52 ギルドマスターはインタビューを受けます
pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!
本日も末尾に資料整理の 「おまけ」 をご用意いたしました。
よろしければそちらもお楽しみください。
『最終生存者アールグレイ』
運営の音声インフォメーションのあと、わたしはナゴヤドームの喧噪の中に戻される。
イベントの参加者、不参加者、称える拍手をくれるプレイヤー、言葉で祝福してくれるプレイヤー。
もちろんいいことばっかりじゃなくて、中には文句やブーイングもあった。
でもここはあれよね?
うん、こういう場合はあれよ。
勝てば官軍
小さくガッツポーズを決めてブーイングに応えてあげるわたしって、性格悪い?
でも向こうの人だかりで大きくガッツポーズしているノーキーさんみたいには出来ないのよ。
だって、恥ずかしくない? ……恥ずかしいのよ。
絶対無理です。
どういう神経をしていたらあんなに堂々と出来るのか……ちょっとは見習わないとね、ノーキーさん以外のお手本を見つけて。
ノーキーさんは所詮ノーキーさんだから、あれはたぶんお手本にしてはいけないと思う。
だって今も 「かかってこいやーっ!」 とか挑発してるし……もうイベントは終わってるのに……。
で、そんな主催者を、周りにいる 【特許庁】 のメンバーが無責任に囃し立てているっていう……ほんと、【特許庁】 のメンバーってメンタル最強だわ。
さすがの蝶々夫人も、今ばかりは無礼講ってところかな。
ノーキーさんに煽られて盛り上がるメンバーたちを、仕方がないといわんばかりの苦笑いで眺めている。
林立する人混みのあいだにわたしを見つけると、小さく手を振ってくれた。
うん、今日も麗しいわね。
そんでもって悩殺ポーズも決まってるわ。
「あれ、【特許庁】?
いつもながら凄い異色集団だな」
お疲れ……と労いながらのカニやん。
「イベント用にって、装備新調した奴もいるらしい」
ぽぽの知り合いがそんな噂を聞いたらしい。
ま、それも派手好きな 【特許庁】 らしいわよね。
なるほど、それでいつも以上に派手さが際立つわけだ、あの人だかりだけが。
たぶんイベント用に新調したのは一人や二人ってわけじゃないと思う。
もちろんそういう楽しみ方もありよね。
そんな 【特許庁】 の中でも一番の派手好きはノーキーさんだけど、勝ちへのこだわりがあるから、さすがにいつもの鎧装備ドクロだったけど。
でーも、よそはよそ、うちはうち、よね。
今ログインしているほとんどのプレイヤーが集まっているだろうこの広場の中、長身のクロウをめがけてわたしは小走りに向かう。
もちろん拳骨を握りしめてね。
あ、もちろん大鎌は杖に戻してあるわよ。
さすがにこの人混みに、慣れない大鎌なんて持ち歩いたらどれだけ周囲にご迷惑をおかけすることか……考えるだけで申し訳なくなるから。
「クロウ!」
「お帰り」
わたしがなにを怒っているのか、さっぱりわかっていないクロウはいつものまま。
ゆったりと迎えてくれるんだけれど、騙されないわよ!
このお馬鹿!
握りしめた拳で殴りかかったら、なんなく受け止められるとか……さすがSTRの塊よね。
ムカつく
それでも頑張って踏ん張ったんだけど……全然びくともしない。
誰かわたしにSTRを分けてくれない?
それでも頑張って頑張って……わたしの息が上がり始めた頃、それまで傍観を決め込んでいたカニやんが、仕方なさそうな溜息を吐きながら止めに入ってくる。
「グレイさんのいいたいこともわかるんだけど、クロウさんのいいたいこともわかるんだよな」
「だからなに?」
「とりあえず拳骨はやめておこうか」
手を下ろせって説得してくる後ろで、脳筋オッサンコンビが 「おっかねー」 とか色々言ってるんだけど、まだそれはまっし。
クロエってば……
「グレイさん、女の人が拳骨で殴るって……ぶはっ」
なに大口開けて大笑いしてるのよ!
ちょっとそこの美少年、頭が禿げるまでその金髪毟ってあげようか! ……っていうか毟りたい。
毟らせろ
「こんなのカツラみたいなもんなんだから、いくら毟ったって無駄でしょ」
ああ、もう、どこまでも減らず口を……。
「泣くほど怒ることじゃないだろ?」
わたしだってね、泣きたくて泣いてるわけじゃないの。
そもそも泣いてるわけじゃないの、これは。
勝手に涙が出てくるのよ……もう。
しかもクロウってば、もう一方の手で涙拭ってくれるとか……どんだけ余裕なの?
「STR、分けてよぉ……」
「無理言うな」
あ~あ、溜息吐かれちゃった。
「とりあえずグレイさん、泣くか怒るか、どっちかにしたら?」
「クロエ、お前のいいたいこともわかるけど、とりあえず黙っとけ。
お前、口悪すぎだろ」
カニやんにまで溜息吐かれちゃった。
「グレイさんも、とりあえず表彰インタビューだってさ」
「いてらー」
うん? なに、それ?
カニやんに背中を押され、クロエが盛大に送り出してくれるんだけれど、人混みをかき分けてわたしの前に出てきたのは巨大な熊。
熊? どうして熊なの?
