473 ギルドマスターはアイテムを送れません
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information からアイテムが届いています
この不具合ウィンドウから始まったこの日のログインは、続く警告音とともに出て来た次のウィンドウで詰み。
error ポストを開けません
正しくは詰んだのはわたしの頭で、このあとはクロウに苛められっぱなしです。
おかげで頭に血が昇りすぎて、なにがどうなってこうなったのかさっぱり。
「隙だらけだから」
それこそ狙われ放題……なんてテーブル席にすわって頬杖をついているカニやん。
うん? カニやんもいたんだ。
でもまだ全然クールダウン出来ていないから、両手で顔を覆ったまま、指の隙間からその姿をのぞき見ると、丁度その背をカニやんに撫でられていたタマちゃんが、大あくびとともに伸びをしているところだった。
いっそわたしもお猫様だったら、あんな風に泰然自若としていられるのかしら?
「絶対無理。
それより……」
そう言いながらカニやんがわたしの足下を指さすから、何かと思って、やっぱり顔を覆ったまま指の隙間からのぞき見ると、可愛らしくおすわりをしたルゥが、心配するような顔でわたしを見上げていた。
わたしがログインするのとほぼ同じタイミングで出現したルゥは、これまたいつものように飼い主のことなんてほっぽってギルドルームをフンフンフンフン……と興味の赴くままに楽しく散策を始めたんだけれど、どうやら警告音を聞いて驚き、何事かと思ってわたしのところに戻ってきたらしい。
残念なことにルゥの可愛らしい肉球ではウィンドウを操作出来……たっけ?
そういえば前にメッセージを送ってきたことがあったわね。
超絶可愛らしい肉球スタンプが、ウィンドウのど真ん中にポスッと押されているだけという破壊力抜群のメッセージを。
あの時のわたしは切羽詰まった状況だったから、完全に打ちのめされました。
でもたぶん肉球に対応しているのはルゥのウィンドウだけで、わたしのウィンドウは反応しないと思われる。
そもそもウィンドウは他のプレイヤーには操作出来ない。
ルゥはわたしの装備扱いになっているけれど、色々と面倒臭くて、今回も 『バトルロワイヤルには一緒に参加出来ないよぉ~』 というゆるいメッセージが小林さんから送られてきた。
そんな複雑な色々を考えると、ルゥ自身がウィンドウを持っていることを考えても、わたしのウィンドウは操作出来ないと思う。
ん? んん?
ちょっと待って。
わたし、どうしてルゥにウィンドウを操作させようとしてるわけ?
操作出来ようと出来まいと、自分で操作すればいいだけじゃない。
もう……本当にわけがわからなくなってきた。
とりあえず心配するルゥをもっふりと抱え上げたら、不意にわたしの頭越しに伸びてきたクロウの手がルゥの首根っこを掴み、わたしから取り上げた……と思ったら、視界をモフモフの腹毛に塞がれた。
「しっかり貼り付けよ、チビ助」
つまりクロウがルゥをわたしの顔に貼り付けたわけなんだけど、クロウに首根っこを掴まれたことに気づかなかったルゥは、クロウに言われるまでもなくわたしの頭を短い四肢でガッツリホールド。
小っちゃな爪が食い込んで、ちょっと痛い。
ここは安全地帯の 【ナゴヤドーム】 内だからダメージを受けることはないし、HPが流出することもない。
でも痛いものは痛い
わたしの内心など知る由もないルゥは、短い尻尾をパタパタとご機嫌に振りながら 「きゅ~♫ きゅ~♪」 とまるで歌でも歌うようにご機嫌な鳴き声を上げている。
その可愛らしい姿を見られないことは残念だけれど、このもっふりとした腹毛の心地よさはたまらない。
はぁ~
ちょっと落ち着いてきた……と思ったら、なにを思ったのか、不意にルゥがわたしの頭に鼻を押しつけてフンフンフンフンしだしたじゃない。
ちょっとルゥ、なにを嗅いでるのっ?
