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477 ギルドマスターはチョコレートが買えません

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 世に可愛い女の子も綺麗な女の人も一杯いるのに、どうして 【素敵なお茶会】 には少ないの?

 それが不満で女性プレイヤーを増やしたがっていることはみんな知っていたけれど、「まだ諦めていなかったのか」 と呆れられた。

 なに言ってるのよ?

 隙あらばいつでも狙ってます! ……じゃなくて勧誘します!


 間違えた……


「なに、そのナンパ」

「隙ってなに?」

「誰の隙?」

「女王は自分の隙を先になんとかしたほうがいいぞ」


 ギルドルームから一緒にNPC薬局に向かうカニやんたちには散々な言われようだけれど……うん、まぁキンキーを餌に釣ろうというのはちょっとまずいのはわたしでもわかる。

 わかるんだけど、そうまでして女性メンバーを増やしたいというわたしの熱意は伝わらないらしい。

 しかも到着した薬局の混み具合を見て話題が変わる。

 イベント自体は昨日から始まっていて、不具合に巻き込まれたプレイヤーはともかく、そうでない人は昨日のうちに買い込んでいたと思ったら甘かったみたい。

 急ぐ必要はないからと混雑を避けたプレイヤーが、わたしたちの前に結構な数で店に集っていた。

 これも一つの生活の知恵?

 それとも極めて高度な頭脳戦とか?


「頭は使ってそうだけど、高度じゃねぇな」

「何と戦ってんだよっ?」

「人の壁か?」

「それを言うなら人の鎖だろ?

 壁って何?」

『生活の知恵っていうのも外れてはいなさそうだけど、どうせならもう二、三日遅らせるくらいの余裕を持てばいいのに』


 いつものようにクールな恭平さんの声がインカムから聞こえてくる。

 どうやらカップリングの話題から逸れて、ホッと一息吐いたところでいつもの調子を取り戻したらしい。

 でもその意見にはちょっと反論してもいいかしら?


『どうぞ』


 ありがと


 お返しを期待する場合、早めに送ったほうがいいんじゃない?

 チョコレートの購入はただじゃないし、やっぱり予算の都合があるもの。

 ゲーム内通貨不足でお返しなしとか、このゲームのプレイヤーならやりかねないというか、あり得そうな話だと思う。

 特に今回のイベントは二本立てだから、投票が始まってすぐ贈るだけ贈ったら、あとはみんなレベリングに精を出しそうだもの。

 それこそスタートダッシュが終わったら、あとはもらえる物はもらうけど、レベリングで忙しいからお返しはなしで! ……とか面倒くさがられそう。


「関心が移るっていうのはあるかも」

「まぁ女王がスタートダッシュでぶっ飛ばしたからな」

「ぶっ壊したの間違いじゃね?」

『カニやん、上手いこと言うっすね』

「壊したのはポストだけどな」


 笑い声を上げながら褒めてくれるJBに、見えないのを承知で手振り付きで 「ども」 と少し照れたように笑いながら返すカニやん。

 クソ、このイケメンめ!

 一緒にタマちゃんまでが 「にゃ~ん」 と応えているところがまた可愛いのよ。

 もう、このイチャイチャコンビ、羨ましすぎる!!


「めっちゃ妬かれてる。

 どうするよ、タマ」


 掛けられるカニやんの声に、やっぱりタマちゃんは 「にゃん」 と可愛らしい声で応えるし。

 そういえばお猫様は良く喋るっていうけど、ワンコは喋らないのね。


「いや、結構喋ってるだろ?」

「喋っても喋らなくてもいいけど、あれ!」


 不意にカニやんが慌てた声を上げるからどうしたのかと思ったら、わたしたちの前を歩いていたルゥが、NPC薬局に集まるプレイヤーの足のあいだを縫うように、先に店内に入ろうとしていた。

