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499 ギルドマスターはKOされます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!



今回もサブタイトルがちょっとあれですが、お気になさらずに・・・(汗

 うちの会社の求人には、最寄り駅から会社まで徒歩5分と書かれているけれど、あれは嘘です。

 大嘘です。

 よく不動産物件でも実際と違う所要時間が書かれているけれど、あれは確か直線距離での時間が書いてあるって何かで読んだような気がする。

 つまり求人情報もそういうこと?

 それでOKなの?

 実際に最寄り駅から会社まで、男の人の足でも10分くらい掛かるし、わたしなんかだと15分はかかります。

 でも課長代理は足が長い上に健脚なのでもっと早く着くかも……と気づいて急いで資料室という名の書庫に向かったのに、すでに都実(さとみ)課長代理は到着。

 コートまで脱いで一息吐いていたって、どんな健脚ですかっ?


「あ、あの、帰社前に連絡下さいってお願いしたんですが……」


 よくわからない状況にこの世の理不尽を呪いつつ、とりあえず率直に思った疑問を尋ねてみる。

 するとなぜか課長代理に怪訝な顔をされてしまう。


「駅に着いてすぐに連絡したが?」

「それがどうしてもう着いてるんですか?」

「どうしてと言われても困るが……安積(あさか)こそ、場所がわからなくてメッセージを返したんだが?」


 返事がないから困っていた……という課長代理は、携帯電話(スマホ)を持つわたしの手元を指さす。

 慌てて携帯電話(スマホ)を確認してみれば、気づかないうちに新着メッセージがあった。


【お仕置き部屋とは?】


 文面を読んですぐには意味が理解出来なかったんだけれど、けれど……えっと……わたし、お仕置き部屋って送ってた?

 え? そんなこと書いたっけっ?

 自分では完璧な文章を送ったつもりでいたわたしは、慌てて自分が送ったメッセージを確認してみれば……


【お話ししたいことがあります。

 帰社されましたら、部署に戻られる前にお仕置き部屋(・・・・・・)に来ていただけますか?】


 …………………………書いてた


 つまり、ついさっきまで携帯電話(スマホ)を手に持っておられたのは、わたしの返信を待っていたんですね。

 それなのにわたしったら、着信があったことはもちろん、自分が書いた文面の致命的なミスにすら気づいていませんでした。


「も、申し訳ありません」

「前にそんなやり取りをした覚えがあったからここで待っていたが、合っていてよかった」


 そ、そういえば前にも致命的なミスをした記憶があります。

 していないミスを謝るというか、していないミスのことを課長代理に教えてくださいとお願いして呆れられたあれですね。


「呆れてはいないが……」


 が? なんですか? その続きはなんですか?

 どうしてこっそりと笑ってるんですか?

 大きな手で口元を隠してわからないようにしているおつもりかもしれませんが、バレてますからね。


「……それで、どうした?

 話があるんだろう?」

「ちょ、とだけ待っていただけますか?」


 予定では課長代理より先に来て待ち伏せ、そのあいだに少しでも落ち着こうと思っていたのに、裏をかかれてこの様です。

 ちょっとだけ、ちょっとでいいので気持ちを落ち着ける時間を下さい。


「俺はかまわないが、安積は?」

「と、仰いますと?」

「仕事に支障が無ければいくらでも待つ。

 そうやって顔を真っ赤にしているのを見ているのもいいが、会社だからな。

 滅多にないことだから楽しみたい気分でもあるが、そうもいかないだろう。

 とりあえず、もう少しこっちに来たらどうだ?」


 課長代理が怖くて離れているわけじゃない。

 でもこっそりと覗き込んだ場所で、すぐそこにある棚にしがみついていたわたしは……だっていいところに棚があったんだもの。

 何かにしがみつきたいタイミングで、しがみつけるいいものがあったらしがみつくでしょ?

