596 ギルドマスターは髭を生やした魔王になります
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alert 第六天魔王ノブナガ / 種族・幻獣
折角ルゥの可愛らしい姿を心置きなくSSや記憶に留めていたのに、やっぱり邪魔をしに来るチョビ髭。
自分は撮ってもらえないからって、妬かないでよね。
それこそルゥみたいに小さくなって……なって…………ねぇいま思いついたんだけど、ノブナガが小さくなって、幼い子どもに変わったらモテモテじゃない?
「威厳の欠片もねぇな」
子どもだからね。
小さくなったルゥも、本性の威厳なんて欠片も残ってないじゃない。
残虐性や戦闘能力の高さはそのままだけど。
でも可愛さが爆上がりよ。
「んじゃなにか?
チョビ髭からチョビ髭がなくなって、子どもになんのか?」
だからそういってるじゃない。
持ってる刀も、子どものおもちゃみたいに短くなったりして。
『でも戦闘能力と好戦的な性格はそのまま。
子どものチャンバラの振りして、無邪気な笑顔でプレイヤードツキまくんねやろ?』
わたしと柴さんの話を聞いていたカニやんがインカムの向こうから割り込むと、その話に柴さんは 「怖ぇ」 とわざとらしく肩をすくめてみせる。
全く怖くないくせに、なにを言ってるんだか。
それこそ全力で子どもになったノブナガの相手をしてあげるくせに。
柴さんって、なんだかんだいって面倒見がいいんだもの。
いい人よね
突然出たアラートに戸惑い、大蜘蛛狩りの手を止めてしまった美沙さん。
気にせず狩りを続けるよう話しながら、琵琶湖湖畔近くまで様子を見に行ったカニやんにチョビ髭……じゃなくて、ノブナガの様子を訊いてみる。
攻撃目標にならないようこっそりと、木の陰から湖畔に立つノブナガの様子を伺ってみれば、丁度パーティらしき数人のプレイヤーが通りかかったらしい。
じゃあノブナガはこっちに来ないわね……と安心するのは早計だった。
実際にその様子をのぞき見るカニやんは……
『でもこれ、あかんと思う』
あかんとはどういう意味?
インカムから聞こえてくるカニやんの声に具体的な説明を求めると、すかさず柴さんが割り込んでくる。
「どうって、関西弁でダメって意味で……」
そうじゃない!!
わたしだってその程度の関西弁は理解出来ます。
そうじゃなくて、どういう具合にダメなのかを訊いているの!
『いや、だってこれ、物見遊山じゃね?
どう見てもレベル低いわ』
どう見ても……とは、たぶんそのプレイヤーたちの装備ね。
そこそこレベルがありそうな装備には見えない、あるいはどこからどう見ても初心者に毛が生えた程度。
限りなく初心者に近い、あるいは 【中部・東海エリア】 をギリギリ出られるレベルではないかとカニやんは言いたいんだと思う。
しかも出現したノブナガを見て、ワーキャーと騒いでいるというから本当に物見遊山かもしれない。
いわゆる怖い物見たさね。
まぁでもノブナガが森に入ってこないのなら別にかまわない。
わたしたちはこのまま大蜘蛛狩りを続けましょう……と思ったら、そうは問屋が卸さなかった。
『いや、無理。
あいつら……』
カニやんがなにかを言い掛けた矢先、琵琶湖のほうから悲鳴というか、騒ぎがわたしたちのいる場所に向かって近づいてくる。
ついでに茂る木々の向こうに、わずかにノブナガのチョンマゲの先が見える。
さっきまで見えていなかったはずなのに、それが見えるようになったということは……
こっちに来ないでよ!
しかもただ逃げてくるだけならまだしも、どうしてノブナガを引き連れてくるのっ?
思いっ切り攻撃目標になってるじゃない!
