566 ギルドマスターは雛人形を片付け忘れます
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高身長、高学歴、高収入の安積家において、わたしだけがみそっかす。
だって一番背の高い兄・泰輝なんて186㎝もあって、もう一人の兄・琉輝は父と同じ184㎝。
わたし次に背の低い母ですら176㎝という本当に高身長で、みんな一流といわれる大学の出身で収入も物凄くいい。
比べてわたしなんて、大学こそ兄と同じだけど、身長は158㎝。
お仕事だってただのOL。
事務職にしてはお給料もいいほうだけど、まぁ営業事務のお給料なんてしれてるからね。
しかもうちの両親、ワーカホリックだし。
両親ともに家事育児に全く興味が無く……といっても子どもに興味が無いというわけではなくて、それこそわたしたちが子どもの頃は、休みのたびにあちらこちらに遊びに連れて行ってくれたし、美味しいものも沢山食べさせてくれて……あ、これは今もか。
ただ家事は家政婦さん、子育てはシッターさん任せにしていただけ。
そしてその分の情熱というか、心血を仕事に注いできた。
ある意味、高給取りなのも納得出来るかもしれない。
そのくらいお仕事が大好きな似た者夫婦。
でも一流大学出身というのは伊達じゃなくて、お休みの日までお仕事はしないというか、オンとオフの切り替えが完璧というか。
だからわたしたちが子どもの頃は、お休みの日はいつも家族で過ごしていたしね。
さすがに末っ子のわたしまで成人した今は、二人で旅行に行ったり、買い物に行ったり。
あと二人ともドラマや映画が好きで、配信で見るのはもちろん、旧作や、配信されないようなマイナー映画やドラマをDVDで見たり。
そのDVDを借りに行く時だって二人で一緒に行って、店頭でじっくり検討して選んでいるらしい。
あとジムにも行ったりしていて、二人とも歳のわりに結構な細マッチョだったりする。
ちなみに母の安積雅視は朝からお出掛けしていて、お友だちとショッピング&ランチ。
時間的に、今頃はまだショッピングを楽しんでいるはず。
メンバーはみんな同世代ということで、子育てが一段落。
自分の時間を持てる世代だから、夕方までのんびりと喋り倒すらしい。
夕方に父が迎えに行って、デパ地下グルメを調達して本日のお夕飯に突入というのが本日の最終予定です。
母からの 「かえるコール」 が来るまで暇な父瑞帆は、のんびりと読書……じゃなくて、目下、娘のわたしと、わたしの雛人形のお片付け真っ最中。
父と娘の長閑なコミュニケーション……かと思ったらとんでもない爆弾を抱えていて、たった今、その爆弾を爆発させてくれました。
「彼氏、出来ちゃったんでしょ?」
この発言からの……
「都実君だっけ?」
「……え? ………………な、なな、な、な、ん、なん、な、な……」
驚きに動揺激しいわたしは、もうね、人形を片付ける手が止まるのはもちろん、言葉も上手く出てこなくてどもりまくり。
代わりに全身の毛穴から、一斉に冷汗が噴き出しました。
比べて父は、人形を片付ける手を止めることなく、それこそそれまでと口調を変えることもなく話し続ける。
「あーちゃん、そんなに可愛いのに彼氏全然出来なくて心配してたけど、出来たら出来たで心配でね。
父親心っていうのも複雑だよねぇ」
……えっとお父さん、その……父親の複雑な心情について、娘に同情を求めるのもどうかと思うのですが、求められても全くわからなくて困ります。
そうでなくても動揺しまくりで何も考えられないわたしは、たまたま手に持っていた人形を落とさないようにするのが精一杯。
これ以上、わたしにどうしろと?
