504 ギルドマスターは徒党を組みます
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「クロウさん、間に合ったよ。
二人とも無事」
一世を風靡した魔法物語で流行った、スティックを思わせる短い杖。
あれを指先で器用にくるりと回しながら、なぜかクロウに報告するアキヒトさん。
返されるクロウの声も 『すまん、助かった』 って、助けてもらったのはわたしとトール君なのに、どうしてクロウがお礼なんて言ってるのよ。
そもそも現在進行中のイベントは個人戦。
助けてどうするのっ?
それこそ落とした剣士諸共、わたしもトール君も落とせばよかったのに……といえば 「俺、どんな極悪非道?」 とアキヒトさんに呆れられ、挙げ句には
『あんたが原因でしょうが。
なに言ってるんだよ、この喪は』
と、カニやんに責められた。
いや、でも、だって、ついとっさに……とゴニョゴニョ言っているあいだにも、インカムを通して作戦会議が進行中。
うん、またしてもわたしのことはスルーなのね。
うちのギルドはいつもいつもこの調子で……誰が主催者だと思ってるのよ?
そりゃ確かにちょっと自覚の足りない言動が多いけれど、その自覚はあるけれど。
『なんかおかしな感じだな』
『中央広場の銃士は、まぁ職業意識で集まったとして』
『複数人で動いてる感じがある』
『それな』
『俺もさっき三人ぐらいに襲われて、チビるかと思った』
『どうせ皆殺しにしたんでしょ。
よく言うよ』
『うわー、極悪非道』
『柴やんに三人て、ぬるっ』
『ウサギの振りした狼ですね』
『ワンコと一緒かよ』
「あの筋肉のどこがウサギ?」
『くるくる、目が腐ってるよ』
『……言い間違えたかも』
『ちょーい、くるくるちゃん、くるくるちゃん。
そこは訂正せんといて』
アキヒトさんまでが参加して、楽しく盛り上がりだしたついでに脱線しだした。
そこに、それまでちょっと考え込んでいた風だったトール君が、いつものように申し訳なさそうに入り込む。
「あの、ちょっといいですか?」
そんなに肩身の狭そうに入らなくていいから。
トール君だって立派な 【素敵なお茶会】 のメンバーなんだから、もっと堂々とどっしり入って頂戴。
『なになに?』
カニやんに促されてトール君が話し出した内容によると……まず、わたしがトール君と接触する直前に聞いた銃声はトール君を狙ってものではなく、やっぱりうっかり中央広場を横切ろうとした別のプレイヤーを狙ったものだった。
幸か不幸かそのプレイヤーは落ちずに広場を横切れたものの被弾は著しく、全身からHPを流出させていたところに、まるで待ち構えていたかのようにさっきのプレイヤー集団が現われて一斉に襲いだした。
運悪くトール君はその近くにいて巻き込まれたらしい。
だから被弾はしておらず……といっても無傷でもないらしい。
もちろんどの程度損傷したかはあえて聞かないけれど。
個人戦だからね
……いや、ちょっと待って。
あの集団ってひょっとして、うっかり中央広場を横切って、それでも落ちなかったけれど被弾著しいプレイヤーにとどめを刺すのを狙ってたってこと?
あの砲火で落ちないっていうのも凄いと思うけれど……わたしはほぼ確実に落ちるからね。
魔法使いは伊達じゃないから、まず間違いなく落ちると思う。
耐えられるっていうのはかなりレベルの高いプレイヤーだけれど、HPは相当に削られているはず。
そこにとどめだけを刺すって、ちょっとえげつないやり方ね。
しかも団体で待ち伏せてるって、どんだけ?