持ったマイクをわたしに向けてきたこの熊は運営の人らしいんだけれど、どうして熊なのよ?
日頃運営が頑張ってファンタジー要素を取り入れようと、無理クリにねじ込んできているのは知っているけれど、熊はないでしょ?
どう考えたって熊はファンタジー要素じゃなくて、ファンシー要素じゃない。
色々崖っぷちなゲームではあるんだけれど、そろそろ方向性を見失ってきたんじゃない?
大丈夫?
あ……いやいやいや、問題はそこじゃなかった。
表彰インタビューってなに?
そんなのあるの?
あとで聞いたら前回もあったらしいんだけれど、わたしは早々にダウンしちゃったし、団体戦でもあったから代りにクロエが表彰式に出たらしい。
目立ちたがり屋でもないクロエは面白がってトール君を表彰式に出させようとしたらしいんだけれど、そこはクロウに怒られたって……当たり前でしょ、クロエってばなに考えてるのよ。
だからってクロウが出るわけないんだけどね。
でも今回は個人戦だから……誰か代理出席してくれない?
「グレイさん、耳まで真っ赤」
柴さんに言われるまでもなく、耳まで赤いのは自分でもわかってる。
だって顔とか耳とか、凄く熱いもん。
でもね、耳を隠したら顔が隠せなくて、顔を隠したら耳が隠せなくて……これ、どうしたらいいのよ?
いっそ、どこかに穴を掘って埋めて欲しい。
穴だけ掘ってくれたら、わたし、自分から飛び込むから上から土をかけて埋めて。
もうインタビューなんて、マイク向けられたってなに喋っていいかわからなくて……でもなにか喋っていたらしいの、わたし……なにを?
あとでみんなに聞いたらそれらしいことを喋ってたっていうんだけど、ほんとに?
なにを喋っていたかを聞くのも恥ずかしくって訊けないままなんだけど、とりあえず気がついたらインタビューが終わっていて、クロウにしがみついていたっていうね……ここに木があったらよかったのに……。
「いや、まぁ、木にしがみつくならクロウさんのほうがいいんじゃない?」
どうわたしに対応したらいいのか、カニやんはほとほと困ってるみたい。
でもこれが普通の人じゃない?
なのにクロエってば……
「グレイさん、まだ首まで真っ赤。
涙目だし……笑える。
あんなにごつい火力タンクのくせに、今回なんて大鎌まで振って大立ち回りやらかしたくせに、なんでこんなことで泣くの?」
最終的なポイント計算が終わり、順次順位が発表される大歓声の中、わたしの周りだけが違うネタで大盛り上がりとか……もういやぁ~。
とりあえず泣くだけ泣いちゃおうと思って、クロウを隠れ蓑にすることにした。
たぶん、身長のわりにクロウも細いと思うんだけど、でも十分わたしより大きいもの。
「……あとで、絶対殴ってやる……」
「断る」
ぼそりと呟いたつもりだったのに、この歓声の中でも聞こえてたっていうね。
そんでもってしっかり断られちゃったわ。
おまけによしよしとか頭撫でられるし、背中さすられるし……子どもじゃないのよ、わたし!
第二回イベント 最終順位
1位 アールグレイ 【素敵なお茶会】 主催者
2位 ノギ 無所属
3位 クロウ 【素敵なお茶会】 サブマスター
4位 ノーキー 【特許庁】 主催者
5位 カニやん 【素敵なお茶会】 サブマスター
6位 ラッキーセブン【鷹の目】 主催者
7位 クロエ 【素敵なお茶会】 サブマスター
8位 不破 【特許庁】
9位 ライカ 【暴虐の徒】 主催者
10位 しば漬け 【素敵なお茶会】
11位 ミンムー 【素敵なお茶会】
12位 シシリー 【シシリーの花園】主催者
13位 串カツ 【特許庁】
14位 ポール 【暴虐の徒】
15位 リー 無所属
イベント自体はわたしがノーキーさんを落とした時点で終了。
予定されていた開催時間二時間を少し残していたんだけれど、最終生存者のわたしはボーナスポイントとして 120分(2時間) ÷ 5 = 24P が生存点として加算されたのよね。
さすがにこの24点がないとあの三人には勝てなかったんだけど……クロエとセブン君の順位と落ちた順番が反対なんだけど、クロウとノギさんも逆とか……とりあえず殴っていい?
だってわたしにかまわずあの二人を斬ればクロウが勝っていたかもしれないのよっ?!
なのにクロエってば……
「うん、斬れればね。
だってあの二人が相手じゃ、クロウさんだって一筋縄じゃいかないでしょ」
……冷静だわ。
登場人物:ノギ / 男性型・剣士 /
登録以来一度もギルドに所属したことのないソリスト。
クロウ、ノーキーとともにトップ剣士三つ巴の一人として有名。
浪人を思わせる風貌に日本風の鎧ロクモンセンを装備するが、剣だけはセットの刀(片手剣)ではなく大剣(両手剣)を愛用している。
自身をのぞくトッププレイヤー五名(アールグレイ、クロウ、クロエ、ノーキー、ラッキーセブン)の中では唯一アールグレイにだけは勝ったことがないらしい(本人:談)。
今後もギルドに所属する意志がないため、行われると思われるギルド対抗戦には参加しないと思われる。