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612 ギルドマスターは四つの門を叩きます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

「よく来てくれた、アールグレイ」


 今もわたしのことを 【アールグレイ】 と正しくアバター名で呼ぶプレイヤーは少ない。

 その少ないプレイヤーの一人がシシリーさんで、このNPC長官……はプレイヤーじゃなかった。

 よくよく考えずともN(ノン)P(プレイヤー)C(キャラクター)じゃない。

 だからこそ今もわたしのことを 【アールグレイ】 と呼ぶのよね。


 AIだから


 安全地帯である 【ナゴヤドーム】 内にあるNPC長官室を訪れたわたしとカニやんは、別々にクエストの受諾真っ最中。

 近くには先に来ていた脳筋コンビがいるはずだけれど、NPC長官との会話を始めるとわたしの視覚はムービー画面に変わり、実際の周囲の様子はわからなくなる。

 この時ばかりはルゥもね。

 滅多に来ることがない場所とあって、直通エレベーターを降りた直後から興味津々に室内をフンフンフンフン……と探索中のはず。

 少しの時間、一人でご機嫌に過ごしていてくれるといいけど。


「先日の 【ゴショ】 調査はご苦労だった」


 そんなわたしの内心になどお構いなしにNPC長官は話し続ける。

 エピソードクエストに登場する各ダンジョン攻略は 「新たに発見されたダンジョン内を調査せよ」 という名目。

 各種イベントは別扱いなので、エピソードクエストの受諾時、NPC長官は先日のひな祭りイベントさえまるでなかったかのように一切触れることはない。

 まぁこのNPC長官にはなかったことになってるわけだけど……。


「報告書は読ませてもらった。

 なかなか興味深い内容だった。

 この世界の崩壊の謎を解く鍵になるかもしれん。

 今後もこの調子で調査を続けてくれ。

 我々は一刻も早くこの謎を究明し、人間の世界を取り戻さなければならない。

 そのためにはアールグレイ、君の協力が不可欠だ。

 今後とも臨時政府(われわれ)に協力して欲しい」


 もちろんこの科白(セリフ)をNPC長官はどのプレイヤーにもいってる。

 それこそ一言一句違わず、どのプレイヤーにも等しく公平に。

 この軽佻浮薄め。

 よくもまぁそんな言葉がスラスラと出てくるものね。


「実は数日前、奇妙な目撃情報が入った。

 須磨明石付近を散策していた調査員が、浜に倒れている男を見つけたというのだ」


 ははぁ~ん、これが例の 【漂着者】 ね。

 なるほど、なるほど。


「だが一人では手が足りず、近隣の調査員に助けを求めようとその場を離れた隙にいなくなってしまったらしい。

 同じ頃、【ゴショ】 近隣にいた別の調査員が 【ゴショ】 の怪異どもが、数人がかりでなにかを 【ゴショ】 に運び入れるのを目撃したという報告が入った。

 これはまだ内密だったのだが、少し前から須磨明石付近を怪異がうろついているという報告があり、その下調べを行なっている最中のことでな。

 あとで駆け付けた調査員が確認したところ、男が倒れていたあたりに複数の、人間を思わせる足跡があった」


 そこまでを一息に話したNPC長官は、自身の前にある机に、わたしに見せるように数枚の写真を並べてみせる。

 半分くらいは寂れた海辺の遠景で、それでもわかる十二単が数体。

 その護衛と思われる武官が数体が写り込んでいる。

 NPC長官は遠くてよくわからないが……なんて言っているけれど、結構はっきり写ってます。

 さすがに十二単の柄まではわからないけれど、おおよその色までわかるくらいにははっきりと。

 人形たちの表情がわからないのは、そもそも 【ゴショ】 の人形に表情なんてないもの。


 そして他に、砂浜に残る……これは草履の足跡?

 ちょっと変わった形の跡が残る砂浜の写真が数枚。

 これで 「人間を思わせる」 なんてよくわかったわね。

 確かに足跡を思わせるようについているけれど、人間かどうかはちょっと。

 それこそ新手の怪物とか妖怪とか、そういう可能性だって十分にあると思う。

 そんな突っ込みをあとでしたら、カニやんや脳筋コンビには 「データベースでもあるんじゃない?」 と返された。

 そういえば警察物のTVドラマなんかで、科捜研とかにそういう技術が登場していたっけ。

 なるほど、そのデータベースに照会して 「人間を思わせる」 と判断したわけね。

 この 【ナゴヤドーム】 を実効支配する臨時政府の評議会には科学者もいるとされている。

 その科学者の判断なのかもしれない。


「まずは須磨明石に向かい状況を確認してくれ。

 【ゴショ】 への突入判断は君に任せる。

 無事男を救出してくれ。

 もし彼が海を渡ってきたのなら、淡路、あるいは四国の様子がわかるかもしれん。

 どうか頼む」


 なるほど、やっぱり次は淡路島か四国の実装。

 このクエストはその伏線とでも言ったところかな?