「あーちゃん、ちょっと世間からずれてるっていうかね。
そういうところがあるでしょ。
だから騙されてるんじゃないかとか、色々考えてしまって、心配で心配で」
……まだ続くんですね。
しかも父の口からは、さらに驚く事実が飛び出してくる。
「雅視さんは心配ないと言うんだけど、あーちゃんは泰君や琉君とは違うからねぇ。
あの二人は二人で、手が離れすぎて淋しいけど」
…………えーっと……お父さん、ちょっと待ってもらってもいい?
まだお父さんの独白は続くみたいだけど、ちょっと待ってもらいたいの。
ちょっと疑問に思ったんだけど……
「あの、お父さん」
「ん?」
「ひょっとして、その、お母さんも知ってる、とか?」
「あーちゃんに彼氏が出来たこと?
もちろん知ってるよ」
それがどうしたの? ……と呑気な顔をこちらに向ける父。
一方の向けられた娘、つまりわたしは顔面が硬直してしまった。
だってお父さんが知ってるだけでもビックリなのに、お母さんまで知ってるとか……
どういうことっ?
しかも 「もちろん」 て……全然 「もちろん」 じゃないんだけど、「もちろん」 じゃないのはわたしだけ?
もうね、全然事態が飲み込めません。
しかもお父さんったら、わたしの様子になんてお構いなしに独白を続けるし……。
「雅視さんは都実君と会ったことがあるらしいから、心配ないとか言えるんだろうけど、お父さんは名前しか知らないし。
やっぱり心配でさ」
んんっ?!
え? 待って待って待って!
お母さんと課長代理は会ったことがあるって、どういうことっ?
どうしてというか、どういうシチュエーションで二人が会うわけ?
ますますわからなくなる事態に、わたしの頭はパニックよ。
もうね、ボンボリ爆弾みたいに大爆発しそう。
「あれ? あーちゃんは知らなかったのかな?
ほら、君が入院してた時。
休職手続きの書類とか、会社まで取りに来て欲しいって言われてたんだけど、あの時丁度お父さんも雅視さんも忙しい時期でね。
それで都実君が病院まで、君の見舞いがてら届けてくれたんだよ」
もちろん書類は、受け取りも提出も郵送で出来る。
むしろ両親は郵送でお願いしますと伝えたけれど、見舞いがてら、病院にお届けしますと課長代理の方から言ってくれたらしい。
課長代理が病院に来た日、たまたま母が来ていて、そこで書類を受け取りがてら少し話した……え? 話した?
お母さんと都実課長代理が話したの?
なにをっ?
だって課長代理とあの母がなにを話すのっ?
「うーん、なにを話したかはお父さんも聞いてないな。
でもしっかりしたいい青年だと話していたから、仕事熱心な人だと思ったけど。
違うの?」
違いません
でもこれはあれよね。
きっと母は都実課長代理を、自分たちと同類に見たと思う。
確かにお仕事人間だけど、仮想現実で遊ぶ人でもある。
もちろん内緒だけど。
まさかお仕事のあとも仮想現実で会ってるなんて、絶対に言えないもの。
「まだまだ結婚なんて話にはならないだろうけど、突然ご挨拶に来られても困るし。
ほら、お父さん、ちょっと人見知りなところがあるから」
嘘つかないでね
そんなことを言って、わたしに課長代理を家に連れて来させようとでもしてるわけ?
そんな安易な嘘に騙されるほどお馬鹿じゃないから。
確かにお父さんやお母さんのいうとおり、ちょっと騙されやすいというか、人を信じやすいところはあるかもしれない。
でもさすがにお父さんの嘘には騙されないから。
何年お父さんの娘をしてると思ってるのよっ?
絶対に騙されないから
そもそもお父さんは、誰からわたしと都実課長代理のことを聞いたの?
ここまでの話を聞くと、課長代理と接点があったのは母のように思えるけれど、父から返ってきた事実は盲点というか、うっかり忘れていたというか……
「泰君と琉君だよ。
あーちゃん、自分でお兄ちゃんたちに話したんじゃないの?」
「話しません!」
絶対に話さない!!
