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ギルドマスターは今日もギルドを運営します! ~今日のお仕事はなんですか?  作者: 藤瀬京祥


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559 ギルドマスターは男女混合戦で挑みます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

「そうじゃないの?

 だからさっきグレイさんが、単身(ソロ)で挑戦した時より参道の幅が広くなってるんでしょ?」


 そう答えるクロエは南大門の柱の一本に身を潜めるように位置取り、背負っていた銃を素早く下ろす。

 そして片膝をついて銃を構えると、その照準をどこに合わせているのかは不明だけれど、引き金に長く綺麗な指を掛ける。

 それこそ隙あらば撃つ準備はすでに万端と思ったら、雛壇を下りてきた一体目の足下を撃ち抜く。

 さすが攻撃行動(アクション)の一番速い銃士(ガンナー)……じゃなくて、これじゃあまるで宣戦布告。

 するまでもなく開戦してるわけだけど、あえてするのがクロエというか、なんというか。


 なにやってるのよ?


「景気づけ?」


 そう言って装填時間(クールタイム)を稼いだのか、わたしたちを振り返りもせず次弾を発射。

 威嚇程度じゃ歩を止めない官女の足下を、改めて撃ち抜く。

 もちろんそれでも官女の足は止まらない。

 それどころか続いて立ち上がった官女も雛壇を降り始める。

 二体目、三体目…………ん? ……んん? ひょっとして全員降りてくるのっ?


「そうみたいだね」


 ここに遠距離攻撃型(クロエ)が陣取るのなら、中距離攻撃型(わたしたち)の立ち位置はもう少し前。

 どのみち射程が届かないし、相手の出方を見ながらカニやんと歩調を揃えるようにゆっくりと前進する。

 敵とのあいだに何もないこの状況はさすがのカニやんも心細いらしく、途中、わたしのほうをみて苦笑を浮かべる。


 なに?


「いざとなったら壁、よろしく」

「残念でした。

 わたしも同じことを考えてるから」


 きっとカニやんが相手なら、STRの差でわたしが勝てるはず。

 腕力勝負を予想して手にした杖をぎゅっと握りしめると、わたしとは逆のことを考えたカニやんがわざとらしく怯えた振りをする。


 見え見えだから


 そんな振りしても無駄だから。

 全然可愛くないし。


「可愛いかどうかが基準なわけ?」

「違うの?」

「え? 俺、可愛くない?

 結構海希(みき)と似てると思うんだけど?」


 まさかここでカニやんが、かわいい系にキャラ変してくるとは思わなかったわ。

 そうかぁ、そうくるかぁ。


 でもダメでーす


 思わずマメ風に言ってしまった。

 もちろん気持ちはわかる。

 五対五だとほぼ一対一(サシ)の対戦になってしまうから、近接(タイプ)に来られたら厳しいもの。

 しかも同じ中距離攻撃(ミドルレンジ)(タイプ)だからね、凄くよくわかる。

 わたしの経験だと、中長距離(タイプ)は柄杓で水を掛けてくる官女と、横笛を吹く官女の二体だけ。

 (ほうき)で掃除をする官女と、ネイルでお洒落をする官女は間違いなく近接(タイプ)で……あら?

 わたし、五体目とは対戦していないと思っていたけれど、いま改めて思い返すとしてたみたい。


「相変わらず数えられないんだ」

「僕もおかしいと思ってた」


 ………………


 えっとぉ……結局わからないのは、ルゥがあっというまに倒してしまった一体目だけってことね、うん。


「誤魔化せてないから」

「それで誤魔化したつもりなんだ」


 …………ダメか


「うん、でもまぁわたしのことはいい……」

「グレイ、一体目は傘を持っていたのか?」


 不意に割り込んでくるクロウの声。

 答えは 「No(ノー)」 です。

 傘どころか、わたしからは手ぶらにしか見えませんでした。

 少なくともルゥに絡まれた時点では手ぶらだったからね。

 ひょっとしたらどこかに暗器のようなものを隠し持っていたかもしれないけれど、それを出す間もなくルゥに落とされてしまった。

 他の四体も、一見にして武器とはわからないものばかりだったし。

 爪も伸びないとわからないし、桶と柄杓は最初から丸見えだけれど、あれはそもそも武器じゃないから。

 しかも水まきにしては意外なくらい飛距離があったし。

 箒も本来はお掃除道具だしね。

 小学生男児には武器にもなるらしいけれど、まぁそれは期間限定の価値観ということで、あくまでも箒は掃除道具です。


 クロウがなぜそんな質問をしてきたのかと言えば、五体目の官女……じゃない。

 あれは五人囃子?

