表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

615/806

615 ギルドマスターは恋文に戸惑います

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!

alert 女御ナシツボ / 種族・妖魔


 凶悪な腕力で碁石を投げつけてきた女房たちの親玉……じゃなくて女主人(あるじ)の名は梨壺(なしつぼ)の女御。

 女御付きの女房ともなればそれなりの地位にあり、その中でも側付きともなれば御所内で権力を持つ女房もいたらしい。

 当然まとう衣装もそれなりに高価で(きら)びやか。

 でもそれ以上に高価で煌びやかなのがさすが女主人(あるじ)


 一瞬にして上がる御簾の向こう側から姿を現わした梨壺の女御は、見事な黒髪に艶を流しながら雅やかに御座(ぎょざ)から立ち上がると、一転、朱の袴をシュッと捌いて勇ましくその足を御簾の外に降ろす。

 そしていつの間にかその手に持っていた巨大な鉄扇を、(かなめ)を下にして床に下ろす。

 あの鉄扇は非常に強力で、かつて恭平さんの胴を断ったこともある凶悪な重火力武器。

 もちろんあれでぶっ叩くことも出来るんだろうけれど、主な使用方法というか、おそらく正しい使用方法は、詠唱の代わりに煽ぐという動作で風魔法を撃ってくる。

 運悪く食らった恭平さんが、初見で散々な目に遭ったことがある。


 あの時は初見も初見。

 それこそ女御が登場してすぐ、その姿を初めて見たと思ったらすぐさまその鉄扇を開いてひと扇ぎ。

 恭平さんを吹っ飛ばしつつその胴を断った。

 うん、まぁそもそも恭平さんから仕掛けたんだけどね。

 で、武器と攻撃方法がわかったとたん落ちた……というか、落ちるのと引き替えに判明したというか。


 懐かしい思い出ね


 さすがに今はそんなミスはしない。

 この女御はあの鉄扇を振り回すほどの高STR(豪腕)だけど、実は風魔法を使う中距離攻撃型(ミドルレンジ)

 アラートが出るほど大物のわりに、実は思ったほどVITが高くない。

 もちろんプレイヤーの魔法使いほど非力(モヤシ)じゃないどころか、剣士(アタッカー)よりもかなり高い。

 しかもあの鉄扇がやっぱり曲者で、剣士(アタッカー)の攻撃をがっつり躱してくる。

 そして腕が伸びる。


 人形だからね


 距離を置いた状態で腕を伸ばしてプレイヤーを捕まえ、鉄扇で煽いでその首や胴を断ちに掛かってくるという凶悪さ。

 極悪非道よ。

 対策として複数人数で四方から斬り掛かり、後方から支援を受けつつ腕を落とす。

 もちろん可能ならば首を狙ってもいい。

 でもアラートが出るほどの大物だからね。

 そう簡単には断たせてくれないけど。


 断ちます


 もちろん鉄扇は折れない。

 プレイヤーの武器は、視覚的に折れることはないけれど、耐久が(ゼロ)になると攻撃力も防御力も無くなる。

 そして(ゼロ)になった状態のことを 「折れる」 という。

 でも基本的にNPCはMPが無尽蔵なのと同じく、武器の耐久が削れることはない。

 削れるのはHPだけ。

 だからMP切れや鉄扇が折れるのを待っても、それこそいくら待ってもその瞬間は訪れない。


「一刀両断」


 外すことなく確実に女御の右腕を落とす柴さん。

 斬り落とされた右腕が握っていた鉄扇が、開いたまま重く硬い音を立てて床に落ちる。

 扇といえば、開いたままだと木の葉のようにハラリ……ハラリ……と落ちるイメージだけど、そこはさすが鉄扇。

 その重さを示すが如く、結構な音を立てて床に落ちる。

 慌てた女御が残った左手で鉄扇を拾い上げようとするその時、背後に回り込んだムーさんがその長く艶やかな黒髪に手を伸ばす。


 よっしゃ!!


