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59 ギルドマスターはまた怒られます

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!

 ここしばらく(ぬし)のようにギルドルームの片隅で、どんよりとした空気の中で小さくうずくまっていたの~りんは、わたしたちが部屋に戻ってくる前からいて、ずっとそこでわたしたちの話を聞いていたんだけど、まさか会話に入ってくるとは思わなかった。


「大丈夫だよトール君、今のはグレイさんが悪いから」


 もちろん入ってくれていいんだけど、追い打ちを掛けてくるのね。

 いや、ま、わたしには追い打ちだけど、一応トール君のフォローよね。


「とりあえずすわったら?」

「……はい……あの……の~りんさん?」

「グレイさんはそんな顔してるからね、モテるんだよ。

 全然知らない人とかからもフレンド申請が来て、一時期つけ回されたりしてたんだ。

 完全にストーカー」

「ひょっとして、それでクロウさんがずっと一緒にいるんですか?」


 ……そういう解釈も出来るのかもね。

 違うけど。

 クロウがそばにいるのは、β版の頃からだから全然関係ないの。

 でもこれが、わたしがギルドメンバーリストやフレンドリストで表示される、ログインなどの自動表示システムをオフにして情報を非開示にしている理由なの。

 だからいつもわたしがログインしているかどうかはもちろん、位置情報も表示されない。


「それは俺がギルドに入った時からそうだったから、違うと思う」


 の~りんの仲裁で諦めたのか、仕方ないと言わんばかりのカニやん。

 それでもちょっとはわたしの迂闊さを怒ってると思う。

 ちらりとわたしを見た目が、そう言っているような気がした。


「結果としてクロウさんが一緒だとあいつらも寄ってこなくてよかったんだけど、いつも一緒ってわけじゃないからね。

 まぁ色々あって、とりあえず新規のフレンド申請は受け付けないでおこうってことにしたわけ。

 自動表示システムもわざわざ切って。

 それなのに……」


 うん、ごめん。

 だってトール君だってわかってたから、ついうっかり……そんな言い訳を考えると、ちらりとわたしを見るカニやんの目に責められる。


「こういううっかりをするからこの人は油断が出来ない。

 クロウさんも大変だよ。

 最近は申請も減ったみたいだけど、凄い卑猥なメッセージとかも送られてきてて、男の俺が見ても引くわーってくらいの」


 やめて、思い出したくないから。

 もうね、ほんとにやめて、思い出すだけで気分が悪くなるから。

 とっくに消したメッセージだけど、なぜか文面を覚えてるの。

 そういうのに限って記憶に焼き付いちゃって消えないの!


 もーいやー!!