『でもグレイさんたちが殲滅したわけだし、もう大丈夫なんじゃない?』
少し安心したようなの~りんの声。
んー……でもその手の連中って、結構二番手三番手と現われるものだと思う。
さっきのプレイヤーたちだって、そんな感じでどんどん増えていったんじゃないかな。
つまりあの集団以外にもすでに別の集団がいるだろうし、このあとも新たな集団が出来ると思う。
そもそもの~りんの現在地は、わたしたちのいる位置から、中央広場を挟んだ反対側にある無人バザー周辺っていうから安心出来るわけがない。
だってたぶん、クロウの現在地がそのあたりでしょ。
早く逃げた方が身のためよ。
の~りんもわたしと同じ魔法使いなんだから、見つかったら瞬殺よ。
「とりあえず、俺たちもここから離れたほうが良さそうだね」
相変わらずスティックのように杖を弄びながらアキヒトさんが言う。
いつまでもここでぐずぐずしていると、そのうちに別の集団が移動してくるかもしれない。
「そうね。
でもその前に、まずは解散しましょう。
絶対にうしろから撃ったり斬ったりしないでよ」
『一番レベルの高い超重量火力がなに言ってやがる』
『一番レベルの高い奴が一番小心者』
特に助けてくれたアキヒトさんになんて、今さら言うまでもないだろうことを、それでも小心者の性は言わずにいられなくて言ってしまい、みんなに笑われるはめになったわたし。
そして最後はクロエに 『うける』 ととどめを刺される。
だってそれが小心者というもので……というわたしの名演説はこれからなのに、いつものようにスルーされるっていうね。
『ムー、酒場から離れたか?』
不意に聞こえてくるクロウのいい声。
なぜかこの瞬間、それぞれが言いたい放題だったインカムが静かになる。
そしてすぐにムーさんの声が返る。
『いや、全然すぐに戻れるぞ』
『確保してくれ』
『了解した』
『俺もすぐ着きます。
上の階がないんじゃあまり手伝えませんけど』
本来ならば酒場の上は宿になっているという設定で、その部屋の一室として 【素敵なお茶会】 のギルドルームがあった。
窓からは外の景色を見ることが出来るけれど、そもそも 【ナゴヤドーム】 内は安全地帯でPKが出来ない。
たぶん魔法と同じで銃も撃てないと思うけれど、この 【ナゴヤドーム】 はいわゆるPKエリア。
だからギルドルームがあれば、窓から外を通りかかるプレイヤーを撃つことも出来ただろうけれど、酒場の上にはなにもないという設定になっているらしい。
店の外観はいつもと同じというから設定的に無理があるけれど、まぁそこはイベントエリアってことで制限が設けられている。
もともと 【ナゴヤドーム】 内には、外観は店舗だけれど入れない、いわゆる見掛けだけというお店も多い。
だからプレイヤーにしてみれば違和感がないといえばないんだけれど、まぁそのため銃士であるくるくるは、酒場を確保するムーさんのお手伝いには向いてないといえば向いていない。
でも別にくるくるが悪いわけじゃないんだけどね。
申し訳なさそうに言うくるくるに、ムーさんったら
『OK、OK。
全っ然OK。
一人じゃ淋しいんで、一緒にいてくれるだけいい』
99%冗談だろうけれど、まぁそんなことを言ってるから柴さんとカニやんは早く行ってあげてください。
『なんで俺?』
『女王のご指名じゃ、しゃーねぇ』
柴さんは潔いのに、カニやんの往生際の悪さったら。
グダグダ言わずにさっさと行きなさいよ。
『他人事みたいに言ってるけど、あんたも行くんだよ!
あの筋肉だるまのところにな!』
…………え?
んー……ちょっとカニやんがなにを言っているのかわからなくて考え込んでいるあいだにも、相変わらずわたしを無視して会話が進んでいく。
ついでに状況も進んでる感じ?
『この美しい筋肉をだるまと呼ぶな!』
『やかましい、脳筋』
『とりあえずの~りんは、そのへんにクロウさんがいるはずだから拾ってもらって』
『もう拾われた』
『わかった。
トール君とアキヒトは、そのままグレイさんと一緒に向かってくれ』
「りょ」
「えっと、わかりました」
『俺は誰か迎えに来てくれないんすかっ?』
『お前は迎えに行くほうだろう。
ジャック君とマコト君の現在地は?』
カニやんが柴さん、ムーさんと言い合いを始めてしまったから、大きな溜息を一つ吐いてから、仕方ないって感じで恭平さんが仕切りだしたんだけれど、そもそもそれはなんの相談?
わたしはトール君やアキヒトさんと一緒にどこに行けばいいの?
え? ちょっと待って。
このまま一緒にいるの?
『グレイさん、ボケてる時じゃないから。
誰かぽぽの回収に行ってくれる?』
『それは俺が行く。
クロエは一人で行ける?』
『誰に言ってるのさ』
んー……いや、うん、なんとなく動きはわかった。
クロエの自信も実力もわかってるから、それも別にいい。
でもこのイベントは個人戦なんだけど、そのことは大丈夫なの?
『徒党を組んじゃダメってルールはないし、別にいいんじゃない?』
『あかんかったらトールを狙った連中も、それこそ上に張ってる銃士どももアウトやろ。
元々は偶然同じこと思ただけやったとしても、結果として徒党を組んでるんと同じことやっとるし』
さらにいえば今までの個人戦でも、数人でグループを組んで行動するプレイヤーはいたらしい。
もちろんパーティ機能はないし、経験値のお裾分けもない。
ポイントは早い者勝ちの争奪戦だけれど、個人戦ということで単独行動をとるほとんどのプレイヤーに対し、数の優位をとることで生存率を高めるという目的の合致で結束するらしい。
確かに戦略としてはありだと思う。
でもイベント終了時には、二回とも公式サイトの掲示板に文句を書き込むプレイヤーがいたっていうから、運営も確認はしていたと思われる。
スレッドまでわざわざ立てていたっていうし。
それなのに問題となっていないということは、運営も戦略としてありと認めているってことでいい。
でも、だとしたらちょっとヤバいな。
出遅れたかも
『かもしれない。
急ごう』
「わかった。
トール君、アキヒトさん、ちょっと走るわよ」
あ、でもわたしの足が一番遅いから全速力はやめてね。
全力疾走はダメよ。
ダメっていてるのに、ちょ、ちょっと!
置いていかないでっ!!
動き始めた状況に対応するギルド 【素敵なお茶会】。
合流を急ぐメンバーですが・・・
もちろんグレイは2人に置いていかれても大丈夫と思われますが、置いていった2人は・・・推して知るべし(爆




