610 ギルドマスターは年齢を詐称します
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なぜこうなったのか?
だって課長代理に頼まれて課長代理のお買い物に付き合ったはずなのに、なぜかわたし好みのデザインの指輪がわたしのサイズで作られた。
いやいやいや、だって課長代理の買い物よね?
おかしくない?
でも店員さんはもちろん課長代理も全然気にする様子がなくて、指輪はあれよあれよと思っているあいだに完成……といってもサイズ直しの必要があったから、商品の受け渡しは後日となった。
わたしが目を白黒させているうちに支払いがカードで済まされ、課長代理に促されるように売り場の外へ。
そのあと少し他の売り場も回って……でも結局課長はご自分の物は買わず。
休日だからすぐに混むだろうからと、少し早めにイタリアンのレストランへ。
そこで美味しいパスタを……といいたいところだけれど、課長代理を真正面に見ながらのごはんは緊張が半端なく、味が全くわかりませんでした。
もったいない……
ちなみに翌日の夜にログインした時、この奇妙な買い物の話をすると……
「あ~殺虫剤か」
「いや、コロコロしちゃうのはあかんやろ」
「コロコロはまずくね?」
なにやらいつもの三人組が物騒なことを言っていた。
正確には、物騒なことを言ったのはカニやん……といっても殺虫剤だからね。
まぁそれほど物騒ではないといえば物騒ではないけれど、そもそもそれはなんの話?
わたしはクロウと行った奇妙な買い物の話をしていて、そのことの意見を求めてるんだけど。
ちゃんと聞いてる?
「聞いてる、聞いてる」
「せいぜい防虫剤やろ」
「今時そんなんで効くか?」
『効く人は効くだろうけど、効かない人は口でストレートにいっても効かないでしょ。
僕の同僚にもさ、結婚指輪してるお客さん口説く馬鹿がいてさ。
ああいうの、困るよね』
え? 結婚指輪をしているお客様を口説くって、それは犯罪……ではないけれど、まずいわよね?
『不倫って犯罪なんですかー?』
『ちょ! 塚原っ?!』
『だって気になるじゃん』
『いや、そうじゃなくて、その……』
ふ……不倫?
え? 待って、あれって犯罪……なの?
あ、もちろんわたしはそんなことは考えてないわよ!
そもそもそんな相手もいないというか、その……は、背後のクロウが怖くて振り返られない。
後ろめたいことなんてなにもないはずなのに……。
『初カレ相手にオロオロしてる処○は黙ってろ』
『おいおい、喪女っていってやれよ』
『不貞は犯罪じゃなかったっけ?
あ、ごめん、タイミング間違えた』
『この二人には関係ないネタくね?』
『だよなー』
『グレイさんは大人しくその指輪してなよ』
その指輪は唐突にやって来た。
本当に唐突というか、お仕事人間であるはずの上司様が、まさか仕事の途中でお店に寄って受け取ってくるとは予想外でした。
確かに仕上がりの予定日は購入した時に聞いていたはずだけど、仕事帰りに取りに行くかと思ったらお仕事の途中で行くなんて。
しかもわたしはそのことを知らなくて、自分のデスクにすわっていつものようにお仕事をしていたら課長代理からメッセージが届いた。
帰社予定時間だったし、でもどうして個人の携帯電話に? と思いながら確認してみたら……
『お仕置き部屋で待つ』
ここですんなり例の資料室に向かうわたしもわたしよね。
だって 『お仕置き部屋』 って書いてあるのよ。
なのにわたしったら、疑問に思うこともなく資料室に向かってしまうとか。
こう……息を吸うくらいごく自然に資料室に向かっていた。
「悪いな、仕事中に呼び出して」
いつものように自分のいる場所の上にだけ照明を点けた課長代理は、無造作に置いてある机にもたれかかるようにして待っていた。
今日は少し暖かいこともあってコートも着ず、鞄は足下に置いて、手にはこのあいだ行ったお店の小さな紙袋を持っていた。
それで営業先から打ち合わせの帰りにお店に寄ったことを知った。
わたしの視線が袋を見ていることに気づいた課長代理は、もう一方の手で招いてくる。
「お帰りなさい課長代理、どうかされたんですか?」
いつものお仕置き……じゃなくて資料室とはいえ今は仕事中。
課長代理と呼んでも大丈夫なはず。
でも一瞬なにか言い掛けた課長代理は、すぐに気づいたらしく小さく息を吐く。
それを誤魔化すように 「ただいま」 と答えながら手招きしてくる。
なんの疑問も持たず手招きに応じて近づくと、課長代理は紙袋から指輪ケースを取り出し、中から例の指輪を取り出す。
「手を」
言われるままに何気なく右手を出したら、「左手がいい」 と笑われる。
だって右利きだからつい、何も考えずに出してました。
改めて左手を差し出すと課長代理も左手でわたしの手を取る。
大きな手だなぁ……と思いながらいつも見ていたけれど、本当に大きな手。
指も長いし。
でも外から帰って間もないらしく少し冷たい。
風邪とか引かなければいいけど……
そんなことを思っていたら薬指に例の指輪をはめてくれる。
そういえば左手の薬指でサイズを合わせていたっけ……というか、どうしてこれがわたしの指にはまるわけ?
「どうって……藍月のために作った物だから」
「え?」
「そのぐらいのデザインなら仕事中も付けていられるだろう。
正式な物はいずれ作るが、今はそれを付けていて欲しい」
「正式な物って……なんのことでしょう?」
「少し先になりそうだが、まずは婚約指輪だな」
「こっ……?!」
ゲフゲフッ!!
