54 ギルドマスターはギルドシステムを説明します
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【素敵なお茶会】 で一番我が儘なのはクロウだった……なんて、思ってもいなかったわたしには数秒、記憶が飛ぶくらい衝撃的な事実だったんだけど、結構みんなわかっていたみたい。
クロウを指さしてずばっと斬り込んだクロエに 「あ~あ、言っちゃった」 みたいな顔をしてるの。
なんなの、これ?
「グレイさんはクロウさんを溶かさないし、クロウさんはグレイさんを斬らない。
【素敵なお茶会】 の不文律みたいなもんだけど、これさ、両立しないんだよね」
カニやんに言われてその意味だけをわたしも考えたんだけど、確かに両立しない状況もあるわね。
特に今回の、プレイヤー同士のバトルロワイヤルみたいなイベントだと。
でも普段は問題ないわよね?
わたしはそう思うんだけど、クロエには呆れられちゃった。
なんで?
「普段って……グレイさん、本当に呑気だね」
「呑気すぎて気づいてないとか……これ、知らないままのほうがグレイさんは幸せなんじゃね?」
カニやんの言い方はわたしのためを思っていってくれてるっていうより、わたしのことを馬鹿にしてるわよね?
どんなニブニブだと思ってるのよ。
「果てしなく鈍いでしょ。
まぁそれはいいんだけど……つまりさ、この不文律は今回みたいな状況じゃ成り立たないわけで、成り立たない状況でどっちの我が儘が通るかといえば力業でごり押ししてくるクロウさん。
魔法使いが力業で剣士に勝てるわけないのは当然なんだけど、グレイさんが気づいていないだけで、普段からかなりクロウさんにごり押しされてるんだけど?」
………………なに、それ?
えーっと……正直に告白すると、わたし、結構我が儘をいっている自覚はあるの。
実は末っ子で、家族から結構甘やかされてきたのよね。
でもクロウのほうが我が儘だったって……どういうこと?
クロウも末っ子だったってこと?
うん、まぁ誰もそんなこと知らないし、クロウも馬鹿正直に教えてくれるわけないわよね。
まだ怒ってるみたいだし……怖いよぉ~
「グレイさんも、どうせ我が儘ならもっと強気で攻めてくれる?
前のイベントの時の対ノギさんの時もそうだったけど、絶対落ちないくせに、すぐ落ちる覚悟決めるとか、なんでそっちに前向きなわけ?
ギルマスなんだから、それこそ僕らなんて駒にしちゃっていいんだし」
「そんなことするわけないでしょ!」
「クロエ、言い過ぎ」
思わず立ち上がって言い返したら、クロウに 「落ち着け」 って言われた。
でも仲間を盾にするとか駒にするとか、わたしには考えられない。
クロエだって、悪ふざけはするけれど、絶対に誰かをそんな風に使ったりしないくせに、わたしにはしろって言うの?
「そういうところ、確かに男前なくらい潔いんだけど……」
言い掛けたカニやんはちょっと考えるように一度言葉を切り、口調を改めて言葉を継ぐ。
「グレイさんは主催者なんだよ、この 【素敵なお茶会】 の。
主催者ってさ、メンバーにとっては御旗みたいなもんなの。
メンバーの旗印なんだよ。
それが簡単に落ちる覚悟とか、決めないでくれる?」
わたし、主催者ってそんな偉そうなものじゃないと思うんだけど。
いわゆる雑用係みたいなもんじゃないの?
メンバーを増やすための営業をしたり、クエスト進行のお手伝いしたり、イベント参加に備えたり……そういう役目だと思ってたんだけど……違うの?
だからメンバーを守るのも当然だし、今回のイベントだって、クロウを勝たせるためにどうしたらいいかを精一杯考えたんだけど……違うの?
これまでの考えを全否定された気がして呆然となっちゃったんだけど、わたしの反応が予想以上だったらしくて、カニやんを戸惑わせちゃった。
「いや、ま、時と場合によってはそれもありなんだけど、雑用なんかはサブマスター任せでいいんじゃないの?
さすがにノーキーさんを真似ろとはいわないけど、あそこまで極端じゃなくていいけど、あれに近いところ目指してくれていい。
グレイさん、ちょっと真面目すぎなんだよ。
でもさ、やっぱ主催者には最後まで残ってもらいたいわけよ。
そんな簡単に落ちられちゃ、メンバー的にも、こう……ね」
「つまりさ、主催者って言い方をするからグレイさんにはわかりにくいんだろうけれど、僕らの大将なわけでしょ。
その大将がメンバー放って先に落ちるとか、あり得ないって話。
どっちかっていうと主催者守って落ちるほうが格好いいでしょう。
しかも守る主催者が美人とか、やりがいあるし」
また美人がどうとかって話が出てきた。
美少年は矜持の高いナルシストってだけじゃなくて、やっぱり普通に男の人ってこと?
