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611 ギルドマスターは連絡先を間違えます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!



久々に、後書きに 【休閑小話】 を置いておきます。

あのお買い物のあとの小話です。

 【フチョウ】 攻略の失敗判定は、クエスト受諾者である美沙さんの死亡。

 つまり落ちた。

 もちろん途中で落ちるのはかまわない。

 それこそ何度でもね。

 但し、その都度 【復活の灰(アイテム)】 や 【リカーム(スキル)】 を使って復活すること。

 そうして最終攻略目標(ラスボス)であるピエロを落とした時点で生存していること。

 インカムから聞こえてきたところから判断すると、どうやら美沙さんはそのピエロ攻略中に落ちてしまったらしい。

 なにしろあの状況だから。

 一度フチョウの屋上に出てピエロが出現したら、ピエロを落とすかプレイヤーが全滅するまで止められない。

 それこそプレイヤー側が攻略の手を止めれば全滅するからね。

 だから美沙さんが落ちたとわかっても復活させている余裕はない。

 そうして二回ほど失敗したらしい。


 よくあること


 うん、失敗なんてよくあることだし、そんな簡単に進められるクエストばかりでもない。

 むしろ一回でクリア出来ないようにしてある気がする。

 ゲーム的に簡単すぎても過疎っちゃうしね。

 そのバランスは運営の腕の見せ所。

 失敗した美沙さんも気にしている様子はなく……うん、美沙さんは気にしている様子はなかった。

 持ち前のポジティブシンキングで 「次こそ!」 とガッツポーズで意気込んでいたし、の~りんやぽぽが上手くフォローしてくれていたし。

 ただちょっとトール君が気にしていた。

 そしてそのことに気づいたクロエにえぐられていたけど……


『失敗の責任?

 君、そんなものがとれるほど火力あったっけ?』


 い、いや、まぁそうなんだけど……そうなんだけど、いちいちそれを言わなくてもいいじゃない。

 たぶんね、クロエはトール君が失敗の責任をとる必要はないと言いたかったんだと思う。

 それはわかるんだけど、言い方が……


「そこはクロエだし?」


 カニやんのその言葉が、トール君を慰めるものだったのか。

 あるいはわたしを宥めるものだったのかは不明。

 もちろんわたしを慰める必要はないし、クロエを諫める意志は全くなかったと思う。

 そんなこんなで美沙さんは 【フチョウ】 攻略を、三度目の正直で成功させた。


 続く 【トチョウ】 攻略には、都合で一緒出来なかったの~りんに代わりアキヒトさんが参加。

 そしてぽぽもやっぱりお仕事の都合で参加出来ず、代わりに恭平さんが参加。

 実際のところ 【トチョウ】 はスピードダンジョンだから、のんびり構えている受け身がちなの~りんより、装備からして機動力を重視しているアキヒトさんの方が合っていたと思う。

 でもアキヒトさん、恭平さんも久々の 【トチョウ】 だったらしく、死角から狙ってくる忍者たちに随分手こずらされたみたいだけど。

 ただこの時のアキヒトさんを見て、美沙さんの装備コンセプトのようなものが決まったらしい。


 機動力重視


 そしてショーパン装備をどこからか調達してきた。

 ……え? ショーパン装備なの?

 えっ? その……足、出すの?

 いや、まぁ美沙さんはまだ高校生だし、制服の平均的なスカート丈を考えると平気なのかもしれない。

 でも見せられる側として目のやりどころに困るわたしを前に、彼女は……


「これ、動きやすーい!」


 なんて言って喜んでいた。

 しかもぴょんぴょん跳びはねて。

 スカートじゃないから、その、それ以上が見えるわけでもないからね。

 う、うん、まぁ本人がいいのなら別に……その、いいと思う。

 その様子を見て目のやりどころに困ったのはわたしだけじゃなくて、ほら、トール君もね。

 ちょっと赤い顔をして、困ったような表情を浮かべていた。


 あとで聞けばそのショーパンは短剣使い(スプリンター)用の装備らしい。

 つまり装備そのものにはじめからAGIがボーナスとしてついている。

 これでAGI(機動力)を一定値確保しようということらしい。

 今はレベル的にも難しいけれど、もう少しレベルを上げたら、ベリンダから聞いた方法でAGIを底上げしてくれる常時発動(パッシブ)スキルの取得を目指すことも考えているとか。