今日はまだ全然遊んでないし、汗も掻いてないから臭くないわよ。
あ、ちょっと冷汗は掻いたけど、ちょっとだけよ、ちょっと。
だから臭くはないはず。
ちょっとルゥ、聞いてる?
やめなさい!!
慌ててルゥを剥がそうとしたんだけど、クロウにはルゥをわたしの顔面に貼り付けた目的があって、目下、その目的を果たすべくわたしの右手を勝手に操作中。
すっかり取り乱して一杯出してしまったエラーウィンドウを、一つ一つポチって消していた。
お手数をお掛けします
そもそもこれは一体どうなっているわけ?
最初に出た不具合ウィンドウを含めた全てのウィンドウを消し、ようやく手を離してくれたクロウ。
両手が空いたところでルゥをベリッと剥がしてもっふりと抱きしめると、クロウに促されるままテーブル席にすわる。
先にすわりタマちゃんとイチャイチャしていたカニやんが、なにを思ったのか、自分のウィンドウを開いてこちらに向けてくる。
information からアイテムが届いています
あら、同じ不具合ウィンドウじゃない。
ひょっとして、カニやんも同じ不具合が?
ん? これはひょっとしてクロウも?
『旦那どころか俺も~』
『me too』
状況を確認したいから、ポスト機能に不具合が起こって開けない人は順番に自己申告してくれる?
あ、脳筋コンビはもう聞いたからいい。
今、ギルドルームにいるのはわたしとクロウ、それにカニやんの三人で、隣の作業部屋にハルさんが一人。
他のメンバーは、主に 【ナゴヤジョー】 にいるらしく、インカムから声が返ってくる。
『俺は大丈夫っす』
『俺もー』
うん、大丈夫な人はちょっと静かにしていて頂戴。
紛らわしいから……といった早々、トール君が間に合わず 『俺も』 といってしまうんだけれど、それはどっち?
ちょっと間が悪かったというか、タイミングを外してしまって判断がつきかねます。
『あ、すいません。
不具合、大丈夫です』
了解です。
他には?
『俺も不具合でアイテムが使えない』
恭平さんもアウト……ォ……お? 不具合で開けないのはポストじゃないの?
アイテムはインベントリよね?
ひょっとして恭平さんはポストじゃなくてインベントリなの?
インベントリのパターンもあるわけ?
そんな多岐にわたる不具合なんて要らないんだけど?
『いや、そうじゃなくて……カニやん、説明よろしく』
「あいよ」
他のメンバーとパーティを組んで 【ナゴヤジョー・金】 に潜っている恭平さんは、タイミング悪くボス部屋に突入。
攻略に専念したいからとカニやんに選手交代したのはいいけれど、百聞は一見にしかずというカニやんに勧められ、わたしは自分のインベントリを開いてみる……んだけど、また警告音が!
error インベントリを開けません
膝に抱いたルゥが突然鳴り出した警告音にビックリし、全身の毛を逆立て尻尾をぴーんと立たせわたしにしがみついてくる。
うん、爪が痛いです。
わたしも警告音にはビックリしたんだけれど、それ以上にルゥの爪が痛い。
本当に小っちゃくて可愛い爪なんだけど、威力は立派に 【幻獣】 だからね。
「大丈夫よ、もう鳴らないから」
そう宥めながら頭や背を、ゆっくり何度も撫でてやる。
やっぱりいいわ、このもっふり感。
可愛さと癒やししかなくて、思わず顔が弛んじゃう。
ルゥは怒ったように、わたしにしがみつきながらも表示されたエラーウィンドウを叩く素振りをするけれど、案の定というか、ウィンドウは反応しなかった。
そんな仕草さえ超絶可愛いんだから、ルゥったら。
きっと怒っても可愛いってこういうことね。
「みんな、ログインと同時に不具合発生って感じ。
理由は運営に問い合わせ中」
状況を整理すると、開けないのはポストだけではなくインベントリもセット。
現在そのエラーが起こっているのはここにいる三人の他に、脳筋コンビと恭平さん、それにハルさん、キンキーの七人。
クロエとパパしゃん、ゆりこさんは不在で確認出来ず。
パパしゃんやゆりこさんはともかく、クロエはいなくて良かったかもしれない。
だって銃士はインベントリに銃弾が入っていないと撃てないじゃない。
そのインベントリが開かないとなると、ひょっとしたら銃も撃てないかもしれない。
少なくとも補充が出来ないわけだから……まぁ悪口雑言が凄そうで、想像するだけでも怖くなる。
せっかくログインしても遊べないんじゃ文句の一つも言いたくなるのは当然だけれど、それがクロエだと、ね。
想像を絶する罵倒が吐き出されそうで、心底いなくて良かったと安堵したわ。
でもそういう意味だと、キンキーも大変よね。
剣士のHPはスキルで回復出来るけれど、回復係のキンキーはMPをポーションで回復出来ないから……あ、全く出来ないわけじゃないんだ。
他の人にポーションを預ければいいんだから。
面倒臭いけど
すでにカニやんが運営に問い合わせしていて、その返事と対応待ちの現状で一番困ることといえばイベントに参加出来ないってことよね。
だってインベントリが使えないってことはチョコレートを買い込めないってこと。
ポスト機能が使えないってことは送れないってことだもの。
どうする?