普通の男の人みたいに美人が好きってこと?
「当然好きだよ、決まってるでしょ。
だからグレイさんが主催者なの大歓迎なんじゃない。
仮にもさ 【素敵なお茶会】 は 【the edge of twilight online】 一古いギルドで、グレイさんは最強の主催者で、メンバーにとってそれって結構自慢なんだよね。
わかってる?」
ごめん、わかってませんでした。
えっと……難しいところはあんまりわからないというか、わかりたくないというか……でも、ちょっと軽々しかったことはわかった。
これからは気をつけます。
でもたぶん……どこがそうなのかわからないから、クロウの我が儘に勝つのは無理だと思う。
「……それは勝たなくていい」
クロウ本人にいわれちゃうっていうね。
でもこれって、クロウは改めるつもりはないってことよね。
話が変わって少し機嫌を直したっぽいクロウを睨むんだけど、全然効果無しってこともいつもと一緒。
メンバーも苦笑いだったんだけど、トール君が、いつものように申し訳なさそうに割り込んでくる。
「あの、訊いてもいいですか?」
「答えられることなら」
それこそなんでも訊いてって大見栄を張りたいところだけれど、最近色々とボロが出て来たような気がするの。
で、小心者なので用心しちゃったわ。
「【素敵なお茶会】 が一番古いギルドって、どういうことなんですか?」
「ああ、そのこと。
ギルドナンバーって知ってる?」
これ、個人のウィンドウでは見られないんだけれど、公式サイトにあるギルドメンバー募集とかのスレッドで、ギルド名の前に振られた番号のことなんだけど、【素敵なお茶会】 は 【the edge of twilight online】 で一番最初に設立されたギルドってことで 「1」 を持ってるの。
「このゲームで一番最初に設立されたギルドだったんですか?」
ちょっと驚いた顔のトール君に、少し自慢げにクロエが答える。
「そ、僕とグレイさんとクロウさんとセブン君の四人で」
「セブンさんって 【鷹の目】 の主催者ですよね?」
「うん、 【鷹の目】 は 【素敵なお茶会】 を脱退してから設立したの。
で、カニやんが入ったのよ」
「いや、セブン君の脱退は俺が入ってから」
わたしの記憶ではそうなってたんだけど、すぐさまカニやんが訂正してきた。
あ、あら? わたしの記憶違い?
わたしは本気でそう思っていたんだけど、思いっきりカニやんに訂正されて目を白黒させる。
でも、だったら、セブン君とは、マメよりカニやんのほうが付き合いが長いってことにならない?
「おいおいグレイさん、なに言ってるの?
確かマメは 【鷹の目】 の初期メンバーだから、登録時期は同じくらいかもしれないけど」
でもマメがセブン君と知り合ったのは 【鷹の目】 に加入してからだから、カニやんのほうがセブン君との付き合いは長いことになる。
……あら? どうして?
しきりに首を傾げていたら、隣のクロウがすっごく大きな溜息を吐いたの。
なんで?
「……お前の記憶は所々おかしい」
どういうことって訊いたんだけど、教えてくれないのがクロウよね。
しかも所々ってことは一カ所じゃないってこと?
えー? どことどこがおかしいのー?
ちょっとせっついてみたんだけど、絶対に教えてくれないの。
けちっ!
「セブン君の脱退が俺の入会より先だと、俺とセブン君がフレンドになるの難しいでしょ。
結構短かったけど、同時期に所属してたんだよ。
セブン君が脱退してすぐ、グレイさんがいきなり俺たち三人にサブマス権限渡してきて、四人じゃ寂しいから新規メンバー募集しようって言い出したんだよ」
……うん、話の辻褄が合ってる。
あ~れ~? それじゃやっぱりわたしの記憶がおかしいってこと?
なんだか釈然としないんだけど……でもその部分は話が合ってるのよね。
「セブン君が抜けちゃったショックで記憶がおかしくなっちゃったんじゃないの?