 嫌なことを思い出して頭を抱え込むわたしに、クロウが折れる。

 握っていた手をようやくのことで放してくれて、その手で頭を撫でてくれる。


「酷い粘着されて、あれ、よく耐えたよね、グレイさん」

「ノーキーさんなんて今もあれだからな。

 ところでの~りん、どうせ全部きいてんだろ。

 そこだと鬱陶しいから、こっち来てすわれよ」


 実はの~りんも、カニやん、パパしゃんの次くらいに古いメンバーで、初期の頃のカオスを知ってるプレーヤーの一人。

 カニやんに促されてのっそりと立ち上がったの~りんは、足を引きずるような鈍重さでテーブルに近づいてくる。

 でも話に混ざろうとしてるってことは、やっぱりココちゃんのことが気になるのよね。


「ききたかったんですけど、四人が強制的に退会させたわけじゃないですよね?」


 やっぱりの~りんもそこが気に掛かっていたみたいで、一番怪しいクロウを見ている。

 こればっかりはクロウに前科がありすぎる。

 疑われても仕方がないわよね。


 でも違うから。


 一応あの時の状況を説明するんだけど、そもそもの~りんはココちゃんよりも先に通常エリアに戻っていたはず。

 ココちゃんの脱退表示が出たタイミングを知っているはずだし、その時わたしたち四人がどこにいたかもわかっているはず。

 ただ、イベントエリアでギルド関連機能を操作出来たかどうかは、そもそも権限を持っていないメンバーにはその画面を見られないからわからない。

 それで疑ったみたい。


『失礼なこといわないでくれる?』


 あ、またクロエが混ざってきた。

 どこかで何かをしているらしいクロエは、少し怒っているような声で話しかけてくる。

 話がややこしくならなければいいんだけれど……ちょっと心配するわたしの先を見越してカニやんがクロエを牽制する。


「ちょっとクロエは黙ってろ、ややこしくなる」

『カニやんも失礼だなー』

「混ざりたけりゃこっちに来い」

『それは無理』

「じゃ、黙って聞いてろ」

『仕方ないなぁ』


 元々いいたいことだけ、つまり自分の主張をするだけしたら用はないって感じだったのかしら。

 クロエがあっさりと引いて、話が戻る。


「わざわざ退会させる理由がないだろ?」

「そう?

 だってココちゃんがイベントに参加するの、よく思ってなかったじゃないか」

「あれは、そうじゃなくて、火力がないのに参加してどうするのって話だろ?

 言い方が悪いのは認めるけど、的にしかならないんだから、ココちゃん自身が後味の悪い思いをするのはわかってることだし、だからやめておけっていったんじゃないか、みんな。

 それを、お前らは」


 第二回公式イベント開催において、運営が公式に行った告知(アナウンス)による参加条件はレベル20以上。

 そしてわたしたちギルドでも、この条件に合えば参加は自由とした。

 だからそこまで強く止めることは出来なかったんだけど、ギルド内じゃ無理って空気に満ち満ちていたのに、それを押し切って参加を決めたのはココちゃんとの~りん。

 恋は盲目とはいうけれど、結局あの状況でココちゃんが落ちて嫌な思いをしたとしても自己責任でしょ?

 みんながわかっていたことなのに、どうして本人たちがわかっていなかったのか。


 本当に恋は盲目ね


 あの話し合い(ミーティング)の時、最後のほうなんて、圧力並みに感じた 「ココちゃんの参加反対的空気」 に逆らってまで参加するなんて。

 それだけ二人が想い合っていたってこと?

 あ、違うか。

 完全にの~りんの片思いで、ココちゃんの返事は未だないままなのよね。

 もちろんこれは、の~りんには口が裂けても言えないけど……少なくともあの圧力を感じないほど盛り上がってたってことではあるみたい。

 いわゆる 「吊り橋効果」 みたいなもん?

 でもその盛り上がり方も、ココちゃんとの~りんでは形が違ってたってことね。

 ほんと、人の気持ちって難しいわ。


「それ、グレイさんがいうと微妙」


 ちょっとカニやん、人が真面目に考えているのに茶化さないでよ。

 でも、引退してなかったからよかった。

 もし……もし、ココちゃんが戻ってくることを希望すれば、わたしは受け入れるつもりでいるんだけれど、ただ、今のギルドの空気だと、全くの無条件でってわけにはいかなそうだけれど。

 しかもココちゃんの意志で 【シシリーの花園】 に入ったんだとしたら、余計に難しいか。


「そこはなるようにしかならないだろうけれど、でも、よかった」


 ココちゃんの件に関しては部外者であるはずの春雪さんなんだけど、なにがよかったのかしら?


「やっぱりメンバーが抜けるっていうと、理由が気になるじゃないですか。

 それこそ俺なんてごく最近 【シシリーの花園】 の話を聞いちゃったばかりですから」


 まぁ 【シシリーの花園】 ほど極端なもめ事は少ないとは思うけれど、新たにそのギルドに所属しようと考えたら気になるかもね。


「でも、アールグレイさんこそいいんですか?

 俺、生産職なんですけど」

「そういえばなんの(しごと)かきいてなかったわね」

「レベル32の調合士です」


 珍しい調合士だ。

 しかも生産職がギルドに所属せずそこまでレベルを上げるなんて、かなり大変なことだと思うんだけど。


「お陰様で俺はフレに恵まれたんで。

 でも、それもそろそろ限界かなと思いまして。

 それと……これを隠すと卑怯なんでいいますけど、【シシリーの花園】 とか 【暴虐の徒】 あたりに目を付けられちゃったんですよ」


 それ、どういう意味?

 目を付けられるとどうなるかしら?