 黒髪ゲーット! ……とガッツポーズを決めたのはもちろんわたしです。

 これであの艶やか黒髪がわたしのものになる。

 もちろんわかってます、あれが(かもじ)と呼ばれる付け毛の場合のみ可能だということは。

 恭平さんやカニやんの話では、必ずしもそうではない……というか、そうではない可能性のほうが高いそうです。

 ただ二人ともその根拠はないというから、可能性はあるわけで。

 最初は自分でむしりに行くつもりだったのに、三人は言うまでもなく、クロウにまで止められるってどういうことっ?

 だってちょっと隙をついてうしろから近づき、両手で髪の毛引っ張ったらいいんでしょ?

 そのぐらい非力(モヤシ)でも出来るのに……。


「髪は女の命じゃなかったっけ?」

「むっちゃ(むし)る気満々でやんの」

「んじゃなんで白髪(しらが)にしとんねん?」


 白髪(しらが)じゃないわよ、白髪(はくはつ)

 いいじゃない、これはこれで綺麗だし気に入ってるんだから。


「だったらそれで満足しろよ」

「黒なんて珍しくもねぇだろが」

「欲しがるほどのもんか?」


 この羨望は生まれつき茶髪の同士にしかわからないと思う。

 あ、もちろんどんなに羨ましくても現実世界(リアル)で毟ったりしないわよ。

 毟るどころか、他の人の髪に触ったりしません。

 これは仮想現実(ゲーム)前提の暴挙です。

 いくらわたしだってそこまでとち狂ってないから……という感じのやり取りがあり、代わりに脳筋コンビが毟ってくれることになった。

 クロウにも 「グレイ」 と窘められたけれど、一回だけでいいから挑戦させてとお願いし、代わりに脳筋コンビが挑戦することを認めてもらったというか、許してもらったというか。


 そしてムーさんの手がいよいよ女御の黒髪に伸びる。

 あれがどこで継いでいるかは不明だけれど……継ぎ目がわからないのは女房の手腕よね。

 その手腕で取れないようにするというのはなしでお願いします。

 付け毛なら絶対に取れるはず……と信じてムーさんのお仕事に期待する。


 さすがにわずかな瞬間しかないこともあって、腕を伸ばしたムーさんは女御の黒髪を無造作に掴む。

 そして力一杯引っ張った次の瞬間……


 抜けない


 えー……付け毛じゃないの?

 見るからにガックリするわたしに、同じく後方で控えているカニやんが呆れる。


「なんか、すげぇムーやんが悪人に見えんねんけど」


 それこそ女の人の髪を鷲掴みにして振り回すDV系みたいに見えるといわれれば、確かにそう見えてくる。

 VITこそ低めの女御だけどSTRは高いからね。

 抜け毛も気にすることなく、大きく頭を振って……それこそ人形だからね。

 360°首を回す勢いで髪ごとムーさんを振り回し、遠心力を使って吹っ飛ばす。


「おわっ!」


 決してムーさんだって弱くない。

 むしろ仮想現実(ゲーム内)ではかなり強いほうなのに、軽く吹っ飛ばされて壁に叩きつけられる。

 その衝撃の瞬間、ムーさんの背後が光ったように見えたのはたぶんHPの流出だと思う。

 わずかながらも衝撃により瞬間的なダメージが計上されたんじゃないかな。


 ちなみにすでに体勢を立て直した女御の髪は、無造作に掴まれたことはもちろん引っ張られたこともなんのその。

 その屈強な首同様にピンシャン……じゃなくて、サラッサラのツヤッツヤのまま。

 その光沢に曇り一つ見えず、一糸乱れず女御の首の動きに合わせてサラリとなびく。


 羨ましい


 ………………わかってる。

 挑戦は一回だけ。

 取れなければ諦める……はい、確かにそう言いました。


「起動……演蛇(えんじゃ)

「八つ当たりでそれか」


 だって取れないならいらないわよ、そんな黒髪。

 羨ましいだけだもの。

 カニやんには呆れられたけれど、VIT低めの女御だからね。

 【演蛇】 で縛ったところをクロウが大剣・砂鉄で首を断つ。


 昭陽舎(梨壺)クリア!


 不思議に思ったのは、わたしたちは全員エピソードクエストを進行しているはずなのに、巻き上げられた御簾の向こう側、御座(ぎょざ)には、ついさっきまで女御が座っていた(しとね)に光る 【女御の文】 があった。

 一つ前のエピソード 【ゴショ】 攻略ならともかく、最新エピソード 【海の向こうより来たりし者】 でもこれが必要なのかしら?


