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50 ギルドマスターは死神です

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!


資料整理の 「おまけ」 はあの方で……

 わたしを目指して集まってきている生存プレイヤーの位置情報。

 それを見たわたしが、クロエを見送った岩山から急いで下りたのは、当然三人を迎え撃つなんて勇ましいことを考えてのことじゃない。


 むしろ逆!


 出来たら遭遇したくないと思ったんだけど、一足も二足も遅かった感じ。

 山を下りたわたしは三人の姿を見つけると、頑張って息を殺して、ついでに気配も消して隠れていたつもりだったんだけどとっくに三人には見つかっていたっていうね。


 お粗末様


「グレイ、無事か?」


 クロウに声を掛けられても、出るに出られず木にしがみついたまま。

 ……なんか最近、木にしがみつくことが多い気がするんだけど……三人がね、睨み合って立つ三人が怖いのよ。

 いつもは外している額当てとかフェイスガードまで付けてフル装備で、だから目しか見えないんだけど、その目が険しくてとにかく怖い!

 よりによってこの三人が残るとか……せめて……せめてカニやんより1Pだけ多く取れてますように!


「よぉ~グレイ、今日も美人じゃねーか」


 恐る恐る木の陰から出てきたわたしに、怖い顔のままのノーキーさんが……どうしてその怖い顔のままなのか、そのくせ声だけはいつもと変わらない調子で挨拶してくる。

 この人はどこまで行っても、どんな状況でもこうなのね。

 ほんと、悪い意味で徹底してるんだから。


「そういやお前んとこのカニ、散々削ってくれやがって。

 あとで覚えてろよ」


 カニやん、本当に頑張ったのね。

 いつも変な形にキメてるノーキーさんの髪が乱れてるなんて、初めて見るわ。

 状況が状況だから直してる暇もなかったみたい。

 それとノーキーさん、カニやんへの報復宣言は本人にしてね。


「灰色の魔女のご登場か。

 さすがに最強はほぼ無傷だな」


 そういうノギさんも、ほとんど削られているようには見えないんだけど?

 ついでに二人と睨み合っているクロウもね。

 いつでも斬りかかれる体勢のトップランカー三人は、おそらくわたしの詠唱を引き金に動く。

 もう、本当に嫌になっちゃう。

 だってさ……順位は、生存点があるから実際に落ちなきゃ暫定順位もわからない。

 だから1Pでも多く稼ぎたかったのに、この三人が相手じゃ、どう考えたって最初に落ちるのはわたし!

 そんなこと、火を見るより明らかじゃない!!

 それでも引き金はわたしが引かなきゃならないって……どんな罰ゲーム?


 惨め……


 もちろんわかってる、この距離まで剣士(アタッカー)に近づいてしまった魔法使い(わたし)が悪い。

 逃げ道を塞がれて仕方なく、なんて言い訳にもならない。

 これはそういうゲームだもんね。

 明らかなわたしの攻略ミス。

 綺麗に立ち上がった死亡フラグが、二度も倒れるなんて奇跡はあり得ない。

 特に個人戦の今回はクロウも味方じゃないしね。

 後悔はゲームが終わってからするとして、頭を切り換えなきゃ。

 落ちるのが決定しているのなら、奇跡なんかに期待するよりギリギリまで出来ることをやるまで。

 わたしが落ちることが決まっているように、そのあとにこの三人が残ることが決まっているなら、ギリギリまでノギさんとノーキーさんを削ってやる。

 三人の誰がわたしを落とすかはわからないけれど、わたしを落とした上に最終生存者(サバイバー)になろうなんて甘いことは考えないでよね。

 クロウ以外が最終生存者(サバイバー)になるなんて、絶対にさせてあげない!

 だからギリギリまで二人を削ってやる。

 そう決めたわたしは顔を上げ、左手に握っていた杖を両手に握り直す。


「お、いい顔じゃん」

「覚悟は決まったようだな、魔女」


 ノーキーさんとノギさんがわたしをからかう。

 次にわたしが口を開く時が詠唱だってわかってるから、体格のいい三人の剣士(アタッカー)は大剣を構えたままその瞬間を楽しそうに待っている。

 重い空気の中、背筋を冷たい汗が流れる。

 じりじりとその瞬間を引き延ばしても、神経戦だって一番弱いのはわたし。

 実際、張り詰めた緊張の糸が今にも切れそうな感じ。


 吐きそう……


 でも弱音を吐くのは落ちてから。

 まだHPは、ほぼフルに近い状態で残っている。

 首さえ落ちなければ、ノギさんとノーキーさんに一撃ずつ食らってもわたしは落ちない。

 これには絶対の自信があるの。

 そしてMPの制限はない。

 だから首さえ落とされなければギリギリまで戦える。

 だって魔女は腕を落とされようと、足を落とされようと、MPがあって詠唱さえ出来れば魔法が使えるのよ。

 腕を落とされて剣が持てなくなる、あるいは足を失って機動力を削がれれば戦えなくなる剣士(アタッカー)