「調合士の店に 【復活の灰】 が滅多に並ばないのはグレイさんも知ってるだろ?」


 割って入るように話し出したってことは、その理由とやらをカニやんも知ってるってことかしら?

 知っていて、春雪さんを助ける意味でギルドに誘ったってこと?


「まぁね」

「で、どうして店に並ばないの?」


 わたしはそれをずっと、【復活の灰】 を調合出来るレベルの調合士がまだほとんどいないからだと思っていたんだけれど、カニやんと春雪さん、二人の話を聞いて違うことを知った。


「生産職はぼっちでレベルを上げるのは難しいんで、だいたいギルドに所属するんだけど、うちのりりか様みたいにね。

 でも 【復活の灰】 なんかの高級アイテムを所属ギルドが占有するって条件を出されるらしい」

「一応ゲーム内通貨での支払いはありますけど、原価を考えれば割に合わない。

 でも、そもそもレベル上げなんかをぼっちですることを考えれば、ね」


 なるほど、ギルド側の出す条件を呑まざるをえないってわけね。

 だからギルドに所属している調合士は高級アイテムを店売りしないんだ。

 このゲームを始めてそれなりになるけど、これは知らなかったわ。


「調合士に関わらないと、なかなか(おもて)には出ない話かもしれませんね」

「俺は、ま、ハルから」

「今のメンバーで生産職二人までなら、なんとかカバー出来ると思うから大丈夫よ。

 さすがに三人目は厳しいかもしれないけれど」


 年少組がレベルを上げて、火力として独り立ちしてくれれば三人目も考えられるけれど、それにはもう少し時間が掛かりそうだから、生産職の加入はとりあえずここでいったん打ち止め。

 そうしょっちゅうのことではないけれど、生産職のレベル上げや素材集めを本気で手伝おうと思ったら、今のメンバーと人数じゃ、全員でずっと係り切りになっちゃって自由がなくなっちゃうもの。

 個人の自由と協力はバランスが大事よね。


「俺としては、キョンの件だけ頼めればいいかな。

 フレには他に生産職はいないし」


 なんだかんだいって春雪さんもいい人よね。

 もちろん、恭平さんから申請があれば……お試し期間のルールは曲げられないけれど、加入は前向きに検討させていただきます。

 空きはまだまだあるしね。

 それに 【シシリーの花園】 にいたってことは、恭平さんは魔法使いってことよね。

 どんなスキルを持っているのか、詠唱時間とか、会うのが楽しみじゃない。

 そんなことを考えていたら顔が笑っていたみたいで、カニやんに指摘されちゃった。


「グレイさん、よだれ」

「垂らしてません!」


 反射的に声を荒らげちゃったんだけれど、所詮小心者。

 無意識のうちに口元を拭っちゃって、JBさんに爆笑された。

 カニやん、覚えてなさいよ!


「の~りんには辛いだろうけど、ココちゃんの件はしばらくお預け。

 グレイさんは戻ってくるなら受け入れるってスタンスみたいだけど、別のギルドに入ったってことは本人にその意志があるとは思えないし」


 そうなるわよね、の~りんには気の毒だけど。

 ただ、ここでカニやん個人の意見が出てこなかったのが気になるところではあるけれど……。

 ちらりとうつむき加減のの~りんをみたら、向こうも、凄く恨めしそうな目でこっちを見てるんだけど、わたしに恨まれる覚えはありません。

 それ、逆恨みだからね。

 ちょっと強気に睨み返したんだけど……


「大丈夫。

 グレイさんの鈍さで一番苦労してる人がいるから。

 比べたら俺、全然ましだし」

「なんの話?」

「そういうところ」


 ……わ……わかんないんだけど……ほんと、なんの話してるの?

 でもみんなわかってるみたいで……あら? ギルドに入ったばかりの春雪さんやJBまでわかってるとか?

 え? まさかよね?

 どうしてカニやんやトール君と同じような顔をして、同じような目でわたしを見るわけ?

 なによ、この空気?


「この人、凄い罪作りっすね」

「美人なのに残念」


 ……とりあえずこの二人、溶かしてもいい?

 早くギルドに馴染んで欲しいとは思うけれど、これは違うわよね。

 馴染み方というか、馴染むところが違うわよね?

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