 だって男の子だよね?

 どう見たって男の子だよね?

 ちょっとおっさんには……いや、おっさんにはかなり早い完全なる少年。

 でも人形だし、美少年にはほど遠いけどね。


「五人囃子っていうかさ、もう無茶苦茶」


 そういうカニやんの説明では、そもそも官女は横笛も箒も持っていない。

 うん、そうね。

 わたしの雛人形もそうだったと思う。

 同じく五人囃子も多くは元服前の少年だけど、持っているのは楽器。

 わたしの雛人形は五段飾りで五人囃子より下はいないけれど、箒や傘は、だいたい豪華な七段飾りあたりの一番下の段に飾られる雑役の人形。

 もちろん少年じゃないけど。

 つまり持っている物というか、役割というか、そのへんがバラバラ。

 見栄えの良さから官女と五人囃子を選んでいるだけかもしれない。


「つまり雛人形が持っている、武器になりそうな物を選んでいるだけ?」

「そうかも」


 つまり雛人形には幾つか種類があって、でもパーティーは最大五名だから、その中から五種類が選ばれる。

 選び方はちょっとわからないけれど、パーティーの火力によってNPCの火力も変わるというルールだから、選択の基準はプレイヤー側の火力かもしれない。

 さっきわたしがルゥと来た時は、少なくとも傘はなかったもの。

 だとすると残り四体も、さっきの四体が出てくるとは限らない。


 厄介なダンジョンね


「数をこなして攻略方法を考えないと」

「来るよ」


 雛壇を降りた官女と五人囃子の少年たち。

 さっきは気づかなかったけれど、思い思いのポーズで立つ彼ら彼女らの背後で、雛壇の一番上に座っていたはずの女雛がいつの間にか立ち上がっており、左肩に担いでいた小鼓をカッと一打ち。

 小気味よい音を響かせた……と思ったら、それを合図に五体の人形が動き出す。

 あとで聞けば、の~りんパーティーの時は男雛が横笛を吹いたらしいから、ひょっとしたらこの合図にも幾つかパターンがあるのかもしれない。


 すぐにわかったのは片手に水の入った桶を、もう一方の手に柄杓を持った官女。

 これはさっき会っただけでなく、両手に持ったそれは隠しようがないから一目瞭然。

 氷水系の攻撃を仕掛けてくる、攻撃型魔法使い(ソーサラー)と同じ中距離攻撃(ミドルレンジ)(タイプ)

 掛けられる水は結構冷たくて、しかも容赦なく全身ビショビショにしてくれる。


 そして小鼓の合図と同時に、十本の指先から白い液体のようなものをどろっと噴き出させたネイル官女。

 この時点ではネイルアートはないらしく真っ白いけれど、すぐさまシャキーンと鋭く尖った時には綺麗な桃の花がその表面に描かれている。

 これは剣士(アタッカー)と同じ近接(タイプ)だけど、VITにステータスを傾けた盾剣士(ガード)(タイプ)

 でもガンガン責めてくるけどね。

 どんどん前に出てくるけどね。


 三体目は、やはり先程も対峙した横笛の官女。

 一対一だった先程とは違い、後方(クラス)らしくすぐには動かない。

 それどころか前衛(クラス)が壁になるのを待つべく、優雅に横笛を吹き始める。

 いやいやいや、うちの後方職(クロエ)なんてやる気満々で、あなたたちが雛壇降りる時から仕掛けてるわよ。

 今だって前衛(クラス)とおぼしき人形が、前に出るのを阻むべくその足下とか狙ってガンガン撃ってるし。

 銃士(ガンナー)に比べるとちょっと射程が短いけれど、その武器の特性を考えれば銃士(ガンナー)に匹敵する職種(クラス)

 優雅に笛なんて吹いてないで、お仲間の支援をしようよ。

 お仕事しようよ。


 そして四体目は初見。

 最初は手ぶらで突っ立っていたんだけど、優雅な仕草で懐に右手を入れた……と思ったら、その手に持って取り出したるは檜扇。

 ただちょっと長いというか、大きいというか。

 【ゴショ】 で見た檜扇ほど大きくはないけれど、でも一般的な檜扇と比べれば全然大きい。

 いや、まぁ現代社会において檜扇なんてものがそもそも一般的じゃないけど、例えるなら、普通サイズの檜扇が普通の大人用お箸サイズなら、官女が持っているのは菜箸サイズの檜扇。