 同じく銃を持てなくなれば撃てなくなる銃士(ガンナー)

 でも魔法使いだけは、四肢を失っても詠唱出来れば戦える。

 わたしはさして大きくもない垂れ目を見開いて、二人の動きを寸分も見過ごすまいと睨みつつ、ゆっくりと唱える。


「……起動……」


 わたしの唇が最後の呪いを紡ぎ始めた瞬間、三人の剣士(アタッカー)が瞬時にわたしの前に迫る。

 二人が、その大剣の間合いにわたしを捉えるのは一瞬……なんだけど、どうしてその間合いにクロウが入るのよっ!?


 馬鹿っ?


「クロノスハンマー!」


 もちろん範囲魔法の影響範囲からクロウだけを外すことは出来ない。

 これだけ密集してちゃ絶対無理よ。

 だからはじめからクロウも巻き込むことは前提だったし、重力系スキルのクロノスハンマーは行動不能状態に重きを置いたスキルだからたいしたHPは削れない。

 それにたぶん、VITを持っている剣士(アタッカー)はこの手のスキルには少しくらい耐性があるはず。

 そう考えてほぼ無傷でクロウを生き残らせる予定だったのに……わたしを庇うように立ちはだかったクロウの腹は半分ほど斬られた状態でノギさんの剣が刺さり、大量のHPをドレインさせている。

 派手に剣戟を響かせてノーキーさんの大剣と斬り結んだ砂鉄は、クロノスハンマーの影響下でギリギリと耳障りな音を立てて結ばれたまま。


 なにやってんのよ、クロウ!


「やれ、グレイ」


 一瞬息を呑んで動きを止めてしまったわたしに、大量のHPを失いながらもクロウは言う。

 この近さで範囲魔法を使っても、術師であるわたしだけは影響を全く受けない。

 だから唯一動ける。

 クロノスハンマーを使ったあとはごっそりMPを持って行かれて虚脱感が半端ないんだけれど、ゲーム自体はMP無制限。

 一気に減って一瞬で戻る、このMPゲージの振れ幅がわたしには気分が悪いんだけど、そんなことを言ってる時じゃない。

 クロウがどこまで保つかはわからないけれど、削れるだけ削らないと!


「起動……演蛇」


 さすがにノギさんとクロウの距離が近すぎる。

 ノギさんの巨体を拘束してガンガンHPを奪う演蛇は単体攻撃のスキルなのに、あまりに近距離にいるため、その大きすぎる影響力がクロウにまでダメージを与えている。

 ちょっとクロウ、せめてノギさんを落とすまでは保ってよ!


「起動……焔獄」


 ギリギリと演蛇に絞られ、焔獄の焔に炙られ、凄い速さでノギさんのHPが流出する。

 しかも最近気づいたんだけれど、たぶん演蛇は、焔獄か業火と併せることで威力が増す。

 つまりノギさんのHPを削る速度を上げるんだけれど、演蛇が威力を増せばクロウが受ける影響も大きくなる……


「さっすがグレイ、こっえー」

「この魔女が……」


 クロウと剣を斬り結んだまま身動きがとれないノーキーさんはほぼ傍観者状態。

 いつものように陽気に茶化してくる声の影で、ノギさんがわたしを呪う。

 その呪いを振り払うように、わたしは両手で握った杖を大きく左に振りかぶる。

 もちろんこの状況で杖を使って殴るなんて無粋な真似はしないわよ。

 それこそ何度も何度も殴らなきゃ……ううん、たぶんSTRのないわたしじゃ、それこそ何度殴っても杖の打撃ぐらいじゃノギさんは落とせない。

 でもね、そもそもどうしてわたしがこんな可愛くない杖を使っているのか?

 答えは簡単。

 この杖は仕込み杖だから。

 先端にあった卒塔婆型やそこに掛かるいくつかの輪が消え、代りに現われるのは湾曲した大きな刃。

 その刃を、クロノスハンマーと演蛇の影響下、身動きのとれないノギさんの首に向かって力一杯振り切る。


「……死神……」


 たぶんその瞬間、ノギさんにはわたしがそう見えたんだと思う。

 死神の大鎌(デスサイズ)、これがわたしの切り札。

 だって時間がないんだもん。

 以前のイベントで、大技二発くらいじゃノギさんが落ちないことはわかっているけれど、今はクロノスハンマーで抑えられているノーキーさんのHPがカニやんにどれくらい削られたのかもわからない。