 それでしがみついていたわたしは、恐る恐る課長代理に近づく。

 うん、怖くはないのよ、怖くは。

 課長代理も怒ってはいないしね。

 怒ってはいないんだけれど、気持ちを落ち着かせる時間が欲しくて、時間稼ぎにゆっくりと近づいてみる。

 心臓がね、バクバクしてて、頭の中で脈打ってる感じがする。

 耳の中で動悸がしているような気がして、ちょっと課長代理のいい声が聞き取りづらい。

 意識してゆっくりと深く息を吸おうとするんだけど、全然動悸が治まりません。


 玉砕の覚悟は決めた!


 よし、このまま課長代理の前まで行って渡します!

 時間稼ぎは諦めて……といっても元々そんなに距離があるわけじゃない。

 息を止めて一気に課長代理の前まで行くと、後ろ手に持っていた袋を差し出す……手が震えるぅぅぅぅぅ~!


 ひぃぃぃぃ~!!


「あ、あの!」

「うん?」


 手の震えが止められなくて、袋が立てるかさかさって音が凄く大きく聞こえて泣きそうになる。

 でもこっちは必死なのに、余裕の課長代理は呑気に腕組みしたままだし。


「これ……その、受け取ってもらえませんか?」


 今回のヴァレンタインでは、ずっと課長代理がチョコレートの受け取りを断ってきたのを見てきたから、覚悟は決めたつもりだった。

 今さらながら、昼休み前に国分先輩が話していた大洗(おおあらい)さんのことを思い出す。

 同じ部署に黒髪サラッサラの美人がいるのに、他の部署の女性社員にばかり目を奪われてきた理由。

 好みじゃないとも言っていたけれど、部署が同じだと相手は断りづらいし、断ったあともお互いに気まずいし。

 そういうもんよね。

 わたしの場合は後輩ではなく上司様で、しかも口説くとかそういうのなしのいきなりだもん。

 そりゃ断られても仕方がない。

 ここはもう転職を考えるしかないかな? ……なんてちょっと絶望的な展望を見越していたんだけれど、少し上から聞こえてくる課長代理の言葉はわたしの予想外だった。


「……これを俺にくれるということは、返事はOKということでいいんだな?」

「返事、ですか?」


 ちょっと呆気にとられた顔で見上げるわたしに、課長代理はわざとらしいくらいゆっくりと 「返事」 と繰り返すから、わたしも呆気にとられたまま訊き返してみる。


「なんの?」


 思わず素に戻ってしまった。

 本来ならば、ここは 「返事とはなんのことでしょう?」 くらいの言葉で訊き返すべきところなんだけれど、うっかり素に戻って口を滑らせる。

 すると課長代理は黙り込んでしまう。

 え? ちょっと待って下さい。

 なにを考え込んでいるのかはわかりかねますが、とりあえず受け取ってはいただけないでしょうか?

 考え込むのはあとにして、先に……先にこれを……あの、まだ手が震えていましてですね、しかも、あ、汗ばんできた。

 なんか脇の下とか、背中とか、汗が、が……ま、まだ2月なのに。

 しかも今日って、結構寒いのに汗をかいてきた。

 手汗とかもかいてるし。

 これ、袋に持ち手の紐がついてなかったら、包装紙が汗でふやけてきそうな気がする。

 そのくらい手汗もかいてる。

 あ、でも手も熱いし、()(ねつ)でふやけるかも。

 だからですね、早く受け取って欲しい。


 お願いします!


「あの、課長代理?

 とりあえず、受け取ってはいただけませんか?」


 うわずりそうな声を抑えると、今度は喉に引っ掛かるようにかすれる。

 それでも少し強引に、袋を押しつけるように差し出す。

 ちょっと距離感というか、力加減を間違えて課長代理のお腹を殴るような感じになってしまったけれど、そこはどうかご容赦を。

 早く受け取ってくれない課長代理が悪い! ……という自分勝手な言い訳をしておくわ。

 しかも課長代理ってば、これだけお願いしてるのにまだ受け取ってくれないし。


「はっきりさせてからでないと受け取れない」

「なにをですか?」


 手の震えが治まらなくて、声に力が入り早口になる。

 クロエには力を抜けって言われたけれど、無理みたいです。

 しかも受け取れないと言いつつ手を握ってくるからてっきり受け取ってくれるのかと思ったら、手首のあたりを掴んで支えてくれるだけってどんな拷問っ?