 でもそうするとINTに不安が出るから、カジさんに改良を依頼。

 あらかじめ上書きでAGIが消えないように、スキルスロットが二つ以上あるショーパンを探し……もちろん探したのはマメだけどね。

 改良が出来上がるのを待つあいだ……ほら、カジさんは人気者というか、順番を待たなければならないほど繁盛しているからね。

 だから待っているあいだに上半身装備(トップス)を考えることにしたらしい。


「やっぱ下半身装備(ボトムス)がそれなら、丈長めで合わせね?」

「えー、でもカニさんのローブみたいなのだと、結局動きにくいじゃないですかー」


 アキヒトさんの提案を拒否する美沙さんは、わざわざカニやんをサンプルに出して怒らせる。


「俺はこれが気に入ってんの。

 余計なお世話!」


 うん、わたしもカニやんのすね毛なんて見たくないから。


「そんなもん、見たけりゃいつでも見したるわ!」


 そういって足を振り上げたカニやんが、ズボンの裾をまくろうとしたらルゥにバックリと食いつかれたことはいうまでもない。

 たぶんわたしを蹴ろうとしていると思ったのね。

 直後に、痛みと嬉しさのない混じったド変態の悲鳴が上がった。


 わたしはルゥがカニやんに絡んでいるこの隙をつき、その様子を一緒に眺めているタマちゃんを撫でる。

 全身矯正のしようがない癖っ毛のルゥはもっふり感が満載だけど、タマちゃんは元祖モフよね。

 癖っ毛の下にがっつりと筋肉を隠したルゥとは違い、しなやかな体にストレートの毛がサラッサラ。

 もちろんうっかりうっとりしていたらルゥに見られ、直後、ロケット弾を食らって胸が陥没しました。


 ゲ、フゲフ……


 結局美沙さんはハーフコートを合わせることにしたらしい。

 それもカジさんに作ってもらうのはともかく、色が赤だと聞いて妙な既視感を覚えたのはわたしだけじゃないはず。

 い、いや、まぁお尻が丸見えになるわけじゃないし……ま、ぁいいかな?

 う、うん、美沙さんが赤が好きなら別にいいと思う。

 あくまで機動力を重視し、杖もアキヒトさんと同じ短いものを。

 さらに迷彩柄のブーツを合わせるという徹底ぶり。

 そうして出来上がった姿(コーデ)は、どこをどう見ても魔法使いではなかった。


 短剣使い(スプリンター)


 どこからどう見ても短剣使い(スプリンター)

 それこそいつでも転職(クラスチェンジ)出来るくらい短剣使い(スプリンター)

 もちろん美沙さんがそれでいいのならかまわない。

 わたしだってデストピア感満載の世界にチャイナドレスだもの。

 人のことは決して言えないし。

 しかもこのチャイナドレスで、【ゴショ】(十二単の世界) に乗り込むのよ。


 世界観がバグりそう……


 まぁそういう意味では、運営の世界設定そのものが不具合を起こしている(バグっている)わけだし今さらよね。

 そんなわけで、本当に 【ゴショ】 に乗り込むことになった。

 新ダンジョン 【ゴショ】 実装とともに追加された新エピソード 【ゴショ】 探索クエスト。

 あの時は新ダンジョンのお披露目を兼ねたイベントだったため、レベルに関係なく多くのプレイヤーが興味の赴くままに訪れ、集まった。


 今回はイベントではないから、週半ばに行なわれる定期メンテナンス終了のお知らせとともに、新エピソード実装の正式告知(アナウンス)が行なわれた。

 それ以外には特に何もなく平常運転。

 正直 【ゴショ】 攻略クエストまで終えていないプレイヤーには関係ないから、それほど盛り上がらなかったと思う。

 平日だったから仕事を終えていつもの時間にログインしてみたら、【素敵なお茶会(ギルド内)】 も平常運転だったし。


 新エピソード 【海の向こうより来たりし者】 実装


 これが運営の正式告知(アナウンス)表題(タイトル)

 やっぱりひな祭りの時の、女雛が拾ったという漂着者が目標(ターゲット)らしい。

 それ以上の詳細は、例によってNPC長官室に行ってNPC長官からクエストを受諾しなければわからない。

 じゃあ早速……と思ったら……


「待てやごるぁ!」


 なぜかカニやんに巻き舌で止められた。

 そういえばカニやんも、このあいだ 【ゴショ】 攻略クエストをクリアしたから一緒にNPC長官室に行く?

 それとももう行った?


「まだ行ってない」

「じゃあ一緒に……」

「いや、そうじゃなくて!」


 実際にクエストをいつするかはともかく、受諾だけでも先にしておくほうが都合がいい。

 それこそ 「いざ 【ゴショ】 へ!」 となった時、慌ててNPC長官室に駆け込むのも面倒臭いからね。

 逆に、他の人のクエストで 【ゴショ】 に行くことになっても、受諾しているクエストとの重複がある場合はインフォメーションが出てくる。

 但しその場合、同じクエストでなければ一緒に受けることは出来ない。

 同じ 【ゴショ】 でも、攻略クエストと 【海の向こうより来たりし者】 は別クエストだからね。

 誰かの 【ゴショ】 攻略クエストを進行する場合、他のパーティメンバーの 【海の向こうより来たりし者】 は進行出来ない。


 でもカニやんはすでに 【ゴショ】 攻略クエストをクリア。

 わたしと同じ 【海の向こうより来たりし者】 を受諾、進行することになる。

 それなのにストップをかけられた。


 どうかした?