「どうだろう?」

「必要なかったら出なくね?」

「取得して失敗するか、取得せずに失敗するか」


 んー……確か 【ゴショ】 は時間制限もないし、もし必要ならその時に取りに戻る?

 取得して失敗の場合は取り返しがつかないけど、取得の必要がある場合は、失敗判定が出る前に取りに戻れるんじゃない?


「なるほど」

「じゃあ置いてく?」

「必要な時は走るか」


 もちろん取得のために走って戻るという意味ね。

 カニやんと脳筋コンビが 「取得を保留」 する方向で話をまとめかけたところ、それまで黙っていつものようにわたしたちの話を聞いていたクロウが不意に口を開く。


「豆の木」


 ん? いきなりマメ?

 うん、まぁそれはいいんだけど、いいんだけど……やっぱり返事がない。

 その、マメはクロウが苦手だからね。

 でもそのことはクロウも承知だから返事を催促することはないけれど、かといって撤回することもない。

 じゃあどうするかといえば、マメが返事をするまで待つ。


 無言で……


 えーっと、これはいつまで待てばいいの?

 だってどう考えてもクロウが折れるわけがないでしょ。

 だからといってマメが素直に話すというか、まず答えるとも思わない。

 この場にいるならクロウの睨みに負ける可能性は高いけれど、いないからね。

 顔が見えなければ睨みも効かないし、案の定、マメは完全に沈黙。

 しかも二人の根比べを見届けるつもりなのか、インカムが急に静かになる。

 それまでは結構賑やかだったのに、クロウがマメを呼んだ瞬間にシーン。


 ………………


『……な、なんだ?』


 うん、まぁマメが負けるわよね。

 どんなに沈黙を守られようと、いつまで待たされようとクロウは絶対に折れない。

 マメがそれほど辛抱強い性格じゃないことも知ってるしね。


「【ゴショ】 の通常攻略でも 【女御の文】 は出るのか?」

「ちょ、待て。

 今、wiki、確認する」


 一応クロウの要求に応えてはいるけれど、顔が見えない分声やしゃべり方に不承不承を、滲ませているなんて生やさしいものではなく、全開にしている。

 恥も外聞もへったくれもなく、不満を全開に応えている。

 まぁクロウ相手に隠す必要もないけどね。

 わざとそうなるようマメを追い込んでいるわけで、どっちもどっちだし。


 ちなみに 【ゴショ】 の通常攻略に、カニやんやわたしはもとより、クロウまでが詳しくないのももっともなこと。

 不人気ダンジョン過ぎて、エピソードクエスト以外に訪れるプレイヤーなんてほとんどいないからね。

 それこそ攻略wikiにも載っているかどうか怪しいもの。

 ちょっと不安に思いながら待っていると……


『出る。

 以上!』


 もうこれ以上は喋らん! と宣言するマメ。

 用件はそれだけだからそれ以上喋ってもらう必要もないけれど、あえてそれは言わないでおいてあげる。

 ちゃんと調べて教えてくれたから 「ありがと」 とお礼は言っておいたけどね。


『グレイさんのためだ。

 お前のためじゃねーぞ、カニ!』

「なんで俺?

 なんでここで俺に飛び火?」


 うん、完全な八つ当たりね。

 もちろんそのことはカニやんもわかっていて、「なんでやねん」 とか言いながらもそれ以上はマメに言い返すことはなかった。

 多少なりとマメを不憫に思ったのだと思う。

 結局カニやんはイケメンでお人好しだからね。


「通常攻略でも出るってことは、ないと(みかど)は倒せんてことか?」

「清涼殿の通行証ってことか。

 だったら要るんじゃね?」


 そういうことかな。

 じゃあ取得しておく? ……となると、いつもどおりわたしが取得させられるんだけどね。

 まぁ今回もパーティリーダーだし。

 じゃあ……と取得するまではよかったんだけど、実はこれ、結構なヒントだったのかもしれない。

 気づかなかったのは不覚だわ。


 やっちゃった……

【女御の文】が意味することは?

グレイたちは無事、【海の向こうより来たりし者】をクリア出来るのかっ?!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