 【素敵なお茶会(ギルド内)】 では、陸続きの中国地方実装のほうが可能性は高いのではないかと話していたけれど、まぁそこは運営次第だから。

 ユーザーが増えてくるとエリアの拡張は急務。

 どう広げるかは運営次第……というよりシナリオライター次第?

 いずれにしても 「まだご用意出来ていません」 ではユーザー(お客様)は納得しないからね。


「泳いできたとなれば淡路じゃね?」


 それこそ淡路島からでも泳いでくるのは難しいけど、四国からとなればアスリート……などとカニやんは、ルゥにバックリやられながら話す。

 ん? ちょっとカニやん、なにしてるのよ?


「なにって、なにも?」


 ルゥにバックリやられながらなにもしてないなんて言い訳が通るものですか。

 思いっ切りモフろうとしたことがバレバレなんですけど? ……というか、現在進行形でモフッてるじゃない!

 片手をバックリされながらももう一方の手でモフりまくり、鼻に皺を寄せて低く唸りながらカニやんの腕にバックリ食らいつくルゥは、短い手足で容赦なくモフッてくるカニやんのもう一方の手を必死に払いのけている。

 まぁこの勝負は、結局我慢しきれなくなったルゥがカニやんをゴミのように吐き捨ててわたしのところに逃げ込んで終了。

 そしてわたしは公衆の面前で胸を陥没させられた。


 ぐ……が、ぁ…………


 しかもこのタイミングでクロウがログインとか。

 あ、正確にはもうログインしていて、このタイミングでNPC長官室で合流……というか、ようやくのことで起き上がったらクロウがいました。


「きょ、きょは、早かったのね」

「ああ、佐久間課長の呼び出しだったからな」


 人事の佐久間課長?


 それはひょっとして新入社員の配置っ?

 わたしとしては入社三年目なので、今年こそは可愛い後輩が欲しい! と意気込めば、クロウにはちょっと笑われただけ。

 そしていつものように笑うだけでなにも言わないっていうね。


 え? 教えてくれないのっ?


「まだ決定じゃないでしょ?

 うちの社もまだ新入社員の人事なんて決まってないし。

 人事は忙しそうだけど」


 そんな状態で迂闊に喋れるわけがないと、カニやんに笑われる。

 もちろんわたしだってそれくらいはわかってます。

 でも実際のところ、我が営業企画二課は渡辺係長(ハラスメント)のおかげで色々と大変なのです。

 広瀬君の件もあったし。

 普通に人手不足でもある。

 まぁ渡辺係長についてはそろそろ異動かなにかありそうな気配ではある……え? ひょっとして渡辺係長の異動が決まったとかっ?

 これはこれで実現すれば、可愛い後輩が出来るという夢が叶うのと同じくらい嬉しい。


 教えてくれないけど


 うん、だからわかってますってば。

 でも可能性を色々と考えて、夢を見たりやきもきしたりするのもいいじゃない。

 はずれた時は確かに落胆するけれど、それまでは楽しい夢を見ていたいというか。


「もう少し待っててくれ。

 俺もクエストを受諾しておく」


 はいはーい!


 結局わたしの話なんて全く聞いていないクロウを待つあいだ、カニやんのおかげですっかり機嫌が悪くなってしまったルゥのご機嫌取りをすることに。

 カニやんをポイ捨てしてわたしの胸を陥没させるところまでは、鼻に深い深い皺を寄せて強がっていたくせに、わたしの胸を陥没させたところでそのまましがみつき 「きゅ~きゅ~」 と鳴いて離れなくなってしまったから仕方がない。


「実は助けてくれなかった飼い主への抗議じゃね?」

「それな」


 まぁね、脳筋コンビはカニやん大好きだから、カニやんの責任逃れに協力的なのもわかります。

 でも間違いなくカニやんのせいだから。

 他に誰がルゥに勝てるっていうのよっ?

