536 ギルドマスターはアオハルにときめきます
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「美沙さんはギルドに興味は無い?」
ついうっかりいつものように営業活動をしてしまうわたしに、美沙さんは、なぜかチラリとトール君を見てから答える。
まぁでも気づかないのがトール君よね。
でも美沙さんは気にする様子もなく……というのはわたし目線だから、本当は気づいて欲しかったのかもしれない。
でもチラ見したことすらなかったかのように、笑いながら返してくる。
「それって、勧誘ですか?」
「ええ。
でもルールがあるから、まずはお試し期間からなんだけれど……」
早速説明をしかけて、物凄く重要なことに気づいたわたしは、慌てて 「あのっ」 と話の方向を急転換する。
「これだけは言っておきたいんだけれど、ア子さんと一緒でなければ……というのは無理だから」
「ア子ちゃんと?」
でも美沙さんは、どうしてわたしがそんなことを言い出したのかわからないような顔をする。
あ、あれ? どういうこと?
「その、美沙さんとア子さんはお友だちなのよね?」
「あーそういうことですか。
それなら大丈夫です。
ア子ちゃんとはクラスも違うし、特に仲がいいってわけじゃないんで」
「そうなの?」
「はい。
共通の友だちはいますけど、あたしとア子ちゃんは直の友だちってわけじゃないんで」
???
どういうこと? 意味がよくわからないんだけど。
じゃあどうしてわざわざ待ち合わせなんてして一緒に?
「それは……」
わたしの問い掛けに彼女はなにか答えかけたんだけれど、思い直したように口を閉ざして考え込む。
「美沙さん?」
「えっと……あ、でも、あたしも訊きたいんですけど、もしあたしがギルドに入ったら、あたしが勝手にア子ちゃんを入れるとか出来るんですか?」
「それは出来ません」
権限がないからね
ギルドの加入申請を出すのには条件があって、一度ギルドを退会すると、同じギルドに戻るにせよ、他のギルドに新たな加入申請を出すにせよ、退会してから2週間経たないと出来ないという制約が課される。
まっさらの新人ホヤホヤの美沙さんはもちろん、これまでソリストとしてやってきたア子さんもこの条件には当てはまらないから、加入申請はいつでも出せる。
でも申請を受けるには、ギルドに所属していることはもちろんだけれど、主催者か副主催者が持つ承認権限を持っている必要がある。
【素敵なお茶会】 だと五人だけね。
「ギルマスのアールグレイさんと?」
「こっちのクロウと、そこの魔法使い。
トール君と並んでいる剣士。
あと、ここにはいないけれど、銃士が一人」
「へぇ」
カニやんには 「その紹介はないんじゃね?」 と文句を言われたけれど無視しておく。
ちゃんとした説明は、仮加入が決まってからでいいじゃない。
でもどうして美沙さんがそんなことを訊いてきたのかと思えば……
「でもあたし……あ、そう! 友だちと電話しなきゃ」
教えてくれないどころか、見え透いた嘘をついてきた。
もうね、あからさまにその言い訳、「いま思いついたでしょう?」 というのが見え見え。
もちろん美沙さんには美沙さんの都合があるのもわかるんだけれど、そんな見え見えの嘘で逃げようとしなくてもいいと思う。
だってこんな時間よ。
いくら明日学校がお休みでも、相手が自分の携帯電話を持っていたとしても、お風呂に入っていたり寝ていてもおかしくはない時間じゃない。
それこそ加入の意志がないのなら、この場で断ってくれても全然かまわない。
むしろそうしてくれた方がわたしもすっきりするのに。
でもそういうつもりじゃないっていうのはどういうこと?
「その、仮加入っていうんでしたっけ?
それの話、明日聞いてもいいですか?
あ、でもア子ちゃんとやる前がいい」
わたしに返事をする間を与えず、次々と言葉を繰り出してくる美沙さん。
言葉を継ぐ速さももちろんなんだけれど、そもそも早口なのよ。
おかげでついていけないでいると、代わりにカニやんが約束を取り付ける。
「じゃあ明日の朝10時ぐらい?
場所は、さっき会った宿の一階。
覚えてる?」
「OKです。
大丈夫」
「もしわからなかったらトール君に訊いて。
直通会話の使い方は導入にあったはずだけど、覚えてる?」
「たぶん大丈夫。
都留もいるし」
都留?
