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56 ギルドマスターは内臓を自宅冷蔵庫に保存します

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!

 カニやんはハルって呼んでるんだけど、JBさんはゆっきーって呼んでるこの綺麗な人の名前は春雪さんだった。

 聞き覚えのある名前よね。

 確か第一回イベントが終わったあと、メッセージをくれた人じゃなかったかしら?


「覚えていてくれたんですね、ありがとうございます」


 女の人と間違えて、しかも男の人とわかって酷く落胆するようなわたしの失礼を笑って許してくれた春雪さんは、穏やかに話す。

 でもね、怒ってないわけじゃないのかもしれない。

 だって、とんでもないことを言い出したの。


「俺も質問があるんですが、いいですか?」

「なんでしょう?」

「アールグレイさんって、内臓入ってます?」


 改めて質問をしていいかと訊かれて身構えたわたしは、予想の斜め上から来た質問に呆気にとられる。

 内臓って、内臓よね?

 えっと、ほら、心臓とか腎臓とか肺とか?

 そういうののことをいうのよね?

 それが入ってるかって訊かれると……っていうか、これって改めて訊くようなこと?

 そもそも疑問に思うようなことなの?

 だってここVRよ、仮想現実よ。

 私のこの姿はアバターで、データでしかないのよ?

 なんでそんなことが疑問なの?


「いや、だってこのゲームって、プレイヤーの容姿はほとんどいじれないでしょ?

 だからアールグレイさんの顔って本物なんだろうけど……その……」


 うん? なんだかいいにくそうな春雪さんってば、なぜかわたしのお腹辺りを見るのよね。

 少し照れているような、恥ずかしそうな……そんな感じの顔をして言い淀んでたんだけど、カニやんにせっつかれる。

 しかも焦れているみたいで、ちょっと口が悪い。


「なんだよ、ハル?

 俺もその疑問、わけわかんねーわ。

 さっさと言えや」

「いや、ウエスト細いなと思って」


 …………はぁ~? なに、それ?

 どういう意味?

 どこ見てるのっ?


「細いし、横から見たらぺったんこでさ。

 なんか、両手で掴めそうじゃない。

 それで人間の内臓、全部収まるのかなと思って……」


 入ってるに決まってるでしょっ?

 そんなこと、二✕年生きてきて初めて言われたわ!


「ゲーム的にちょこっとは数値いじれるけど……女の人で胸とかちょっと大きくしてる人っているじゃない。

 ウエストも絞って。

 でもそういう人って、バランスが悪いんだよね」


 ああ、あれね、整形ぽいってことね。

 うん、その辺はなにが言いたいのかわかった。

 で、それがわたしの内臓とどう関係があるの?


「でもアールグレイさんって肩も細いし、たぶんリアルそのままなんだろうと思ったら、その細さで内臓が全部入るのかなって思っちゃって」

「なるほどな。

 確かに美人だしスタイルいいし、背は低いけど胸ちゃんとあるし、これがリアルだと希少価値は高いよな」


 ちょっとカニやん、それ、どういう意味よ?

 背が低いのはどうでもいいのよ。

 人が気にしていることをいちいち指摘しないで!


「ハルが疑うのもわかるけど、この人、性格とか色んな物ひっくるめて天然だと思う」

「うわー、是非ともリアルで会いたいね」

「やめといたほうがいいと思うけどな」


 これまでの、わたしのやらかしたあんなことやこんなことを知っているカニやんは、わたしを見てにひって笑うの。

 えーえー、どうせおっちょこちょいですよ。

 でもね、仕事じゃそんなことはないんだからね。

 物凄く真面目で堅実に仕事をこなす営業事務です。

 ゲームの中でくらい、ちょっとくらいちょんぼしたっていいでしょ。


「でもやっぱり内臓、一つくらい入ってないんじゃないの?」


 春雪さんってば、まだ言う?


「普段使わない内臓だけ取り出して、家の冷蔵庫で保管してるとか」

「んじゃグレイさんの家には、内臓保管用の冷蔵庫と食品保管用の冷蔵庫と、二つあると」

「そうそう、間違って調理しちゃ困るし。

 一つっていうか、ほんと使わなそうな内臓、全部家に置いてきてるんじゃないの?

 脾臓とか、膵臓とか、普段使ってなさそうじゃん。

 あの辺の内臓って、どんな働きしてたっけ?」

「俺の中じゃ、日常に必要なのは胃袋くらいだな」

「家で出すなら、腸もいらないしな」


 そんなわけあるかー!!

 カニやんまで一緒になってなに言ってるのよ!