声がどんどん近づいてくるにつれ、ノブナガの姿もどんどん見えてくるし。
どうせ逃げるなら、こっちじゃなくて 【中部・東海エリア】 に向かいなさいよ。
【関東エリア】 にいる赤い犬ガルムは群れながら攻撃目標を追いかけ、挙げ句にエリアの境界を越えて 【中部・東海エリア】 にも入ってくる。
それこそ安全地帯である 【ナゴヤドーム】 やどこかのIDにでも入らない限り、ずーっと追いかけてくる。
ただ振り切ってもその場に留まるから、代わりに誰かが落としてくれないと、ダンジョンやドームから出た時点でまた追いかけられることになるけど。
でもノブナガはエリアの境界を越えることはないから、【中部・東海エリア】 に逃げ込めば狙いがはずれるのに……
もう!
『いや、それも無理っぽい。
そこまで機動力がなさそう。
俺が狙い取ってもいいけど、壁ないと辛いからそっちいくわ』
まぁカニやんはね、わたしと同じ魔法使いだから。
魔型に反応するノブナガが相手だと、壁役がいないとすぐ落とされてしまう。
壁役がいないならせめてもう一人、同じ魔型がいないと集中攻撃されてどれほども保たない。
「あ、誰かいる!」
「あいつらになすりつけろ!」
木々のあいだからその姿が見えるより、賑やかなその声が先に聞こえてくる。
また随分と不穏なことを言ってるわね。
ちなみにこの状況では、すでに件のプレイヤーたちがノブナガの攻撃目標になっているため、なにもしなければわたしたちに攻撃目標が変わることはない。
例えわたしが魔型であったとしてもね。
正確には、ノブナガは魔型に反応しているのではなく、魔法スキルに反応するから。
それこそ 【ヒール】 でも使えば即座に攻撃目標が変わるけれど、ただ突っ立っているだけでは反応しないのがノブナガです。
つまりこのプレイヤー一行は、その程度の知識も無いのね。
ひょっとしたら、まだ 【中部・東海エリア】 を出られるレベルではないのかもしれない。
「かもな」
見知らぬプレイヤー一行より先に、わたしたちとの合流を目指すカニやん。
その背中を追うように見知らぬプレイヤーが六人、わたしたちのほうに向かって走ってくるのが見える。
ん? 六人? ……ということはパーティではないのね。
この仮想現実のパーティシステムが上限人数五人だから。
もちろん三人ずつで二つのパーティにしてもいいけど。
「それ、どうでもいいし」
うん、どうでもいいわね。
とりあえずルゥ、いらっしゃい。
ほ~ら、抱っこしてあげるから……と甘い餌でルゥを釣り上げて確保。
丁度大蜘蛛の足を食い千切っていたルゥは、手負いの大蜘蛛を中途半端に放置することなく、さくっときっちり片を付けてから嬉しそうに 「きゅ!」 と鳴き声を上げ、瞬時にわたしの足下へと戻ってくる。
そうしてお行儀よくおすわりしたところをもっふりと抱き上げ、急いで木の陰に身を隠す。
すでに美沙さんのカバーには柴さんが入り、合流したところでカニやんも……と思ったところで追いついてきたノブナガが、その手に持った刀を大きく振りかぶる。
次の瞬間凄い速さで横に薙ぐと、カニやんのあとを来ていたプレイヤー六人が次々に胴を真っ二つに……真っ二、つ……
ひぃぃぃぃ~
こ、これはなかなかシュールな光景ね。
そもそもこのゲームでは、首や胴を断たれると一撃で落ちる。
でも胴は、STRやVITの都合上なかなか断てるものではなくて、実際には首だけが唯一一撃必殺で落とせると言ってもいい。
そして今回この力業を試みたのは残虐非道で有名なチョビ髭……じゃなくて 第六天魔王ノブナガ。
つまり 【幻獣】
高HPの高VITでも有名なNPCだけど、一番恐れるべきはそのSTR。
クロウたち剣士トップ3ですらその刀とまともに打ち合えば、被弾していないはずなのに衝撃だけでダメージが出るという超豪腕。
そのSTRを前に、美沙さんより少し上くらいのレベルでは到底歯が立つはずもなく、六人全員が無残に胴を断たれる。
この場合、首と同じく部位欠損は起こらない。
もし起こるとしても、上半身が欠損するのか下半身が欠損するのか悩むところ。
運営の自主規制により実際は欠損せず、斬られた刹那、大量のHPを流出した……と思ったらあっというまに死亡状態になる。
そうして動けなくなった六人のプレイヤーは、迫るノブナガの迫力に悲鳴を上げるけれどNPCが一顧だにするはずもなく。
無残にも踏みつけながら突き進む先にカニやんが、木の幹に片手を付いて立っている。
様子がおかしい
どうしてさっさと逃げないのかと思えば、肝心の逃げる足が片方無くなっていた。
そして残る膝のあたりから大量のHPが流出している。
ノブナガの刀が直撃したのは、カニやんの少し後ろを来ていた六人のプレイヤーたち。
カニやんは掠ってもいないはず……なんだけど……
衝撃波
その発生は確率だから、毎回放たれるわけじゃない。
でも発生すれば避ける以外に回避する方法はない。
剣で受けることはもちろん、魔法で相殺することも出来ないから。
避けるには避けるでそれなりの運動神経や動体視力っていうの?