芳人君に続き、新たな新要素の登場です……と思ったら、こちらはあとでトール君に訊いてみれば奏大君のことらしい。
【アタッカーズ】 に所属しているトール君のお友だちね。
確か幼なじみだっけ。
「じゃあ、約束の時間だから。
また明日」
「お休み」
笑顔で見送るカニやんの挨拶を、最後まで聞かずに慌ただしくログアウトしてしまう美沙さん。
当然わたしには口を挟む余地なんてなく、それこそお休みなさいと言い掛けて 「お」 ぐらいを言うのがせいぜいだった。
せっかちというか、勢いがあるというか。
「あれ、何を急いでたんだ?」
知ってる? ……とトール君に尋ねる恭平さん。
でもトール君は知らないというか、トール君自身も急用が出来たとか言い出す始末。
それを恭平さんが引き留める。
「え? でも俺、クラスの女子とか、あんまり話さないんで……」
あくまでも美沙さんが急いでログアウトした理由は知らないというトール君だけれど、恭平さんは、もちろんそのことも気になるけれど、それ以外にも気になることがあるという。
でもトール君の性格は、それを振り切ってログアウトは出来ない。
急いでいるのか焦っているのか、落ち着かない様子を見せながらも 「なんですか?」 と恭平さんに尋ねる。
「あの子、どうしてこのゲーム始めたんだ?」
あまりにもストレートすぎる質問に、トール君は 「え?」 と困惑を顕わにする。
それを見て、恭平さんの意図を理解したカニやんがさりげなく補足してくる。
「そういやあの子、トール君と会っても驚かなかったよな。
知ってたのかな、トール君がこのゲームをしてるって」
ア子さんがトール君を見ても驚かなかったのは、たぶん地下闘技場やイベントで見掛けたことがあるんだと思う。
つまり知っていたから。
所属ギルドまでね。
これについては脳筋コンビが言っていたことがある。
「まぁトールもそれなりに有名だから」
「中高生プレイヤーのあいだじゃ有名らしい」
うん、アイドル顔で可愛いもんね、トール君。
だからア子さんがトール君を知っていてもおかしくはないけれど、逆に言えば、トール君がア子さんを知らなかったのも無理はない。
だってそこはトール君だからね、トール君なのよ。
でも初心者中の初心者、ベストオブ初心者の美沙さんまでが、トール君を見ても驚かなかったのはなぜなのか。
恭平さんはこの部分をすっ飛ばしてるのよね。
で、結論みたいなところに一足飛び。
普通にトール君でなくても困惑します。
でもトール君には、彼女がゲームを始めた理由はわからないまでも、トール君と会っても驚かなかった理由には心当たりがあるらしい。
「前に教室で訊かれたことがあって」
「なんて?」
恭平さんの追究にトール君が説明したところによると……まず謎の人物 「芳人君」 というのは、高見沢芳人というトール君のクラスメイトで、奏大君と同じ幼なじみ。
その芳人君、奏大君と三人でゲームの話をしていたところに、美沙さんがゲームの題名を尋ねてきたらしい。
「えっと、確か……面白そうだからって言ってたと思います。
あいつ、結構席が近いし、奏大ともよく話していて、それで俺らがしてるゲームの話を聞いていたんだと思います」
「じゃああの子、奏大君と同じゲームをするつもりで?」
「奏大と…………あ…………えっと、そういえば篠崎がしてるゲームって言ってた気がする。
あ、あの、篠崎は俺のことです。
篠崎亨。
奏大が都留奏大です」
まぁ二人の本名はおいておくとして、この話はどういう意味?
恭平さんがわざわざ確認したということは意味があると思うんだけれど、わたしにはよくわからない。
でもカニやんは何かお察しみたいな顔をしているし、脳筋コンビも 「なるほどなるほど」 とか 「ははぁ~ん」 とか、やっぱり何かお察しみたいな反応を見せている。
わたしとトール君だけがわかっていない、それはつまりそういうことよね。
わたしとトール君の精神年齢が同じ部分というか、人生レベルが同じくらいのジャンル。
でもトール君は喪女と違ってこれから経験値を積むところ。
ということは……
アオハル
…………………………え? 待って待って待って、つまりなに?
美沙さんはそういうことっ? と驚きかけたところで、カニやんが閉じた自分の唇に一本指を立ててみせる。
その合図は黙っていろってことですね。
それでもやっぱりトール君が目の前にいると言いたくて、ウズウズしていたらクロウに頭を小突かれる。
ちょっと、クロウまで悪い大人の味方なの?
「部外者が余計なことをすると拗れる。
当面は状況を静観しろ」
さすがにお仕事の出来る上司様は言うことが違います。
そして必要なところで必要な助言をするんですね、わかりました……といっても喪女卒業にほど遠いわたしには、出来る助言なんてない。
つまり黙っていろってことね。
無力
非力とはまた違った響きの言葉だわ。
そして非力以上に打ちのめしてくれる言葉ね。
これ以上引き留めるのはさすがに悪いと思ったのか、恭平さんの質問はこれで終わり。
本当に急いでいるのか、いつもならギルドルームでログアウトするトール君は、戻るのももどかしくこの場でログアウトした。
「ア子、美沙、トール君……奏大君も関係あるのかな?」
「どうだろう」
いずれにしても、今頃は口裏合わせが行なわれているだろう……って、もう、恭平さんったら疑り深いんだから。
そりゃ結局誰がギルドルームの場所を話したのかはわからないままだけど……。
「さっきのトール君の話、聞いてた?」
不意にカニやんがにひっと笑う。
カニやんがこうやって笑う時はだいたい何かあるのよね。
何?
「トール君、美沙ちゃんは奏大君と仲がいいって言ってたじゃん」
うん、これはなにが言いたいのかわかる。
つまり全然気がついてないってことよね、トール君は。
それどころか誤解している、あるいはこれから誤解する可能性もある。
もちろんわたしたちの完全なる早とちりという可能性もあって、美沙さんは純粋にこのゲームを面白そうだと思って始めたのかもしれない。
こうやって可能性だけを論じればいくらでもでてくるんだけれど、わたしが希望する一番はこれ。
三角関係!!
全ては可能性の段階ですが、美沙がゲームを始めた理由はひょっとしたらひょっとするかもしれない・・・というお話です。
三角関係を希望するグレイが、一番悪い大人のような気がするのは作者だけでしょうか?
もう一つの疑問は次話で明かされる予定です(汗
そして地下闘技場がまだまだ遠い・・・