 もうさっきからJBさんが笑いすぎて石畳を転げ回って、通行人に何度も蹴られてるんだけど。

 誰かあれ、止めてあげてよ。


 通行人の邪魔だから


「とりあえず合流出来たし、ちょうどいいから場所を変えてゆっくり話さない?

 このあいだのスザクの話、ハルがちょっと詳しいから」


 ああ、スザクが修正されたのは 【シシリーの花園】 っていうギルドが原因って話ね。

 凄く興味のある話なんだけど、でも悪いけどまだ待ち人が来ないの。

 だからわたしはここを動けないんだけど……おかしいわね、結構待ち合わせ時間を過ぎてるのにまだ来ないなんて。

 困ったわたしは、ひょっとしたら来ているんじゃないかと思って周囲を見回したんだけど、それらしい人は見当たらない。

 いつものようにみんな、わたしから目をそらすっていうね。

 だからその人たちはみんな待ち人じゃないって確信があるんだけど……それにしても遅いんじゃない?

 なにか都合があって遅れるなら、メッセージの一通も送ってくれればいいのに。

 そんなことを考えていたら、カニやんも春雪さんもJBさんも、なにか言いたそうな顔をしてわたしを見るの。


「なに?」

「だから待ち人」


 わたしの問い掛けに、三人を代表して答えるカニやんが指をさすのはJBさん。

 違うわよ、わたしが待っているのはジャック・バウアーさんって人なんだから。

 でもカニやんは言うの。


「うん、だからJ()ack・B()auer」


 ああっ!

 ようやくその意味を理解して、驚きにわたしは声を上げる。

 気づかなかったわたしも悪いんだけど、JBさんは、凄く申し訳なさそうに頭を下げてくる。

 申し訳ないやら、恥ずかしいやらっていう感じ。


「設定段階ではよかったんだけど、やっぱ人に呼ばれるのはちょっとハズかったんで」


 それでJBって通称で通してるのね、なるほど。

 初心者の段階ではだいたいみんなソロだから他のプレイヤーにキャラ名を呼ばれることはなくて、そこそこレベル上げて楽しくなってきた頃にその壁に衝突したと。

 でもデータを作り直したら、レベル上げなんかも最初からだもんね。

 確かに頭のいい効率的な回避方法だわ。

 おかげでわたしは振り回されたけどね。

 でもほんの数分程度のことだったから許すとしましょ。

 これを 「天然」 とか 「やらかし」 と解釈されるのは不本意だけど。

 だって、もちろんお試し期間ではあるけれど、一度に二人もメンバーが増えるなら大歓迎じゃない。


「え? ゆっきーも 【素敵なお茶会】 入会希望?」

「そうだよ」


 歓喜するわたしとは違って、なぜかJBさんは浮かない様子。

 春雪さんの入会希望をきいて、少し焦ったように訴えてきた。


「いや、でもさ、俺の方が先に申請出してるっすよね?

 俺のほうが優先っすよね?」


 なにが?


「だからギルド入会。

 俺、だいぶん前から考えてたんですよ。

 カニやんに誘われてからずっと考えてて、でも気がついたら二十人埋まっちゃってて、それで空きが出るのを待ってたんっすよ。

 今回なんでか知らないけど空きが出たってんで、慌てて申請したんすよ」


 ……空きが出たっていうか、人数が一人減ったことはまだ傷が癒えないから触れないで欲しいんだけど、空きならずっと一杯あったんだけど?

 どうして待つ必要があったわけ?


「だってギルドって二十人まででしょ?」

「五十人だよ」


 サクッとカニやんに言われ、一瞬でJBさんが白目を剥いて驚く。

 これはひょっとして、お笑い担当の脳筋が一人増えるんじゃない?

 そんなJBさんを見てわたしが呆気にとられているあいだに、ウィンドウを開いたカニやんがサブマス権限を使って二人の加入をサクッと承認する。

 もちろんお試しではあるんだけど。


「あら、トール君?」


 とりあえず無事に二人の勧誘を終えたわたしたち五人は、少し落ち着いて話が出来る場所に移動しましょうってことになってギルドルームに入ったんだけど、いることがわかっていたの~りんの他にトール君がいてちょっと驚く。

 驚いたのはわたしとトール君だけだったみたいなんだけど、トール君が驚いたのは見知らぬ二人がいたから。

 たった今ログインしたばかりのトール君は、ログイン挨拶もまだなくらい、本当にログインしたばかりだった。


「こん、トール君。

 さっき入ったばかりの新人だよ」


 慣れた感じでカニやんに紹介され、それこそ二人は慣れた感じの挨拶だったんだけどトール君はちょっとぎこちなくて。

 ま、無理ないか、トール君だもんね。


「お邪魔でなければ俺も話、きいてもいいですか?」

「もちろん。

 どうせの~りんもきいてるしね」


 わたしがいうと、トール君やカニやんが、部屋の隅で鬱陶しいくらいどんよりとした空気の中で小さくすわっているの~りんを見る。

 ほんと、あれ、いつまで続くのかしら?