ああいうのが必要になるみたい。
いつ衝撃波が飛び出すかわからないし、かなりの速さで襲って来るからね。
まずわたしには避けられません。
でもカニやんが避けられなかったのは、確かに剣士ほどの反射神経がないということもあるだろうけれど、ノブナガとの距離が近すぎた。
それこそ衝撃波が来る! ……と思った次の瞬間には足を失っていたと思う。
そうして文字通り片足になってしまった。
「ヒール!」
とりあえず失ったHPの回復を。
そう思って 【ヒール】 をしたら、カニやんに 「アホかー!」 と怒られた。
うん? 魔法反応?
え? でも違うでしょ?
だって今のノブナガはほら、修正されてるじゃない。
琵琶湖の中に例の藻が発生したのと同じ頃から、プレイヤーが攻撃を仕掛けなくても襲って来るようになった。
だから魔法を使おうと使うまいと、すでに視界に入っているカニやんはノブナガの攻撃対象。
しかも一番近くにいるんだもの、間違いなく落とされるわよ。
「いや、今ので狙いが女王に変わった」
それでカニやんが怒っているのだと、柴さんが 「アホか」 の詳細を説明してくれる。
もちろんわかってます。
カニやんの回復と、攻撃目標を交代するための 【ヒール】 だもの。
ノブナガは魔法に反応するという特性を持つNPC。
だから間近で剣士に仕掛けられていても、その後方から魔法攻撃を仕掛ける魔型に反応し、まずは魔型を落としにかかる。
そういうちょっと変わった性癖の持ち主。
「性癖ってあんた……」
だってノブナガの性格みたいなものじゃない。
とりあえず狙いがわたしに向いているうちに、カニやんはポーションでHPを回復して応急処置を。
わたしが生き残れたら欠損回復をするし、落とされた時は先にわたしの回復をしてくれれば欠損回復してあげるから。
「嬢ちゃん、チョビ髭から出来るだけ遠回りしてカニのところに行け」
剣を抜く柴さんが、すぐそばにある木の陰に隠した美沙さんに話し掛ける。
すると美沙さんは、大蜘蛛討伐のために持っていた剣をすぐさま鞘に収めて走る準備。
少し緊張した面持ちで周囲の様子を伺いつつカニやんの位置を確認し、柴さんに 「わたしはなにをすればいい?」 と問い返す。
すると柴さんは一瞬の間を置き、抜き身の剣を手に歩き出しながら答える。
「カニの回復を手伝ってくれ」
「わかった」
「起動……」
二人のやりとりを聞いたわたしは、そのタイミングを計るべく詠唱を開始。
美沙さんを案じていないわけじゃないと思うけど、振り返ることなく、真っ直ぐ上目遣いにノブナガを睨む柴さんが 「行け!」 と声を上げると、「はい!」 という元気な声をとともに木の陰から走り出す美沙さん。
そのタイミングでわたしは焔を放つ。
「焔獄!」
久々の第六天魔王ノブナガ戦。
子どもの姿になったノブナガと遊ぶ筋肉の姿を妄想・・・出来なかったので書けませんでした(汗




