552 ギルドマスターは忘れ物をします
PV&ブクマ&評価&感想&評価、ありがとうございます!!
魔法攻撃も飛び道具なのかもしれない。
銃士のように道具を使わないから 「飛び道具」 と表現するには違和感があるんだけれど、飛距離があるからね。
剣士も衝撃波を飛ばすとはいえ必ずではないし、基本は接近戦だから攻撃に飛距離はないといってもいい。
お互いに間合いはとるけれど、あれは一気に斬り込める距離だから、5mとか10mとか離れるものでもないし。
『魔法使いは間接攻撃だな』
なるほど、魔法使いは間接攻撃か。
いつもならここで色々といってくれるのはカニやんだけど、珍しくクロウ……え? 今の声、クロウだったよね?
えっ? もう怒ってないっ?!
ちょっと意外すぎて驚いたら、返事は 『怒ってるわけじゃない』 でした。
えーっと、つまりなに?
はじめから怒ってはいないけれど、その、なにか別のことを思ってるわけ?
例えば末恐ろしいお仕置きとか?
『わかってるなら中途離脱して戻ってこい』
いやいやいや、待って。
せっかくここまで来たんだから、せめてこの官女は落とさせて欲しい……とお願いした矢先にやってしまった。
四人目の官女もわたしと同じ間接攻撃で、しかも短剣使いと同じAGI重視の速攻型。
そのため一撃の被ダメは気にするほどではなく、しかも命中率が低い。
それこそ下手な鉄砲も数打ちゃ当たるよろしく、やたら滅多に撃ち込んでくる。
基本的にNPCはMPと残弾が無制限だから、いくらでも撃ち放題。
ゲーム的にもNPCが守りに入ったら膠着するしね。
だから後衛職であっても積極的に攻めてくる。
近づいては来ないけど
お互いに後衛職だから接近はしないけれど、かといってあいだには遮るもの一つ無いという奇妙な状態。
お互いに避け合いつつも、結局なにもないから避けられていなくて……この奇妙さはなに?
ちょっと打開策をと思って、南大門から中門へと続く参道を、両側から照らすボンボリに目を付けたわたし。
ちょっとは視界を妨げられるんじゃないかと思って近づいたら……
大爆発!!
『ちょっ?! 今の音、なにっ?』
『グレイ、無事か?』
『うわー、今の音はすげぇ』
『またなにやったの、グレイさん』
『無事だとは思うけど、どんな感じ?』
『あの、なにが……?』
…………一応無事だけど……無事だけど、結構ヤバい量が削られた!
直接触れてはいないけれど、一定以上近づくと爆発するよう設定されたこのボンボリの正体が、まさかまさかの設置型火焔魔法 【ファイアーボム】 だったとは。
滅多に使うことがないからすっかり忘れてたけど、間違いないと思う。
しかもプレイヤーが使う 【ファイアーボム】 は見た目がいかにも爆弾っぽいのに比べ、NPC……いや、運営が設置する 【ファイアーボム】 は色々な見た目に擬態する。
例えばID 【フチョウ】 では、エントランスで出迎える、アシカかトドかわからないけど、ヒレ脚動物が遊ぶボールに擬態している。
これにトール君がいつも引っ掛かって結構なダメージを受けるんだけど、一撃で落ちるほどではない。
でもボンボリの爆発に巻き込まれた……というか、わたしが誘爆させたってことになるのかな、これは。
一瞬にしてわたしのHPを危険領域まで削ってくれた。
火力にまでオリジナリティを出してくれたおかげで本日二度目のピンチです。
一回目よりもヤバいピンチです。
大ピンチ
「ヒール!」
急いでウィンドウを操作しながら、とりあえず少しでもHPの残量を上げようと慌てて魔法での回復を試みる。
MPは攻撃用に使いたかったけれど、背に腹は変えられません!
とにかく走って逃げ回りながら回復を試みるんだけれど、相手はAGI重視の速攻型。
STRを捨てているだけあって一撃の被ダメは低いけれど、とにかく数を撃ってくるし、足が速くて射程から逃げることが出来ない。
これ、マジでやばいかも! ……とシリアスなこの展開で、脳筋コンビののんびりとした会話が聞こえてくる。
あ、もちろんカニやんも参加ね。
『これ、あれか?』
『どれやねん?』
『こそあど言葉が出だしたら歳やぞ』
『ちゃうちゃう。
ほら、歌にあるやん』
『歌?』
『ああ、ひな祭りの歌な』
『それそれ。
確かあれ、ボンボリ爆発するやろ?』
『あ?』
『それ、替え歌のほうな。
ほんまのほうは普通に明かり灯すだけやから。
爆弾に火ぃ点けんのは替え歌』
『そうやっけか?
俺、普通にいっつも爆発させとったけど?』
『お前、よう医者になれたな』
『ん?』
『わからへんところが一番怖いわ』
……なに、その替え歌。
『そういう歌があんねん。
灯りを点けましょう爆弾に……いうやつ』
いや、灯りは点いてたから。
灯りは最初から点いてたけどね。
それこそ南大門を入った時からとっくに点いてたから。
でも運営がその恐ろしい替え歌から着想を得て、ボンボリを爆弾に見立てたという推測はあながちハズレではないかもしれない。
見事に爆発してくれたわよ。
そんでもって大量にHPを削ってくれました。
『相変わらず演出が凝ってるな』
恭平さん、そんなところに感心しないでね。
『とりあえずハルが送ってくれたポーションは?』
もう使ってる。
でもヤバそう。
だってこの官女を倒しても、まだ官女一体と男雛女雛が残ってるもの。
絶対足りない!