 飼い主(わたし)ですら勝てないのに! ……ということは、飼い主の意地と面目にかけて絶対に言わないけど。


 言ってなるものか!!


 結局この日は全員がクエストの受諾だけ。

 まだ情報が少なく……というかほとんどない。

 なにしろ 【ゴショ】 は最新クエストの攻略ダンジョンとあって、かなり火力の高いダンジョン。

 紆余曲折しながらもここまでクエストを進めてきたプレイヤーでも、簡単にはクリアさせてくれないほどの食わせ物。

 実装当日にクリア出来たプレイヤーはいなかったのか、マメの話によると、公式サイトの掲示板にも全く情報が上がってこないどころか、話題(トピ)すら立てられないってどういうこと?


 どんな難題?


 でもひょっとしたら、【ゴショ】 が重火力ダンジョンであることはほとんどのプレイヤーが知っていることだから、平日の夜の挑戦は早々に諦めただけなのかもしれない。

 学生はともかく、社会人は次の日もお仕事だからね。

 わたしたちも挑戦は時間のある時に……ということで、次の休みにすることになった。


 羅城門が芥川龍之介なのはわかってるんだけど、結局これが朱雀門なのか応天門なのか、あるいは建礼門なのかわからないまま。

 ちなみに朱雀門は 「しゅじゃくもん」 というのが正解だったはず。

 いつものカニやんの、日常生活には全く必要の無い豆知識ね。


 【関西エリア】 の、京都御所の跡地を思わせる場所にそそり立つ立派な門。

 これを入ればI(インスタンス)D(ダンジョン) 【ゴショ】 攻略がスタートする。

 といっても今回はエピソードクエスト 【海の向こうより来たりし者】 で、通常の攻略ではない。

 ちなみにこの場合も、三つある 【ステータスを振ろう!】 と同じく、調査名目の攻略と、【海の向こうより来たりし者】 とは別々にクリアしなければならず、都度 【ナゴヤドーム】 までNPC長官に報告しに行かなければならない。


 面倒臭い


 【中部・東海エリア】 にあるI(インスタンス)D(ダンジョン) 【ナゴヤジョー】 とは違い、【ゴショ】 のダンジョン生成に条件やアイテムは必要ない。

 固く閉じられた門に正面から近づくと、インフォメーションが出てくる。

 そして尋ねてくる。


information ダンジョン 【ゴショ】 に入場しますか?


 パーティを組んでいる場合、このインフォメーションはパーティリーダーにしか出ない。

 ただ今回は、パーティメンバー全員がクエスト受諾者。

 まずはこの問いに 【yes】 を選択すると、通常は次に 【easy】 か 【hard】 か、難度(モード)を尋ねてくる。

 もちろん今回も尋ねてきたけれど、選択肢がもう一つあった。


information パーティメンバーにクエスト 【海の向こうより来たりし者】 の受諾者がいます。

    クエストに挑戦するかどうか、全員が選択してください。

    転送は全員が選択を終えてからとなります。


 ん? これはどういう意味?

 どうなるの?


「あ、グレイさんのウィンドウだけモード選択があるのか」

「これはあれか?

 誰か一人でもクエストを選んだら、他のメンバーはそれに付き合うことになるんじゃね?」


 なるほど


 つまりクエストの場合は 【easy】 or 【hard】 はなしの火力固定。

 誰もクエストを選ばなければ通常の2パターンから選ぶ。

 だから選択肢が 【easy】 【hard】 【海の向こうより来たりし者】 なのね。

 試しに柴さんにクエストを選んでもらうと、わたしのウィンドウから 【easy】 と 【hard】 の選択肢が消えた。

 そして……


 【海の向こうより来たりし者】 に挑戦しますか?


 という表示に変わる。

 もちろん 【yes】 と 【no】 の選択肢がある。

 クロウのウィンドウをのぞかせてもらうと、他のメンバーのウィンドウは最初からこの表示になっていて、あくまで難度(モード)を選べるのはパーティリーダーだけということらしい。

 当然のことだけど別々にクエストを進行する理由はないから、ここは当然全員が 【yes】。

 次に出たインフォメーションは 【海の向こうより来たりし者】 の開始を告げ、転送のカウントダウンを始めた。

すいません、お待たせしました。

やっと 【海の向こうより来たりし者】 開始です。

久々の 【ゴショ】 をお楽しみください(大汗

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