51 ギルドマスターはポイントを忘れます
pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!
少しずつブクマも増えまして、少しずつ評価もいただけるようになりまして、こっそりとにんまりしております。
本当にありがとうございます。
今後ともよろしくお付き合いくださいませ。
「よかったじゃねぇかクロウ、グレイもお前にべた惚れじゃん」
…………この変態は、この緊迫した状況でなにを言ってるの?
そもそも二対一の構図が見えてないのかしら?
自分が圧倒的に不利だって、わかっていないとしか思えない。
どんだけ馬鹿?
脳筋だってことは知ってたんだけどね。
ノーキーさんが、たぶんこの 【the edge of twilight online】 一の脳筋だってことはみんなが知ってると思う。
だって、本当に脳筋なんだもん。
ついでにドスケベだけどね。
カニやんの奮闘振りは見られなかったんだけど、少なくともノーキーさんが恨みに思うくらいは削ってくれたと思う。
通常エリアと会話出来れば訊きたいところなんだけど、生憎イベントエリアと通常エリアじゃインカムは通じない。
だから実際のところはわからないんだけど、それでもそれなりには削れてると思う。
あの時カニやんは結構詠唱をしていたんだけど、でも、カニやんが落ちたあとにバタバタと何人かが落とされた。
たぶんノーキーさんが落としたんだと思うんだけど、だとしたら、その場には二人以外のプレイヤーもいたってことが想定出来て、カニやんの攻撃が全てノーキーさんに向いていたとは限らない。
だとしたらノーキーさんを落とすには、あと二発か三発か……それとももっと?
こういう時は多めに見積もっておいたほうがいいと思うんだけど、クロウより少ないってことはなさそう。
つまりまともにこの二人を遣り合わせたら、クロウのほうがヤバいってことよね。
「……クロウ、あとで覚えてなさいよ」
「なんの話だ?」
「わたし、怒ってるんだから」
「俺も言っておくことがある」
「なによ?」
「勝て」
……は?
クロウが発した言葉を日本語として理解出来なかったわたしは、なんだかよくわからない曖昧な表情をしちゃったんだけれど、すぐさま響き渡る剣戟に我に返る。
……あ! ちょっと、待ちなさいよ!
もう、なに勝手に斬りかかってるのよ!!
話が終わってから始めてくれない!
ノーキーさんといい、クロウといい、みんな勝手が過ぎないっ?
いや、ま、その、わたしも結構勝手だけれど、クロエだって、話の途中で落ちちゃったし……もう!
こんなに身近で見ると、普段、如何にクロウが加減をしているかがわかる。
トール君やローズなんて比じゃない。
決して弱くも柔らかくもないムーさんや柴さんだって、この速さとパワーにはついていけないのよね。
ついていける……っていうか、ほとんど変わらないパワーと速さでクロウと斬り結んでいるノーキーさん。
前のイベントでノギさんと遣り合った時は、トール君を気にして攻めあぐねていたクロウだったけれど、今は容赦も加減もなし。
お互いにHPが削れていることはわかっているから。
ところでこれ、わたしは何処に入ればいいの?
下手に入れば首が飛んじゃうのはわかってるんだけれど……黙って見てろってことかしら?
いやいやいや、ここは数の優位を生かすべきよね。
少しずつ、でも確実に削りあう二人の、クロウに庇われるように立っていたわたしは、ノーキーさんの大剣がクロウの首に掛かるのを見た瞬間に動いていた。
クロウの前に大きく踏み出し、反対から大鎌を振ってノーキーさんの大剣を跳ね返す。
「クロウっ?」
わたしが思わず声を上げた直後、ノーキーさんの舌打ちが聞こえる。
「浅かったか」
……確かに浅かったんだと思う。
クロウの首は落ちなかったけれど、さらなる大量のHPドレイン現象が起こる。
これはもう、本当にギリギリよね?
「邪魔すんな、グレイ。
お前はあとでゆっくり可愛がってやるから、大人しくしてな」
黙れ、この変態!
両手剣使いが、片腕なくして偉そうにしてるんじゃない!!