 思わず小さく溜息を吐いたら、やっぱりクロウから 「放っておけ」 と言われちゃうのよね。

 うん、まぁわたしじゃどうにも出来ないから放っておくしかないんだけど。

 トール君を交えて六人になったわたしたちは、思い思いにテーブル席に着く。

 話し出したのはもちろん春雪さん。


「【シシリーの花園】 の主催者(ギルマス)はシシリーって人なんだけど、この 【シシリーの花園】 っていうギルドは魔法使いだけで結成されたギルドなんだ。

 今は六人くらいかな?」


 つまり主催者(マスター)のシシリーさんも魔法使いってことね。

 同じ魔法使いのわたしには考えつかない構成なんだけど、同じように最近頭角を現わしてきている 【暴虐の徒】 は剣士(アタッカー)だけで構成されているらしい。

 そういう偏った構成の元祖は 【鷹の目】 かもしれないけれど、あそこは銃士(ガンナー)が多いっていうだけで、ちゃんと魔法使いも剣士(アタッカー)もいるのよね。

 人数が少ないから目立たないだけ。

 しかも銃士(ガンナー)は後衛職だから、守りとなる前衛の剣士(アタッカー)が少ないのは 【鷹の目】 の弱点でもある。

 第一回イベントでも、後背を守る剣士(アタッカー)の数が少なすぎてあっという間に勝負がついた。

 数の優位はあったけれど、魔法使いには範囲魔法があって最終的には物量で負けたんだけどね。

 数の優位にしても、それこそギルド対抗戦ならともかくパーティ戦になれば無いに等しい。

 パーティーメンバーは五人って決まっているからね。

 最終的に問題は火力と構成ってことになるから、一つの職に偏ったギルドっていうのは戦略的にどうなの?

 本題のスザク攻略はちょっと問題が違うけどね。


「あの、スザクってなんですか?」


 レベルなんかを考えれば春雪さんもJBさんもそこそこプレイ時間を積んでるだろうから、一番短いトール君は、この席にいるのはちょっと肩身が狭いかもしれない。

 でも気になるからこの席に着くことを自分から志願して、だからわからないことも自分から訊かないと、ここにいる意味がない。

 で、それを実行出来るのが真面目なトール君。


「関東エリアにある()エリアダンジョン富士火口に出現する幻獣だよ」


 カニやんの微妙な言い回しに気がついたトール君は、不思議そうに疑問をそのまま口にする。


「元?」

「そう、元。

 今は修正が入ってインスタンスダンジョンになってるんだ。

 但しひと組ずつしか生成しない、ちょっと条件付きのインスタンスダンジョンだけどね」

「どうして修正が入ったんですか?

 それにインスタンスダンジョンなのにひと組ずつって……?」


 ひと組が入れば、その組が終わるまで次の組は入れない風変わりなインスタンスダンジョン。

 たぶんその条件付けはスザクの希少価値を守るため。

 そんなことをしなくてもスザクを攻略出来るプレイヤーはほとんどいないんだけど、運営が慎重路線をとったってことかしら。


 わかんないけど


 だって本当に慎重路線をとりたいのなら、わたしから 【灰燼(かいじん)】 を取り上げるか、 【灰燼】 そのものを下方修正すべきだと思うから。

 でも依然わたしは 【灰燼】 を使えるし 【灰燼】 の壊滅的火力は変わらない。

 ほんと、どういう運営方針なんだか。


「【灰燼】 について俺は触れないよ。

 なにせ実際に見たことがないからね。

 だからトール君も触れないで欲しい。

 ただグレイさんが灰色の魔女っていう二つ名で呼ばれるようになったのは、唯一スキル 【灰燼】 が使えるからってことぐらいは教えてあげる」

「他の人は使えないんですか?」

「スザクを単身で攻略出来たプレイヤーはグレイさんだけだから」


人物紹介:ノーキー / 男性型・剣士 / 金髪


ギルド 【特許庁】 の主催者だが、ギルド運営はサブマスのマダム・バタフライに丸投げして遊びほうけている。

金髪に七色のメッシュを入れた派手で独創的な髪型に、クロウと同じシリーズの鎧ドクロと大剣(両手剣)を愛用しているトップランカー。

だが素行に問題があり、運営から何度かアカウント停止処分を受けている不良。

性格も非常に軽く、口も軽い。

美人が大好きなグレイのストーカー。

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