わたしがあまりにも勢いよく言い返したものだからお父さんもビックリ。
さすがに人形を片付ける手も止まってしまった。
「話してないの?」
「話してません!」
「へぇ……そうなの。
じゃあどうしてあの二人が知ってるんだろうねぇ?」
そう言って、再び手を動かし出す。
この調子だと、ほとんど父が一人で片付けることになりそう。
まさかまさかの話の連続に、わたしの手はほとんど止まったままだから。
でも二人の兄、泰輝と琉輝が知っていたという事実には心当たりがある。
今の今まですっかり忘れていたけれど、あの二人は課長代理と面識があるのよ。
去年の暮れ、同期の広瀬君が起こしてくれたトラブルで予定外の残業になり、終電にすら乗れなかったあの日。
わたしの要請で迎えに来てくれた泰輝の車には、当たり前にように琉輝も乗っていて、どちらが言い出したかは忘れてしまったけれど、同じく終電を逃してしまった課長代理を、「一緒に乗っていきませんか?」 とか 「送りますよ」 なんて甘い言葉で誘い、上手く車に乗せて拉致……はしてないけど、課長代理のお宅まで送っていったことがある。
しかもわたしは残業の疲れからか途中で眠ってしまい、自宅に着くまでの車中のことを知らない。
でも兄たちはちゃっかり課長代理と名刺交換をしていて、連絡先を知っているっていうね。
ん? んん?
ちょっと待って。
兄さんたちと課長代理に接点があることは思い出した。
思い出したけど、あの……その、課長代理のこ、告……のこととか、わたしの返事のことは社内でのこと。
社員でもなければ取引先でもなく、会社にとってはなんの関係もないといっても過言ではない、いち平社員の家族に過ぎない兄たちには知りようがないはず。
社内には入り口で許可を取らなければ入れない立場だし、用の無い人間に許可が出るはずもなく……なんてぐだぐだと言い並べても仕方がない。
これはつまり……そういうことよね。
課長代理!!
「都実君は泰君たちの友だち?」
「違うと思うけど……」
「あーちゃん、怖い顔してるよ。
泰君と琉君が都実君になにか言ったのかな?」
あ……その可能性があったか。
てっきり課長代理がわたしを裏切って、こっそり兄たちと密通していたのかと思ったけれど、父の指摘を受け、兄たちが何か因縁でも付けて課長代理に報告させたという可能性も出て来た。
むしろ後者のほうが可能性は高い。
ちょっと兄さんっ?!
早速確かめるべく、まずは泰輝に電話をしたけれど不在。
当然の如く琉輝も不在だったので、家族LI○Eにメッセージを打ち込む。
これがなかなか既読にならないのは、別に気にならない。
既読を付けずにメッセージの全文を読む方法があって、おそらく二人はそれを使っているから。
いくらわたしだってそのぐらいのことは知っているし、こうして返信を待っているあいだにも、きっと二人で口裏合わせをしているはず。
あるいは都実課長代理とも……と考えて、課長代理の個人携帯電話にもメッセージを送っておく。
兄たちとの口裏合わせは不可です
そして父を急かし、人形を片付ける。
父には 「せっかくなのに……味わって食べようよ、あーちゃん」 と残念がられながらも、人気店のサンドウィッチを紅茶で流し込んで昼食も終了。
大慌てでログインしてみればクロウが不在だったっていうね。
『クロウさん?
昼飯に行ったっすよ?』
ログイン挨拶のついでに、頑張ってなんでもない風を装ってクロウに呼びかけてみれば、何も知らないJBが呑気に教えてくれる。
これは絶対に兄たちと口裏合わせをしてるはず!
遅かったか……
情報漏洩はどこから?
藍月の捜査は都実にも及ぶが・・・
まるでサスペンスのようですが、そんな要素は皆無です。
期待もされていないと思いますが(笑
肝心のイベント攻略はどうなるっ?