 興味の赴くままにフンフンフンフンフンフン……と臭いを嗅ぎながら人垣に入り込もうとしたルゥは、不意にその行く手を阻むように眼前を塞いだ一本の足にバックリ。

 躊躇がないというか、条件反射というか。

 刹那、噛まれたプレイヤーが悲鳴を上げる。


 やばい


「ごめんなさい!」


 慌てて駆けだしたわたしがルゥを剥がしに駆け付けると、噛まれたプレイヤーは大袈裟に……いや、大袈裟というのはちょっと違うわね。

 実際ルゥにバックリやられるとかなり痛い。

 本当にすんごく痛い。


 涙が出る


 そのくらい痛いからオーバーリアクションというのもちょっと違うんだけど、そのプレイヤーが噛まれた足を押さえて床を転がり出すと、周囲にいた買い物客たちが一斉に飛び退く。

 そうしてルゥを回収したわたしと、噛まれたプレイヤーがその中心にポツンと残される。

 ん? この状況は何?

 いやいやいや、とりあえず謝らないと。


「あの、大丈夫ですか?」


 ここは安全地帯の 【ナゴヤドーム】 内だからHPは減らないし、装備の耐久も削れない。

 でもやっぱり痛いものは痛いわよね、うん。

 いきなり見ず知らずのプレイヤーの足から引き剥がされたルゥは 「きゅ?」 と首を傾げているけれど、とりあえず魔法使い(モヤシ)の全力でガッツリホールド。

 余計な手出しを出来ないようにして、床に転がるプレイヤーに話しかける……んだけど、わたしと結構近い距離で顔を見合わせたそのプレイヤーは俄に動きを止める。


 どうかした?


「女王陛下?」

「……【素敵なお茶会】 を主催しますアールグレイといいます」


 これを言うのも久しぶりだわ。

 ちょっと新鮮な気持ちを取り戻しつつ、頑張って営業スマイルを浮かべる。

 すると慌てて起き上がったプレイヤーは、なぜかウィンドウを操作し出したと思ったらインベントリから、白い包装紙にピンクのリボンが掛かった掌サイズの包みを取り出す。

 それってあれよね?

 今回のイベント用アイテム 【チョコレート】。

 つまり人気投票の投票用紙のような物ね。


 へぇ、こういうのなんだ


 そんなことを思いつつ見ていたら、プレイヤーがその包みをわたしに差し出しながら言うの。


「あの、受け取っていただけませんか?」

「はい?」


 どういうこと?


 助けを求めてクロウを振り返ったら困ったような顔をしてるし……鉄面皮にしてはこれも珍しい表情なんだけど、何を困っているのかは不明。

 だって困ってるのはわたしなのよ。

 かといってカニやんや脳筋コンビを見たら、「俺は知りません」 みたいな顔をしてそっぽを向いちゃって。


「お願いします!

 俺、どうしても女王に一票入れたくて!」

「あ、あるがと」


 思わず詰まって噛んじゃったわ。

 二重苦よ。

 とりあえず受け取ればいいのよね……と思ったら、なぜか差し出されたチョコレートの包みが遠ざかる。

 何が起こったのかと思ったら、不意にプレイヤーのうしろから別のプレイヤーが数人で襲いかかったというか、引き摺ってどこかに連れて行ってしまったというか。

 いきなり背後を取ったと思ったら両脇を抱え、抵抗するプレイヤーを問答無用とばかりに連れ去ってしまった。


 えぇーっ?!


 な、なに?

 何が起こったの?

 っていうかあの人、どこに連れて行かれたのっ?

 なんか悲鳴とか上げてるけど、大丈夫なのっ?!


「これはあれだな」

「重石付けて沈められるパターン」

「ここだとやっぱ伊勢湾か?」


 ちょっと三人とも、何を冷静にっ?

 さっきは 「俺は知りません」 みたいな顔したくせに、今は知ったかぶりって何っ?

