482 ギルドマスターは勉強不足で意思疎通が出来ていません
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………………その、たぶんトール君はヴァレンタインとか、そういうことは考えていないんだと思う。
それこそ依頼主であるバロームさん同様、アイテムを人気投票の投票用紙程度にしか考えていないんだと思う。
たぶんね
ちなみに男の子がおっさんにチョコレートを手渡しというか、その、そういうカップルだとなんていうのかしら?
「普通にBL」
ああ、ボーイズライフね。
まぁむっさいおっさん○ラブよりはいいのかもしれないけど……とカニやんや脳筋コンビを見ながら言ったら怒られた。
「ちげーわ!」
「俺は筋肉と心中する」
「カニよりトールの方がまし」
…………これはどこにどう突っ込めばいいのかしら?
それこそ突っ込みどころが満載過ぎて、迷いすぎて結局どこにも突っ込めないパターンだと思う。
もったいない。
でもてんこ盛り過ぎて、優柔不断なわたしには決められませんでした。
そしてチャンスを逃したまま話は進行中。
わたしもノーキーさんに手渡ししたけど、でもあれは本番に向けての極めて重要な練習で、そうでなければノーキーさんに手渡しなんて絶対にしません。
頬ずりとかされたし、もう散々よ!
「ノーキーさんには手渡ししてねぇだろ」
「女王、アイテムで殴ってたじゃねぇか」
「んで仕返しに手ぇ舐められて」
舐められてません!
ちょ、ちょっと三人ともやめてよ。
現場を見ていなかったトール君とジャック君があらぬ妄想をしてる気がする。
もちろん二人ともわたしが本番に向けて大絶賛練習中なのは知っているんだけど、手渡しして手を舐められるという状況が理解出来なくて悩んでいる感じ?
待って待って、全然理解しなくていいからね。
普通に、そういうことはないから……というかトール君もジャック君ももらう側だから、何がどこかでおかしくなっても、間違っても女の子の手を舐めちゃ駄目よ。
すんごく嫌われるから!
だからこの話はなんの参考にもなりません。
そもそも、何度もいうけど舐められてないから。
「えっと……よくわかりませんが、とりあえずノーキーさんに渡します」
「勇気があるな、トール君は」
「あのノーキーが男から受け取るか?」
「やってみなきゃわかんねぇんじゃね?」
止めようとしないところがこの三人なのね。
インベントリを開いてアイテムを取り出すトール君を見てもこの調子なんだから。
それどころか真田さんたちまでが……
「ノーキーにチョコを上げるの?
へぇ……でも男の子だよね、トール君って」
「物好きだな」
うん、不破さんは相変わらずトール君には塩対応というか、感じが悪いです。
流し目を送るような感じでチラッとトール君を見るんだけど、目つきが完全に冷めてて凄く感じが悪いの。
真田さんはちょっと戸惑った感じだったけど、このすぐあと、全てが杞憂に終わった……んじゃなくて、さらなる問題が浮上した。
間違えた
「ノーキーさん、今晩は」
ちょっとおっかなびっくりながらも礼儀正しく挨拶をするトール君に、なぜか怪訝な顔を向けるノーキーさん。
そして意味不明な格好付けポーズで髪を掻き上げる。
「なんだぁ?
お前、確か 【素敵なお茶会】 の奴だろ?
なんか用か?
先に言っとくけど、不破にも勝てねぇよな弱っちぃ奴とは対戦しないからな」
ノーキーさんがトール君を認識していたことにはビックリだけれど、「いちいち俺を噛ませるな」 と不破さんに文句を言われながらも断るのは、たぶんトール君レベルの相手と対戦しても面白くないからだと思う。
不破さんみたいな矜持じゃなくて、ごく普通に面白くないか面白いかだけの判断だと思う。
瞬殺とはいわないけど、正直、クロウ対ちゅるんさんよりも早く終了しそうだもの。
いいたいことはわかる。
でも大丈夫よ、わたしがノーキーさんと対戦したら瞬殺されるから。
それこそ案山子だもの、スキルを使うまでもなく一刀両断にされて終わるのよ。
「全然大丈夫じゃないから」
「相変わらずとぼけたこと言いやがって」
「自慢することじゃないから」
「グレイちゃんも相変わらずねぇ」
「その前にクズを斬ります」
みんないいたい放題なんだけど、とりあえず不破さん、妖しさの爆発した流し目をわたしに送ってくるのはやめてください。
もちろん言葉でお願いして聞いてくれる人じゃないから、すぐ後ろに立っていたクロウの背後に隠れることにした。
これも木とか岩とか、しがみついたり隠れたりするのに丁度いい障害物がないのが悪いのよ。
その点クロウはしがみつけるし隠れられるし、しかも邪魔そうに追い払ったりしないから丁度よくて……いえ、もちろんクロウには悪いと思ってます。
そこいらの岩や木と同じ扱いにして、大変申し訳ないと思ってます。
思ってはいるけれど、仕方ないじゃない!