ちょっとビックリしすぎて喉が詰まりました。
だって、こ……こん……んん? え? ちょっと待って、話が見えません!
「結婚すると約束しただろう」
そういえば課長代理が出す条件をクリア出来たら結婚してくれるといっていたような……あ、あれ? 思い出しただけで顔が熱くなってきた。
ヤバい
「あの……条件ってなんでしょう?」
恐る恐る尋ねてみたら 「さて、なんだろう」 と余裕の笑みで誤魔化される。
その笑みの意味が知りたいのに、絶対に教えてくれないのよね。
そもそも条件をクリアしたらって、その条件がわからないのではクリアする努力も出来ないんですが、そのことを言えば……
「俺の希望はもう話してある」
それほど難しいことじゃないとか言って、結局笑って誤魔化されるっていうね。
もっと詰め寄ればいいんだろうけど、その笑顔が格好良すぎて出来ないとか。
免疫がなさ過ぎる自分が恨めしい。
ひょっとして、これ?
ひょっとしてこの免疫の低さを克服せよってこと?
まさかと思うけどそういう条件? ……と思ったけれどハズレでした。
うん、思い返してみてもそういうことを言われた覚えはありません。
それどころか 「そんな免疫はいらない」 とまで言われました。
いらないということはないだろうけど、とりあえずそれとは別のご要望として、今この時から指輪をはめて仕事をすることになりました。
「少し遅れてしまったがhappy birthday 藍月」
………………
え? ……あ! そうだった。
この歳になってなんだけど、ちゃんと家族に祝ってもらったのに、うっかりまだ23歳とか年齢を詐称していました。
正しくは24歳です。
でもでもでも、誕生日が過ぎていることを思い出させてくれたのはいいけれど、それをわざわざ耳元で言うのは止めてよ。
残業続きでなかなか時間がとれなくてとか、そんな言い訳もいいから……その、そんなに一杯そのいい声で喋られると一瞬で耳まで熱くなって、一言だって聞き逃したくないのに音が飛ぶ。
なに、この現象?
機能不全っ?
とりあえず恥ずかしすぎて、しばらく課長代理にしがみついていました。
丁度いいところにいたから、つい、ね。
しばらくして課長代理は先にご自分のデスクに戻られ、例によってわたしはちょっと頭を冷やすというか、赤面が治まるのを待ってから戻ることに。
でもそのあとどれくらいで戻ったのか全く記憶にないわたしは、国分先輩の話によると、赤い顔をしながらも普通に仕事をしていたらしい。
全く記憶にないまま帰宅して、ログインをするあたりでようやく正気に返りました。
もうね、記憶がなさ過ぎて、翌日出勤するのが怖かった。
だってどんなミスをやらかしたか、想像するのも怖くて。
それこそ一日で挽回出来るか不安もあって、逃げたい気持ちで出勤してみたら、社内ですれ違う社員がやたらと顔を見てくるから、ミスが気になるあまり眉でも描き忘れたんじゃないかと思って慌てておトイレに駆け込んだけれど眉毛は無事でした。
このやたらに見られるのは今も続いているから、どうやら化粧のミスが理由ではない。
じゃあこの視線の原因は何かと言えば……
不明
国分先輩や会川さんは、声を揃えて 「あー……」 とだけ。
それ以上の説明を未だにしてくれません。
とりあえず仕事にミスはなく、ホッと胸をなで下ろしました。
でもまだまだ課長代理の残業は続き、視線の原因も不明のまま続き、新入社員を迎えることになる。
さすがに新入社員にまで見られることはないと思うけど……。
『そういえば 【富士・火口】 はエピソードクエストにないんですね』
そんなことをトール君が言い出したのは、まだ新入社員を迎えるより前のこと。
つまり学生組がまだまだ春休みを満喫していた頃。
【ナゴヤジョー銅】 もそうだけれど、どこのダンジョンもプレイヤーのレベルが上がるにつれエピソードクエストに登場する。
【フチョウ】 や 【トチョウ】 もね。
でもわたしたちがスザクと呼んでいるこの仮想現実最凶の火力ダンジョン 【富士・火口】 はその中に入っていない。
まぁまだエピソード自体全ストーリーが公開されているわけではないから、この先、入ることになるかもしれない……というか、たぶん入ると思う。
まぁなんとなく、本当になぁ~んとなくだけど、どこに入るかわかるような気がするから。
たぶんわたしだけでなく、カニやんや恭平さんも気づいてるんじゃないかな。
たぶんね
どうしてトール君がそんなことを言い出したのかと言えば、美沙さんの 【フチョウ】 挑戦に付き合っていたから。
もちろんエピソードクエストで。
美沙さんは春休みだったこともあり、時間は十分すぎるほどあったからレベルをガンガンに上げ、攻撃型魔法使いを目指すべくスキルレベルもめきめきと上げて 【フチョウ】 攻略に挑んだ。
失敗したけど
まぁちょっと火力に心配のあるメンバーだった……わけでもないかな?
クエスト受諾者である美沙さんを主賓に、トール君とマコト君、の~りんとぽぽという、火力ではなくVITに心配のあるメンバーだったかもしれない。
特にの~りん
初期の頃から言われているの~りんの霞のようなVIT。
火力は十分すぎるほど持っているのに、未だ霞のように霧散しそうなほどのVITはそろそろどうにかしないとね。
【フチョウ】 攻略の失敗判定は、クエスト受諾者である美沙さんの死亡。
つまり落ちたのね
藍月が婚約指輪をもらえる日は来るのかっ?!
本編は中途半端なところで終わっておりますが、新イベントに向かって進みます(たぶん大丈夫・汗