574 ギルドマスターは目的不明の逢い引きに誘われます
PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
クロウが何を考えて 「グレイを貸してくれないか?」 とカニやんに持ちかけたのか?
それは 「俺も試してみたい」 ということで、何を試すのかは聞かされず……まぁいつものことだよね。
うん、いつもどおり。
揃いも揃ってわたしの言葉を華麗にスルーし 「グレイと二人で潜らせてくれ」 というクロウの要望がとおる。
でも今回のイベントは、潜りたいといって簡単に潜らせてくれるような安っぽいダンジョンではなくて、通行手形が必要というオートロック付きダンジョン。
なかなかの高級感がある。
でも世の中は皮肉で出来ている。
こういう時に限って簡単にすぐ、探し物の札が見つかるっていうね。
しかも自分で見つけてしまうのが皮肉の最大値。
少し離れたところで誰かが鹿せんべいを使ったらしく、たった一枚の鹿せんべい目掛けて殺到する鹿の大群に、危うくドナドナされそうになったところをクロウに助けられ難を逃れる。
そこまではよかった。
うん、これもいつもどおり。
でもその時、すぐそばを駆け抜ける牡鹿の立派な角に白いものを見つけ、何気なく手を伸ばしてしまったのが運の尽き。
大華厳寺
「……よくやった」
ちょっとクロウ!
いま一瞬吹き出したでしょっ!
折角褒めてくれたけど、笑いを堪えながら褒めるのは止めて。
全然褒められた気がしないから。
わたしたちの、こんなやり取りを見ただけで意味を理解したカニやんが 「いってらっしゃい」 と手を振って見送ってくれる中、わたしとクロウは南大門前へと転送される。
さて本日五回目の挑戦で、一体クロウは何を試してみたいのか。
結局そこは教えてくれないまま、クロウを先頭に南大門をくぐる。
「いうまでもないと思うが、俺が落とされたら中途離脱しろ」
「じゃあわたしが落とされても中途離脱してよ」
「もちろんだ」
ちょっと意地を張るというか、張り合うというか。
言い返してみるもあっさりと頷かれ、拍子抜け。
でもよくよく考えてみれば、二人とも落とされるとどこかに吹っ飛ばされてしまう。
だから生き残っている方は、クリアするか、時間切れ前に中途離脱する必要があるっていうね。
そう考えるとクロウのことだから、きっと制限時間ギリギリまで一人で進めようとするに違いない。
じゃあわたしもそうしよう……と思ったのはすぐに撤回しました。
だって南大門をくぐって参道に降りたわたしたちを迎えたNPCの、最初の一体目がよりによって大盾使いだったから。
来た……
これはひょっとしてひょっとするんだけど、クロウのせいじゃない?
ねぇ違う?
重火力中の重火力なのは知っていたけれど、まさかこんな弊害を招くほどの特級火力だったなんて。
だってさっきノギさんがパーティにいても、剣士は出たけれど、大盾使いは出なかった。
つまりあの大盾使いは、運営のクロウ対策なんじゃない?
ほんと、どんな弩弓火力なの? ……と思ったら違うといわれる。
『午前中、グレイさんが人形片付けにログアウトしたあと、俺ら、クロウさんと潜ったけど出なかったんだよな』
メンバーはクロウ、カニやん、柴さん、ムーさん、クロエというとんでもない重火力メンバー。
それでも大盾使いは出なかったとカニやんが教えてくれる。
これを聞いて嫌な予感が覚えるわたしは、インカムから聞こえてくるカニやんの声をシャットアウト……しても聞こえてくる。
『それ、グレイさんとクロウさんの火力でアウトじゃね?』
『運営を警戒させる火力って、どんだけっすか?』
あら、JBも戻ってきたんだ。
なんの偶然か、わたしとクロウが南大門前に転送されるタイミングと、JBのログイン挨拶が被っていたらしい。
まぁたまにあるわよね、そういうことも。
タイミングのことはゲームあるあるとして、いま、聞き捨てならないことを言われた気がする。
つまりなに?
運営が、要注意プレイヤー対策としてこの大盾使いを用意したということ?
そんでもってわたしとクロウが要注意プレイヤーなのっ?
誰かに否定して欲しい気持ちで勢いよく訴えたのに、カニやんにはあっさりと 『そうじゃね?』 と肯定されてしまった。
でもそれはつまり、わたしとクロウが組まなければ大盾使いは出てこないということ?
ついでにいえば、クロウはそれを試したかったってね。
ぷぎゃー!!
『運営も残酷だな』
『焼餅妬いてんじゃね?』
『小林、女王のこと気に入ってるっぽいもんな』
気がつくとムーさんも戻って来ていたらしい。
『ん? ……あ、俺、挨拶してなかったっけ?』
『聞いてねぇな』
『ないな』
『ないっすね』
『…………ま、いっか』
『よかねぇよ』
よくないわよ!!