とりあえずわたしは不破さんから隠れたんだけど、トール君はノーキーさんに凄まれて怯みつつも果敢に挑む。
さすが男の子ね、強いわ。
「いえ、そうじゃなくて、その、バロームさんに頼まれて、チョコ、ノーキーさんに……」
両手にアイテムを持って差し出すトール君を前に、ノーキーさんの眉間に深い皺が寄る。
これが何を意味するのかはわからないんだけど、でもノーキーさんがなにか言うよりも早く別の場所から声が上がる。
「待ちなさい!!」
少し離れた観覧席から上がる声に振り返ってみれば、バロームさんじゃない。
魔法使いが一人で地下闘技場にいるのはちょっと良くないんだけど、真田さんや不破さんの反応を見ると、どうやら彼女はノーキーさんをストーキングしていたらしい。
つまり今も対戦を観覧するプレイヤーに混じって、こっそりとトール君がノーキーさんにチョコレートを渡そうとしているのをじっと見ていたと。
一応隠れているつもりだったらしく、ローブのフードを目深に被って顔は隠していたけれど魔法使いであることがバレバレ。
声を上げて立ち上がるとともにそのフードを脱いで顔を見せたと思ったら、ビックリするトール君を真っ直ぐに指さして宣言する。
「バロームさん?」
「いい度胸ね!
このわたしを差し置いてギルマスにチョコを渡そうだなんて!」
「え? あ、いえ、これは……」
ちょっとバロームさんが言っている意味がわからなくて戸惑うトール君だけど……そりゃそうよね。
そもそもノーキーさんにアイテムを渡すよう要求してきたのはバロームさんのほうだもの。
それもバロームさんのほうから一方的にアイテムをトール君に送りつけておいて。
なのに止めるとか、マジ意味わかんないわよ。
でもトール君は真面目だからちゃんと理由を話そうとするんだけど、まぁ聞いてくるわけがないわよね。
だってバロームさんも立派な 【特許庁】 の一員だもの。
あとで真田さんがしてくれた話によると、おそらく 「手渡し」 が駄目だったんだろう、と。
なるほど
言われてみればバロームさんはノーキーさんが好きなわけで、彼女の見ている目の前で、例えそれが男の子であったとしてもノーキーさんにチョコレートを手渡しするのは見逃せないというか、許せないというか。
それで止めたのまでは理解出来る。
手渡しにこだわったのはそもそもトール君で、バロームさんも、まさかトール君がそういう手段を取るとは思わなかったんだと思う。
そこはバロームさんの勉強不足……いや、バロームさんはトール君には興味が無いんだから知らなくても当然ね。
でもちょっと勉強しておいたほうがいいくらいトール君は天然です。
「普通は」 という考えからちょっとはずれる傾向が強いんです。
わたしもらしいんだけど
ま、まぁ今はわたしのことはそのへんに置いておくとして、トール君のことです。
きっとバロームさんのことだから、他のプレイヤー同様、ポストで送りつけておいてくれるだろうと思って油断していたんだと思う。
うん、まぁ普通はそうよね。
ちなみにノーキーさんも例の不具合騒動の被害者です。
だからバロームさんは、みんなと同じようにトール君もポスト機能を使って送ると思っていたんだと思う。
油断大敵
中にはわたしやトール君みたいに、ちょっと変わったことを考えるというか、なんというか、その、ね。
わたしの場合は、人生が掛かった一大事ってことで大目に見て欲しいんだけど……いま思えば、わたしの時は見られていなかったのかしら?
もしあれを見られていたら、きっと今より大事になっていただろうから見られてなかったんだと思う。
それならわざわざ自己申告するまでもない。
周囲のみんなも気まずそうに口を噤んでいるから、わたしもだんまりを決め込むことにします。
さっきまでそれらしいことを話していたけれど、部分的だったし、たぶん周囲の歓声でバロームさんには聞こえていなかったんだと思う。
でも行動は見えているからね。
それでトール君はアウトというか、止められたというか、邪魔をされたというか。
しかも怒り心頭のバロームさんったらなにを思ったのか、よりによって魔法使いなのに剣士に対戦を挑んできた。
information フェイトシステムより対戦が申し込まれました。
対戦相手 バローム / LV32 / 魔法使い
手元にウィンドウを開いて操作していると思ったら、トール君の手元にもウィンドウが開いた。
もちろんわたしたちからは表示される内容は見えなかったんだけど、タイミングや場所、それにさっきのちゅるんさんのこともあるからすぐにわかった。
これは駄目よね?
そう思ってカニやんを見ると、カニやんも脳筋コンビと神妙な顔を見合わせてうなずき合っている。
そして三人を代表して 「トール君、キャンセル」 というんだけれど一瞬遅かった。
トール君のすぐ前にいたノーキーさんがニヤリと、それこそ一目でわかるくらい悪い顔で笑ったと思ったらトール君の手を取って、勝手に無理矢理 【OK】 を押しちゃったの。
あの悪い顔は、絶対によろしからぬことを考えついた顔よ。
「あ”」
「ちょ、ノーキー!」
「てめっ?!」
「なにするのよ、ノーキーさん!」
わたしも含めて 【素敵なお茶会】 側のメンバーが口々に抗議するも、【特許庁】 側は平然とした様子。
「あらら……」
「くだらないことを考える暇人め」
真田さんは 「悪いね、グレイちゃん」 なんて苦笑いをしているけれど、今からでもキャンセルさせようとはしないのよね。
しかもここでノーキーさんが悪巧みを口にしてきた。
「俺にチョコを受け取って欲しけりゃバロームに勝ちな。
バロームも、阻止したけりゃ勝て」
「もちろんです!」
ノーキーさんの挑発のようなものにバロームさんは語気を強めて応えるんだけど、ちょっと待ってくれる?
だって何かおかしくない?
どうしてここでトール君とバローム君が対戦?
ノーキーさんが言ってることも凄くおかしいっていうか、その、なんて言うか……
そもそも誰得の勝負?
斯くして第二次チョコレート戦争勃発。
バロームとトール、そしてノーキーの三角関係。
勝者は誰っ?! ・・・というか、ノーキーはそれでいいのか?