グレイさん、あの時は落ち込んでたし」
記憶がおかしくなるほどのショックって……わたし、どんだけメンタル弱々なのよ……。
確かに優柔不断ではあるけれど、優柔不断の自覚はあるけれど、そこまでメンタル弱いつもりはないんだけど。
「クエストにね、【ギルドに所属しよう!】 っていうのがあるでしょ?」
わたしは気を取り直して説明を続ける。
これはもちろんエピソードクエストで、このナゴヤドームにある長官室でNPC長官から受ける指令の一つ。
但しこのクエストはクリアしなくても次のエピソードには進める。
同じタイプのクエストは他にもいくつかあって、実はわたしも一つ、残したままのエピソードがある。
ちょっと面倒なクエストで、わたし自身、あまり気乗りしないのよね。
たぶん同じクエストをカニやんやクロエも残していると思う。
ちなみにすっかりエピソードクエストのことを忘れていたトール君は、ここしばらくNPC長官のところに通ってエピソードを進行。
この 【ギルドに所属しよう!】 は受諾した瞬間にクリアして、その場で報告して終了。
すでにギルドに所属していたから。
それだけで経験値がもらえるっていうクエストなんだけど、絶対にクリアしていないのがノギさんね。
クエスト受諾前後にギルドに所属していることが条件だから、受諾前にギルドを脱退しているとダメっていう条件はある。
「元々はクエストをクリアする目的で作ったのよ 【素敵なお茶会】 は。
同じ理由でノーキーさんが 【特許庁】 を作って、誘ったんだけど、蝶々夫人はあっちに行っちゃった」
元々蝶々夫人はノーキーさんと仲がよかったんだけど……ん? あれ? なんか違和感が……これ、なんのモヤモヤかしら?
あの当時のことを思い出して……といっても数ヶ月前のことなんだけど、なにか引っかかりを覚えたのよね。
それがなんなのかはっきりしないんだけど、これがクロウのいう 「お前の記憶は所々おかしい」 の 「所々」 ってこと?
ノーキーさんか蝶々夫人か……わからないんだけれど、なにか違和感というか、モヤモヤするのよね。
なんだろう?
知ってると思うクロウを見ても、目だけはこっちを見るんだけどなにも言ってくれないし、それならと思って矛先を変えてみても、知ってるらしいクロエとカニやんにもそっぽを向かれてしまう始末。
なに、このすっきりしないモヤモヤは……。
「あ、あのグレイさん?」
「ごめんね、トール君。
グレイさんは天然だから、色々頭の中が大変なんだよ」
言ってくれるわね、クロエ。
知ってるんなら教えてくれてもいいじゃない。
話の途中でわたしが変な顔をしちゃったから、トール君を不安にさせちゃったみたい。
「三つ目のギルドは……名前は忘れちゃったんだけど、今はもう解散しちゃって欠番になってて、セブン君が 【鷹の目】 を作って四番目のギルドになったの」
「番号って、ずっと続くんですか?」
「欠番があるから、そういうシステムなんじゃない?」
【素敵なお茶会】 【特許庁】 【鷹の目】 が三大ギルドっていわれるのは、まぁそのくらい前からあるからってことかな。
【鷹の目】 のあとも新しいギルドは次々設立されたんだけど、解散も結構あって、一桁の番号を持ってるギルドで今も活動しているのはこの三つだけ。
つまり3と5~9は欠番ってことね。
特に今はクエストをクリアするためだけのギルド設立もあって、ぼっちギルドが一杯。
もちろんクエストクリア用の出入り自由ギルドもあって、今はわざわざ自分で設立する必要もない。
だから 【素敵なお茶会】 を含めたほとんどの活動ギルドでは、クエストクリアを目的にした一時的な入会希望は受け付けていない。
そのギルドのルール…… 【素敵なお茶会】 の場合は挨拶必須とか、決められたルールを守って活動していくことを入会の条件にしているんだけど、この説明をトール君はクロエから聞いているはずよね。
「はい、初めて会った時に」
クロエは面倒くさがりでメンバーの新規勧誘自体が珍しかったんだけど、でも誘ったからにはちゃんと説明とかはするのよね。
真面目なんだか不真面目なんだか、ほんと、よくわかんない。
もちろんお試し期間を経て正規メンバーになるんだけど、もちろん正規メンバーになってからだって人間色々あるもの。
脱退はあるものだってわたしもわかってるんだけど、今回はちょっとショックというか、なんというか……ココちゃんが脱退しちゃったのよね。
で、の~りんがずっと部屋の隅で、壁に向かって膝を抱えてうつむいてるっていうね。
「……あれ、返事はもらったの?」
テーブルの上に身を乗り出したわたしは、そんなの~りんをちらりと見ながら声を潜めて誰にともなく訊いてみる。
するとみんなが……クロウはのぞいてだけど……同じようにテーブルの上に身を乗り出すように顔を近づける。
「いや、もらってないらしい」
みんなを代表するようにカニやんが答えてくれたんだけど……それってどうなの?