ギルドの規律を守るため、わたしとカニやんの声が被る。
罰ゲームとして、ムーさん、次は単身攻略でよろしく。
ふふふ
『おっしゃ、単身行ったるでぇ』
ムーさんには全然罰ゲームにならなかったっていうね。
自分で言ってしまったこととはいえ、無性に腹が立つわたしをよそに、インカムの向こうではムーさんが一回パーティを抜けるという話になっている。
いいわよ。
今日のムーさんの運勢は最悪だから、きっと札を見つけられないに違いないんだから。
ぷん
「グレイ、始めるぞ」
「はぁ~い」
クロウは全然関係ないのに、ついついうっかり不満そうに答えてしまった。
ごめん。
「俺は砂鉄を使う。
グレイは屍鬼を使え」
先にわたしに屍鬼を渡したクロウは、すぐにインベントリから大剣・砂鉄取り出して装備。
一瞬にして背中に出現する鞘から、柄を握って刀身を抜き取る。
わたしはまだ抜かないけど。
だって下手に抜くと自分を斬ってしまうから。
不器用すぎて……ほら、あの、右手で包丁を握って左手を切ってしまう感じ。
あんな感じで自分を斬ってしまうから。
『いや、それ普通だから』
『え……っと、グレイさん?』
………………そうね
自分で言っておいてなんだけど、自分としては結構的確な表現だったと思ったんだけど、全然的外れだったというかなんというか……ねぇ、どこかに穴、ないっ?
ちょっとした勘違いで済ませられるかもしれないけど、自分としては自信があった分恥ずかしさが半端なくて、穴に埋まってしまいたい。
誰か埋めて……
『どうしてわざわざ掘ってあげなきゃならないのさ?
自分で掘って入りなよ』
いつの間にかみんなと合流していたクロエが冷たいのはいつものこと。
うん、毒を吐かないだけましよね。
『吐いてると思うけど』
『吐いてるだろ』
………………
耐性が出来たのかしら?
それとも鈍くなってしまったのか。
ま、まぁいいわ。
とりあえずわたしに大盾使いの相手は出来ないから、わたしは大盾使い以外の相手をすればいいのね。
倒さなければならないNPCの総数は、プレイヤーが何人で挑んでも同じ五体。
でもタッグマッチの場合、プレイヤー二名に対しNPCも二体で挑んでくる。
そして一体倒すと次の一体が雛壇から降りてくる。
だから五体のラインナップは、三体目以降は前のNPCを倒さなければわからない仕組み。
まぁそこまではいいけれど、よりによって大盾使いが最初から出てくるとか。
せめて最後の五体目なら、その前に四体目を上手く捌ければ二人で当たれたのに……。
『まぁそんな都合よくは運ばないでしょ』
『ゲームなんてそんなもんしょ』
『運営の火力対策なんだから、最初から潰しに掛かってくるのが普通じゃない?』
一番厳しい発言がクロエね。
いいわよ、そんなに運営が潰したがっているのなら受けて立とうじゃない。
ちょっと本来の目的を見失ったわたしの前に立ち塞がるのは、とってもラッキーな相手。
水撒き官女
魔法攻撃を吸収する常時発動スキル 【愚者の籠】 を所持するわたしに、おそらく今回のイベントに出演する全NPCの中でももっとも相性のいい相手。
これ以上はないくらい最適で、嬉しさのあまり何も考えずに駆け寄ってしまった。
もちろん思いっ切り逃げられたけど。
傷つくくらい露骨に避けられたから、腹立ちに任せてさらに突撃してみました。
そのすぐ近くではクロウが、大盾使いと力比べの真っ最中。
わたしの接近を嫌う水掛官女は、案の定、大盾使いの背後に逃げ込もうとする。
もちろんそう来るのなら全然かまわない。
今回は他のNPCがいないからね。
ただクロウが水を浴びるのはダメだから、早めに片付けましょう。
「起動……焔獄」
……ん? あ、この水撒き官女は火焔属性には強いんだっけ?
確か五行思想だっけ?
火は水に弱いってやつ。
で、この官女は柄杓の水で火焔属性の攻撃を消すというか、消火してしまうというか。
当然被ダメは0。
うっかり忘れてMPを無駄遣いしてしまった。
さりげないカニやんのアドバイスによると、この水撒き官女は氷水系でも、水より氷のほうが有効らしい。
持ってないけど
『え?』
なに?
ちょっとカニやん、なに?
わたしが氷魔法を持っていないことがそんなに意外?
『意外。
無茶苦茶意外。
光と闇まで持ってて、なんで氷がないねん?』
んーそれはね、心が温かいから?
『ノロケはいいから、さっさと落とせば?』
はぁ~い
「起動……ウォータースライサー」
元々氷水系の魔法自体数が少ないし、氷水系とまとめられるように氷と水に違いは無いと思ってたんだけどね。
こればかりはわたしの考えが甘かったとしか言い様がない。
まさかこんな場面があるとは思わなかったし。
「起動……スパイラルウィンド」
こうなると氷水、風、地属性の範囲魔法で削りましょう。
位置的に、少なからず大盾使いも削られるはず。
まぁあのVITの高さは、ちょっとやそっとの巻き込みじゃ痛くも痒くもないだろうけれど、わたしとしては少しでもクロウの援護になるならそれでよし。
クロウは実験と言っていたけれど、大盾使いが出て来て実証出来たところで別に落とせるなら落としてかまわないわけで、それこそそろそろ大仏に閼伽の一つでも供えたいところ。
どちらかが落ちたらそこまでなら、そこまでやってみましょう。
実は氷魔法を持っていないというグレイの意外な事実が判明。
そして今度こそ大仏とご対面出来るか?
その大仏戦にも運営の罠があって・・・(たぶん




