイデン / 種族・妖魔
今度の女御の武器はその筆。
もちろんアラート前に使っていた普通の筆ではなく、その身の丈と同じくらいの巨大な筆。
そもそもこの時代は男性でも平均身長が150㎝くらいなのに、優雅に立ち上がった女御の身長はクロウと変わらないかそれ以上。
つまり筆もそのサイズ。
麗景殿の女御はその筆を振り回すため、きらぎらしい十二単を潔く脱ぎ捨てる。
そして真っ白の単衣に朱の袴という、まるで書家のような出で立ちで巨大な筆を振り回す。
この麗景殿最大の問題は、その筆先にたっぷりと含まれた墨が毒であること。
そしてその墨によりプレイヤーの装備に、一時的とはいえシミが出来ること。
一時的だからシミ取りの必要はないけれど、これ、装備のない部分……例えば顔とか肌剥き出しの部分についても黒々としたシミになるっていうね。
そして毒の効果時間が過ぎると自然に消える。
でもそれがわかっていても汚れるのはやっぱり嫌。
特にわたしやクロウの装備は通常販売されていない稀少装備だし。
継続ダメージ
被毒の一番面倒なところは効果時間中、ずっとHPが減り続けること。
効果時間などはその毒によりけり。
だからVITが低くHPもさほど高くない後衛職には結構な命取りになることも多い。
しかもサソリや蛇のように、針で刺されたり牙で噛まれたりといった具体的なアクションがあるならともかく、この女御は剣士との接近戦によって筆を振り回し、そのことによって墨を振りまくという迷惑この上ない毒のまき方をしてくれる。
おかげで援護しようにも魔法使いは迂闊に近づけない。
毒を振りまくという攻撃方法は梨壺の女御と同じ中距離攻撃型だけど、麗景殿の女御はSTRよりVITが高めの持久戦型。
ただでさえ武器が毒という継続ダメージなのに、その使い手も持久戦型という、プレイヤーにとっては最悪の取り合わせよ。
それでも重火力が三人で取り囲めばそれほど時間は掛からず。
終わってみれば、三人ともお習字の時間に筆を振り回して遊んだ小学生男児みたいになっていたけどね。
そして最大の難問は、この毒が 【通常】 の解毒ポーションでは解毒出来ないということ。
【中級】 以上が必要だけどまだまだ流通量が少なく、入手することが難しいプレイヤーにとって 【ゴショ】 の門をくぐるのは難しい。
特に伝手の少ないソリストはね。
このことは調合士を職種として確立させることに役立っているけれど、【ゴショ】 へのプレイヤーの足を遠のかせてる一因ともなっている。
今回は、このエピソードクエストの追加された定期メンテナンスから数日後の攻略。
あらかじめこの日に行くことを決めていたから、事前にハルさんに 【中級】 の解毒ポーションを五本注文して備えてあった。
数日とはいえ時間もあったし、足りなかった素材もそのあいだに用意して揃えた。
結果として余ったけれどね。
備えあれば憂いなし
でも実はあるうっかりから、最終的には足りなくなる。
そう、この時点でわたしたちはある致命的なうっかりをしていたっていうね。
もちろんこの時は気づかずそのままいつもどおり弘徽殿へ。
ここは御簾の巻上速度は関係ない。
だって初っ端から御大の登場だもの。
alert 女御コキデン / 種族・妖魔
この部屋は入る前に覚悟を決める必要がある。
それは何かといえば凶悪な悪臭に耐える覚悟よ。
臭い!!
鼻が曲がるだけでなく口の中が苦くなるくらい臭い。
とにかく臭い、その一言に尽きる。
鋼の心臓に剛毛をボーボーと生やしているクロエが壊れるくらいの悪臭よ。
目に滲みて滲みて涙が出てくるくらい、とにかく臭いの。
その悪臭を放つ根源である香炉を、弘徽殿の女御が両手に捧げ持っている。
当然それを壊しに掛かるプレイヤーから香炉と女御を守ろうとするのが女房たちという、これまでの二部屋とはちょっとパターンが違っていて新鮮……な空気が欲しい。
だってわたしたちが到着した時にはすでに香炉は猛煙を上げ、部屋の空気がうっすらとかすんでいるほど。
煙害よ
絢爛たる平安絵巻において調香は雅なたしなみの一つ。
季節に合わせた香を練り合わせ、衣服に焚きしめたり親しい友人と贈りあったり……絶対に要らないわ、この香だけは。
だってただ臭いだけでも嫌なのに、HPやMPが減るのよっ。
そんな香が欲しいっ?