わたしの位置からではクロウの影になって見えなかったんだけど、今の瞬間、クロウだって黙って首を差し出したわけじゃなかったの。
相打ちを狙ってのことだったのかはわからないけれど、ノーキーさんの左腕を肩から落としていた。
でもたぶん……両手剣をノーキーさんは片手でも振ってくると思う。
わたしは剣士じゃない。
だから詳しくはないんだけれど、たぶん両手剣を片手でも振れる常時発動スキルがあるんだと思う。
クロウもたまに、無理な体勢から片手で振るのを見たことがあるから、ノーキーさんも取得してると思ったほうがいい。
そうでなければクロウのプレイヤースキルってことになるけれど、でも、ノーキーさんも出来ると考えるべきよね。
この余裕は、たぶんそういうことだから。
そしてもう一つ、これもわたしの根本的ミスなんだけど、ノーキーさんには確信がある。
クロウはもう落ちる
ほんと、うっかりしてた。
わたしも含めてこの三人は同じレベル48。
基本パラメーターは同じだけれど、魔法使いだけはステータスの振り方が違う。
でも剣士の二人よりHPが高いってことはまずないし、それはこの二人もわかっている。
そしてこの二人は同じ剣士で、装備まで同じシリーズを使っていたりして、たぶんHPもほぼ変わらない。
クロエとセブン君みたいにね。
わたしは見たことはないけれど、結構対人戦で斬り合ったりもしているみたいなんだけど、なにより自分が落ちるタイミングを知っている。
どのくらいの被ダメでどのくらいのHPを失うか、HPドレイン現象を見ればどのくらいのHPが失われたか……自身の経験でわかるのよ。
でもねぇ……ひょっとするんだけど……試してみるか。
「起動……」
「おんま、ここで詠唱するかっ?
旦那が今にも落ちそうになってるんだからさ、こう、もっとさ、ムードとか……」
うん? ノーキーさんがなにを言いたいのかよくわからないんだけど、魔法使いは詠唱をやめたら終わるのよ。
わかってるでしょ?
逆に言えば、魔法使いを終わらせたければ詠唱を止めることね。
だいたい変態がなに言ってるんだか。
ムードとか、どの面下げていってるの?
あんたのせいでクロウが落ちそうになってるんでしょうが!!
「避雷針!」
ダメってわかってるんだけど、よくよく考えたらわたしって範囲魔法が多いのよね。
でも今はダメなのよ。
わたしの詠唱を聞いて斬りかかってきたノーキーさんの足を止めるため、クロウがその大剣を受け止める。
ほら、やっぱりノーキーさん、片腕で振ってきた。
予想通りね。
でも片腕と両腕じゃ分が悪くてすぐに引いたんだけど、クロウとの距離が近すぎる。
だから範囲魔法は使えない。
あとちょっとで焔獄の再起動準備が終わるところだったんだけど、待っていられない。
演蛇は焔獄よりもっと再起動準備が長い。
他に一撃で威力のあるスキルってことで、避雷針しか出てこなかったのよね。
このゲームじゃ、魔法使いは火力頼りのごり押し職。
これはゲームスタート前にカニやんが言っていたことなんだけど、ほんと、その通りよね。
だからノーキーさんが落ちるまで詠唱を止めるわけにはいかないんだけど、やっぱり避雷針はわたしと相性が悪い。
一瞬でごっそりとMPを失う虚脱感に、全身の脱力感を覚える。
さっきのクロノスハンマーでも結構来たけれど、避雷針はその比じゃない感じ。
でもわたしは詠唱を止めない。
「起動……焔獄」
「おま、鬼か!」
避雷針に撃たれ、追加効果でスタン状態のノーキーさんに向けて、再起動準備が終わったばかりの焔獄を発動。
燃え盛る焔の中、それでも残された片手に剣を構えたままのノーキーさんを見て、わたしは大鎌を大きく振り切る。
鬼で結構。
さっさと落ちろ、この変態!
「あんたにもクロウはあげない!」
「いらねぇよ!」
information ノーキー が撃破されました
うん、ごめん、また 「ポイント」 が抜けた。
最後に、わたしの言い間違いにストレートに返してくれてありがとう。
欠片ほども嘘偽りのないノーキーさんの本音よね、うん。
でもこれで、クロウのポイントはノーキーさんにも入らない。
ノーキーさんの方が先に落ちたんだからセーフ……よね?
振り返ったわたしの前でクロウが、本当にわずかだけれど笑ったように見えた。
「よくやった」
information クロウ が撃破されました
なによ偉そうに。
自分だけ言いたいこと言って落ちるとか、勝手なんだから。
でもこれで第二回イベントも終了ね、さすがに最後は疲れたけど。
あとは順位なんだけど……お願い、上位10位以内に入ってて!
『最終生存者アールグレイ』
運営の音声インフォメーションでわたしの勝利が確定し、カウントダウンによる誘導のあと通常エリアに戻される。
もちろん今回のイベントは上位10位以内に入るって目標を掲げての参加だったし、結果も凄く気になるんだけど……クロウ!
戻った先、つまりナゴヤドームの中央広場に転送されたわたしは、そこで待っていたクロウを見つけて拳を握る。
つかつかと大股に進む勢いそのままに殴りかかろうとしたんだけど、難なく受け止められちゃうとか……
腹が立つ!!
しかも周りにいたメンバーたちが口々に言うの。
「せめて拳骨はやめようぜ」
「グレイさん、女の人が拳骨って……ぶはっ」
クロエなんて大口開けて大笑いとか。
もう、なにがそんなにおかしいのよーっ!
わたしは本気で怒ってるの!!