 そんな細かい気遣いはいいです。

 いらないので大人しく黙って受け取って下さい。


「正月明けに、ここで話したことを覚えているか?」


 確か、新年会の準備をしようとなったところで、わたしだけがドナドナと連行されました。

 で、ここで課長代理と……とここまでを思い出したわたしの脳裏に、課長代理の声そのもので記憶が再生される。


「俺は安積が好きだ」


 ………………そうだった


 たぶんわたしの様子を見て、思い出したことに気づいたらしい課長代理は少しだけ笑う。

 うぅぅ……格好良すぎる。

 ここでそうやって笑うのは反則です。


「思い出したか」

「…………もう、返事なんて聞かなくてもわかってるくせに!」


 ついうっかり、ほんとうにうっかりね、部下という立場を忘れて声を荒らげてしまいました。

 しかもしかも課長代理ってばとことん鬼畜で、「ちゃんと全部思い出せ」 とかいうし。

 そんなこと言われなくても思い出してます。


「今すぐに返事が欲しいわけじゃない、ゆっくり考えればいい。

 だが真剣に考えてくれ。

 返事はその声で聞かせて欲しい」


 ええ、ええ、そんなことも言ってましたよね。

 ちゃんと思い出してますよ。

 思い出してるけど、もうわかってるんだからいいじゃない。

 どうしてそんな意地悪を言うのよっ?


藍月(あつき)の声で聞かせて欲しい」


 こんの我が儘大魔王!!

 ついでに鬼畜閻魔!!

 なに楽しそうに言ってるのよっ?

 こっちはとっくに限界超えちゃって涙が出て来たのに、そんな切なそうな顔をしないで。

 お化粧が崩れてブスになる……。


 降参します


「藍月、返事は?」


 観念するわたしに、鬼畜な閻魔様がお慈悲で蜘蛛の糸を垂らしてくれたので縋っておくことにする。

 だってこの糸を逃したら、もう返事をするチャンスはないもの。

 あ、でも鼻をすすってからね。


「……OKです」


 次の瞬間……えっと、何が起こったの?

 急に視界が暗くなって、ちょっと窮屈というか、苦しいというか……。


「やっと手に入れた」


 耳の少し上から聞こえてくる都実課長代理のいい声に、頭がぼんやりしてくる。

 背に回された課長代理の腕が苦しいくらいの力で抱きしめてきて、本気で気絶しそう。


「あの、ちょっとだけ、緩めて下さい」


 一応押し返してはみるんだけれど、課長代理は現実でも鉄筋過ぎて微動だにせず。

 おかげでわたしは現実でも非力さを思い知る羽目になる。

 しかもほんっとうに我が儘大魔王なんだから。


「もう少し、こうしていたい」


 それはいいんですが、あ、いえ、よくないんですけど、うん、よくないんですよ。

 本当はよくないんですけど、お仕事ありますし、そもそも就業時間中ですし。

 こんなところを誰かに見られたらとか考えると身の毛もよだつというか、背筋が凍るというか、空恐ろしいのですが、えっと、い、一応ですね、お返事を引き延ばして焦らせまくったという反省はあるんです。

 一ヶ月以上ですから、普通ならとっくに告白自体が無効にされていてもおかしくはないと思います。

 辛抱強くお待ち下さったことにも感謝してます。

 でもですね、本当にちょっとだけ腕の力を緩めて下さらないと、わたしが窒そ、く……しま……。

このあとの藍月がどうなったかはご想像にお任せします。

・・・ということで、次話はこのあとのあとの話を少し。

そしていよいよ個人戦突入です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっとくっつきましたね! おめでとう! [一言] テンパりすぎてあっさりさっくり都実の告白を忘れて、自分が告白するんだ!ってなってた藍月ちゃん。どうなることかと思いましたが、ちゃんと思い出…
[一言] 都実(クロウ)と藍月(グレイ)が無事?結ばれたことをお喜び申し上げます。 ※正直まだ結ばれないと思っていました。  作中であと一年はかかるかなっと... グレイが告白されたことを忘れている…
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