嫌がらせの一つには使えるかもしれないけれど、平安時代においてはマウントこそが最大の嫌がらせ。
それこそ 「わたしはこんなに素晴らしい香を合わせることが出来てよ」 と見せつけることこそが最大の嫌がらせであり、ただただ悪臭を放つだけの凶悪さは蔑まれるだけ。
こんな超弩級の特大失敗作を人に贈るなんてただの恥さらしに過ぎず、むしろなかったことにしてさっさと抹消してしまうに限る。
それこそ人知れず闇から闇へ……。
いや、でもだからって自分で使うのもどうなの?
ここは誰にも知られないうちに、速やかに闇から闇へ葬り去るのが自分のためのはず。
いくら失敗作がもったいないからといって自分で使うのは違うと思う。
絶対に違う
とんだ勘違いだわ。
お願いだから廃棄してよ、廃棄。
もったいないからってこれを自分で使うなんて、もったいないお化けも極まれり。
むしろもったいないお化けも脱帽ものよ。
いえ、きっともったいないお化けも迷惑してると思うわ。
だってこの悪臭を嗅がされるのよ。
迷惑以外になにがあるっていうのよ。
わたしもわりともったいないお化けを飼っているから、その子たちのためも思って廃棄してとお願いしているのに全く耳を貸してくれない女御は、鼻でも詰まっているのか。
それとも悪臭を嗅ぎすぎて嗅覚に死亡フラグが直立したのか。
先に登場した二人の女御に負けないくらい煌びやかな十二単をまとい、冠飾りを付ける頭を上げ、凜々しい立ち姿で巻き上げられた御簾の下に立っている。
花粉症?
そろそろスギの花粉も治まってきているはずだけど、ヒノキのほうがあとだっけ?
どちらにせよ薬も効かないほど絶好調の鼻づまりに助けられているのかもしれない。
そう思わなければ見るのもムカつくほど清々しい無表情を保っている。
とりあえずMPはどんなに減っても落ちないけれど……いや、待って。
0になるとわたしとカニやんは役立たずになるわ。
ただのカカシになります。
それこそ鳥も追い払えない、壁にすらなれない正真正銘の役立たずよ。
しかもHPだって剣士の三人に比べて、そもそもの最大値が低い。
そしてVITの低さによりこういう状況に置ける減少はとっても速い。
自慢じゃないけど
自慢したくなるくらいの速さで減っていく。
では僭越ながら、役立たずになる前にお仕事をしようと思います。
「起動……エコー壊」
範囲攻撃の中でも広範囲に影響を及ぼす数少ないスキルの一つ 【エコ-・壊】。
同じくらい広範囲に影響を及ぼす 【かまいたち】 とは違い、その発動は極めて静か。
一見なにも起こっていないように見えて、効果範囲内を乱反射する幾つもの音の刃に触れた瞬間、切り裂かれる。
つまりいきなりHPの流出現象があちらこちらで起こり始める。
かつてクロエの銃弾を防いだ几帳も 【エコー・壊】 の前では役に立たず。
香炉の他に武器らしい武器を持たない女御を守るべく、ある女房は几帳で壁となり、ある女房は燭台を棒代わりに剣を受ける。
そのために女御とプレイヤーのあいだに立ちはだかっていたが、運悪く首に音の刃の直撃を食らった数体が一撃で落ち、運良く首こそ避けられたものの直撃箇所が悪く大量のHPを失ったり。
そうして数を減らしたところで剣士三人が女房たちの群れに突っ込む。
その三人の援護をカニやんに任せ、わたしはとりあえず回復回復。
ただでさえ悪臭のおかげでMPが減っているのに、【エコー・壊】 なんて大技を使ってしまったからほとんど残量がない。
結局役立たずになるっていうね。
しかも最悪なことに、どういう形で女御を落とそうと絶対に最後は香炉が割れる。
それこそ誰かが香炉を女御から奪い取っても、女御が落ちた時点で割れてしまう。
割れる拍子にダメージまで食らってね。
そして弘徽殿が悪臭と猛煙に塗れるのは避けられない。
その中を、毎度毎度クロウに抱えられて 【女御の文】 を回収させられるわたしって……
どんな罰ゲームっ?!