 あっと言う間の出来事にパニックを起こしかけたら、突然クロウにガッツリホールドというか……抱きしめられました。


 何っ?!


 でも恥ずかしがっている余裕すらすぐになくなったのは、ついさっき、一度は飛び退いてわたしを遠巻きにした周囲のプレイヤーが一挙に押し寄せたから。

 すぐさま察した脳筋コンビやカニやんも庇ってくれるんだけど、ちょっと窒息するというか圧死しそう。

 最初に押し寄せた時の圧が掛かったあとも、後ろから後ろから押されているらしく、第二波、第三波と圧がどんどん強くなってくる。

 しかも、中には女性プレイヤーも紛れてるんだけど、ほとんどが男性プレイヤーで背が高いのよ。

 180㎝クラスの……クロウは例外的な190㎝クラスだけど、脳筋コンビとかカニやんでもちょっと厳しい感じで顔を歪めながら必死で押し返してるんだけど、全然返せてない。

 この多勢に無勢では無理もない話なんだけど、いったい何がどうなってるのよ、これは?


 誰か説明して


「女王様、俺のも受け取ってください!」

「女王様、俺のも」

「クロウさん、お願いします!」

「しば漬けさん!」

「女王陛下、是非!」

「ミンムーさんに一票を!」

「女王陛下、万歳!」

「俺はカニやんさんに!」


 …………待って。

 このカオスはなに?

 わたしはこの状況の説明を求めたはずなのに、聞こえてくるこれはなに?

 もっと他にも色々と言ってるんだけど、つまりみんなチョコレートを渡そうとして押しかけてるってこと?

 要約するとそういうこと?


「うわぁどさくさ紛れの野郎が一杯」

「受け取ってやれよ、カニ」

「お前、一番サービス悪いんだよ」

「うるへぇ」


 待って待って。

 これは下手に受け取ろうと手を出したら、次の瞬間に引っ張られる感じじゃない?

 そのまま連れ去られて、さっきのプレイヤーみたいに伊勢湾に沈められるとか?

 え? ちょっと待って。

 去年の夏にも言ったけど、わたしは泳げません。

 あ、いえ、泳げないのとはちょっと違うけど、重石を付けて沈められるのはちょっと困る。

 だって普通に浮くことは出来るの。

 でもいくら水を掻いても前に進まないだけで泳げないわけではないんだけど、重石なんて付けられたら絶対に浮いてこられないじゃない!


『沈められることはないと思うけど、下手に受け取らないほうがいい』


 つまり、下手に手を出しちゃ駄目ってことね。

 うん、わかった。

 インカムからこちらの様子を察した恭平さんが、少し呆れたように助言をくれる。

 てっきりこのままわたしが叱られるのかと思ったら……。


『カニやんが付いていながら、なにやってるんだ』

「ちょっと油断した」


 まさか実行に移す奴がいるとは思わなかったというのはどういうこと?


『【素敵なお茶会】 メンバー宛の票はポスト送信のみ受理って、公式の掲示板に出したんだよ。

 うぬぼれとか叩かれたけど、こうなるのは読めてたし』


 なるほど……ということは、なに?

 さっきのプレイヤーは抜け駆けってことで制裁されたというか、牽制されたというか……まぁそんな感じ?


「一瞬グレイさん、受け取ろうとしただろう?

 だからこいつら手渡しOKと勘違いしたんだよ」

「美人とお近づきになれるチャンスだからな」

「そりゃ誰だって手渡ししたがるってもんだ」


 だったら先にそう言っておいてよ!

 そうしたらわたしだってちゃんとそういう対応したのに。

 さっきのプレイヤーにだって悪いことしちゃったじゃない。

 万が一にも伊勢湾に沈んでいたら救助に行ったほうがいいわよね。

 でもその前に、まずはこの状況をなんとかしないと。


 潰される……

な、なかなかお約束の露出に辿り着きませんが、次こそは!

次こそはあの連中が登場します!!(大汗

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