一つずつ買って手渡しする?
せっかく作ったリストが無駄になるけれど、この状況じゃどうしようもないし。
でも面倒よね。
まだイベントは始まったばかりだし、今日は諦めてダンジョンに潜ってみんなと遊ぶ?
そういえば今回のチョコレートはどういう扱いになるわけ?
「格納はインベントリだけど、枠一つで上限なし。
除外品扱いで、イベント終了後は回収」
やっぱり回収か。
回復アイテムとかになればいいのに。
ほら、ハロウィンイベントの時のお菓子みたいに……といっても、お腹壊すような悪戯は要らないけど。
だってあれ、なにが回復されるかわからないどころか逆に減少することもあるんだもの。
危なくて使えないけどいつまでも持っているとインベントリを圧迫するから、わたしはとっくに無人バザーに出して売り払っちゃいました。
購入する物好きなプレイヤーがいてくれて助かりました。
売れないと、使用時間が終了と同時に返って来ちゃうし。
「とりあえず、俺はみんなと合流するから」
状況が状況だから、わたしがログインしたらパニックになるだろうと予想してギルドルームで待っていてくれたカニやん。
いつもいつも面倒をお掛けします。
クロウがログインしたのは、実はわたしがログインするほんの少し前。
丁度クロウに状況を説明し終えたところでわたしがログインしてきたらしい。
用が済んだってことでみんなと合流するというカニやんが立ち上がると、タマちゃんがわたしたちを見て可愛らしく 「にゃ~ん」 とひと鳴き。
これはご挨拶かしら?
「行ってらっしゃい」
思わず言ってしまうわたしに、タマちゃんはもう一つ 「にゃ~ん」 と可愛らしく鳴いて応えてくれる。
今日もタマちゃんは安定の可愛さね……とにやけたら、いじけたルゥがスカートの中に潜り込もうとしてきた。
スリットのところを、まるで地面を掘るように爪で引っ掛けて捲り上げたと思ったら、そこに鼻先から頭を突っ込もうとするの。
ちょっ?!
ちょっとルゥ、なにしてるのっ?
やめなさいって!
そのでっかい頭は入らないって!
自分が二頭身の頭でっかちだって、わかってないでしょ!
絶対入らないから!!
必死にスカートを抑えるんだけど、魔法使いが 【幻獣】 のSTRに勝てるはずがない。
うん、わかってる。
わかってるんだけど、大人しくスカートをめくられるのもどうなのっ?
下にズボンを穿いているから足は見えないけど、それでもやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいのよ。
やーめーてー!!
次話では不具合の原因が判明する予定です。
ところで本作のキャラは 「みんなパ○ツを見せたがる」 というご感想を頂きましたので(微妙に違う・汗)他の露出もありますことを今話では書きたかったのですが、間違えてグレイのスカートをめくってしまいました。
まぁこれも久々ですし、いいですよね(大汗