これも毎度ながら、エリアの境界を越えて嗅覚でこそ悪臭を感じなくなったけれど、味覚が苦みを覚えているという最悪の置き土産をいただくことになる。
いよいよこの宮の主人である帝が鎮座する清涼殿を前に、例の本来ならばない通路がある。
マップによると飛香舎と凝花舎に続く通路ね。
でもこの二つには行く必要が無い。
この二部屋に限らず、わたしたちはすでに麗景殿の前に淑景舎も無視してるし。
それでも次に向かう清涼殿に入る際、女御たちの奏でる雅楽が淋しくなるだけ。
足りない三人分の楽器が欠けてしまうからね。
ちなみに以前に一度だけ、わたしとカニやん、それにくるくるはフルメンバーの演奏を聴いたことがある。
真田さんと串カツさんに付き合わされてその三つの部屋に行ったからね。
まぁ火力には定評のあるあの二人だから誰も落ちなかったけれど、それなりに危なげな攻略ではあったわ。
でも今回は不要! ……というわけで、最終攻略目標である帝とご対面しましょう。
information 【女御の文 × 3】 を使用しますか?
これはパーティリーダーであるわたしにだけ出る表示。
たぶんだけど文の回収は誰がしても大丈夫だと思う。
未だ試せていないのは試させてもらえないから。
攻略wikiの 【ゴショ】 の項目にそのへんの書き込みはないのかしら?
誰か検証してくれていてもいいと思うんだけど。
でもきっとこの表示は常にパーティリーダーに出ると思う。
そして拒否権はない。
だったら訊く必要はないのに……と思いながら 【OK】 を選択。
着いた清涼殿では、高坏灯台の薄明かりに照らされる中で奏でられる、ちょっとお間抜けな雅楽が出迎える。
色々とホラーじみている 【ゴショ】 だけど、この清涼殿がその最高潮。
梨壺、麗景殿、弘徽殿、この三人の女御だと最初に始まるのは鼓の音。
いきなり打たれる鼓のポンッという張りのある音に、いつ鳴るかと身構えていながらも、やっぱりいざ聞こえると反射的に体がびくっと強ばる。
次に聞こえてくる笛の音がさらにホラー感を増す。
そして続く弦を爪弾く音に、またしても体がびくっと強ばる。
しかも運営の過剰な演出はここでも健在で、調律から始まってるのよね。
これまでの三つのどの部屋よりも広い清涼殿は三方に御簾が下ろされ、左右の御簾の内には三つずつ席があり、本来ならば六人の女御が三人ずつ並んで座る。
このメンバーでは右側には一人、左側には二人しか座っておらず、わたしたちが訪れなかった三つの部屋の女主人が空席となっている。
そして正面の御簾がシュルシュルと音を立てて巻き上がると御大が登場する。
alert アメノシタシロシメス帝 / 種族・幻獣
早足に進んでおります 【海の向こうより来たりし者】。
ラスボス帝を倒してクリア?! ・・・となるでしょうか?
(こんなこと書いたらそうならないってネタバレしてんじゃん・汗)
ちなみに本文中に記述はありませんが、グレイは花粉症ではありません(爆
追記:VRゲーム(SF)部門日間ランキングにて42位に入りました!(自己新
ありがとうございます。
日頃のお付き合いと応援に深く感謝申し上げます。
どうぞ、今後ともよろしくお付き合いくださいませ。
2022/02/10 藤瀬京祥