「……あ、今から 【ゴショ】 に行くわけじゃないんだ。

 それならいいけど」


 なにやらホッとする様子のカニやんに、わたしは首を傾げる。

 言いたいことがよくわからないんだもの。

 それまでフンフンフンフン……と周囲を散策していたはずのルゥがいつの間にか戻ってきていて、わたしの足下で可愛らしくおすわりをして一緒に首を傾げる。

 しかも傾げすぎて、そのまま首を捻ったほうにこてっと転けてしまう。


 可愛すぎる


 しかもすぐには転けたことに気づかず、転けた状態で首を傾げたままでいたというのがさすがルゥ。

 数秒してハッとすると、慌てて起き上がる。

 そしてなにもなかったように、改めてわたしの足下で可愛らしくおすわりを決めてみせる。

 うんうん、大丈夫よ、バッチリ見たから。

 なかったことになんてしてあげるわけないじゃない。

 もちろんカニやんにも見られたけど……


 もったいない


「可愛いのお裾分けぐらいケチんじゃねぇ!」


 それよりなに?


 なにか言いたかったんじゃないの?

 NPC長官室に向かいながら改めて尋ねてみると、カニやんもすっかり忘れていたらしく 「あ……そうだった」 と少し慌てた様子。

 そしてさっきのルゥみたいに、なにもなかったように話し始める。


「なにかじゃなくて、今日もクロウさん遅いんだろ?

 クエストするならクロウさんが来てからにして」

「何度も言いますけど、クロウはわたしの保護者じゃありません!」


 ここまではいつもどおり……だったのに……


『彼氏さんですよねー』


 思わぬ美沙さんの突っ込みに、それ以上なにも言えなくなった。

 だって、まさかそう来るとは思わなかったじゃない。

 今までになかったパターンに拍子抜けしたというか……その、ちょっと顔が……。

 インカムの向こうではトール君が慌てて美沙さんを止めていたけれど、止められるはずもなくて。


『ちょ、塚原!』

『なによー、だって本当のことじゃない』

『そ、そうだけど……』

『どうして篠崎が慌ててるわけ?

 あーやしー』

『あ、あやっ? え? 俺?

 俺がなにっ?』


 まぁトール君が美沙さんに勝てるというか、対等にすら渡り合えるはずもない。

 ものの見事にからかわれ、インカムの中で爆笑が起こっている。

 慌ててルゥを抱え上げたわたしは、その大きな頭の陰から覗き込むようにカニやんを見て問い掛ける。


「そういえば柴さんたちは?」


 柴さんもカニやんと一緒に 【ゴショ】 攻略クエストを軽くクリア。

 実はそのあと夜勤週間(ウィーク)を終えて復帰したムーさんが 「俺を置いていくなー!」 と、怒っているのか嘆いているのかわからない雄叫びを上げ、同じメンバーを引き連れてクエストをクリア。

 その二人はどうしたのか? ……と尋ねてみれば、すでにNPC長官室に行ったらしい。

 今度はカニやんを置いてけぼりにしたのかと思えば、クロウの残業を聞いていつものようにギルドルームでわたしを待っていた。

 まぁここまではいつもどおり……なんだけど……


 ん? ちょっと待って


 どうしてわざわざカニやんに連絡するのよ?

 そういう連絡はわたしにするべきじゃない?

 どうしてわたしを差し置いてクロウはカニやんに連絡するのよっ?


「いや、あんた、旦那が残業なの知ってるだろ?

 なんでわざわざあんたに連絡するわけ?」


 ん? ……あれ?

【休閑小話】指輪の秘密 ~secret of ring~


 ゲーム会社(メーカー)は、特にVRゲームの機材を装着する際の貴金属を推奨していない。

 むしろ外しての装着を推奨している。

 センサーの都合上、特に指輪は外すよう警告されている。

 だからわたしも機器を装備する前に指輪を外した。

 その、課長代理からいただいた指輪ね。

 もちろんお風呂に入る時も外しているし、手を洗う時も外してます。

 その時は気づかなかった。

 でもログイン前に外し、ケースにしまおうとした時に 「あれ?」 と思った。

 指輪の裏側になにか書いてある? ……というか、彫ってある?


 KEISUKE to ATSUKI


 そんな文字が流麗なアルファベットで……で……え?

 か、課長代理……なんですか、これ?

 え? いつの間に? これなにっ?


 えーっ?!

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[一言] 時間が掛かった主な理由がバレた(笑)
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