 そのぐらいサイズに差がある。

 あれが飛び道具なのか、近接武器なのかはまだわからない。

 下手をすると両方の可能性がある。

 要注意ね。


 そして最後の五体目が、クロウが言っていた傘を持った五人囃子。

 正確には五人囃子かどうかわからないけれど、そういうことにしておく。

 左右の大臣にしては全然若いし、雑役をする人にしては小綺麗だから。

 その手に持った和傘は閉じたまま。

 色は艶やかな赤……というより紅と表現したほうがいいのかな?

 朱のように明るい赤ではなく、渋みのある深い赤……と表現したらいいのかしら?

 臙脂ともまた違う赤ね。

 臙脂はいわゆる小豆色だし。

 コーティングされたように表面が艶っとしているその傘は、やっぱり小学生男児御用達と考えるとチャンバラ。

 つまり近接武器。

 でもそれ以外に傘に用途があるといえば、メリー○ピンズみたいに空を飛ぶとか?

 パラシュートのように降下してくるとしたら、そもそも飛べないといけないし、パラグライダーのように助走を付けて飛ぶには距離もないし高低差もない……となるとやっぱり殴るしかないんだけど……うーん、こいつが一番わからないかな。


 女雛の打ち鳴らした小鼓の音に動き出した人形たちは、あからさまに前に出ることを拒んで横笛を吹き始める官女と、なぜかこのタイミングで参道に水まきを始める官女をのぞいた三体が前に出る。

 特にネイル官女は近接も近接(タイプ)で、時に爪を長く伸ばすこともあるけれどあれは一瞬しか出来ないらしく、通常の長さで接近戦を仕掛けるべく、積極的に前に出てくる。

 四体目の檜扇官女も前に出てくるから、やっぱり近接(タイプ)

 でもそれ以上に前に出て来たのが傘を持った五人囃子。

 ちょっと意外だったけれど、この動きだけを見れば近接(タイプ)……と思ったのは早計だった。


 前に立たれたクロウが大剣・砂鉄で斬り掛かると、五人囃子は閉じた傘の先端をクロウに向け、勢いよく傘を開いて大剣を受け止める。

 後ろに控えるわたしやカニやんの目に、広げた傘の向こう側にいる五人囃子の様子はわからない。

 たぶんクロウも、近すぎて見えないはず。

 そのクロウのすぐ近くで、ネイル官女の爪を剣で横に薙ぐ恭平さんがチラリと見たところ、当然のように全くダメージは通らず。

 アラートが出ないから 【幻獣】 ではないと思われるけれど、ノックバックもせず。

 傘自体、斬られることもなければ破れることもなく、全くの無傷で、その向こう側の五人囃子は足を肩幅に広げて少し腰を屈めるように立ち、しっかりと傘の柄を両手に握っている。


「盾か」

「大楯っ?!」


 クロウと恭平さんの声が被る。

 その一瞬に目の前の敵から気を逸らせてしまった恭平さんを、官女が鋭い爪を伸ばし、まるで目をえぐるように狙いを定める。

 次の瞬間に銃声が轟き、眉間を撃たれた官女は、後ろに仰け反りそうになりながらノックバック。


 徹甲弾(ギムレット)かな


 【幻獣】 じゃないから、その重い衝撃に負けて押し返されたんだと思う。

 撃ったクロエはすぐさま通常弾に切替え、違う柱の陰に移動して次弾を同じ官女の眉間に撃ち込む。


「恭平さん、よそ見してる暇はないよ」

「悪い」


 恭平さんも素直に謝りつつ視線を本来の敵に戻し、バランスを崩したネイル官女に向かって大きく踏み込む……けれど、次の瞬間には視界の隅に横笛官女を捉えてとっさに身をかわそうとする。

 いつの間にか笛吹きをやめた横笛官女は、すかさず吹き矢を恭平さんに向かって放ち、踏み込みの勢いに負けた恭平さんの胸を突き刺す。

 距離が近かったためか、あるいは徹甲弾(ギムレット)のようなものだったのか。

 矢は恭平さんの防具を貫いて胸部を貫通。

 背から抜けるとともに大量のHPが流出した。

この傘使いの正体は大楯使い?

恭平の安否は?

いよいよ本格攻略開始です!

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