 そんでもってクロウのHPがどれくらい残っているかもわからない。

 でも、ノギさんより先にクロウが落ちれば、クロウのポイントをノギさんが持って行っちゃうってことはわかってる。


 それは駄目


 絶対にそれはさせない。

 だから切り札を使ってでも、少しでも早くノギさんを落としたかった。


information ノギ が撃破されました


 これであとはノーキーさん一人。

 馬脚……じゃないけど、バレちゃったものを今更戻しても仕方がない。

 杖の代りに大鎌を構えたわたしは、クロウと剣を斬り結んだままのノーキーさんを睨む。

 ノギさんが落ちた数秒後にクロノスハンマーの効果が切れて解放された二人だけど、剣は斬り結んだまま。

 豪腕に任せて、ギリギリと刃が欠けるような音をさせながら噛み合わせている。

 ノギさんとクロウも凄かったけど、ノーキーさんとクロウでも迫力がある。

 特にノーキーさんなんて普段がチャラいから、ギャップの分も迫力を感じるのかもしれない。


「よう、グレイ。

 なに必死になってんだよ? 最強の魔女のくせに」


 全力で砂鉄を押し返すノーキーさんはいつもの余裕がなくて、声にまで力が入っているのがわかる。

 それでもわたしをからかうのをやめないのは、一種の心理作戦?


「こんなところで切り札見せて、いいのかぁ~?」

「いいのよ!

 だってあのまま落ちたら、クロウがノギさんのものになっちゃうじゃない!」


 ……………………あ……間違えた……………………

 わたしだってね、わざとじゃないのよ。

 元々ノーキーさんは苦手だし、焦ってるせいか、ついムキになって言い返しちゃったらうっかり言葉が抜けただけ!

 ほんとよ、信じて!!


「違う、ノギさんのポイント!」


 慌てて言い直すわたしを見て、ほんの一瞬、本当に一瞬だったんだけどノーキーさんの気が逸れた。

 結局は吹き出さなかったんだけど、一瞬吹き出しそうになった隙を逃さず、クロウが力任せにノーキーさんの剣を押し返す。


「スパーク!」


 わたしがスキルを発動させるより一瞬速く動いたクロウ。

 それをかわしてノーキーさんが後退したから、クロウの大剣・砂鉄は空を切り、直後、相対した剣士(アタッカー)は互いの間合いを外して身構える。

 でも今のタイミングって……


「こいつはノックバックしない」


 わたしの疑問にクロウが答えてくれる。

 そうよね、今、確かにノーキーさん、スパークでノックバックしなかった。

 そういう常時発動(パッシブ)スキルを持ってるってことか、危ない、危ない。

 そういえばノギさんは、ノックバックしてくれても可愛くなかったっけ。

 どうしてこの三人はこんなにも可愛げがないわけ?

 いずれにしてもこれってつまり、剣士(ノーキー)を近寄らせたくない魔法使い(わたし)の防衛手段が一つ減ったってことよね。

 今の時点でわかってよかった。

 でもノーキーさんには面白くない。


「こぉら!

 バラしてんじゃねぇーぞ、このむっつりスケベ!」

「うるさい」


 ノーキーさんと睨み合うクロウの腹に傷はない。

 部位欠損でもなければ傷跡なんてものは残らないんだけど、流出したHPは戻らない。

 それでも通常ならスキルなりアイテムなりで回復出来るけれど、このイベント中の参加者はそれも出来ない。

 そしてこのゲームはHPの残量に関わらず、首か胴を断たれれば即死。

 でもトップ三人の剣士(アタッカー)はHPが怪物並みの高さを誇る。

 STRも馬鹿みたい高いくせに、それでもノギさんの一撃はクロウの胴を断てなかった。

 ほんと、どんだけHP持ってるのよ?


 つくづく可愛くない


 ノギさんの一撃よりクロウのHPのほうが遥かに高かったってことなんだろうけれど、でも、半分くらい断たれてたわよね?

 それってつまり、半分くらいHPを失ったってことじゃないの?

 ひょっとしたら……だけど、今のクロウのHP残量はわたしより少ない?

 ちらりとクロウを見るけれど、この状況でクロウは決して気を逸らしたりはしない。

 そして絶対にわたしにはHPの残量を教えてくれない。

 ま、仕方ないわよね。

 これ、個人戦だし。

 今の問題はこの膠着状態をどう切り抜けるか、よね?

 もちろんクロウのポイントをノーキーさんにだって渡すつもりはないけどね。


 絶対渡さない!


登場人物:マダム・バタフライ /    ・魔法使い / 金髪


ギルド 【特許庁】 のサブマスターだが、実質的な管理者。 通称 蝶々夫人

グレイと同じ装備、チャイナシリーズの赤を愛用する回復系魔法使い。

回復魔法最難関 【リカーム】 まで極めているが、【the edge of twilight online】 には回復系魔法使いという職は存在しない。

主催者であるノーキーが遊びほうけているため、代りにギルドを束ねている権力者。

常に悩殺ポーズを決めている凄い美人(グレイ:談)だが、実は……

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