『そういうことなら追加を送るよ』
イベントには参加していないハルさんは、今日もギルドルーム隣にある作業部屋でお仕事中。
直接イベントには参加していないけれど、間接的に参加するため、各種ポーションの調合に忙しい。
うん、このイベントも絶対にポーションが売れると思う。
物凄く必要だもの。
それこそわたしは、ハルさんが気を利かせて掛けてくれた保険で命拾いしてる。
でもそれも心許なくなって追加をお願いしようとしたところ、楽しそうにクロエの声が割り込んでくる。
『僕さ、さっきからクロウさんが静かなのが不思議だったんだけど、理由がわかったよ』
唐突になにを言い出すのかと思ったら……そういえば最初は戻ってこい戻ってこいとうるさかったクロウが、途中から静かになったというか、落ち着いたというか。
どうしたのかと思ったら、クロエのあとを当のクロウが受ける。
『……グレイ、時間だ』
なんの?
わたしが問い返すより早く、残りのボンボリが爆音を放ちながら次々に弾け出す。
爆音に耳を塞がれながらも、爆煙とともに襲ってくる爆風に体勢を低くして備えようとしたら体が動かない。
まるで金縛りにでも遭ったように体がピクリとも動かなくなり、爆煙で視界を塞がれた状態で爆風に押し戻されるような感覚があったあと、次にひらけた視界では眼前に南大門がそびえていた。
追い出されたっ?!
そう思った刹那、門扉が重々しく蝶番を軋ませながら閉じられてゆく。
あれがどことどこがぶつかって立てる音なのか、ちょっとわからないんだけれど、完全に門扉が閉じられるとともに聞こえる一際大きな音。
その最後の音を聞いて、状況の変化を理解出来ず呆気にとられていたわたしはハッとする。
ちょ、ちょっと待って!
待って待って待って、わたし、忘れ物をしてるから。
お願いだから取りに行かせて!
ルゥ!!
『え? ここでワンコの心配?』
『そっち?』
『うわー……』
『当然!!』
当たり前でしょ!!
呆れるみんなの声に混じるカニやんの声と、意見が一致しました。
ということは、わたしもかなりモフの下僕らしくなってきたということよね。
でもこの重要な場面で忘れてきたというか、置いてきてしまったのはやっぱり飼い主失格?
いや、でもまさか放り出されるとは思わなかったし。
楽しそうに毛繕いしていたから、邪魔しちゃ可哀相だと思ってついうっかり……。
それにこのまま放っておくとまずくない?
だって飼い主がいないことに気がついたルゥが、どんな暴れっぷりを見せるか。
それこそ南大門を破壊して出てくるか、間違えて中門に突入して大仏と喧嘩するか……あ、大仏はダメよ、大仏は!
『え? なんで?』
だって大仏はたぶん 【幻獣】 じゃない。
【幻獣】 対戦 = 巨獣大戦 になるのが目に見えてるでしょ?
うん、まぁ大仏は獣じゃないけど。
全然モフじゃないというか、モフ要素は皆無だけど。
むしろ奈良の大仏って銅かなにかで出来ていて、かっちこちじゃなかったっけ?
『わからんぞ』
『案外あの頭、モフかもしれん』
『絶対違う!』
絶対違う!
……あ、カニやんと意見が完全に一致しました。
なので大仏のあの頭はモフ認定されませんでした。
そもそも大仏にモフ要素は必要ないし、悟りを開いていればいいと思います。
白毫は気になるけど……。
『びゃくごう?』
『なんや、それ?』
『ああ、デコのぽっちな』
『ああ、あれか』
うん、あれ。
あれは凄く気になる。
白い毛がクリンクリンに巻いているらしいんだけれど、とりあえず今は青みがかった灰色の毛が……ゲフゲフ……じゃなくて獣を探そうと思う。
思うんだけれど……
『グレイ、そこはどこだ?』
脱線には付き合ってくれないクロウの問い掛けに、わたしは返事に困る。
んーっとですね、元いた場所……つまり一般エリアやイベントエリアの奈良公園ではない……と思う。
相変わらず鹿はいないし、みんなはもちろん、わたし以外にプレイヤーの一人もいない、ただ薄暗い空虚な空間があるだけ。
たぶんダンジョンの入り口……といってもダンジョンの入り口前ではなくて、ダンジョンに入ってすぐの場所だと思う。
小説でいうところのプロローグとか序章に当たる部分。
でも一応ダンジョン内……だと思う。
普通は追い出された場合、ダンジョンの外に転送されるものよね。
それがまだダンジョン内に留まっていられるというのは、ワンチャンあり?
『いや、ないっしょ』
『さすがにそれは……』
『グレイさん、前向きだね』
『あたし、ポジティブ好き!』
『ちょ、塚原は黙ってて』
『えーどうしてぇ?』
大丈夫よ、トール君。
美沙さんも一緒に喋ってくれていいからね。
その美沙さんの 『はーい』 という元気のいい返事を聞きながら周囲を見回してみると、どこからともなくルゥの 「きゅー……」 という声が聞こえてくる。
それもどんどん近づいてくるんだけれど、どんなに首を巡らせても、あの超絶可愛らしいもっふりボディが見当たらない。
え? ちょっとルゥ、どこ?
どこにいるのっ? ……と焦っていたら、ボフッという音というか衝撃が、頭頂から踵まで骨を伝う。
痛いというより、びりびりと電気が走ったようなあの感じが……
「う……上から降ってきたのね」
「きゅー♪」
「うん、お帰り」
わたしの頭をガッツリと四肢で掴み、楽しそうに鳴き声を上げるルゥ。
短い尻尾をパタパタ振ったりして可愛いんだから。
とりあえず下ろそうと思って両手を上げた刹那、足下が抜けた。
今度はなにっ?!
ちゃんと忘れ物を回収出来たグレイですが、一体どこへ・・・?
そもそもどうして彼女は参道を追い出されたのか?




